――衛宮邸
 剣が、その負荷{ダメージ}に耐え切れずに砕け、消え去った。「くそっ! イリヤ、カバーしてくれ!」
「りょーかいであります!」イリヤが、魔力を撃ち出して、士郎と自分の前の獣牙兵を蹴散らす。
「投影開始{トレース・オン}」士郎は干将・莫耶を再び投影する。
「ああっ! だから使うなっつってるでしょうが!」玄関からの獣牙兵を食い止めている凛が、士郎を叱責する。
「そういうわけにいかないだろっ!」士郎は戦線に復帰し、呼吸の荒いイリヤをかばうように、獣牙兵と斬り結ぶ。
「桜、どう?」
「ま、まだだめです」いまや、桜も凛の援護に回らざるを得なくなっていた。結果、捜索はうまくいかなくなっている。
 天井が、ぎしぎしと鳴っており、ライダーも上で奮戦しているらしい。
「あっ!」と、桜が声を上げた。
「あ」と、イリヤも視線を獣牙兵からずらす。どういうわけか、獣牙兵もその一瞬だけ動きを止めていた。
「姉さん、ライダーが、すごい魔力の放出を感知したそうです」
「――ん、急いで戻って来て。
 セイバーがすぐに帰ってくるわ。宝具{エクスカリバー}を使ったって」マスターだけあって、すぐにセイバーと連絡がついたようだ。
「やっぱり」
「セイバーは、無事なのか?」部屋の反対側で、士郎が叫ぶ。
「無事よ、もうちょっと頑張ってなさい!」
 セイバーは、周囲を破壊するのではなく、剣{エクスカリバー}のように自分を不可視とするための風王結界をまといながら、衛宮邸へと突進していた。
 新都から、衛宮邸と遠坂・間桐邱との別れ道となる交差点に達したところで、空の一角が光った。魔術による光弾が、セイバーめがけて次々と撃ち込まれる。しかし、彼女の抗魔力により、そのことごとくが弾き飛ばされた。  セイバーは、時間が惜しいと、上空からの攻撃は無視して突っ走る。
「ライダー、お願いっ!」
「了解です、サクラ」ライダーは、ペガサスを召喚するとそれに飛び乗った。
 すぐに、自分の持つ魔力をペガサスと重ね合わせる。それに応え、ペガサスは高速発揮に備えて羽を縮めた。
「騎英の手綱{べルレフォーン}!!」ライダーは、宝具の真名を呼んだ。
 次の瞬間、ライダーと彼女のペガサスは、圧倒的なエネルギーに包み込まれ、放たれた地対空ミサイルのように急角度で上昇してゆく。
 セイバーへの攻撃を発射している空間をライダー達が通過した後には、大きな鳥のものらしい羽が数枚、ひらひらと落下してゆくだけだった。
「サクラ、鳥を使った使い魔で魔力を中継していたようです」報告をしながら、ライダーはペガサスを減速させると、セイバーの所へと降下した。
「助かりました、ライダー」ライダーの前に納まると、セイバーは振り返って礼を言った。
「気持ちは分かりますが、あなたのおかげでサクラ達がどれほど苦労したと思っているのです」
「……」セイバーは、無言でうつむいている。
「シロウも、あなたがそばにいれば、もっと早く回復できましたし」
「ライダー、あまりセイバーさんを責めないで」と、サクラがライダーをなだめる。
「まあ、多少のことはしょうがないわよ。ホントに、勢いよく飛び出していったんだから」と、セイバーのマスターである凛が言った。お互いのサーヴァントと繋がっているので、4人で会話しているようになっている。
「セイバー、庭に降りて、獣牙兵を後ろから排除してくれない――ええ、お願いね。
 桜、屋敷の探索は?」
「始めています。離れと土蔵はまだですけど、そっちもすぐに」
「灯台もと暗しとはよく言ったものだわ。セイバーを抑えようと無理をしてくれたおかげで、しっぽがつかめたんだから、結果オーライよね」
 白く輝くペガサスが低空を通過すると、そこから青く輝く甲冑が飛び降りた。ペガサスは、再び上空へと舞い上がる。
 獣牙兵を1体、踏みつけながら降り立ったセイバーは、風王結界を展開して、母屋に向かって進撃を開始する。彼女の怒りを示すかのように、周囲に風が荒れ狂い、彼女の前に現れる獣牙兵をなぎ倒してゆく。ついに剣{エクスカリバー}を構えると、駆け出し、母屋へ侵入しようと密集した獣牙兵に後ろから斬りつけた。
 士郎とイリヤもそれに呼応して攻めに出た。士郎はセイバーが近づいてくることを、脇腹の傷が治癒してゆくことで実感する。
「シロウ!」獣牙兵の壁を突き破るようにして、セイバーが顔を出した。
「ああ、無事でよかった」
 セイバーは、士郎のふるう干将・莫耶の間に滑り込むように踏み込み、反転する。そして、とん、と身体を後ろに傾けて、背中から士郎にもたれかかった。
「セ、イバー?」戸惑った士郎がセイバーに問いかける。
 すぐにセイバーは、前に踏み出して士郎の腕の中から抜け出すと、エクスカリバーで獣牙兵をなぎ払った。
 イリヤが、セイバーと士郎の間に割り込むと、伸び上がって士郎の首にかじりついた。
「イ、イリヤっ!」
 イリヤは、士郎にぶら下がって、何度か頬ずりするとすぐに離れた。
「士郎、傷の方は大丈夫?」と、今度は後ろから凛が士郎の胴に手を回してきた。
 柔らかい膨らみを背中に感じて、士郎はうろたえる。「と、とおさか?」
 士郎の頭を軽くはたくと、凛は前に出て、ガンドを撃ちまくった。
「リンっ! よく狙ってよっ! かすめたじゃないっ!」と、イリヤが叫ぶ。
 士郎は、気配を感じて振り返った。後ろに立っていた桜が、身体を硬直させる。
「どうしたんだ、桜?」
「い、いえ……」視線をそらす、桜。
「何をやっているんですか、サクラ」上空のライダーは、ため息をついた。「考えすぎるから、チャンスを逃すのです」
「ん?」と、ライダーは、地上で動きがあったことに気づいた。「サクラ、出てきましたよ!」
 急降下し、それでいて衛宮邸の塀の上に音もなく、降り立つ。「挨拶もせずに帰られるとは、ずいぶんと非礼なお客さんですね」
 暗い迷彩服を着た男は、呆けたように、ペガサスとそれに乗るライダーを見上げている。
 音もなく駆けつけたセイバーが、その背中にエクスカリバーを突きつけた。
「ち、ちょうど良かった。我々と契約し直さないか? 扱いについては、交渉しようじゃないか、いい待遇を約束するぞ」それで、我に返ったのか、魔術師は上ずった声で二人に交渉を持ちかけた。
 セイバーは、聞こえよがしにため息をついた。
「どうかしましたか?」
「私の魔術師に対するイメージは――」セイバーは疲れたような口調で言った「――聖杯戦争に参加できるという、善き物を持った者達で形作られていたということを思い知らされているんです」
「はあ?」ライダーは怪訝そうな声を返す。「どういうことです」
「あ〜、こちらからの働きかけを無視しないでくれるとありがたいんだが……?」
「ああ、そうでしたっけ」めんどくさそうに、ライダーが答える。「お答えしないのも非礼ですね」
「どういう意味だ?」魔術師が怒りをにじませた。
「断られるのが分かっていて、あえて聞こうとする、あなたの判断力にあきれているのです」
 ライダーの返答に、その魔術師は激昂した。「なぜだっ? おまえらのような強力な英霊が、取るに足りない小娘達に隷従するっ! 理解できん! おまえらだけではない。言峰とやらには、ギルガメッシュが従っていたと言うではないか! アインツベルンならともかく、我が……我々のような強力な一門ではなく、取るに足りない遠坂や間桐{マキリ}のような連中がっ!」
「ああ、もう、うるさいですね。静かにしていてもらいましょうか。セイバー?」
「分かりました」と、セイバーが念のために眼を閉じたのを確認して、ライダーは、アイマスクのような宝具、自己封印・暗黒神殿{ブレーカー・ゴルゴーン}の相殺力を弱め、魔眼でその魔術師を視た=B
「そ、それは! 宝石=I」自分を射抜く視線が何かを察したらしい。「ま、まて、俺が悪かった、さっきのは取り消すっ」魔術師は見苦しいくらいにうろたえる。
 だが、ライダーは耳を貸さない。だんだんと下半身の方から、抗しがたい石化プロセスが進行してゆく。
「だからっ――くそこの使い魔風情がな……」
「終わりました、セイバー」
 ライダーの声に促されてセイバーが目を開くと、魔術師は、天才彫刻家でも困難を覚えるであろう、生き生きとした怒りの表情を浮かべた石像となっていた。
「セイバー、ライダー」凛達が追いついてきた。「どうなったの?」
「リン」セイバーは振り返った。一歩引いて、視界をあける。
「これは、ライダーが?」
「ええ」降りてきたライダーが答える。「いけませんでしたか?」
「……まさか、ちょうどいいわよ。拘束してから戻すもよし、このまま協会に寄付して石化治療の実験台になってもらうもよし。いろいろできるじゃない」
「なるほど」
「まあ、まずは身元を調べるのが先決よね」
 士郎と桜がやってきた。
「ライダー、大丈夫?」桜がライダーに駆け寄る。
「ええ、サクラ」
「そう、良かった――ひゃ!」ペガサスが鼻面を押しつけてきて、桜が変な声を挙げた。
「すみません」慌ててライダーは、ペガサスを桜から引き離した。
「士郎、これ、しばらく隠す場所ある? 協会と話をする間でいいんだけど」
「そうだな……うん、土蔵の中に入れておこう。藤ねえは、奥まで入ってこないし……結構重いな、台車を取ってくるよ」
「あ、手伝います」と、セイバーもそれについていった。
 士郎と入れ替わりにイリヤが来た。「ふーん、これが魔術師なの」しげしげと、観察しながら真新しい石像のまわりを回る。
「これ、砕いたらどうなるのかな?」と、こつこつと石像を叩きながら、無邪気に笑う。
「そんなことしないでよ」
「だめ? 石化した人間を、損傷を受けてから復元したらどうなるのか、興味わかない?」
「やめてよ、目覚めが悪くなるわ」
「いいじゃない、私たちに危害を与えようとしていたんだし。この人だって覚悟していたんじゃないの?」
 凛は苦笑いを返した。「まあ、聖杯戦争の参加者というわけじゃなし、そこまでするのは、とりあえずはやめておきましょう」
「とりあえず?」
「何があるかは分からないもの。もしかしたら人質にしなければいけないかもしれないし。石になってるから、養うことを考えなくても、新鮮なままで保存できるわね」
「リン、なにげにひどいこと言ってるわよ」
「で、でもっ、これで終わりなんでしょうか?」ライダーの努力にも関わらず、ペガサスの関心を引き受けながら、桜が言った。
 凛とイリヤは顔を見合わせた。「どうだろ? 威嚇になるから、数は少なくなるだろうけど」
 ペガサスが、目の前でひらひらしていた桜のリボンに歯をかけた。
「ダメッ!」と、厳しい声で桜はペガサスを叱りつけた。
「すみません、サクラ」ライダーは、今度こそ、断固としてペガサスを桜から遠ざけた。ペガサスの方も、桜の怒気に反応したのか、恐縮したかのようにうつむいている。少しなだめてから、ライダーは召還を解除した。
「桜、どうかしたのか?」手押し車を押しながら、士郎が戻ってくる。
「せんぱい?」
「シロウ!」イリヤが飛びつくように士郎に駆け寄った。「サクラが、ライダーのペガサスをきつく叱ったんだよ」
 士郎は、ライダーの方に視線を向けた。
「ペガサスがふざけて、サクラのリボンを噛んだのです」
 桜の動機を理解した士郎は、うなずいた。
「間桐に引き取られる時に、遠坂からもらったリボンだろ? 桜が怒るのは当たり前だよ、な」
 凛と桜が顔を見合わせて真っ赤になった。お互いに眼をそらす。
「イリヤ、危ないから下がってるんだぞ」士郎とセイバー、ライダーも加わって、石像を手押し車に積み込んだ。
 凛は、素早く駆け寄って士郎の尻に蹴りを入れた。
「おわっ!」と、士郎がよろける。「何をするんだよ、遠坂」
「別に!」凛はそっぽを向いて、天然男に行った報復への非難を流す。
「行きましょ! 桜」士郎に頭を下げる桜の手を引いて、凛は母屋の方へと足を踏み鳴らすようにして言ってしまった。
「いったい、なんだっていうんだ?」士郎は首をひねったが、その場に残っていた3人からは、あきれたような表情で見られていた。






「まったく、士郎の奴ってば、天然なんだから。ねえ、さ――」
 凛は居間に入ろうとしたところで、急停止した。そこには先客が二人いたからだ。
「あ、遠坂さん、どこ行ってたのよぅ?」と、にこにことクッキーをつまんでいる、大河。
 ぎょっとして、凛は居間の中を見回したが、中はきれいに修復されていて、大立ち回りのあとは残っていなかった。
「凛よ、日本の家の中では靴を脱ぐのではなかったかな?」大河と談笑しながら座っていたのは、いかつい顔をした大柄な老人であった。こちらも、クッキーをつまんでいる。初めて見る顔ではない。どころか、数日前にロンドンで別れたばかりだった。
「だっ! だっ、だっ! ……大師父!!」素っ頓狂な声を挙げる。
「姉さん、どなたです?」
「桜は会うの初めてよね? この方は、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。前に説明したわよね、父様の師匠……えー、そのまた師匠に当たる人よ」大河がいるので、途中の数世代分を省略して、凛はゼルレッチを紹介した。「業界では魔法使い≠ニ呼ばれてるわ」
「はっ、初めまして、間桐{まとう} 桜です。ロンドンでは姉がお世話になったそうで、ありがとうございます」魔法使い≠ノどういう挨拶をするべきか判らず、緊張して桜は頭を下げた。
「おまえさんが間桐{マキリ}の当代かね、冬木にいる当代は美人ぞろいじゃないか」呵々と笑い声を挙げるゼルレッチ。
 ただのオヤジ的発言に、桜は困ったような顔を凛に向けた。
 凛は靴を脱いだ。「桜、床をふいておいてくれない」
「あ、ハイっ!」桜は、自分も靴を脱ぐと、慌てて雑巾を取りに洗面所の方へ走って行った。
「あれ? ゼルレッチさんは、切嗣さんの知り合いの方じゃないんですか」
「先程も申しました通り、衛宮切嗣とは面識はありましたが、親しいほどではなかったんです。あまりお話しするようなことはないですな」
「そうなんですか。何か切嗣さんの事をお聞かせ願えればと、思ったんですが……」
「すみませんな、お嬢さん」
「いいえ、お気になさらないでください」大河はさびしそうな微笑を浮かべた。
 珍しく、大河が浮かべた大人の表情に、一瞬見とれた凛は、気を取り直すとゼルレッチに手をかけて乱暴に引っ張った。「大師父、こちらへ」
「おおう、なんだ、凛よ?」
 凛は、ゼルレッチを玄関にまで引っ張っていった。
「まったく、遠坂は魔法使い≠ノ対しての敬意が薄いのう。ほかの門派なら、もうちょっと扱いが良いぞ」腕が解放されると、ゼルレッチは、凛に引っ張られてできた袖のしわを伸ばそうとした。
「だからこそ、わたし達はあなたに近づけたんだと思ってます」
 凛の言葉に、ゼルレッチはほうと、感心したような声を出した。
「凛よ、こんな所に引っ張ってきたというのは、なぜ――まさか、もう帰れと言うのではあるまいな?」恨めしそうな眼で凛を見た。
「ご希望でしたら、叩き出してさしあげても、かまいませんが?」その表情に動じることなく、慇懃な口調で凛は言い返した。
「単刀直入におうかがいします。大師父、何しに来られたんです?」居間の方に注意を払いながら、凛はゼルレッチに詰め寄った。
「おうおう、そんなことか」
「そんなことかって……藤村先生が、魔術とは無関係というのは、おわかりでしょう!」
「知られては困るんだったか。わかった、気をつけよう」
「それで、何しに来られたんです? 大体、新しくとられた弟子の相手で、お忙しいと思っていたんですが」
「そのことだがな、まだ名乗りを上げる門派がなくてな。もうしばらくかかるんではないかな?」
「大師父、評判が良くないですものね、その点では」
 ゼルレッチは、咳払いした。「魔法使い≠フ弟子が大変なのは、当然ではないか。自分の先祖に感謝したまえ」
「で?」と凛は先を促す。
「それでだ、弟子の志願者が現れるまで暇なんだが、今回ばかりは事情が事情だから、いつものようにわしの気まぐれで移動するわけにもいかん。この世界にとどまるにあたって、しばらく、遠坂{おまえさん}にやっかいにならせてもらおうと思ったんだよ」
「なっ……!」
「ちょうど、今回の聖杯戦争で呼び出されたサーヴァントにも興味があったしな。なんでも、たいそうな美人揃い、だそうではないか」目尻を下げて笑う。
 ――こんオヤジがっ! 凛は、頭痛に耐えるかのように顔をしかめてうつむいていたが、これ以上はないくらい冷たい視線で、ゼルレッチを見上げた。
「非難されているような気がするのだがな、凛や」
「気のせいですわ――報告書では、サーヴァント達の容姿や性別については、一言も触れなかったはずですが」
 ゼルレッチは、凛の視線をものともせずにニヤリと笑った。「わしも、おまえさんから教えてもらった記憶はないな」
「……神父め」心の中で、ガンドで蜂の巣にする。
「そうではないぞ。もう少し、思考に余裕を持たせた方がいいな」
「大きなお世話です」
「やれやれ」ゼルレッチは聞こえよがしなため息をついた。「おまえさん達はさっきまで何をしとった? おまえさんの報告書を受けて、独自に裏を取った連中の下っ端が、協会の隅っこで噂しとったぞ」
「ああ……そういうことですか」
「襲ってきた連中の目的を、読んだのだから、そちらの可能性にも思い至って欲しかったな」
「……そのおっしゃりようからすると、わたし達の事を見てらしたということですか」
「主におまえさんだがな。間桐{マキリ}の当代に――おまえさんの妹か――プレゼントのことを聞いたのも、知っとるぞ」
「なっ……!」真っ赤になって絶句する凛。
「気付かなかっただろう? わしとおまえさんでは、まだまだ格が違うんじゃよ」にやりと笑う。
「遠坂」と士郎がやってくる。「お客さんだって?」
「ええ、あなたのお客というより、わたしのお客だけど。士郎、こちらはキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、遠坂の大師父で魔法使い≠諱v
 士郎を見下ろすゼルレッチの眼光に、一瞬、厳しい光が走り、凛は背筋に冷たいものが走るのを覚えた。「お前さんが、固有結界使いか」
 単刀直入な物言いに、士郎と凛は、一瞬身体を凝固させた。眼で、意思を交わす。
 凛は、気を取り直すように首を左右に振ってから、大師父に向かって話しかけた。「あのう、大師父……?」
 呵々とゼルレッチは、笑い声を上げた。「心配せんでもいい、お前さんのことは協会の連中には、知らせんわい」
「ありがとうございます」即座に、士郎は頭を下げた。
「凛に恨まれるのはわしの意図するものではないし、魔法≠ニは言ってもわしの技も禁呪使いなのは同じ、お前さんは同類だよ。わしも、あれほどの力をもたらさなければ、協会に封印されていたかもしれんしな」
 凛は、詰めていた息をふうと、吐き出した。「わかりました、等価かどうかは疑問ですが、この世界の日本におられる間は、大師父のお世話をさせていただきます。御存知と思いますが、遠坂{ウチ}は内情が苦しいので、下にも置かぬおもてなしというわけにはいきませんよ」
「すまんの」
「リン!」と、ドタドタと足音を響かせながら、イリヤが走ってくる。「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが来てるって!?」
「おうおう、アインツベルンの聖杯か」
「うわあ」と、イリヤは感激の面持ちで、ゼルレッチを見上げる。「本物の魔法使いだぁ」
「よろしくな、嬢ちゃん」ゼルレッチは、優しい表情をして、いかつい手でイリヤの頭をなでた。
 イリヤは眼を細めて、それを受け入れている。
「なによ、頭をなでられて平気なの?」
 イリヤは、凛に舌を出した。「いーんだもんっ! 本物の魔法使いなんだから、特別なのっ!」
「イリヤ、まだ?」と、イリヤ付きメイドのリズが、居間の方から顔を出してイリヤを呼んだ。
「そうそう、晩ご飯ができたからって呼びに来たのよ、シロウ」
「せっかくですから、シュバインオーグさんもご一緒にどうですか? 日本の普通の食事ですから、お口に合うかどうか解りませんが」
「それはありがたい。お言葉に甘えさせていただきますかな」
「人数、足りるの?」大河も勘定に入れると、5、6人分増える勘定になっているはずだ。
「ああ、藤ねぇも来ちゃったし、セラさん達が量を増やしてくれたよ」
「そうそう、シロウ、またクッキー焼いてよね」
「あんた、まだ食べるの?」
「だって、タイガとセイバーが食べちゃったんだもん。リズもセラもほとんど食べてないのよ!」
「しょうがないなあ、藤ねぇは」
 士郎とイリヤが先に立って、凛とゼルレッチが後ろに続く形になった。
 ゼルレッチが、凛の耳に口を寄せてささやく。「まあ、わしがお前さんに肩入れしとるのは周知の事だし、魔法使い≠ェ一緒にいるとなれば、ちょっかいを控えさせる効果があるんじゃないかと思うぞ」
 凛は、びっくりした顔で、大師父にあたる老人を振り返った。そして、深々と頭を下げるのだった。





エピローグ

「ああっ!」と居間に足を踏み入れた凛は、叫び声を上げた。大河とセイバーが、自分の買って来たクッキーの徳用袋を開けて、食べていたからだ。「何してるんですか!」
「え? これ、食べちゃいけなかったの?」
「だから、タイガ、言ったではないですか。これはリンのだと」
「これ、ホワイトデーで使おうと思ってたのに」半分、涙目で教師とサーヴァントを睨みつける。
「だったら、使えなくなってたわね」凛の目の前で、大河はクッキーの小分けされた包装を開けた。「ほら」
「あ!」
 大河の手に落ちて来たのは、破片になったクッキーだった。
「今まで食べた奴の、半分以上がこんな感じだったわよ。遠坂さん、買った後で何したの?」
 商店街で、リーダーに組み敷かれた時の記憶がよみがえった。「あっ!」叫び声を上げると、ぺたんと、凛は床に座り込んでしまった。
「姉さん?」
「あちゃあ……どうして、わたしは……」
 しばらく、自分の遺伝的な呪いに想いを馳せた後、凛は、士郎に剣呑な視線を向けた。「士郎、材料はどれぐらい残ってる?」
「卵とバターはなんとかなると思うけど、小麦粉はあまりないぞ、かなり造ったからな」
「桜、間桐の台所にはどれぐらい?」
「卵とバターはさすがに……、小麦粉は小さい袋に半分くらいだったから、百グラムくらいだと思いますけど……」
「藤村の屋敷、一キロ、ある」リズが言った。
「先生、分けていただきますね!」
「ん〜、しょうがないな。リズちゃん、セラちゃん、ご飯食べたら取って来てくれない」
「わかりました」
「そうと決まったら、ご飯にしましょう!」と大河が高らかに宣言した。「あたしおなかぺっこぺこ!」

――穂群原学園 早朝
 揃って眼の下にクマを造った、士郎、鞄に加えて紙袋をぶら下げた凛、桜の3人は、校舎玄関にたどりついた。3人の中で、凛の具合が特にひどい。
「う〜、もう、ホワイトデーはいや」
「あふ」と桜が、あくびをする。
「大丈夫か、桜」
 士郎に見られていた事に気付いて、桜は、縮こまってしまう。
 凛はそれに気がついていなかった。寝起きの悪さに寝不足までもが重なって、幽鬼のような足取りで歩いて行く。衛宮邸からここまでの道のりでも、眼は覚めなかったらしい。
「おはよう、遠坂! 今日は衛宮達と出勤かい?」綾子が、大声で声をかけてきた。「結局、あんたも下駄箱か」
「オはよ、綾子」凛は、それだけ言って綾子の前を通り過ぎる。それでも、綾子の声で、少しは眼が覚めたのか、凛の足取りがしっかりして来ている。
 綾子は、凛の後ろに従っている、士郎と桜に目をやった。「どうしたんだ二人してクマを造って……まさかっ! 衛宮、お前桜とっ!」
 綾子の肩に、突然重いものが、のしかかって来た。耳元で凛の声。
「士郎と桜がどうしたって?」
「ひゃあ! ……脅かすなよ、遠坂」
「ごめん」凛は、メモ帳を取り出すと、ラッピングされた包みを下駄箱に入れ始めた。
「先輩のホワイトデープレゼントを、手伝っていたんです……」靴をはきかえると、桜は「それじゃ、先輩」と言って教室の方へと去って行った。
「衛宮は、どうしたんだ?」
「いや、ホワイトデーのクッキー、焼く端から食べられて、なかなか満足してもらえなかったんだよ」
「プレゼントするクッキー、目の前で焼いてたのか?」
「う……まあね、当分クッキーは見たくないな」
 綾子は、明るい笑い声を上げた。「そりゃ傑作だ! まあ、藤村先生がいるならしょうがないよな!
 あ……桜が手伝わないはずがないな、桜も含めてか?」
「いや、桜には、手伝ってくれたということで、学校の後でケーキをごちそうすることになってる」
「へえ、そりゃあ、桜も頑張ったかいがあったってもんだな」感心したように、綾子はうなずいている。
 うん、うそは言ってない。――と、士郎は自分を納得させた。
 柳洞が、やはり紙の手提げを持ってやってきた。それなりの重さのはずだが、いつものように寺から歩いて来たようだ。「今日は早いではないか、衛宮」
「おはよう、一成」
 次々と、ホワイトデーのお返しをしようという生徒が、登校してくるようになった。

――2―A教室 休み時間
「ふあ……」凛は、あくびをかみ殺した。さすがに、目は覚めているが、眠たくて授業がまともに頭に入って行かない。やる気に、身体の方がついていかない感じだ。まあ、親戚が死んだということで、今度の試験で成績が落ちるのは、ある程度許容されるだろうけど、そういう言い訳はあまりしたくなかった。
「あの、遠坂さん?」三枝由紀香が、ぽてぽてと歩いて来た。
 凛は、克己心をふるいおこして、由紀香に笑顔を向ける。「なんですか、三枝さん」
 子犬のような少女は、凛の内心を察したのか、リンの笑顔に不安げな表情のままで、話しかけて来た。「あの……ホワイトデーの、クッキーありがとうございました」
 そういえば、この娘{こ}もチョコをくれていたんだった。「こちらこそバレンタインデーのチョコレートありがとうございました。すみません、親戚の所でいろいろとあって、わたしのほうこそお礼を言ってませんでした」
「いえ、そんな」由紀香はほにゃっと、柔らかな笑顔を浮かべた。「ただの義理チョコなんで、お返しなんて……あ、それでですね、あのクッキーけっこうおいしかったんですけど、どこのお店で売ってたんです? まさか、イギリスで買って来られたんですか?」
 突然、凛がはじけるように笑い出したので、由紀香は驚いて飛びのいた。「あ、あの、遠坂さん?」
 教室中の視線を集めているのが意識されて、由紀香は、顔が火照ってくるのを意識した。
 凛は、ひとしきり笑った後で、目尻の涙をぬぐった。「ゴメン、ごめんなさい、三枝さん。ちょっと、ツボに入ったみたいで」大きく深呼吸して、落ち着かせる。
「イギリス{むこう}では、ばたばたして、そんな暇ありませんでしたわ。焼いて、ラッピングしたんです」うん、うそは言ってない――と、遠坂は内心で確認する。焼いたのはほとんど士郎で、凛は桜に手伝わせて、もっぱらラッピングの方を担当したのだから。
「へええ」と、遠坂の内心をのぞく事などできない由紀香は、単純に感心したような声を上げた。「手作りだったんですか。食べちゃって、もったいないことしたかな」
「ですから、買ったお店はないんですよ。お役にたてなくて、ごめんなさいね」
 授業の再開を告げるチャイムが鳴った。
「は、はい、どうもありがとうございました」と、ペコリと頭を下げると、由紀香は、自分の席の方に戻って行った。
――マウント深山商店街 放課後
「慎二の具合はどうだった、桜」商店街の入り口を示す看板のところで、士郎は傍らに立つ桜に話しかけた。
「元気でした。まだ、普通に生活するのは無理でしょうけど、新学期からなら、学校に復帰できそうです」ちょっと寂しげに桜は笑う。
「そうか、それが、聖杯戦争の最後のイベントになりそうだな」
「そうですね」
 そこで、会話が途切れた。
「遠坂の奴、遅いな」と、士郎がつぶやく。
 どういうわけか、クッキーの準備を終えた時には、士郎が、手伝ってくれた皆にケーキをおごるということになっていたのだ。
「そういえば、一年の教室で、遠坂先輩が……≠チて、みんなが騒いでいたんですけど、何かあったんでしょうか?」
 士郎は首を傾げた。教室が違うので詳しいことは解らないが、特になにかあったとは思えなかった。「別に何もなかったと思ったけどな……。遠坂ファンクラブのやつらが、ホワイトデーの何かで騒がしかったけど」
「そうですか……」
 それでまた、会話が途切れた。
「シロウ!」とかすかに、彼を呼ぶ声がした。視線を向けると、留守番組の一人、イリヤがこちらに向かって駆けてくる。その後ろには、獅子竹刀を持ちながらイリヤを追いかけているセイバー、歩いてくるライダー、リズとセラ、それに加えてゼルレッチがいる。なんとも、無国籍で奇妙な集団だった。
「こうやって見ると、かなりの人数だな」声がちょっと震えてしまう士郎。
「先輩……お財布、大丈夫ですか?」心配そうな顔で、士郎を見上げる桜。
「すまん桜、貸してもらう必要があるかもしれない」
「シロウ!」イリヤが、飛びつくようにして士郎の首にかじりついた。桜とセイバーが、あっけに取られている間に、士郎にほおずりする。「ん〜、シロウ分補給」
「イリヤ! 離れなさい、シロウを引き倒すつもりですか!」セイバーが、イリヤを引き剥がした。
「いいじゃない」猫のようにぶら下げられたイリヤが、じたばたと手足を振り回す。「シロウが押し倒してくれるなら、私はオッケーなんだから!」
「なっ……!」桜とセイバーが叫び声を上げる。
 士郎は、あわてて周囲を見回した。が、こちらに注目しているような人はいないようだ。まずは、ほっと一息。
「何を言ってるのよ、このがきんちょは」
「衛宮もなかなか、すごい子に迫られてるんだな」
 士郎達が振り返ると、凛と綾子が立っていた。
「あ、姉さん」
「ちょうどだったな、遠坂」
「まあね」
「おお、凛も来たか」
「大師父も、来られてたんですか」ちょっと、皮肉を込めて凛はゼルレッチに答えた。
「遠坂、誰だい、このおじいさんは?」
「後で紹介するわ」
「遠坂! 遠坂 凛!」と、今度は凛に呼びかけてくる声。
「一成だ」士郎の言うとおり、柳洞がこちらに向かって走ってくる。
 周りの奇妙な集団には眼もくれず、柳洞は凛の所へ一直線に走ってきた。「お主、どういうつもりで、手作りクッキーなど配った!」
 凛は、首を傾げた。「どういうことです、柳洞クン? 手作りクッキーって、もちろんバレンタインデーのお礼に決まっているじゃないですか」
「だから、どうして、そのようなものを配ったと聞いておる!」呼吸を整えながら、柳洞は再度、凛に詰め寄った。 「わけがわからないわね? たいして深い意味があるわけじゃないですわ。お返し用に買ってきたクッキーがアクシデントで使えなくなったから、しょうがなく焼いただけでしてよ」
「その焼いたクッキーというのが、問題になっておる!」
「どういうこと?」
「おまえの手作りクッキーが配られたという評判がたったために、クッキーを持っている女子が何人か、男子生徒にそれを奪われるという騒ぎが発生しておるのだ!」
「はいぃ?」穂群原学園の生徒達が、すっとんきょうな声を上げた。
「聞けば、クラスで自分で焼いた≠ニ吹聴したそうではないか、軽率な事をしてくれたな!」
「遠坂……」
「姉さん……」
 士郎と桜、それにイリヤ、セイバー、ライダー達の非難の視線が、凛に突き刺さる。
「いや、確かに、わたしにお礼を言いに来た三枝さんには、お店で買ってない、焼いたものだ≠ニ言ったけど、別に吹聴なんてしてないわよ」
「どちらにしても、おまえの行動が、学園に混乱をもたらしておることは違いないからな、何らかの責任を問う声が出るのは避けられんと思えよ」
「凛よ、日本でも査問会かね? さすがに今度は助けてやれんぞ」
「ホワイトデーって、わたしにとっては鬼門なのかしら?」と、凛はため息をつく。
「あ、遠坂先輩!」と脇から、穂群原学園の制服を着た少女が凛に飛びついてきた。
そして、イリヤが士郎にするように、凛に頬ずりする。
 全員が、あっけにとられて、その二人を見た。
「え、えーと? 今度は、なに?」
「1−Bの、篠崎恵美ですっ! 遠坂先輩」その少女は、自己紹介した。凛よりも頭が一つ分小さい。茶色がかった髪は、肩のあたりで切りそろえられている。眼が大きく目鼻立ちもくっきりとしていて、眼を引く美少女だった。
「あー、はいはい、そういえばバレンタインにチョコをくれていたわね、ありがとう」
「いえ、先輩こそ、あたしの告白に応えて下さるなんて、感激です!」恵美は、凛の身体に腕を回したままで、言った。
「ええっ?」その場に居合わせたほとんどの者が、驚きの声を上げた。
「ちょっ……! ちょっと待って、篠崎さん」
「そんな、篠崎さんなんて堅苦しい言い方しないで下さい、あたしのことは恵美{めぐみ}とかメグメグ≠ニか、そんな呼び方をして下さればいいですから!」
「えーと、恵美{めぐみ}さん? わたしが上げたのはクッキーよね?」
「はい! ホワイトデーに、ドライフルーツを載せた手造りクッキー、愛を受け止めていただけるという意味じゃないですか。あたし、もう嬉しくって!」
「わたしそんなつもりじゃ……」
 だが、恵美はそのようなことを聞いてはいないようだった。さらに凛に抱きつく腕に力をこめてきていた。
 凛は、助けを求めてまわりを見回した。
「遠坂、お前さん、男前な奴だと思っていたが、本当に女好きだったんだな」と綾子。
「リン、やっぱりあなたは……」と、数歩後ろに下がっているセイバー。
「なんだ、リンがそういう趣味だったとは知らなかったわね。一人脱落?」と嬉しそうな顔をしているイリヤ。
「おめでとうございます、リン。想い想われで、良かったですね」とライダー。
「仲良きことは美しきこと、ですね」とセラ。
「おめでとう」とリーズリットはそっけない。
「まあ、リンよ、個人の趣味と弟子としての力は別だから、わしは何も言わないことにするよ」
「ええいっ! 後輩がこのまま毒婦に染められるのはまずい」
「姉さん、あの態度はやっぱり……」
「ま、まあ、遠坂の趣味がどうでも、俺は気にしないからな」
 誰からも救いの手はさしのべられようとはしなかった。
「どうしてこうなるのよぉ」
 遠坂 凛の厄日{ホワイトデー}は、終わりそうもない。

<終>


 初出:セレーネ・エア出版局発行同人誌 2004年8月15日






あとがき
 遠坂 凛、ホワイトデーに奮戦す≠お読みいただきありがとうございました。
 最初にお断りした通り、Fate/stay night(以下Fate)には、3ルート、5エンドがありましたが、この小説ではそれらのおいしいとこ取りをして、女性キャラクターが全部生き残ってしまうような都合のいいストーリーがあったものとしています。あちこち整合のとれていない部分が生じますが、それは気にしないことにして下さい。
 私、いーのはセレーネ・エア出版局≠ニいう個人サークルで、オリジナルの小説やゲーム系SS、メカ解説等の同人誌を発刊してきましたが、TYPE-MOON系ゲームについては、ずっと受け手側でした。
 しかし、2004年3月半ば、ここでしにをさんが発表された「天抜き ホワイトデー編(http://www5.biglobe.ne.jp/~sini/SS/tennukiwd.htm)」に含まれていた一編、それは、ホワイトデーのお返しをするために走り回る綾子を、凛が他人事のように眺めているというものでしたが、そこから「遠坂 凛の設定からして、バレンタインデーに女生徒からチョコをもらわないはずがない」というアイディアが生まれました。全自動月姫Links -Albatoross-(http://coop-albatross.info/top.html)%凾ナ調べてみたところ、士郎がホワイトデーに苦労するとか、女性陣がバレンタインに趣向を凝らすものはあっても、女性陣がもらうヾSは存在していないようでしたので、ニッチを見つけた同人小説書きとしては、ここを埋めるべく、おりからTYPE-MOON(http://www.typemoon.com/)のホームページにて開催されていた、Fateキャラクター人気投票に向けた遠坂 凛応援用SSとして、早速、キーボードを叩き始めたのです。
 結局、私の能力では、応援作品投稿期間に間に合わせることができませんでした。そこで、2004年の夏コミに向け、同人誌用として構想を練り直し、最後まで書き上げたのがこの作品というわけです。
 構想変更のあおりをくったのはタイトルでして、内容と乖離しているとお感じになられる向きもあると思います。ですが、タイトルを考えるのが苦手な私としては、代案を思いつかなかったという事で、ご寛恕をたまわりたいところであります。タイトル通りのほのぼのSSについては、申し訳ありませんが、どなたか他の方にお任せいたします(これを書いている時点で、他にヒロインがもらうヾSはMISSION QUESTさんの「赤い悪魔と正義の味方・番外編」(http://www.tama.or.jp/~yutka/)しかないようです)。
 どうでもいいことかもしれませんが、この小説は2002年を想定して書きました。Fate Side Side Materials≠ノよれば、本格的なFateの製作開始が2002年のせいか、本編中の描写は2002年の曜日と日付の関係に対応しているようでしたので。
(そうすると、土曜日に授業があった事になるのですが、まあ穂群原学園は私立ですので、それもありだと思います。実際、私の実家の近所にある私立高校では、土曜日も授業があります)
 どうでもいいことその2ですが、ホワイトデーのお返し品目の意味については、私の記憶では、いろいろな解釈があるようでしたので、それを利用しました(マシュマロを含むものもあります)。このSS内では、桜は、士朗が初めて作った手造りクッキーに、愛の告白! とぬか喜びしたという裏設定があります。  ドライフルーツを載せたクッキーは、まるっきりのウソですので、ご注意あれ。
 どうでもいいことその3として、話の都合上、小中学と高校一年まで、凛はバレンタインデーのプレゼントをもらった経験がないという事にしてしまいました。凛が対応に慣れていると、話を展開させにくかったので……。
 どうでもいいことその4、意識、無意識を問わず、設定の一部改変が行われています。
 例えば、ゼルレッチの場合正義を嗤う≠フで、士朗とは一悶着あってもおかしくないはずですが、これについては、凛の想い人ということで遠慮したという事にしておいて下さい。また、ライダーの魔眼については、話の都合上、視覚を持つ生命体でなければ選択的に石化させることができないと(桜ルートで、学校の設備が石化していないことから)解釈しています。今挙げた二つの他にも、ペガサスの位置づけ、セイバーの獅子竹刀=A獣牙兵等々ありますが、笑って見過ごしていただければ幸いです。

 「天抜き・ホワイトデー編」からは、他にもいくつか、ホワイトデーに関するエピソードを参考にさせていただきました。きっかけや、同人誌発表の許可、Webでの公開場所の提供等、いろいろとお世話になったしにをさんに感謝させていただきます。
 ゼルレッチのキャラクター付けについては、人気投票応援作品の一つ「Afternoon Tea」を参考にさせていただきました。これについても感謝させていただきます。
 この他にも、いくつかのFateに関するSSや同人誌から、着想を得たり解釈を参考にさせてもらったりしています。ただ、細かく検証するだけの時間も、謝辞を述べるスペースもありませんので、申し訳ありませんが、そういうことがあったとお断りさせていただくに留めさせていただきます。
 忙しい中、ひいひい言いながら、同人誌の表紙を書いてくれた、きお誠児さん、同人誌版へ感想を下さった柚月猫さんとMISSION QUESTさんにも、感謝を。

 このSSはあなたのひとときの楽しみになりましたか? そう感じていただけたのなら、読者のあなたにも、感謝を。

  2005年4月
  いーの


追記:同人誌で使用したテキストと、今回西奏亭に投稿させていただいたテキストとは多少の違いがあります。
追記その2:ラブコメへの道は遠い……。もちろん、この作品ではラブ≠ェないわけだけど。


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