TRIP



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12月8日 もくようび  あめ のち はれ    (その2)

正面玄関横のバス停に立っていると、
バスはすぐに来た。
10分くらい乗ると旅客ターミナルとは
別の建物の前に停まり、
どうやらこのビルの5階に
展望デッキがあるようだ。
エレベーターで5階まで上がり、
デッキに出ようと思ったら
雨が土砂降りになっていたので、
仕方なくガラス越しに滑走路を眺めた。
建物の造り上、横からではなく
縦に滑走路を眺めるようになる。
大きな空港ということもあって、
次々に飛行機が飛び立ち、
あるいは到着便も次々に降りてくる。














ふと、時間が気になり腕時計に目をやると、
13:40を少し回ったところだった。
あっ、そうだ!
急いでおだいじ袋から日記を取り出し、
ページをめくる。
うん、やっぱり間違いない。
俺がアフリカに飛び立ったのは2週間前の木曜日、
13:55発のアリタリア航空だ。
そして、今日は木曜日、
ということは俺が乗った便と同じ飛行機が
今日も出発するかもしれない。
近くにあった出発予定時刻の掲示板を見てみた。
“13:55発 ミラノ行き AZ795便”
あるある!
あっ、あそこに見えるのがきっとそうだ!
白地にグリーンのラインが入った
アリタリア航空の飛行機が建物の裏手の方から
ゆっくりと滑走路に向かっている。
二週間前、不安と恐怖を抱きながら、
あの飛行機に乗ってたんだ。














アリタリアが飛んでいく!
光に包まれたアリタリア航空
















飛行機が滑走路の順番待ちをしていると、
あれだけ降っていた雨が急に小降りになり、
雲の間から日の光が差し込んできた。
急いでデッキに出て飛行機を見守った。
雨に濡れた滑走路が
太陽の光を反射して光って見える。
その中をアリタリア航空の飛行機が
水しぶきを上げながら一気に加速し、
そして太陽に向かって飛び立った。
その姿は、2週間前に始まった俺の旅が
光り輝くものになるはずだったんだということを、
証明してくれているかのように思わせ、
そして、俺の次の旅行も
光り輝いたものになることを
約束しているかのように思わせ、
飛行機が見えなくなるまで
いつまでもいつまでも見送った。














再びバスに乗り、旅客ターミナルまで戻ると、
JR乗り場に向かった。
14:48の“はるか”があるので、
それに乗ることにしよう。
列に並んで乗車時間を待っていると、
俺たちの前に黒ぶちメガネを掛けた
外人さんが割り込んできた。
「あの、ここはみんな並んで待っているんですよ。」
「そ、それは申し訳ない。
 ところで、このチケットで新大阪にいけますか?」
「メイビー、OK!(たぶん大丈夫!)」
そう答えると、外人さんは安心して、
笑いながら列の後ろに並んだ。














はるかに乗り込み、窓際の席に座らせてもらって
久しぶりの日本の風景を眺める。
14日ぶりの窓の外の景色は
“びっしり”って感じだった。
とにかく、びっしりだ。
広大な大地も無ければ、
西部劇に出てきそうな岩山も無い。
あれだけたくさんいた黒人も民族衣装の人も、
もういない。
まわりみんな日本人だ。
今こうして日本に帰ってきた。
そして二本の足で日本の大地を踏みしめている。
旅行に行く前には、
また日本の大地に戻ってこれるかどうか、
本当にわからなかった。
そして、アフリカの地を歩くことなんて
想像できなかった。
今でさえ、本当にアフリカを
歩いてきたなんて信じられない。
『あれは夢だったんじゃないか?』
とさえ思えてしまう。
でも、決して夢なんかじゃない。
そして、こうやって日本にいることも
夢なんかじゃない。
旅を終えて、全てがふり出しに戻った、
そんな気分だ。
またゼロから新しい人生がスタートする、
そんな感じだ。
旅の前の日本での歩みよりも
もっと力強く歩いていきたい、
心からそう思った。














新大阪が近づいてきたので、
降りる準備をしてドア付近にいると、
先ほどの黒ぶちメガネの外人さんがいた。
「チケット大丈夫だった?」
「大丈夫だったよ、ありがとう!」
「よいご旅行を!」
そう言って握手をして別れた。
はるかは15:30を回って新大阪に到着。
電車を降りると、
外人さんはキョロキョロあちらこちらを
見回しながら歩いていった。
きっと俺がアフリカで大変だったように、
この人もひとつずつこなしていって、
旅が続いていくのだろう。
がんばってね!














15:59の新幹線に乗る。
千秋が売店でコーラとお菓子を
買ってきてくれた。
もう何も心配せずに、
オドオドすることも無くコーラを飲み、
お菓子を食べれる。
また安心しきった毎日になるのだろう。
今は物足りなく感じているけど、
数日も経ってしまえばこの気持ちも忘れて
“安心しきった毎日”が
当たり前になってしまうのかもしれない。














16時を過ぎると、もう夕暮れ時になった。
こんなに早かったっけ〜・・・
セネガルでは19時を過ぎて、
ようやく夕方だったのにな〜 
窓の外に大きな夕日が沈んでゆく。
日本で見る夕日もマリやセネガルで見た夕日に
負けず劣らず綺麗だった。
千秋が眠っている間に、
持ってきてくれていた携帯電話のメールを
チェックしてみると、
アフリカに行っている間、
毎日のように千秋がその日あった出来事や、
寂しかった気持ちを書いてメールを送ってくれていた。
返ってくるはずの無いメールを
送る気持ちを想像すると、
胸がしめつけられた。
寂しがらせて、すまんかったの〜・・・
こうしてふたりでいるだけでうれしいし、
力強いし、元気が出るね!
ありがとう、千秋!














そして、しばらくすると太陽もすっかり沈み、
暗くなってきた。
新幹線は滑らかで、とても静かで早い。
街も人も整然としていて、
アフリカのような混沌さは無い。
暗闇にウジャウジャいた黒人のような風景は、
ここにはまったく無い。
そう、ここは日本なんだ。














新幹線は17:30過ぎに広島に着いた。
お〜、広島じゃ!
千秋が乗ってきていた車を取りに
屋上駐車場に行くと、
駐車料はなんと2,600も取られた。
2,600円ということは、
だいたい13,000CFAってこと?
たか〜い!
車に乗って久しぶりの広島の風景を眺める。
「久しぶりの広島はどう?」
「うん、少し新鮮じゃねぇ!」
やはり日本人はまじめだわ。
車のルールはちゃんと守るし、
人は歩道を歩いとるし、
ゴミは散らかってなくて街がきれいだ。
猥雑で汚いところもたまにはいいかもしれないけど、
ず〜っと住むなら、やっぱりこっちの方がいい。














広島の街もすっかりクリスマス色に染まっており、
平和大通りの両サイドには
クリスマスのイルミネーションが飾られている。
そして、たくさんの家族連れが
イルミネーションをバックに
写真を撮っていた。
 家族か〜・・・
「ねぇ、帰りにおかんの所に寄って
 帰りたいんだけど・・・」
「そうじゃね、無事に帰ったよ、
 って報告せんとね!」
「家におりゃあええが・・・
(“居ればいいけど”の意)」
実家に着くと、いつも遊び歩いているおかんも
今日は家に居るようだ。











「ただいま〜!」
「うわっ、ヒゲモジャ!」
「帰っていきなりヒゲモジャはないじゃろ〜!」
「ハハハ・・・」
無事に帰ってきて、おかんも安心したようだった。
結局実家で夕食を食べることになり、
念願の梅干入りのおにぎり、
生野菜のサラダ、マカロニ・サラダ、
かぼちゃのスープ、いわしの干物、
漬物に日本茶をご馳走になった。
ほんと、安心して食べられる。
「ほいで、あんたーどこに行って来たんかいね?」
アフリカに行くと言うと
おかんが心配するといけないと思い、
国名だけ告げて出掛けていた。
「アフリカに行ったんよ!」
「まぁー、あんたーテネガルとマイじゃ
 ゆーとったじゃん。」
「ハハハ、テネガルじゃなくてセネガル!
 ほんで、マリじゃけー、ハハハ・・・」
「ほぉーね、よー生け贄にされんかったことよ!」
「ほんまよー、ハハハ・・・」
旅の話で話題は尽きなかった。
そして、デザートに柿。
海外から帰って、改めて柿を食べると、
とても日本的な食べ物だなーと感心した。














結局我が家に帰ったのは
20:00を回ったところだった。
久々の我が家は、少々汚くても、
やっぱりいいもんだ。
後は2日ぶりに風呂に入ればスッキリするだろう。
明日からまた新しい人生が始まる。
ふり出しだ!
この旅行でお金もほとんど底を突いたし、
これからまた頑張ろう。
未来に何かをするためじゃなく、
その日その日を頑張って生きていこう。
そして、『もう一人旅はしない』と思っていたけど、
それも、そう決めつけるんじゃなくて、
行きたいと思う日が来れば行けばいい。
思わなければ行かない。
自分の行動を最初から決めつけるなんていやだ。
やりたいことを思う存分やって、
もっともっと大きくなりたい。
そう思う。

     12月8日 8:25ただいま帰りました。





〈その日の日記の落書きより〉

うほーーーーー 帰ったぞーーー
ほんまにまた日本に帰ったんだ。
もう帰れんかと思った。
でもこうして元気に帰った。
アフリカはすごかった。
日本もすごい!
こんどはどこに行くかなー?
ちあきにおこられるかなー?
とりあえず

バンザーイ

    バンザーイ

バンザーイ




次週は最終回、総集編です。
お楽しみに〜!!!

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