TRIP



前へ もくじ 次へ


12月2日 きんようび  はれ       (その3)

しばらく日記を書いていると中学生くらいの男の子がやって来て、
自分が描いたというドゴンの仮面ダンスの絵を見せてくれた。
蛍光ペンなどを使って上手に描いてあり、
その絵を見ながらソーリーが説明をしてくれる。
「仮面にはそれぞれ意味があるんだ。」
話によると、それはオゴン(ドゴンのスピリチュアル・チーフ),
マザー,キツネ,ウサギ,牛,鳥,ヘビ&大家族,
ワニ,スモール・バッファロー(水牛?)
そして泥棒と農具を作る人の象徴なのだそうだ。
「なんで泥棒なんか象徴してんの?」
「泥棒は太陽の一部を泥棒してきて、
 それを炎にした人のことなんだ。」
「なるほど、なるほど・・・」
「昨日は特別なお祭りだったけど、
 それぞれの村では毎年6〜7月頃に
 お祭りがあるんだ。」
お祭りの日には、村の人々は他の村の牛や羊を盗んでお祭りに使うが、
祭りだから誰も怒ったりはしない。
各村々でそれぞれ違った日にお祭りがあるのだが、
60年に一回だけ全ての村が同時にお祭りをする日がある。
ドゴンに暮らす人にとってはそれはとても大切な日で、
ドゴンでは60年で一世紀が終わるのだそうだ。
1年は10ヵ月(記憶が確かではない)、ひと月は20日、
一週間は片手の指が5本あることから
5日で物事が進むのだそうだ。
「次の60年目はいつなん?」
「2027年だ!」
ドゴンの人達は本当に自分たちだけの
決まりや文化の中で生活しているんだな〜・・・
「ドゴンの人達は天体的なことにとても詳しくて
 地球の自転や、星と星の距離など見ただけで解るんだ。」
嘘だと思う人もいるかもしれないが、
ある本によると次のように書いてあった。
『ドゴンの神話では、自分たちの祖先は
 恒星シリウスからやって来たと伝えている。
 なんだか怪しい話であるが、
 ドゴン族は西洋社会が発見する前になんと肉眼では見えない存在、
 恒星シリウスBの存在を知っていたという。〈中略〉
 文明からかけ離れた過疎地に住むドゴン族なのに、
 木星に衛星があることも、
 土星に環があることも知っていたという。』
(『タムタムアフリカ』より 山と渓谷社)














「昨日の祭りで、なが〜い仮面を付けて踊っていた人を覚えているか?
 頭をグルグル回しながら踊っていたのは
 “ハーフ”が回っていることを現しているんだ。」
「ハーフ? 何それ?」
「ハーフじゃない、ハーフだ。」
アフリカ人の英語の発音は訛っていて、
今までもよく聞き取れないことが度々あったが、
ソーリーの発音は何度聞き返しても
“ハーフ”としか聞こえない。
「ハーフだ、ハーフだよ!!!」
ソーリーの声がだんだん荒くなってきた。
紙につづりを書いてもらっても、
これがまたよく解らない。
困り果ててソーリーはすっかり機嫌を損ねたようだ。













「アフリカやアメリカや日本や、全ての国の星のことだよ。」
表現の仕方を変えてもらい、絵を描いてもらっているうちに、
ようやく“ハーフ”と聞こえたのは“アース(地球)”
つまり、『地球』が自転していることを現しているんだ、
と言おうとしていることが解った。
「だから、さっきから“アース”だって言ってるじゃないか!!!」
「どうしても聞き取れなかったんだ。」
「俺はマリ人だ。どうせ英語圏の人間じゃないから
 発音も悪かったんだろうよ、すまんすまん!」
その言い方がとても投げやりだった。
「もし俺がソーリーのこと怒らせたんなら誤るよ。ごめん!」
「あぁ、別に怒ってなんかないさ、ノープロブレム。」
そうは言ってくれても、明らかにイライラしている様子だった。
「マーケットにでも行くか?」
気分を変えようと思ったのか、
近くで開かれているマーケットに誘ってくれる。
「今すぐ? それとも、もう少し後から?」
「それを決めるのはトムだ! 
 お前が俺の王様なんだから!(You are my KING!)」
そう言い残してどこかに行ってしまった。
ガーン!!!
一瞬、頭の中が真っ白になり、
奈落の底に突き落とされたような気分になった。
ソーリーは俺のことを王様だと思っていただなんて・・・














“キング”という言葉と一緒にこの前の会話が頭の中を駆け巡る。
『ソーリーは何でそんなに優しいの?』
『俺がか? そんなこと言われてもこれが普通だから、
 よく解らないな〜・・・』
確かに俺はお金を払ってソーリーにガイドを頼んだけど、
俺は自分を雇い主だとか王様だとか思ったことはなかった。
ソーリーはこんなにもフレンドリーに接してくれたし、
アフリカに親友ができたと思っていただけに、
考えれば考えるほど悲しくて仕方なかった。














頭を冷やしてきたのか、しばらくしてソーリーが戻ってきた。
「ソーリー、俺はソーリーのことを友達だと思っていたし、
 親友だと思っていたし、家族だと思っていた。
 でも、ソーリーは俺のことを“キング”と呼んだよな。」
そういうと、涙が止まらなくなった














俺の涙を見てソーリーは戸惑った様子だった。
「トム、俺たちは友達だし、ファミリーだ!!!
 俺もそう思ってるとも・・・」
「俺はソーリーにガイドを頼んだけど、
 ガイドでもなければ王様でもない、
 親友だと思っていたんだよ。
 でも、ソーリーはそうじゃなかったんだね。」
後から後から止めどもなく涙が溢れ出してくる。
「ソーリー、俺はKINGなんかじゃない!
 お、俺は・・・ 俺は王様なんかじゃないよ!!!」
「トム、トムと会ったのはついこの前だけど、
 ずっと前から一緒にいるような気がしてる。
 お前はフレンドだし、ブラザー(兄弟)だと思っているよ。
 キングなんて言ったのは冗談だったんだよ。」
ふたりで抱き合って握手をしたが、涙は止まらない。
ソーリーも心配してるから泣いちゃいけないと思えば思うほど、
涙がどんどん溢れ出す。
「俺がトムを悲しませてしまったな、ごめん。」
「解ったよ、もう大丈夫! ただ涙が止まらないだけなんだ。」
泣きながら笑って見せたけど、
ソーリーは心配そうに俺を見つめていた。
「ちょっとお手洗いに行ってくるよ。」
このまま話していると涙が止まりそうになかったので、
ソーリーに心配掛けないように
ゆっくりと歩いてトイレに入った。














あ〜ぁ、目も腫れてきっと充血してるんだろうなー。
こんなときに鏡を見れないのは不自由だけど、
鏡を見たところでどうしようもできない。
気持ちを切り替えよう!!!
「ソーリー、ちょっと散歩してくるよ。」
気分転換に少し一人の時間が欲しくなり、
ミネラル・ウォーターとおだいじ袋だけ持ってカンプを出た。




前へ もくじ 次へ