TRIP

きっかけ           (その3)

家に帰り、インターネットで
“カザマンス”を検索してみる。


外務省 海外安全ホームページ 
『カザマンス地方への渡航の延期をお勧めします』
 やむを得ずカザマンス地方へ渡航、滞在される方は、
 襲撃、拉致の可能性があることから、
 陸路での旅行は避けてください。
 また、地雷の危険性があることから
 アスファルトで舗装された部分がら離れないこと。










まじかよ〜! 何で俺の行きたいところは、
こうも危険なところばかりなんだ?!
ガッカリしながらもあきらめきれず、
いくつかのホームページを検索していくと、
セネガルから国際列車で行くことのできる
“マリ”という国が気になり始めた。
マリには“ドゴン族”という部族がいて、
仮面をつけてダンスをしたり、
何かあればパーティーを開いて
太鼓を打ち鳴らし踊るのだという。
学校は電気も水道も無いけど、
子供たちの目は輝いている。
といったようなことが書かれている。
国際列車を調べてみると、
時刻表では一泊二日でマリまで
行くことができるようなのだが、
アフリカン・タイム
(アフリカ人は時間にルーズなので、彼らの時間の観念を
 アフリカン・タイムと呼んでいる)
を考慮すれば、二泊三日は
みておかなくてはいけないと書いてある。
俺の仕事は少々は無理が利くとはいえ、
どんなに頑張っても
二週間休みを取るのが限度だ。
二週間の旅で、移動に往復四泊六日も
取られるのはもったいない。










その辺りのことを
いつもお世話になっている
旅行会社の人に相談してみると、
一番効率よく安く行くには
アリタリア航空でイタリアを経由し、
一旦セネガルに行って
セネガルからはエア・セネガルを使って
マリまで飛ぶのがいいだろう、と教えてもらった。
国際列車で行くよりは料金は高くなるが、
短期間でいろんな所を見て回ろうと思えば
飛行機を利用するしか仕方ないし、
一人でアフリカの国際列車に乗るのは
危険かもしれない、ということだった。










こうして旅の行き先は、マリを約10日間、
その帰りにセネガルを3日間ほど
回るコースに決まった。
少しでも情報を得ようと
インターネットでマリのことを調べていくと
日本人が経営しているホテルが見つかった。(maritour.com
メールで予約ができるようになっているので
試しに送ってみたら、現地には日本人はいないが
予約を入れることができるし、
空港から街まではエアポート・バスは走っておらず、
タクシーで行くことしかできないようなので、
空港の出迎えもお願いすることにした。
旅行会社にはマリに行くためのビザを作ってもらう手配をし、
黄熱病の予防接種
(マリに行くには黄熱病の予防接種は義務付けられており、
 予防接種を受けたことを証明する
 イエロー・カードをもらわなくては入国できない)
を受けた。
いろんな本屋を見て回るうちに、
ガイドブックも見つけることが出来た。
この本はアフリカ全土を網羅しているので、
マリもセネガルも2〜3ページくらいしか載っていないが、
それでも地図があるので役に立ちそうだ!










準備が進むに連れ、
緊張もどんどん高まっていった。
あまりの緊張に心臓が押しつぶされそうだし、
実際ドキドキして不整脈もあるみたいだ。
夜も一度は眠れるのだが、
夜中に目が覚めると
不安のために眠れなくなってしまう。
とにかく、怖くて怖くてたまらなかった。
不安な材料は山ほどあった。
飛行機の関係上、セネガルには深夜の2時に着く。
夜中の2時にセネガルに着いて
そこからどうするのか?
思っている風景に出会えるのか?
食事はどうなのか?
マラリアやコレラといった伝染病は大丈夫なのか?
言葉は大丈夫なのか・・・
中でも言葉は、英語はほとんど通じないらしいし、
現地公用語のフランス語は勉強しても年齢的なものなのか、
ほとんど頭に入ってこなかった。
それに、残していく妻の千秋のことも気がかりだった。
インド旅行のときもかなり寂しい思いをさせていたと思うと、
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。










妻を残し、こんなに恐ろしい思いをしてまで
行く必要があるのだろうかと
常に自問自答を繰り返していた。
しかし不思議なことに、
こんなにも不安で不安でいっぱいなのに、
自分ではない何かに突き動かされて
準備をしている感じがしていた。
新しいところに行くのは確かに怖い。
でも、楽しかったインドに
もう一度行こうとは思わなかったのは、
以前に行った時のことを懐かしんで、
その旅をまた味わおうとしてしまうのが
いやだったからだ。
新しいところは恐ろしい!
だからこそ面白いんじゃないだろうか?
自分の生命を脅かすほどの楽しみ、
そんなものは他には
ないんじゃないだろうか!
西アフリカはガイドブックすら
ちゃんとしたものは出ていない。
言わば、何も解らない。
だからこそ今行くべきなんだ!
誰もが行くようになって、
ガイドブックができてしまえば
その土地は誰にでも行ける、
言わば開拓された後になってしまう。
今でも行くのは遅いのかもしれない。
だから、少しでも早く
行ってくるべきなんだ!

怖い、だから行くんだ!
恐ろしい、だから面白いんだ!



P.S.でも、やっぱりこわ〜い!


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