TRIP
前へ | もくじ | 次へ |
12月3日 どようび はれ時々くもり (その2) 一通りレッスンが終わると、 平塚さんはインターネットをしに行くという。 「アフリカでもネットがあるんですか?」 街を歩いていても今までそれらしきものを見たことがなかった。 「この近くにあるんですよ。上野さんも行きませんか?」 「僕、やり方がよく解らないんですよ。」 「レッスンのお返しと言ってはなんですけど、 今度は僕が教えてあげますよ。」 千秋に無事でいることも伝えたいので、 出来ることならメールを送りたい。 行ってみるとするか! |
ふたりで外に出ると今日もかなり暑い! 歩いて2分くらいのところにネット・カフェがあった。 中に入るとたくさんの欧米人がいて、 今は一台しか空いてないとのことだった。 そこを案内してもらい、 平塚さんにやり方を教わりながらアドレスを作る。 「後は、メールの内容を打って送信すれば大丈夫ですよ。 キーボードがフランス語版になってるので、 少し難しいかもしれませんけど・・・。」 「ありがとうございました。」 そういうと平塚さんは他の空いているパソコンを探しにいった。 |
“お〜い、ちあき〜!元気か〜? 俺は元気にアフリカを歩いてます。 昨日までマりという国のドゴン族の村に行ってました。 ドゴンでは仮面のダンスも見ることができて、 すごくラッキーだったよ。 今は首都のバマコにいます。 この後、セネガルに行って千秋の待つ日本に帰りますよ〜。 そちらはネイル、どうでしたか? 帰ったらお互い、いろいろ話そうね! じゃあ、元気で頑張ってね! こちらも頑張りま〜す!” これでよ〜し、送信! フランス語のボードは“?”や“!”の 記号を出すのに手間取ってしまったけど、 ボードを見ながら打つと難しいので、 ブラインド・タッチで打っていけば大丈夫だった。 30分で500CFA(約100円)と聞いていたが、 55分くらい使ったのに500CFAだった。 インドで使ったときには 30分くらいしか使ってなかったのに 油断していてまんまと1時間分取られたけど、 アフリカ人の方が正直な人が多いのかもしれない。 |
支払いを終えて辺りを見回しても 平塚さんの姿は見えなかったので、 一人でホテルに戻った。 ホテルの中庭に入っていくと平塚さんがいた。 「先に帰ってらしたんですね。」 「ええ、それより今奥さんから電話があって・・・」 おいおい、何かあったんかいな? 「明日の飛行機の時間が変わったらしいです。」 ホッ・・・! いや〜、ビックリした。 千秋に何かあったのかと思った。 千秋からの電話によると、15:30のフライトが 22:10に変更されたという知らせが旅行会社に入り、 あわててラフィアに電話を入れてくれたようだった。 当初の俺の計画では明日15:30の エア・セネガルでバマコを飛び立ち、 セネガルの首都ダカールに、 夕方暗くなっていないであろう17:00に着くように 飛行機を手配していた。 しかし、22:10発じゃあ日もすっかり沈み、 空港を出る頃は深夜になってしまう可能性もある。 ダカールでの宿泊先はもちろん決まっていない。 まったく知らないところに深夜に着くのは 出来ることなら避けたい。 フライトが本当に変更されたのかどうか確認しようと思い、 ボクンさんの部屋を訪ねてみた。 |
「ボクンさん、フライトの変更を エア・セネガルに連絡して 確かめてみようと思うのですが・・・」 「あ〜ぁ、今日は土曜日だから閉まってるよ。」 そ、そうか〜、今日は土曜日か〜・・・ しばらく曜日のことなんて考えたことがなかったので 今日が土曜日だということをすっかり忘れていた。 これじゃ〜どうしようもない。 「バマコでは昨日からアフリカ各国の首相がやって来て 国際会議を開いているから 飛行機の時間が変わったのかもしれないな。」 「え〜、マジで〜?」 これじゃあフライトの時間は15:30なのか、 それとも22:10なのかはっきりしない。 しょうがない、早めに空港に行くことにするか。 「じゃあ、明日12:00くらいに タクシーを手配してもらえますか?」 「ああ、いいよ!」 |
あ〜ぁ、それにしても 千秋と話がしたかったな〜・・・ タイミング悪し! 「トム、お前の奥さんからの電話を 私が最初に取ったんだが、 お前の奥さん、電話の向こうで 『もしもし』しか言わなかったぞ。」 そういってボクンさんが笑う。 ボクンさんが言うには、 電話を取ると千秋が海外に掛けているにもかかわらず、 「もしもし」と言ったらしく、 それを聞いてボクンさんはとっさに 「もしもし」と日本語で返し、 「もしもし」「もしもし」、 「もしもし」「もしもし」、 としばらく押し問答が続いたのだそうだ。 それを横で聞いていた平塚さんが 気を効かせて電話を変わってくれ、 用件を聞いてくれたのだそうだ。 海外に掛けたのだから、 「ハロー!」くらい言えば良さそうなものだが、 英語の喋れない千秋がアフリカに 電話を掛けること自体大したものだ。 もちろんフライトのことも伝えたかったのだろうが、 何の音沙汰もない俺が元気にしているかどうか、 確かめたかったのだろう。 お〜、千秋!!! |
外は暑いのでしばらく部屋の中でゆっくりすることにした。 「平塚さんは、どのくらい旅をしてるのですか?」 「そろそろ2年と4ヶ月になります。」 「えぇ?」 一瞬耳を疑った。 「に、2年ですか?」 風貌からして旅慣れてらっしゃるとは思っていたが、 まさかもう2年以上も日本に帰ってないとは 思ってもみなかった。 平塚さんの話では、世界一周旅行を思い立ち、 会社に勤めて3年間で お金を貯めて日本を飛び出したのだそうだ。 「南米を旅しているとき、強盗に遭って 金品を盗られちゃって、一度日本に帰ったんだけど、 またお金を少し貯めて飛び出しました。」 「怪我は無かったんですか?」 「まあ何とか大丈夫でした。」 「それにしても、2年4ヶ月はすごいですね、 僕なんて2週間が精一杯だな。」 「普通の日本人なら当然だと思いますよ。」 「世界中を周ってきて、どこが一番印象的でした?」 「そうだな〜、ネパールからインド辺りが印象深いな〜。」 「僕も3年前にインドに行ったんですよ。 僕はバナーラスィーが印象的でした。」 「そうですよね、僕もたいていの街は1〜2日で 通り過ぎてしまうんだけど、 あそこは3週間も滞在してしまいました。」 「病気はしてないんですか?」 「2年以上もあれば、ちょっとした体調不良はありました。 中国ではかなりひどい下痢になってしまい、 トイレと部屋がかなり離れていて、走り回ってましたよ。」 「ハハハ、そりゃ大変でしたね。」 平塚さんと一緒に笑ってはいたものの、 一人旅で体調を壊したときほど心細くて寂しい時はないと思う。 |
そんな話をしていると、ボクンさんが部屋にやって来た。 「昼ごはん食べるか?」 平塚さんと顔を見合わせて答えた。 「ええ、いいんですか?」 「今これを作ったんだ。クスクスという食べ物だ。」 大きな皿の上に麦か何かを炊いて、 その上にソースが掛けてある。 このソースもトマトソースのようで、 ピリッと辛さが効いてとても美味しい。 アッという間に二人で平らげてしまった。 |
「トーム、トーム!」 ちょうど食べ終わった頃、 ボクンさんの呼ぶ声が聞こえる。 「はーい!」 声のする方に行ってみた。 「トム、外にソーリーが来てるぞ!」 「ほんとですか?」 中庭に出るとソーリーがいた。 「やぁソーリー、昨日はどうもありがとう。」 「夕べは良く眠れたか?」 「いいや、なかなか眠れなくて・・・ ソーリーは?」 「俺もだ、今から帰って一眠りしようと思うんだ。」 「ちょっと待ってよ、ソーリー。 友達のジャンベの店に 連れて行ってくれるんじゃなかったっけ?」 「あぁ、そうだったな。今からいくか?」 「もちろん! 友達も連れて行ってもいい?」 そう言って、平塚さんと3人で ソーリーの友達の店に向かった。 |
前へ | もくじ | 次へ |