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12月4日 にちようび  はれ            (その4)

あっ、そういえば・・・
そのとき、ネットで調べておいた
ホテル・マルシェと言う名前が頭に浮かんだ。
マルシェは蚊が多いと聞いていたので
あまり気が進まなかったのだが、この際しょうがない。
「おじさん、ホテル・マルシェはどうかな?」
「オ〜、ホテル・マルシェ。」
おっちゃんは頷きながら車を動かした。
マルシェはこの地域から少しはなれたところにあるようで、
5分くらい走らせたところで車が止まった。
おっちゃんはまたまたカバンを持って
フロントに連れて行ってくれる。
大きな玄関口を入ると、
突き当たりにフロントデスクがあり、
数人の黒人が裸電球に照らされて、
なにやら揉めている様子だ。
怖いな〜・・・
この調子じゃあここも満室かもしれない。
おっちゃんは黒人を掻き分けて
フロント前に俺を連れて行くと、
また部屋の交渉をしてくれる。
おっちゃんの身振りで、
ここには部屋があるらしいことが解った。
「メルシー・ボクー(どうもありがとう)」
タクシー代の5,000CFAに
200CFAほどチップをつけておっちゃんに渡すと、
ニコニコ顔で帰っていった。














さて、部屋の交渉だ。
「今日と明日泊まりたいんだけど、いくら?」
「12,600CFA(約2,500円)だ。」
それを聞いて思わずうわぁーっと声を上げてしまった。
ラフィアのドミに比べれば3倍の料金だ。
「もう少し安い部屋はないの?」
「シャワー、トイレが共同でよければ
 9,600CFA(約1,900円)の部屋がある。」
言い方が投げやりで愛想が悪く、
メガネの奥の目がなんとも恐ろしく見える。
「とりあえず部屋を見せてもらえる?」
そう言うと、フロントマンは従業員らしき人に鍵を渡した。
フロントの人とは対照的に、
この人は天然パーマの髪型にとても愛嬌があり
体型もひょろひょろっとしていて、
漫画にでも出てきそうな優しそうな人だった。
そのテンパーさん
(“天然パーマさん”を略して“テンパーさん”)は
バックパックを持ってくれて俺の前を歩き始めた。













後ろに付いてフロントから中庭のようなところに出ると、
なんともイカツイ感じの女性数人が
一斉にこっちを見た。
『うわっ!』一瞬怯んでしまったが、
テンパーさんの後ろに付いて階段を上がった。
あの人たちは何者だろうか?
かなり長い廊下の両サイドにたくさんの部屋があるが、
人の気配はほとんどない。
一番奥の部屋に通されると、
テンパーさんは部屋の説明をし始めた。
「○■※
♀♂△※△?☆◇・・・」
「ノー・フランセー(フランス語は解りません)」
「オー・ノー・フランセ〜・ノー・フランセ〜・・・」
テンパーさんはつぶやくように言いながら、
身振り手振りで説明する。














トイレとシャワーを確認しておきたい。
「トイレ・シャワー?」
「ノー・トワレット、ノー・シャワー」
トイレもシャワーも共同だから、
この部屋に無いことは解っているのだが
その共同のトイレを見たいんだけど、
『共同』と言う言葉をフランス語で
何て言っていいのか解らない。
何度「トイレ、シャワー?」と言っても、
テンパーさんはこの部屋には無いとしか答えてくれない。
すっかり困り果ててしまったが、
テンパーさんの話す言葉から
「プブリーク」という単語が聞こえた。
確か英語で『パブリック』が
『共同』とか『公共』とか言う意味だったと思い、
テンパーさんに「プブリーク・トワレット」と言ってみた。
「オ〜ォ、プブリーク・トワレット、
 ダ・コール(解ったよ)!」
お〜ぉ、通じたぜ!














部屋を出て先ほどの長い廊下を引き返す。
中庭から上がってきた階段の横に
トイレとシャワー室があった。
「うわっ・・・」
とても、きれいとは言いがたいけど、
トイレは一応水洗で、シャワーも
何とか使えないこともなさそうだ。
もう一度部屋に戻り、
テンパーさんに「OK!」と言って
ここに泊まることを伝えると、
テンパーさんは愛嬌のある笑顔で
ニコニコしながら部屋を出ていった。














なんだか不気味だな〜・・・
ホテル・マルシェの部屋


















あらためて部屋の中を見回す。
部屋は割りと広く、天井が結構高いので
ますます広く感じる。
シャワーはないが洗面台が付いている。
フランスの植民地の名残か、
ヨーロッパ風に便器を小さくしたような陶器がある。
これは女性が使うビデなんだと聞いたことが
あるが本当かどうかは知らない。
パッと見た感じ小奇麗だが、
小さなゴキブリがあっちこっち這い回っている。
部屋の中はかなり暑く、
窓を開けたくても蚊が心配なので
締め切っているからますます暑い!
今まで泊まっていたマリの宿に比べれば
都会のホテルと言えなくもないが、
そっけない感じでな〜んとなく何か物足りない。
ただ、思っていたほど蚊がいそうにないのがいい。
とにかく部屋に慣れて落ち着こう。
とりあえず、蚊取り線香に火をつけてっと・・・














やりたいことをひとつずつ片付けていこう。
まずはシャワーだ!
サンダルに履き換えて、シャンプー、リンス、と
ひとつずつ揃えていき、鍵とおだいじ袋を持って・・・
一人旅で初めてのホテルに泊まる時は、
気分が落ち着かないので
ひとつひとつ確認しながら行動する。
シャワー室に行くと、
ここも水道管が頭上まで伸びているものだった。
水しか出ないが、ドゴンのときに比べて
好きなだけ水を使えるぶん贅沢は言えない。
あまり綺麗ではないシャワー室でのシャワーは、
なんとも落ち着かない。
どうにかこうにかシャワーを終えると、
今度はトイレにチャレンジだ。
頭上からぶら下がっている紐を引っ張ると
水が流れる仕組みのようだが、
引っ張っても何も起きない。あれ〜?
ちょっと力を入れてもう一度引っ張ってみた。
ジャッッッバー!!!
ものすごい勢いで水が流れ始めた。
もー、ビックリさせんといて〜な!














部屋に戻り、今日はカロリーメイトの夕食だ。
機内食が遅かったので、
あまりお腹が空いてなかったということもあったけど、
右も左も解らない夜中に
食事をしに外へ出る勇気がなかった。
非常食用に持ってきておいて良かった。
食事も終わり、日記を書いていると
誰かが部屋をノックする。
「イエス・・・」
ドキドキしながら返事をすると、
先ほどのテンパーさんだった。
「パスポール(パスポート)」
海外では、宿泊先にパスポートを
見せなくてはいけないのだが、
そのことを伝えに来てくれたようだ。
パスポートを持ってフロントまで行くと、
先ほどのイカツイ女性のひとりと
男性が部屋を借りようとしていた。
どうやら、この宿は売春宿を兼ねているようだった。
ちょっと気色悪かったが、何事も経験だ。
こんな宿に泊まるのもまた楽しいかもしれないと
自分に言い聞かせたが、
やはりなんとも言えない気分だった。














部屋に戻って再び日記を書く。
今日は移動日だったけど
書くことが結構たくさんあって、
1時間以上も掛かってしまった。
旅の最終目的地、ダカールでも
何とか宿を見つけることができました。
ここに今日と明日泊まれば日本に帰れる。
早く帰りたいなー・・・
千秋は何してるかな〜?
俺はとりあえず元気ですよ〜!
明日はゴレ島に行ってみようと思う。
のどかで静かな島だと聞いているので楽しみだ。
そろそろ寝るとするか!
今日もうまく眠れるかな〜?
蚊取り線香を取替えとこっと。
おやすみなさ〜い・・・
                  23:20





〈その日の日記の落書きより〉
それにしてもあついね〜
今日は昼に少しねたけど
夜もねむれるかな〜!
日本に早く帰りたいな〜!
あと少し がんばれー!
それにしても ゴキブリが多いね〜!
この部屋、な〜んかもの足りん感じがしとったが
絵がないんじゃ
こんなんはじめて〜〜〜




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