TRIP



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すっかりクリスマスだ!
イタリアの空港待合室付近









12月7日 すいようび  はれ          (その3)

気分が晴れてくると、トイレに行きたくなってきた。
向かい側のシートに
日本人のおばちゃま三人組が座っている。
「あの〜、トイレに行ってきたいので、
 カバンを見ておいてもらえませんか?」
「あ〜、いいよいいよ、
 ゆっくり行っておいで!」
久しぶりに日本人と会話したけど、
やっぱり同じ国の人とは安心して話せる。
お大事袋だけ持ってトイレに行き、
大の方に入ると、下痢もすっかり改善されていた。














帰りにミネラル・ウォーターを買おうと思って
裏手の方に入っていくと、
ピザやパスタ、クロワッサンにエスプレッソなどの
レストランやカフェが並んでいる。
こりゃ〜いいぞ!
アフリカに向かう途中に、
エスプレッソが飲みたいと思ったのだが
イタリアの通貨である“リラ”を持っていなかったので
飲むのをあきらめたのだが、
今度は次のフライトまでかなり時間があるので、
どこかで両替すればいい。
よし、後で食べに来よう!
いや、待てよ・・・
そうだ、今ではヨーロッパのほとんどの国の通貨が
“ユーロ”に代わったはずだ。
10年前旅行したときには、
イタリアではリラを使っていたので、
今でも当然のことのようにリラを
使わなくてはいけないと思い込んでいたが、
ユーロなら行きがけにも持っていた。
な〜んだ、我慢することなんてなかったんじゃん!
金髪の美人イタリアーナが座る
カフェを横目で見ながら通り過ぎていった
自分のことを思うと、
おかしくなってひとりで笑ってしまった。














そんな訳で、ユーロで無事に
ミネラルウォーターも買うことができて、
カバンの所に戻った。
「どうもありがとうございました。」
「いやいや、お安い御用よ。
 こっちの席に座らない?」
おばちゃんの横の席がひとつ空いていたので、
そこに座らせてもらうことにした。
「お菓子、どう?」
日本から持って行ったのであろう飴や、クッキー、
旅先から持って帰ったらしいパンや果物を勧めてくれる。
「いただきま〜す!」
「あなたはどこから来たの?」
「西アフリカのセネガルから乗ってきました。」
「ひとりで?」
「はい!」
「あらまぁ〜・・・」
おばちゃんたちは声を揃えて驚いた。
「おばさんたちはどこからですか?」
「私たちはチュニジアからよ。」
「三人で行かれたんですか?」
「いやいや、私たちのツアーは60人いるのよ。」
「えー、ろ、60人ですか・・・」
おばちゃま達の旅は俺の旅とは全然違い、
高級ホテルに泊まり、
貸切のバスであちらこちらを観光して回り、
美味しい物もたくさん食べてきたようだ。














「よく旅されるんですか?」
「この三人でいろんな所に行ったのよ〜。
 私は娘が二人いるんだけど、
 二人とも結婚して、それぞれに家も建ててやったし、
 すっかり手が離れたから、
 今ではこうしていろんな所を旅してるのよ。」
おばちゃま達はかなりのお金持ちらしく、
今でこそあまりお土産等は買わなくなったけど、
トルコに行って32万円のトルコ絨毯を買い、
中国では100万円もする置物を買ったのだそうだ。
同じ海外旅行でも、
こんなにも旅行の仕方が違うものなのかと、
感心してしまった。













12:00を回ったので
先ほどのレストランにご飯を食べにいくことにした。
レストランはセルフ・サービスになっているようだ。
以前イタリア旅行したときに、本場のピザ、
しかも“マルゲリータ”というバジル(香草)と
チーズとトマト・ソースのシンプルなピザが
とても美味しかったので、それを食べたい。
うひょ〜、か〜わ〜い〜ぃ!!!
レジの所にいるイタリア〜ナがメチャかわいい。
「ボンジョールノ!(こんにちは!)」
「ボンジョールノ。」
張り切ってイタリア語で話し掛けてみたけど、
返事は素っ気なかった。
マルゲリータとコーラを頼んで
4・95ユーロ(約700円)だった。















空港レストラン街















近くのイスに座りピザにかぶりつく。
う〜ん、うまい!
本場イタリアで食べるピザはやっぱりうまい。
これだけでもお腹いっぱいになったけど、
せっかくのイタリアだ、
本場のエスプレッソ・コーヒーが飲みたい。
入り口付近にある
バール(日本の喫茶店のような所)に行くと、
ここのおねえちゃんもまたかわいい!
イタリア人の女の子はかわいい人が多いな〜
デヘデヘ・・・














エスプレッソ・コーヒーを生まれて初めて飲んだのは
福岡の喫茶店だった。
当時大学生だった俺は、
エスプレッソなんて知らなかったが、
そのお店の売りが
“エスプレッソ・コーヒー福岡に初上陸!”
みたいな感じだったので注文してみた。
“コーヒー”と名が付くものだから、
いつものようにブラックで飲んでみたら、
とんでもなく苦く、美味しいとはとても思えなかった。
そのとき以来、エスプレッソは
飲むことがほとんどなかったのだが、
イタリアを旅行したときに
本場のエスプレッソを飲んでみたくなり、
バールに入ってイタリア人が
どんな風にして飲むのかを観察してみると、
高さがせいぜい5cmくらいの小さなカップに
入れられて出てきたエスプレッソに
粗目の砂糖を
スプーン3杯から4杯くらい入れて飲んでいる。
ブラック党の俺にはとても信じられなかったが、
“郷に入っては郷に従え”
早速俺も注文して真似して飲んでみた。
すると、意外にもほろ苦さと甘みが一緒になって、
とても風味豊かな飲み物になっているではないか!!!
少しずつ飲んでいくと、粗目の砂糖の溶け具合によって、
その都度甘さの異なるコーヒーになっていく。
その味の変化に感心し、
その日以来、イタリアでの朝食には毎日のように
エスプレッソを飲んだものだった。
久々の本場のエスプレッソは、
粗目の砂糖が置いてなかったので、
グラニュー糖をスプーン3杯入れて飲んだ。
粗目の砂糖が無いのはちょっぴり残念だったが、
それでも大満足だった。















恐怖だった待合室











帰りがけにもう一度トイレに行っておこうと思い、
先ほどのトイレに行くと
『清掃中』の札が出ていたので、
エスカレーターに乗って1階下のトイレに向かうと、
そこは約二週間前、恐怖に顔を引きつらせながら
ダカールに出発したゲート横のトイレだった。
トイレに一番近い、自動販売機横のあの席で、
たくさんのアフリカ人に混じって
日記を書きながら飛行機の出発を待っていたんだ。
なんだか昨日のような気がする。













トイレから戻り、
またしばらくおばちゃんたちと話しをした。
「旅行中、食事はどうしてたの?」
「現地の人たちが食べてるものを一緒に食べました。
 そういえば、羊の脳みそも食べたんですよ!」
「うわぁ、よく食べたわね、そんなもの・・・」
「何か美味しいもの食べましたか?」
「私たちはほら、ツアーだからさ、
 ホテルで美味しいもの食べたわよ。
 それでも、あまり口に合わなかったけどね。
 帰ったら何食べたい?」
旅行の途中からは、
あまり食べ物には困らなくなっていたが、
ジェンネを旅行している頃からなんとなく、
ほんのり塩味の効いた梅干入りの
おにぎりが食べたいと思っていた。
「そうですね〜、おにぎりが食べたいです。」
「ハハハ・・・なるほど、おにぎりね!
 じゃあ空港に着いたらすぐ
 コンビニに行って買わなきゃね。」
「いや、買ったおにぎりじゃ、いまいちなんだな〜。」
「あらま、ハハハ・・・」
コンビニでおにぎりを買うという発想が
全く無かった俺としては、ちょっと驚いた。
最近はファースト・フードや
インスタント食品ばかり食べる若者の
食生活が問題視されているけど、
俺が思うには“若者”というよりも、
もっと上の世代の人たちにも
問題があるんじゃないかと思う。




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