TRIP
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町の風景 |
12月2日 きんようび はれ (その4) 正午も少し過ぎていて、ガンガン日差しが強くなり、 今日もミネラルウォーターはお湯になってきた。 空がとてつもなく青い。 泥の壁の町を歩く。 先ほどの出来事はなるべく考えないようにして のんびりと歩く。 ただ適当に歩いているだけなのに、 向こうからやって来たおじさんが 「道に迷ったのか? 大丈夫か?」 と、声を掛けてくれる。 マリの人はやっぱり優しい。 今考えてみると、 出発前にあれだけ怖がっていた今回の旅行だけど、 アフリカの人は、と言うか、 マリの人はどの人もみんな優しい。 黒人さんは肌の色で、 なんとなく恐ろしく感じていたりしたけど、 まったくと言っていいほど怖がることなんてなかった。 |
辺りを大きく一周してカンプに戻った。 「昼ごはんにしよう!」 先ほどのことがあったからか、 ソーリーが優しく声を掛けてくれる。 その声を聞くと、また涙が流れ始めた。 「トム・・・」 「ゴメン、自分でもよく解んないんだけど、 涙が出ちゃうんだよね。ノープロブレム!!!」 俺、どうなっちゃったんだろ・・・ |
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今日のメニューは、ピーナッツ・ソースで スイートポテトと肉が煮込んであるものが ご飯に掛けてある。 見た目はなんだか甘ったるそうな感じだが、 一口食べてみると香ばしいピーナッツソースがご飯によく合い、 とても美味しい。 ♪カッ カッ カッ♪ 「あの音、聞こえるか?」 「うん、聞こえてるけど何の音?」 「あれ、イグアナの鳴き声なんだ。」 「えっ、イグアナって鳴くの?」 ここのカンプにもあちらこちらに 巨大なイグアナがウヨウヨ這い回っている。 しかし、イグアナが鳴くなんて知らなかったな〜 |
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お腹がいっぱいになると、 少し元気が出てきた。 ソーリーはまだ先ほどのことを考えているようだったけど、 俺は思い出すとまた涙が出そうだったので 考えないようにしていた。 ご飯も食べて元気になったし、 そろそろ出発だ!!! カンプから歩いてすぐの所に広場があり、 そこがバスのターミナルだった。 「ここのこと、覚えてるか? あそこの店にトムのミネラル・ウォーターを 買いに行ったろ?!」 ソーリーに言われてはじめて気が付いたが、 ここはドゴンに最初に来たときに バスが停まった所だった。 あの時は日もすっかり暮れて 真っ暗だったから何も見えなかったが、 昼に見るとたくさんの店が並ぶ 大きな町じゃないか〜! このバンディアガラの町は ドゴンの拠点になる町で、 どの村に行くにもここを経由して行くのだそうだ。 |
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広場にはたくさんのバイクや車が走っている。 「マリでは、吹かしたときの音からバイクのことを “ドリンドリン”って呼ぶんだ。」 おもろい!!! おぉ、わが祖国日本が世界に誇るTOYOTAの車や HONDAのバイクが走っている。 ソーリーの話だと、 マリでは主に中国製と日本製の車やバイクが走っており、 中国製は安いけど1年もするとすぐ壊れてしまうのだそうだ。 「俺はいつかトヨタの四輪駆動を買うために、 貯金をしているところなんだ。」 マリでは、トヨタの四輪駆動は マリの北部に位置するサハラ砂漠でも走れるので、 かなり人気があるのだそうだが、 マリの人々にとってトヨタの車はかなり高額であることは 言うまでも無い。 |
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バスの待合室、とはいっても 木を適当に組み合わせて作った簡易待合室なのだが、 そこでバスを待つ。 簡素な造りの長いすがあり、 一人分空いているので、 そこに座らせてもらった。 向かい側のイスにはきれいな民族服を着て 布を顔の辺りまで羽織っている 女の人が座っていて、 俺が見ると恥ずかしそうにうつむく。 「あの人は花嫁さんなんだよ。 きっと今から新郎のところに行くんだと思うよ。」 「へぇ〜・・・」 「外国人のトムに会えたから、 あの人はきっと幸せになるよ!」 本当にそうだったらいいな〜・・・ 「バマコに帰ったらライヴ見に行くか?」 「でも、今からだとバマコに着くのは かなり遅くなりそうだし・・・」 「先週トムと約束したんだから、行こうぜ!」 「うん、ありがとうソーリー!」 先ほどの泣いてしまった件もあって、 ソーリーはいろんなことを気にしてくれているようだっが、 そのことを考えるとまた涙が出そうだ。 |
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バスは14:00出発予定なのだが、 時間を過ぎてもまだ来ない。 まぁ、デゲデゲ行きましょうや! 外の気温はどんどん上昇しているようだが、 簡素な待合室でも中は涼しい。 俺の前に一人のおじいさんが現れた。 「どうぞ!」 おじいさんに席を譲ると、 おじいさんは何のためらいもお礼の言葉もなく、 その席に座った。 その遠慮のなさがうれしかった。 マリではお年よりは尊敬される存在なのだと 思っていたから、 席を譲るのが当たり前で、 その当たり前の行為を当たり前のこととして 受け取ってもらえたと思えたからだ。 ソーリーは横でそれをみて微笑んでくれていた。 “俺もマリの家族のひとりなんだ” そう思えた。 |
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