TRIP



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12月7日 すいようび  たぶん はれ        (その2)

女性検査官は警察官に
イタリア語で事の成り行きを話すと、
警察官は強い口調で言った。
「これは持って入れない、規則だ!」
「じゃあ、そちらに預けるので
 関西空港で受け取れるようにしてください。」
「いや、それもできない!」
おいおい、没収かよ!!!
別に危険じゃないし!!!
何なんや、お前ら!!!
結局ワイヤーも鍵も没収され、
やっとセキュリティーを通された。
ちくしょ〜、なんだってゆうんや〜・・・














ガッカリしてエスカレーターに乗り、
待合室に向かったのだが、
考えてみればワイヤーが問題あったんだから、
鍵の方は問題ないじゃろ!
鍵だけでも返してもらおう。
そう思って、もう一度引き返す。
先ほどの警察官を見つけ、声を掛けた。
「ワイヤーはダメでも、鍵は問題ないですよね?
 鍵だけでも返してください。」
そう言うと、その警察官は面倒くさそうに
もうひとり警察官を呼び、二人の警官に囲まれた。
ふたりの警官は蔑(さげす)んだような目つきで
俺を見つめながら言った。
「ダメだ、これは手錠に使える可能性がある。」
「手錠?」
確かに俺の鍵は輪っかになってはいるが、
せいぜい片手が入ればいいくらいの小さい輪っかだ。
「その大きさじゃあ、片手しか入らないじゃないですか。
 それに手錠なんて考えてもみませんでしたよ。」
「とにかくダメだ!」
だいたい、鍵はひとつしかないんだから、
ひとりに手錠掛けたってしょーがないじゃん。
お前らなんでそんなこと言うんや!
警官は『ヘンッ』って顔をして俺を蔑みながら言った。
「バイバイ!」
ちくしょー、権力を振りかざしやがって、
このクソ野郎が!!!
仕方なく再びエレベーターに乗り、
振り返ってみると、
そいつはものすごく嫌な目つきで
俺が見えなくなるまで見てやがった。
クッソ〜〜〜〜!!!!!














没収しても構わんが、
ものには言い方ってもんがあるだろーが!
も〜、とにかく腹が立って腹が立ってしょうがなかった。
10年前にイタリアを旅行したとき、
イタリア人はとてもいい印象だったのに、
いっぺんに嫌になったぜ、ちくしょうめが!!!
俺は、お前らみたいな奴が大嫌いなんだよ、
チクショー、チクショー!
とにかく悔しくてしょうがなかった。
このままじゃ腹の虫が収まらん。
だいたい、行きがけにも何回か
この鍵がセキュリティーで引っ掛かってた。
ならば、帰りはどうせジャンベも預けたんだから、
ついでにこのバック・パックも預けておけば、
こんな事件は起きなかったはずだと思えば
余計に腹が立った。
あいつが最後に俺を見たあのいやらしい目つき・・・
一生忘れないぞ、チクショー、チクショー、チクショー!!!













まあ旅の最後だし、いつまでも怒っててもしょうがない。
気持ちを切り替えよう。
しかし、俺の鍵はこのミラノの地で
捨てられてしまうのか〜・・・
可哀想だな〜・・・
せっかく楽しかった旅が、
台無しになってしまったような気持ちになったけど、
気持ちを落ち着けて、
今の出来事をもう一度よく考えてみた。
旅の最後に何でこんなことが起きてしまったのだろうか?
何でこんなに哀しい怒りがこみ上げてくるんだろうか?














この二週間、俺はアフリカを旅して、
アフリカ人はとてもフレンドリーで、
みんな友達、みんな家族だと
本当に思っているんだということを感じてきた。
この旅の間に100人以上の人と握手を交わし、
「サバ? ビアン?」と気軽に声を掛けてもらい、
すごく暖かい気持ちになれた。
そしてここ、白人の国イタリアで、
まるで俺が何か悪いことをしたかのように扱われ、
権力をかざし、
「お前なんかクソ食らえ〜!」とでも言わんかのように
イヤ〜な目つきで見られた。
平和の為だとか、安全の為だとか言ってやっている、
その行為こそが差別的な行為じゃないか?!
あいつらは俺のことを、無精ヒゲをはやした
怪しい東洋人だと勝手に決めつけたんじゃないのか?
もし、俺がセキュリティーの警官だったら、
あんな言い方はしない。
「申し訳ないが、これは機内には持って入れないんだ。
 きみを疑うわけじゃないんだが、
 規則だからしょうがないんだ。
 すまないな〜・・・」
そんな風に相手に心遣いをしながら話すと思う。
しかし、あいつらは端(はな)から俺を悪人扱いしやがった。
鍵を没収されたことより、そのことに腹が立つんだ!














旅の途中にソーリーが俺に言った、
“You are my KING!” 
お前が俺の王様だ、のひとこと・・・
あの言葉を聞いて哀しかったのは、
親友だと思っていたソーリーに
「どうせお前が雇い主で、俺は雇われ人なんだ!」
って言われたことが哀しかっただけじゃなくて、
心の奥深いところで、
奴隷制度の時代のことを考えていたんだと思う。
俺は白人ではないけれど、ソーリーよりは白い。
そして、その時代を彷彿させるかのように、
白い方の俺が、黒人のソーリーにキングと呼ばれ、
俺はソーリーを奴隷のように扱っていると思われたことが、
ものすごく哀しかったんだ。
俺はそんなことだけは絶対にしたくないと思っていたし、
ソーリーにキングと言われるまで
そんなこと考えてもなかったんだ。
なのにソーリー自身がそんな風に感じるということは、
ソーリーの心の奥底に、黒人の心の奥底に、
何か嫉妬やコンプレックスのようなものを
持っているんじゃないだろうか?














本当に人類はみな兄弟なのか?
ゴレ島にあった写真






それに、俺だってそうだ。
“世界中みんな友達だ!”とか、
口では言っておきながら、
中国人に間違われると嫌な気分になっていたんだ。
それも、ソーリーに指摘されるまで
一度も気づいていなかった。
ゴレ島に白人と黒人が手をつないでいる写真が展示してあった。
表面的にはみんな仲良くなったように見えるけど、
心の奥の奥のず〜〜〜〜〜っと奥の方で、
誰も自分自身でも気づかないうちに差別や偏見、
妬みや恨みといったものを持っているのかも知れない。















そう考えると、先ほどの鍵事件もこの旅にとって
重要な出来事のように感じるんだから不思議だ!
っと、日記を書いているうちに気分も少し晴れてきた。
旅もあと少しなんだから、楽しまなきゃね!




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