TRIP



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12月8日 もくようび  あめ のち はれ    (その1)

日付は変わっても
相変わらず眠れないままで、
航空マップによると日本まで
あと3時間5分というところまで来た。
追い風が118Kmも
あるということもあってか、
現在の飛行速度は
時速10,210Kmと表示されている。
それって、めちゃくちゃ早くない?
そのままほとんど眠ることなく、
日本まで後1時間30分というところで
機内は電気がつけられ、
朝食の用意が始まった。














今朝のメニューは、ハム、チーズ、菓子パン、
小さいフランス・パン、ヨーグルト、
コーヒー、オレンジジュースだ。
俺の席はエコノミークラスの最前列で、
壁を挟んで前側はビジネス・クラスになるのだが、
カーテンの隙間からビジネス・クラスの
食事の様子を窺(うかが)ってみると、
エコノミーとビジネス・クラスは
料金がかなり違うこともあって、
食事の内容も違うようだ。
それに、エコノミーでは皿や食器類は
プラスチックで出来ているが、
ビジネス・クラスでは食器類は
陶器で出来ているし、
フォークやナイフも金属で出来ている。
ジャムもちゃんとした小瓶に入ってるし、
塩・コショウもそれぞれ
小さな陶器の入れ物に入っているようだ。
エコノミーとビジネス・クラスの違いは
座席のゆったり感だけなのだと
勝手に思い込んでいた俺としては少々意外だったが、
あれだけの料金の差があるんだから
当然といえば当然だよね、なるほど〜・・・














さ〜て、食事も終わり飛行機は韓国を過ぎて、
日本まであと1時間と迫ってきました。
よ〜し、いいぞ〜!!!
飛行機は少しずつ高度を下げ始め、
遠目に日本の姿が見える。
お〜、日本じゃ!
600m、500m、400m・・・
飛行機がどんどん高度を下げていくと、
航空マップに表示されている高度が
どんどん下がっていく。
3m、2m、1m、0 ドーン、
おお、ほんまにゼロで着陸したで! 
当たり前か〜。
ちょっと衝撃があったのでビックリしたけど、
何とか無事に日本に着陸であります。
パチパチパチ・・・














「皆様、当機は無事に関西国際空港に着陸いたしました。
 現在の時刻は午前10時42分、
 天気は曇り、気温は9℃です。」
9℃か〜、寒そうだな〜・・・
バック・パックを背負って飛行機を降りる。
「グラーツィエ!(ありがとう)」
スチュワーデスに大きな声で言うと、
ニッコリと笑ってくれた。














連絡通路を渡り、
しばらく進むとエスカレーターに乗るようになっていた。
『エスカレーターにお乗りの際は
 黄色い線の内側にお乗りの上、
 手摺りをお持ちください。』
機械仕掛けの声が語りかける。
うわぁ〜、日本だな〜・・・
そのエスカレーターに乗って進むと
モノレールに乗るようになっていた。
『♪ピンポーン♪ 発車します、
 扉にご注意ください。』
『間もなく到着です、足元にお気をつけください。』
アナウンスもモノレールの運転も、
まったく人が関わることなく、
勝手に動き、勝手に喋ってる。
なんて非人間的で機械的なんだろう・・・
そうか、日本は非人間的な国なのか〜!
セネガルでもマリでも、
“日本はハイテクな国だ!”と
何度も言われたけど、ハイテクってことは
非人間的だってことなのかもしれない。
窓の外に見える空港整備用の車もちゃんと整列して、
同じ型、同じ色の車が並んでいる。
それさえも、なんだか非人間的に見えた。













『アフリカにご旅行の方は
 問診表をお書きください。』
この声も電子音声だ。
問診表にはいくつかの健康に関する質問事項があった。
“下痢をしませんでしたか?”
う〜ん、少ししたよな〜・・・
正直にチェックをつけて係官に提出する。
飛行機を降りてから初めて人と接することになる。
「下痢はいつされましたか?」
「10日くらい前です。」
「今はいかがですか?」
「今はすっかり治りました。」
「そうですか、ではどうぞ。」
意外にあっさり通してもらえた。














次は入国審査だ。
審査官にパスポートを渡し、
ハンコをついてもらってOK!
今度はジャンベを受け取ろう。
AZ794便の表示があるベルトコンベアーの所へ行く。
どうせ、なかなか出てこないだろうと、
のん気に構えていたら、
三番目に出てきた。
そのジャンベを受け取り、荷物検査だ。
係員にパスポートを見せる。
「アフリカに行ってこられたのですね?」
「はい。」
「じゃあ、これはアフリカの太鼓?」
「そうなんですよ、ジャンベっていうんです。」
「中も見せてもらえますか?」
「は、はい。」
ぐるぐる巻きにしていたビニールのシートをはずし、
ケースから太鼓を出す。
おお、皮も破れてないし、
傷らしきものも入ってないようだ。
よかった〜!
「おお、ステキな太鼓ですね。いい音がしそうだ。
 結構です、お通りください。」
これでやっと開放された。














よし、千秋に電話じゃー!
到着ゲートから出ると、
正面から人が近づいてきた。
「おかえり〜!!!」
「ち、千秋!」
あまりの驚きにその場で呆然と
立ちすくんでしまった。
「寂しかったよ、元気だった?」
「見ての通り、元気元気!」
千秋の目に涙が浮かんでいるのを見て、
俺の目にも涙がにじんだ。
まさか迎えに来てるなんて思いもしなかった。
近くにベンチがあったのでそこに座った。
「どうしてここへ?」
「大阪の先生のところでネイルの勉強して、
 そのついでにここに来たの。」
「ついでかよ〜!」
そう言って笑うと、千秋はあわてて言い直した。
「いやいや、先生のところに行くのが
 ついでだったんだって。
 それより、どうだった?」
「いや〜、大変じゃった!」
「そうよね、でも、ほんま無事でよかった!」
「ほんまよ〜! アフリカはほんま、
 すごい所じゃったよ!」
「話はまたあとでゆっくり聞かせてもらうとして、
 お腹空いてない?」
「何か食べにいこうか!」
本当は千秋の作ったおにぎりが
食べたかったのだけど、
まあ今夜でもいっか!














なが〜いエスカレータに乗って、
食堂街へ向かう。
空港内は大きなクリスマスツリーが飾られており、
『ジングルベル』が流れている。
日本はすっかりクリスマス色に染まっていた。
「セネガルにも、サンタクロースが
 飾られとったんよ〜!」
「え〜、そうなん?」
「それが、すっごく暑そうだったんだって!」
「ハハハ・・・」
千秋と交わす久々の会話はとても新鮮で、
笑いが絶えなかった。














3階まで上がると、何軒かの食堂が並んでいた。
「何食べたい?」
「そうだな〜、迷うな〜・・・」
さすがにおむすび屋さんは無さそうだった。
「あっ、トンカツなんてどう?」
「いいね、いいねぇ〜!」
のれんをくぐってお店に入ると、
お昼前ということもあってか、
少し混雑していた。
「いらっしゃいませー!」
威勢のいい声が飛ぶ。
白木のテーブルに、座布団の敷かれた椅子。
う〜ん、日本だ・・・
ランチと一緒に昼間っから生ビールを頼んだ。














「かんぱ〜い、おかえり〜!!!」
「ありがとう!!!」
く〜、旨い!
トンカツをタレにつけて頬張ると、
これまたうまいわ〜!
やっぱ、日本食はうまいね!!!
「マリで伝言聞いてくれた?」
「そうそう、よく電話してきたね〜!
 それにしても、『ハロー』くらい言えんかったん?」
「経営者が日本人って言っとったけ〜、
 日本語でも何とかなると思ったんよ。」
「まぁ、確かになんとかなったけど、
 管理人のボクンさんが、かなり笑っとったよ。」
「も〜、こっちは必死じゃったんじゃけ〜!」
「ハハハ・・・ありがと、ありがと!
 お陰で助かったよ。」
昼間のビールは酔いが回りやすいと言うけど
ふたりともすぐに気分がよくなり、顔が赤くなった。













食事が終わると、空港の展望デッキに
行くことにしたのだが、
この建物には屋上らしき所が無い。
近くにいた空港職員に聞いてみると、
一度外に出て展望デッキ行きのバスに乗らないと
行くことが出来ないのだそうだ。
再び1階まで降りて外に出てみると、
なんと雨が降っていた。




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