TRIP



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12月3日 どようび  はれ時々くもり       (その4)

そんな話をしていると19:00を回り、
外もだんだん暗くなってきた。
シャワーを浴びてから平塚さんと
夕食に出掛けることにした。
朝食を摂ったレストランの近くのレストランに入る。
メニューを見てもよく解らないので、
お店の人と相談しながらトマト・オムレツ、
肉を串刺しにしたもの、ポテトフライ、フランスパン、
それにビールを頼んだ。
おたがいにビールを注ぎあうと、
まるで日本にいるみたいだった。
「かんぱ〜い!」
ふ〜、うまい! 冷えたビールなんて久しぶりだ。













出てきた料理を美味しく頂きながら、
平塚さんと旅の話をした。
「上野さんはよく旅をされるんですか?」
「う〜ん、2〜3年に1回くらいかな〜・・・
 平塚さんのように長いたびはしたことは無くて、
 長くても2週間です。
 僕も一度でいいから平塚さんのような旅がしてみたいな〜。」
「でも、どっちがいいか解りませんよ。
 僕のように長く旅していると
 だんだん新鮮さも無くなって、
 どこに行ってもあまり感動しなくなるし・・・」
「でも、やっぱり2年4ヶ月はすごいですよ。
 僕なんかより、きっとたくさんいろんなことを
 学んでらっしゃると思います。」
「上野さんの旅の目的は何ですか?」
「音楽のことや観光っていうのもあるけど、
 目的のひとつは旅先で暮らしている現地の人々が何を考え、
 どう生きているのかを知りたいと思って・・・平塚さんは?」
「僕もそう思ってました。
 でも、僕のようなほんの数日滞在しただけで
 次の町に行ってしまうような旅だと、
 その町や人々のことなんて何にも解らないからあきらめました。」













「う〜ん、そうかな〜、僕はそうは思わないな〜?」
「どういうことです?」
「平塚さんが訪ねて見たり聞いたりしたことは、
 うわべだけかもしれないし、
 すごくディープなことかもしれない。
 でも、いずれにせよ、そこを訪れて、
 その町で平塚さんにとって必要なものを
 必要なだけ見聞きしてると思うんですよ。」
「ふ〜ん、なるほど・・・ そういう考えもありますね。」
「だって、本当に何の感動も無くなってしまってたら、
 日本に帰ってると思うんですよ。
 二年以上も旅を続けるのは、
 平塚さんが偶然かもしれないけどその町を訪ねて、
 ほんの一日かもしれないけどその町に留まって、
 平塚さんが感じなくてはいけない
 何かがあったんだと思うんです。」
「上野さんにそう言われると、
 南米で強盗に遭ったのも自分にとって必要なことの
 ひとつだったのかもしれない、と思えてきます。
 そのときはパニックで、怖くて怖くてどうしようもなかったけど、
 後から思えばそれでも辞めずに旅を続けているし、
 物事に慎重になったし・・・」
「今日、昼にインドのバナーラスィーに
 3週間も滞在したって言ってましたよね?! 
 そこも平塚さんにとっては知らなくてはならない事が
 たくさんあったから自然に滞在が長くなったんだろうし、
 たった一日で次の町に移動したところは、
 その町のことはあまり知らなくてよかったって事なんだと思う。」
「そうか〜・・・面白いですね。
 そんな考え方したことなかったな〜・・・」














そんな話をしながらビールが進む。
日ごろはあまり飲まないんだけど大瓶二本飲んで、
それでも足りなくなって注文したら、
小瓶しかないと言われたが、
それでも飲みたかったので小瓶二本ほど追加注文した。
「あっ、お金大丈夫ですか?」
俺は後1週間足らずの旅だが、
平塚さんはまだこれから半年以上は旅を続けるという。
「えぇ、結構余裕あるんで心配しないでください。」
店の外は真っ暗の夜道を民族服の黒人が歩いている。
こんな風景の中で日本人とビールを飲んでいること自体
すごいことだと思った。
料理もおかわりして、
ふたりで5,300CFA(約1,030円)だった。














かなりいい気分でホテルに戻ると、
部屋の前でボクンさんに会った。
「トム、明日はナイジェリアの大統領がバマコに来るみたいだ。
 12:00頃は主要な道路が通行止めになるかもしれないぞ。」
「ええ、本当ですか? で、どうすれば・・・」
「トムがどうしても飛行機に乗ろうと思えば、
 早めに空港に行っておくしかないだろう。」
「何時に出ればいいかな〜?」
「そうだな〜、7:00には出た方がいいと思うけど、
 どうするかはトムが決めてくれ!」
平塚さんも、通行止めになれば
身動きが出来なくなるだろうと言う。
7:00に出るより仕方ないかな・・・
「じゃあ、7:00に出るように
 タクシーの時間を変更してもらえますか?」
「あぁ、解った。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい」
そんなわけで明日は平塚さんと一緒に
ホテルを出ることにした。
平塚さんは明日8:00のバスで
ソゴニコ・バスターミナルから
モプティへ向かうことにしているのだそうだ。














部屋に入ると簡単に荷物を整理して、
蚊取り線香に火を点けて横になった。
天井を見つめながら明日は移動だけど、
うまく飛行機に乗れるんだろうか?
よりによって、こんな日に会議をしなくても・・・
今日はうまく眠れるかな〜?
などと心配していたら、
ビールのせいかアッという間に眠ってしまっていた。

                  23:30





〈その日の日記の落書きより〉

今日は千秋から電話があったって聞いて
ちょっとホームシックになりました
早く帰りたいなー!




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