TRIP



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12月7日 すいようび  はれ          (その4)

14:20頃出発ゲートであるB−13に向かった。
お〜ぉ、さすがに日本人がえっとおるわい!
(広島便でたくさんいるの意)
イタリアの空港に着いたときから
チラホラと日本人を見かけ始め、
関空行きのゲートにいるのはほとんど日本人だ。
これだけたくさんの日本人を見るのは久しぶりだし、
『日本に帰るんだな〜』って気持ちになってくる。
14:45搭乗開始。
係員の手際もよく、
あれよあれよと機内の中に入ることができた。
飛行機の入り口で挨拶してくれる
スチュワーデスも日本人だった。
かわい〜ぃ














さ〜て、俺の席はどこだろう?
14Eが俺の座席だ。
おお、あったぞー! あれ・・・?
ダカールの空港で窓際にして欲しいと
頼んでおいたのに、
14Eは両サイド二列、
真ん中の三列並んでいる席の
ど真ん中じゃないか!!!
ほんま、あいつらえーかげんなんじゃけー!














仕方なくイスに座り出発を待っていると、
左隣にはツアーの日本人添乗員女性が座った。
右隣は誰も来る気配がないので、
このまま来なければスチュワーデスに頼んで
そこに席を変わらせてもらおう。
そんなことを思っていると
左隣の添乗員が話しかけてきた。
「そこ、空いてるんなら、
 そちらに座りません?」
「ええ、もう少し待ってもいらっしゃらなければ、
 そうするつもりですけど・・・」
「いや、もう来ないと思いますよ。」
な〜んかイヤな感じなんよね〜、その言い方・・・
席を通路側に変えると、
その女はすかさず俺の座っていた席に
自分の荷物をドサッと置きやがった。
この人に限らず、ツアーの添乗員は
どうも好きになれない。
自分の所の客にはいつも愛想を振りまいて
「お疲れ様でした・・・」とか
「この度はご利用ありがとうございました。」
なんて言ってるけど、個人旅行者を見ると、
客じゃないんじゃけーあんたは関係ないの、
あっちに行ってよ、シッシッ!
って感じなんだよねー。
こういう人たちが典型的な
日本人て感じがするな〜・・・
もっとオープンにいこうよ、
アクナマタタでさ〜!














いよいよ、最後のフライトだ!
アルプスの風景

















さてと、我がアリタリア航空AZ794便は
予定時刻から20分遅れの
15:35に動き始めた。
日本までの距離は9,630Km、
所要時間は11時間10分、
日本時間の10:45に関空に着く予定だ。
滑走路に向かうが、
同じ時間発の飛行機がたくさんあるらしく、
しばらく順番を待たされる。
その間にウトウトと眠くなってしまうが、
いきなりの大きなエンジン音で目が覚めた。
お〜、ミラノを飛び立つんだ。
長い滑走の後グワッと機体が持ち上がり、
遠目にアルプスの風景が見える。
ついに最後のフライトじゃ〜。
千秋の待つ日本に向けて出発だ〜、
待ってろよ〜ちあき!














安定した飛行になると、
さっそく飲み物を配り始めた。
「飲み物はいかがですか?」
「ビールありますか?」
「ビール? OK!」
そういってNASTRO AZZURROという
イタリアのビールを出してくれた。
お〜ぉ、よく冷えとる!
冷えたビールなんて久しぶりじゃ!
さっそくグビグビ飲む。
ビールはやっぱり冷たいのが旨い。
あ〜、いいね〜!!!
すぐにほんわかと気分が良くなった。
そして引き続き、食事だ。
日本食かイタリア料理か選べるのだが、
もちろんイタリア料理でしょ!
ターキーとラザニアがメインで、
サーモン、インゲンとにんじんのサラダ、果物にパン。
うわぁ〜、うまそうだ!
それにチーズとクラッカー、
後からワインももらって超ご機嫌!
どれもとても美味しくいただいた。














やっぱ、イタリアンでしょ!
機内食























ふと隣を見てみると、
先ほどの添乗員さんは
すっかり疲れきった顔をして、
日本食をボソリ、ボソリと食べている。
何だかとてもしんどそうだ。
この人もきっと入社当時は旅が大好きで、
この仕事を始めたに違いない。
飛行機が離陸したときの感動、楽しい機内食、
なかなか通じない言葉が通じたときの歓び、
どれも新鮮だったと思う。
だって、俺がそうだもん。
だけど、いつしか旅をすることが仕事になり、
言葉が通じなきゃ仕事にならず、
他の人の快適な仕事のために骨身を削る。
飛行機に乗ることは特別なことではなくなり、
全てが仕事、仕事、仕事だ。














俺だっておんなじことだ。
初めてスティックでドラムを叩いたときの感動、
エイト・ビートができるようになったときの喜び、
難しいリズムが
こなせるようになったときの楽しさなんて、
今やすっかり忘れて、
ドラムが叩けることが当たり前になっている。
カッコつけて俺はドラマーだとか、
ミュージシャンだとか、
添乗員だとかそんな片意地張らず、
もっと人間でいようよ。
エイト・ビートができることは普通じゃないし、
ドラムができることは、それで素晴らしいとだ。
飛行機に乗って海外に行くことは普通じゃなく、
感動的なことだ。
隣の人にそう伝えたかったけど、
とんでもなくおせっかいなことなので、
もちろん言わなかった。
食事が終わって、
片付けにきてくれたイタリア人の美人スチュワーデスに
「オ マンジャート モルト ベーネ!
 ヴォーノ ヴォーノ!
(たいへん美味しく頂きました。グッドグッド!)」
そう言うと、スチュワーデスは
とてもうれしそうに笑ってくれた。
これが旅の楽しみだと思う。
俺はドラマーでもなくミュージシャンでもない。
ましてや、旅の達人でもない。
ただの単なる太鼓好きの、
旅好きのひとりの人間なんだ。














食事が終わってしばらくすると
機内の電気は消され、
寝る体制が整えられた。
ビールとワインでかなり気分が良くなっていたので
このままグッスリ眠りたいが、
どうも寝付かれない。
ひざも痛くなってきたので、
足を伸ばすついでにトイレに行ってこよう。
トイレ横の小さな窓から外の景色を見ると、
ノボシビルスクの上空を飛んでいた。
夜景がとてもきれいだ。
あ〜ぁ、窓際の席だったらよかったのにな〜・・・














そういえば、スチュワーデスが一番後ろに
ドリンクバーを開設しているって言っていたな〜。
いっちょう行ってみるかな。
一番後ろまで行ってみると、
スチュワーデス控え室の横にコーラ、
ミネラル・ウォーター、オレンジ・ジュース、
トマト・ジュースが置いてある。
うす〜いプラスチックのコップに氷を入れ、
コーラをついで席に戻る。
俺の席はエコノミーの一番前なので
こぼさないように変えるのは大変だ。
周りの人は寝静まっており、
一人コーラを飲みながら航空マップを見る。
時速900Km、高度10,058Km、外気−57℃、
ミラノからの飛行距離5,811Km、
大阪までの距離3,920Km 
もう半分以上飛んだんだな〜・・・
あと4時間34分で到着、
この特別な気分もあと4時間ちょっとで終わるのか〜、
寂しいな〜・・・














やっぱり日本へ帰ろう・・・
外の景色
















旅の初日以来読んでいなかった、
千秋からの手紙をもう一度読んでみた。
旅の途中に何度か読もうと思ったんだけど、
数行読んだだけで涙が出てしまうので
なかなか読めずにいた。

祝 念願のアフリカですね!!
 不安だらけの旅、きっと宝物になるよ。
 1日1日しっかり色んな人、物、街を見て
 心に焼きつけて・・・”

う〜ん、やっぱりダメだ、涙が出る。
旅が終わるのは寂しいけど、
やっぱり千秋のいる日本に帰ろう。
少し感傷的になり、
もう一度トイレ横の窓から外の景色を眺めた。
ロシアのウランバートルという町の
上空を飛んでいるようだった。
砕け散ったガラスの破片を散りばめたような
町の明かりが涙に滲んで一段ときれいに見えた。
流れゆく町の明かりを、
しばらくの間、飽かず眺めていた。

                        23:30



〈その日の日記の落書きより〉

日本が近いぞー
寒いのかなー
日本は今、朝の7:30頃かなー
おはよー、ちあき!




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