TRIP



前へ もくじ 次へ


12月6日 かようび  はれ       (その1)

゛ぁ〜、あつい! とにかく、あつい!!! 
夕べはあのまま暑い暑いと思いながらも、
いつの間にか眠っていた。
どこのホテルも、だいたい二日目くらいから
割りとすんなり眠ることができる。
“枕が変わると寝つかれない”と、よく言うけど、
枕が変わるということは、
枕そのものより周りの環境が変わるから
寝つかれないんだと思う。














夜中の2:00過ぎにあまりの暑さに目が覚めた。
いくらマラリアが怖いからといっても、
この暑さじゃあ眠れない。
マラリアは蚊に刺されて発症するまでの潜伏期間が
約一週間あるというから、
今日刺されたとしても発病する頃は
日本に帰っていることになる。
アフリカにいる間に発病することはないだろう。
よ〜し、寝袋から出てしまえ!
お〜、涼しい〜!














日記の下敷きをうちわ代わりにして、
天井を這い回る数匹の小さなゴキブリを眺めながら、
アフリカ最終日である今日をどう過ごすか考えた。
やはり、今日もゴレ島に行こう。
せっかくここまで来たのに、
奴隷の家を見ずして帰るのは心残りだ。
それから、おっちゃんのところにあった
マリのマスクも買おう。
セーファー・フランは確かに無くなってきているけど、
ユーロはまだ残っているから、
銀行に行って両替すれば買うことができる。
それと、前から旅の行く先々で見る
アラビア語で書かれた缶のコーラが気になっていた。
空港や、飲み物やさんに置いてあって、
奇妙なその文字の缶々を
写真に撮りたいと思っていたので、
それを買って撮ろう。
悔いを残したまま日本に帰るのは嫌だった。














今日もいい天気になりそうだ!
ホテルから見た夜明けの景色















その後も数回目が覚めたが、
6:30頃トイレに行きたくなって起きあがった。
いや〜、暑い夜だった。
今日も締め切っていた窓を開けると
太陽が昇りつつあり、
白みかけた空にはたくさんのカラスが飛んでいる。
通りには少しずつ人が歩き始めているけど、
夜明け前は閑散としていて、
やっぱりちょっと怖い。
そんな中、欧米人がジョギングをしている。
度胸あるな〜、あの人!
今日も昨日と同じ時間の船で
ゴレ島に行くつもりなので、
支度をして8:30を過ぎて部屋を出た。
夕べこのホテルで会った日本人の話によると、
とりあえずチェック・アウトしても
その後荷物はフロントで預かってもらえるらしい。














「ラ・ノットゥ・スィルヴプレ(清算をお願いします)」
フランス語会話帳を見ながら
たどたどしいフランス語で言うと、
フロントの青年はすぐに理解してくれ、
精算してくれた。
「これからどこに行く?」
「ゴレ島に行くんだ。」
「カバンはそこの事務所で預かってあげられるよ。」
「うん、ありがとう!」
そういうと、青年はアフリカ流の握手をしてくれた。
アフリカでは親しくなると
ただ手を握り合って握手するだけではない。
まず、お互いが相手の手を叩き、
次に拳をつき合わせて最後に握手をする。
「気をつけてな!」
「ありがとう!」














フロント横の事務所に入ると、
最初の夜にフロントで受付をしてくれた
愛想の悪いメガネのおやじがいた。
「あ、あの〜、カバンを・・・」
「ああ、ここに置いておくといいよ!」
恐る恐る声を掛けたのだが、
とても愛想良く言葉を返してくれた。
黒人は見た目がちょっと怖いし、
しかもそれが夜ならなおさらだが、
こうしてちゃんと話してみると優しい人が多い。
うれしくなって、折鶴を作ってあげた。
「俺にくれるのか? これを? ガーハハハ・・・」
おじさんは豪快に笑い、喜んで受け取ってくれた。













明るい気持ちで外に出た。
今日は風が少しきついが、天気は良い。
昨夜かなり汗を掻いたから、
今日もまずは水を買おう。
近くのスーパーに入って
ミネラル・ウォーターを買った。
「300CFA(約60円)だ。」
えぇ? 昨日買った店は
600CFA取りやがったぞ〜、ちくしょ〜!!!
スーパーを出て昨日訪ねた
ケルメル・マーケットの横を通る。
やはり市場は朝のほうが活気があっていい。
通り沿いにも魚や野菜を並べて
大きな声で売っている。
そこを通り過ぎ右に折れると、
屋台でマダムとその娘さんらしき人が
忙しそうにサンドイッチを作っている店があった。
店の隅では炭をおこして
何かの肉を焼いているようで
なんともいい匂いがしており、
自転車に乗って買いに来る客もいれば、
店のベンチに座って食べている人もいる。
現地の人が次から次へやって来る店は、
きっとおいしいものを食わせてくれるに違いない。
よし、入ってみよう。














木でできた簡素な長いすに座り、
マダムが作っているものを指差して
「シュワルマ?」と聞くと、頷く。
身振り手振りでそれを食べたいということを伝えると、
マダムは袋の中から
長いフランスパンを取り出して半分に切り、
小さなナイフのようなもので
横に切り目を入れて、
そこにバターとソースのようなものを塗り込み、
次に玉ねぎを煮込んだようなものを載せる。
卵を指差して、入れるかどうか聞かれたので、
「セ・ボン?(おいしい?)」
と尋ねると、マダムは大きく頷いたので
「ウィ!(入れてください!)」
と言うと、台の上に置いてある
紙パックの上から卵をひとつ取り、
ムニムニと殻を剥き始めた。
生卵だと思っていたそれはゆで卵だった。
剥き終わるとそのままパンの切り目に挟み込み、
先ほどの小さなナイフで切り刻んで
スクランブル状態にして、
最後に炭で焼いた、たぶん羊の肉を挟み、
新聞紙で包んで出来上がりだ。














シュワルマいっちょう!
シュワルマのレストラン



















早速一口かじってみる。
う〜〜〜ん、うまい!!!
炭火で焼いた肉の香ばしさと、その他の具、
それにパンに塗りこんだソースがピリッとして、
絶妙なコンビネーションだ。
うほ〜っ、こりゃうまいぞ〜!
異国人がどんな風に食べるか心配そうに
俺の顔をうかがっていたマダムも、
ニコニコしながら食べている姿を見て
ホッと一安心したようだ。
コーヒーも欲しいと伝えると、
「コーヒーは横の店で頼むんだよ。」
と教えてくれたので、
横の屋台でコンデンス・ミルク入りの
激甘コーヒーを注文した。
今ではコーヒーも激甘状態じゃないと物足りない。
シュワルマが500CFA、コーヒーが200CFA、
日本円で約140円と
安くてとても豪華な朝食だった。
マダムに折鶴をあげて、ご機嫌な気分で再び出発だ!














海の方向に歩いていくと、
向かい側から黒人の青年が
大きな歩幅でリズミカルに歩いてきて、
擦れ違いざまに声を掛けられた。
「ボンジュール!」
「ボ、ボンジュール!」
「お前は中国人か? 日本人か?」
「日本人だ。」
「俺は南アフリカから来たんだ。」
「お〜、そりゃグレイト!」
見知らぬ奴に声を掛けられたら要注意なのだが、
青年の軽快な話し方と純粋な笑顔に
疑いも無くなっていった。
「セネガルは楽しいか?」
「もちろんだよ。これからゴレ島に行くんだ。」
「船の乗り場は解るか?
 俺が連れて行ってやろうか?」
「いや、昨日調べたから大丈夫だよ。」
「そうか、それじゃーな!」
そういって握手をして分かれた。
いつ、なんか変なものを売りつけられるかと
少しは注意していたけど、別に何もなかった。
清々しい朝にアフリカの小さな屋台で豪華な朝食を摂り、
見知らぬ青年と清々しい挨拶をする。
なんだか旅の最終日にして、
すごくうれしくなってきた。
俺はなんだってできるんだ!!!
そんな気持ちが沸々と湧き上がり、
海岸線の道を歩きながらアフリカの大地を感じていた。
今、俺はアフリカの大地を踏みしめている。
ほんのちっぽけなひとりの人間なのかもしれないけど、
誰よりもしっかり自分の二本の足で
この広大なアフリカの大地を踏みしめているんだ。
ちっぽけな自分を感じるとともに、
大きな自分、とても大きな自分を感じていた。
一歩歩くたびに涙がこぼれそうになった。
ここはアフリカ、
俺はアフリカにいるんだ!!! 




前へ もくじ 次へ