痴漢電車──涙を流す理由

作:ユウヒツ

            



「……綺麗」
 言葉はない。ただ、それだけが漏れるだけ。三人は静謐の空気の中、ただ、
ため息を漏らした。
 
 古い絵だ。

 聖母マリアが子供のイエスを抱きかかえ、慈愛の笑みで見つめる。純真無垢
な瞳でイエスは母を見上げる。ただそれだけ。聖母の瞳から一筋の涙が頬を伝
う。その理由は何か。子のこれから歩む激動の生き方を想ってか。子は知らな
い。無邪気に笑い母を見つめる。

 ああ、それなのに。

 今と昔では絵の具の種類が違う。数が違う。鮮やかな色彩は現代のほうがは
るかに作り出せる。技巧その他も大きく発展、発達した。だが、感動に関係な
い。むしろ感嘆は中世に描かれたこの古い絵が一番多く漏れていく。

「聖母の抱擁」

 陳腐なタイトルではある。しかし、それ以外はとても似合わない。そんな印
象。

「宗教画……元々は聖書の読めない民衆に神の威厳を教え広めるために発達し
たものです。教会のスタンドグラスもその一例です」
 三人のうちの一人──シエルはそんな無粋な事を言ってくる。青いワンピー
スに大きな眼鏡。その表情は硬い。
「関係ないな」
 志貴はそういった。ただ、短く。
「綺麗なのは綺麗。感動するものは感動する。そこに何の意図があろうと関係
ない。いいものはいいよ」
 優しい目をしている。全てを見通す目。死を見つめる目。志貴の目は普通で
ない。世界は堅牢でない事を知っている。あやふやで不確かなもの。一歩間違
えれば坂から転がり落ちて崩壊する。世界は幻想に満ちている。いや、幻想そ
のものだ。誰かの夢のようであやふや。

 だから、大切にしたい。

 だから、志貴は見ている。古くから人々に訴えかけてきた絵を。そこになん
の意図も見出さない。ただ、感動する。無粋なものはいらない。
「そうですね」
 表情を和らげて、優しく志貴を見つめる。苛烈な人生を送ってきた。その身
は血と闇に浸かって来た。平穏な人生は突然断ち切られ、絶望の蟻地獄の中を
這いずり回ってきた。けど、忘れてはいない。感動を。美を。自分は磨耗して
ない。良い物をみて良いといえる。そんな自分に少し驚いている。そんな自分
を取り戻してくれた志貴に感謝している。シエルは志貴を見て。もう一度絵を
見た。なぜか、涙がこぼれてきた。
「あれ。シエル泣いてるの」
 三人目──アルクェイドが言ってきた。茶化すわけでない。驚いた様子でも
ない。ふと、疑問を口にする。そんな感じ。
「……いいじゃないですか」
 シエルは少し拗ねたように唇を尖らせる。アルクェイドは「ふーん」と言っ
て再び絵を見る。言葉は無い。その表情から何も読み取れない。
「綺麗だね。すごく」
 ポツリと漏らした。ただ、一言。アルクェイドはじっと絵を見る。
「なんていうんだろう。こんな気持ちは初めてかな。どう表せばいいかわかん
ない」
 少し、困った顔をした。
「それでいいんだアルクェイド。感動は言葉でなく心で感じるものだからな」
 志貴は優しく言った。たぶん、戸惑っている。アルクェイドの心の中に芽生
えてきたもの。それをどう受け止めればいいのだろうか。自分で分かってない。
「でも、涙は流れないよ。シエルみたいに──さっき別のカップルがこの絵を
見て、やっぱり女の子が涙を流してた。けど、わたしは──そんな気にならな
いから」
 少し、眉をひそめる。先ほど見た彼女。初々しいカップル。優しそうな彼と
純情そうな少女。絵を見て、少女は涙を流した。ぽつり。突然伝っていく。慌
てて彼は白いハンカチで彼女の涙を拭いた。けど、自分には流れなかった。い
いと思う。この絵は本当に。ただ……。
「だから、それでいいんだ。良いと思うものを良いと感じる。それが大切なん
だ」
 志貴は優しく、それでいて力強く言う。
「そうですね。芸術品を見てどう思うかは人それぞれです。中には絵の値段だ
けに価値を見出して固執している人もいます。それに比べれば……。アルクェ
イド。あなたが何かを心の中に想うものがあればそれでいいですよ」
 シエルも優しく諭すように言う。少し考えたアルクェイドは「うん」と頷い
た。「そろそろ行こう。もうお昼だよ。お腹ぺこぺこよ」といって、軽く駆け
出していく。志貴とシエルは少し顔を見合わせて笑うと追いかけていった。

 この頃三人はこのように一緒にデートする。

 始めは険悪だった二人。シエルとのデートにはアルクェイドが邪魔をし、ア
ルクェイドとのデートにもシエルがでしゃばる。苦肉の策としての共同デート。
これが意外とうまくいった。
 アルクェイドとすれば志貴と一緒に居られれば良く。シエルも邪魔さえなけ
ればいい。気持ちの切り替えさえきちんとしてればそんなに苦にならない。
 まあ、志貴に対する視線は少し痛いが……。
 絶世の金髪美女と綺麗な眼鏡美人。こんな二人を引き連れていては注目する
なというのが無理な話。殺意とやっかみの視線ぐらいは仕方が無い。けど、こ
れで大きな屋敷に住んでいて、帰れば美人の双子メイドに綺麗な妹。可愛い猫
もいると知られたら……殺されても仕方ないかも。 
 今日のデートは近くの美術館で展示展「聖者」を閲覧する事にした。宗教画。
ステンドグラス。聖遺物。さまざまな歴史的、美術的価値の高い品々をアルク
ェイドは興味深く、感嘆の声を上げながら見て回った。

 変わっていったな。

 そう思う。かつてアルクェイドは殺人機械だった。その目的のために全ての
無駄を廃していた。
 殺風景なアルクェイドの部屋。ベット。冷蔵庫。テーブル。たんす。家具は
それぐらい。生活感皆無の空虚で冷たい空間。
 こんな事を口にした事ある。
「どうして、新しいジュースやお茶が毎月のように新発売されるの」
 ペットボトルのお茶を飲んでの一言。
「咽喉を潤すだけなら水で十分でしょう。後は冷やしてあればそれでいいと思
うのに」
 どう、説明すれば良いだろうか。
 アルクェイドに教えていきたい。無駄な事。それは素晴らしいという事。世
の中には効率だけでは求められない物があるということ。
 本人も掴みたいと思っているのだろう。いろんなところにデートに行った。
水族館。動物園。いろんな映画も見た。恋愛物に感動し、アクション物にハラ
ハラドキドキし、ホラーで怖がった。デパートでのショッピングも色々楽しん
だ。本人も楽しんでいた。
 始めは志貴と一緒に居るのが楽しかった。ただ、二人で居られれば良かった。
けど、変わっていった。この頃は一人でもそういうのにも興味を示し始めた。
 志貴が忙しいとき、朝から一人でいろんなところを回ったりする。昼間の太
陽もあまり苦としない。まあ、たまに一日中寝てるときもあるが。
 今日の展示会「聖者」もアルクェイドから誘ってきた。シエル先輩はなんと
も複雑な顔をしていた。たぶん悪気は無いだろう。
 いろんな品々をアルクェイドは興味深そうに見ていた。最後に見た絵画「聖
者の抱擁」も言葉なくして魅入っていた。

 本当にいいことだと思う。
 遠くへ駆けて行ったアルクェイドはこっちを振り向いて「はやく、はやくー」
と手を振って叫んでる。もう、お昼の時間。


 すくったものに、ふーふー息吹きかけて冷ます。それを口に入れる。
「からーい」
 とたん、アルクェイドはハフハフ言いながら咀嚼する。とても熱くて辛い。
ピリッとした刺激に思わず涙する。
「けど、おいしーい」
 あまりの辛さに顔をしかめつつも、すぐに満面の笑みになる。辛さの中に濃
厚な旨みも感じる。新しい刺激の中に美味しさを感じる。もう一度すくって食
べる。やっぱり涙が出てしまう。
「はははっ。がっつくからだよ」
 四人がけのテーブルの対面に座る志貴がそう言って少し笑う。アルクェイド
の隣に座るシエルはすました顔でアルクェイドと同じ物をすくって食べてる。
 店内は中国の民族音楽が押さえられた音量で流れてる。内装も赤を基調とし
たやや派手目のもの。スプーンは陶器製のレンゲ。食べているのは麻婆豆腐。
それも本場の四川風麻婆定食。
 そう、ここは本格中国料理店。テレビや雑誌にも何度か取り上げられた事の
ある名店だ。
 高級中国料理も取り扱うが、ランチタイムには休日にもお手軽な定食メニュ
ーを用意してある。これも人気の秘訣だろう。
 麻婆豆腐にご飯、スープ、ザーサイの漬物と中華風ドレッシングであえたサ
ラダ。これを千円以下の値段で楽しめる。しかもご飯のお代わりは一杯までタ
ダ。こういう何気ない気配りは嬉しい限りである。
 ちなみにここに行こうと提案してきたのはシエルだ。美術館の近くに美味し
い店をと検索したらしい。
 
 そこ、意外と思わないように。シエルはカレー好きだけど、カレーのみに餓
えていない。たぶん……。

 蛇足だが志貴は中華料理を食べる機会はけっこう少ない。たまに有彦と食べ
に行くラーメン程度だろう。
 琥珀さんの料理にももちろん中華料理のレパートリーはある。薬膳としても
中華は最適だ。しかし、秋葉は洋食派。志貴は和食派で、意外と振るわれるき
っかけは少ない。朝食に粥とか出るときもある。ただ、秋葉は脂っこいものや
辛いものを敬遠しがちなのでどうしても機会は少なくなってしまう。まあ、全
般的に脂アブラなのは少ない。味付けも押さえられた控えめなのが多い。
 だから、けっこう新鮮な気分で志貴は味わっていた。この刺激的な辛さは屋
敷ではメッタに味わえない。上品な料理もいい。けど、こういう料理もたまに
はいいのではないかな。
「そういえば、知ってます。世界で一番食べられているのは中華料理なんです
よ」
 ふと、シエルはそんな事を口にした。
「日本全国、どんな小さな町にも中華料理の一軒や二軒はあります。それどこ
ろかアフリカの秘境の奥地や南太平洋の小さな島にまで中華料理屋は存在しま
す。中国人は中華なべを背負って、世界中に店を開いたのです」
 シエルの言葉にアルクェイドは「へえー」と興味深そうに麻婆豆腐を見つめ
る。
「それだけではありません。彼らは自分の味に固執したりはしませんでした。
常に創意工夫を張り巡らせて着ました。例えばこの麻婆豆腐。このような本格
的なのが簡単に食べられるように広まったのはつい最近の事なんですよ」
 でしょ、とシエルは志貴に話を振る。何気なく話を聞いていただけの志貴は
少し戸惑いつつ頷く。
「そっ、そういえばそうだな。学校の給食やまちの中華料理屋の麻婆豆腐はこ
んなに辛くはなかったな」
 思い出してみると確かにそうだ。とろりとしたあんかけで絡めた豚ひき肉と
豆腐と刻みネギ。それはそれで美味しい。けど、今食べてる麻婆豆腐とはやっ
ぱり違う。刺激的でしびれるほど振りかけた山椒。辛さも段違い。ひき肉もブ
タではなく牛。豆腐はどうだったかなー。絹ごしや木綿。いろいろあった。今
食べてるのは木綿かな。たれもそんなにとろりとしてないし。うん、にんにく
の芽は入れてなかったよな。
「初めて日本に麻婆豆腐を紹介した料理人は日本人向けに辛さをマイルドに押
さえました。家庭用の麻婆豆腐の素を作った会社も同じです。昔から日本人は
辛いのは苦手でしたから」
 様々な文化は朝鮮半島から日本に渡ってきた。しかし、逆パターンのひとつ
に唐辛子がある。始めに日本に海外から渡り朝鮮半島に伝わっていった。
 日本での唐辛子の使い方はタカの爪程度に留まった。朝鮮半島や中国では唐
辛子はなくてはならないものとして広まっていったのとは本当に対照的だ。
「本当にごく最近なんですよ。日本で辛いものが広まったのは。カレーだって、
本場に比べてマイルドな辛さが主流でしたし」
 日本海軍は金曜日はカレーの日と定めてあったようだ(自衛隊でもその伝統
は引き継がれているらしい)軍の糧食として広まったカレーライス。給食のベ
ストスリーに今でもはいる人気メニュー。しかし、やはり本場のインドカレー
とは大きく異なる。日本のカレーの伝来がイギリス経由というのも関係してい
るであろう。
「へえー。そう聞くとなんだか高尚に聞こえるわね」
 そういって、アルクェイドはもう一口「うん、おいしい」
「でも、そうやって、人間は発展していったという事かな。食文化の交流とい
う形で」
 アルクェイドの言葉にシエルは苦笑して、
「まあ、そんなに大げさなものではないですけどね。ただ、ひとつ言っておき
たい事は。文化の発展、交流は必ずしもいい事ばかりでないのです」
 少しだけ真面目な顔になる。
「日本人の生活習慣病の方の割合はだんだん増えてます。これは食生活の欧米
化が一つの原因です。聞いた話ではアメリカに移民した日本人たちは白人たち
よりも生活習慣病にかかる割合が大きいのです。同じ程度の食生活にもかかわ
らず。これは日本人の体内機能の問題です。長い年月で形成された日本人の食
生活が崩れた事により発生した事。これはアフリカでも起こってます。いえ、
アフリカにはさらに問題が。食生活の変化により小麦などの栽培が始まり、こ
れが土地の劣化を招き、環境破壊に繋がっているとか。詳しい事はよく分かり
ませんけどね」
 静かに、じっとアルクェイドの顔を見る。
「覚えておいてください。あらゆる物事には裏と表があります。いい面と悪い
面。これは必ず存在します。よく、覚えておいてください」
 アルクェイドは食事を食べ終わると水を一口飲む。ふと、視線に先ほど絵を
見て涙を流した少女のカップルが目に止まった。その少女も麻婆定食を食べて
おり、あまりの辛さと刺激で涙を流している。彼がすぐに優しく笑いながらハ
ンカチで涙を拭いてあげている。
「…………ねえ、シエル」
 軽くため息吐くと、
「志貴ってさー、なんとなく気が利かないというか鈍感というかそんな気がし
ない」
 アルクェイドの視線を追って、
「何を今更いってるんです」
 そう言い切った。そのまま食事を続ける。
 志貴は苦笑いしか出なかった。



「っと、ゆっくり。もっと、ゆっくりしてください。ああっ、おねがいですか
ら。遠野くん。あうぅ」
 ベットがぎしぎし揺れる。白いシーツを掴み喘ぐ。しわになる。高く尻を掲
げ、ケダモノのように四つんばいで腰を振っている。パンパンと肌のぶつかる
音。全裸になったシエルと志貴。後ろからひたすら攻め立てる。志貴の熱く固
い肉棒が激しくシエルの潤った秘裂を突き刺していく。何とか逃れようと腰を
振るうのか。さらに求めて腰を振るうのか。シエルは振りつづけている。甲高
く喘ぎ、叫ぶ。普段の志貴とはうって変わりケダモノのごとくシエルをむさぼ
る。
 キッチンではアルクェイドが鼻歌を歌っていた。二人の嬌声をBGMにお湯
を沸かしている。素肌に志貴のワイシャツを肩に引っ掛け、エプロンを纏って
いる。ポットにさまざまなお茶の葉をブレンドしていれている。
 沸いたお湯をポットに注ぐ。後ろからシエルの果てて昇りつめた声が聞こえ
た。お盆にコーヒーカップ、ポットを載せて、
「はい、お疲れさまー。お茶が沸いたから休憩しようよ」
 アルクェイドはそう言ってベットの脇のテーブルにお茶を置いた。一息つけ
たシエルは志貴のワイシャツを肩に引っ掛け、志貴はバスタオルを肩に。小さ
なタオルを股間に羽織って席につく。
「ハーブティーですか? いい匂いがしますね」
 淹れられたお茶からなんともいえない香気が漂う。志貴も一口飲んで「へえ
ー、けっこう癖あるけど、いけるな」と口にする。
「ふふーん。この前行ったファミレスで『北アフリカ料理』フェアというのや
っててね。そこで飲んだミントティーを自分なりにアレンジしたの」
 アルクェイドは本当に変わっていった。かつては生活感のない乾いた感じの
部屋。しかし、この頃は物が増え始めてきた。超大型のプラズマテレビ。ネッ
ト環境も整えたパソコン。各種ゲーム機。服も色々増えた。本もたくさん買い
込んでいる。お気に入りのファッション雑誌もある。カーテンや壁紙も華やか
なのに変えた。ここはただ寝て食べて生きていく場ではない。生活を謳歌して
いくための場に変わっている。
 厳密な意味で言えばアルクェイドは特に食べていく必要はない。生きる糧と
しては回りの‘世界’から供給できる。それでも三食きちんと取り始めている。
自分で料理もしたり、近くの店で外食も楽しんでいる。時には遠出して評判の
店にも行ったりする。志貴たちを誘う事もあれば一人で行く事もある。
「知ってるー。お茶にはね、色々な効能があるの。整腸作用や減量効果。眠気
覚ましやストレス発散。ミントの配合ひとつでいろいろできるの」
 なぜか、ニコニコと説明していく。
「へえー、そうなんだ。そういえば秋葉も紅茶をよく好んで飲むな。この前、
レモンの切れ端が欲しいといったら、凄い顔で睨んで「兄さん。それはレモン
の酸味でごまかすような葉でありません」と怒られたっけ。琥珀さんの話では
相当のこだわりがあるみたいだけど」
 正直、お茶といえば日本茶が一番落ち着く。それでも秋葉の紅茶やアルクェ
イドのミントティーは楽しんで付き合える。
「それでね、志貴。このミントティーの一番の効能は精力増大なの」
 この一言に拭きそうになる。
「さーて、これ飲んだからにはもう少し楽しめるわよね」
 アルクェイドは四つんばいになって志貴ににじり寄る。獲物を狙う肉食獣の
ように。それも猫科。舌で自分の唇をぺろりと舐めまわす。なんとも蠱惑的。
「いっ、いや。アルクェイド。もう限界だから。なっ。さっき抱いただろ」
 少し後ずさり気味になる。シエルの前にアルクェイドを抱いて散々鳴かした。
「ふふふっ。だめー。まだ満足してないもん」
 そう言って、志貴の股間に顔を寄せると口だけでタオルを剥ぎ取り、垂れ下
がった肉棒に唇を当てる。チュパチュパと唇だけで吸い付いていく。
「いや、だから……」
 志貴の反論は途中で封じ込められた。後ろからにじり寄ったシエルがキスを
してきた。志貴の背中に柔らかい胸を押し付けていく。シエルの羽織ったワイ
シャツ越しに直接、志貴の素肌に胸をこすりつけていく。むにむにと柔らかい
感触の中にぽっちりとした固い感触。
「ふふふ。ダメですよ、遠野くん。さっき、わたしがさんざん止めてと懇願し
たのにずんずん突き進んだんじゃないですか。お返しです」
 シエルの熱い舌の感触。志貴の口の中を嬲っていく。下ではアルクェドが四
つんばいのまま志貴の肉棒にキスをしていく。舌は使わない。手も使わない。
ただ、唇だけで吸い付いていく。志貴がうめく。ちゅっ、ちゅっと、肉に吸い
付き離れていく。なんといえない感触。みるみる太く固く大きくなっていく。
顔をなめ回すシエル。ここは反対に舌をふんだんに使う。口の中だけではない。
頬をなめ、鼻をなめ、目元も舐めていく。志貴の耳にも吸い付いていく。顔を
唾液で一杯塗りつけていく。
 ふふっ。アルクェイドが軽く笑うと志貴の肉棒を咥え込む。歯で少し引っ掻
いたりもする。手は使わない。あくまで四つんばいのまま獣のように咥えてい
る。
 うめく。腰が逃げそうになる。あまりの感触に引いてしまう。しかし、シエ
ルがしっかりと押さえていくから逃げられない。アルクェイドの熱い口腔の感
触に酔いしれるしかない。じゅぼ、じゅぼとアルクェイドの口から唾液が溢れ
出してきた。たまに肉棒の先端を舌で突いていく。尿道口にも攻めていく。う
めき声を挙げたところシエルが志貴の首筋を舐めていく。唾液を塗りつけてい
くだ。チュッ、チュッとキスマークもつけていく。ズボッ、スボボッとアルク
ェイドはバキュームのように吸い立てていく。
「ほら、すっかり固くなっちゃった」
 いったん口を離して、垂れている自分の口の周りの唾液をぺろりと舐める。
肉棒は怒張の限りそびえ立つ。ぬらぬらとアルクェイドの唾液で淫靡にてかて
かしている。
「ふふっ。美味しそう」
 少しだけ笑うと肉棒の裏筋をぺローンと舐め挙げる。つつーと下から一気に。
そのまま肉棒ではなく玉袋のほうに唇で吸い付く。
「うわ。うわわっ。頼む。アルクェイド。それは、それはっ」
 強すぎる快感はかえって引く。かゆいほど恐ろしいほどの刺激的な快感に翻
弄される。体ごと逃げようとしてもシエルがしっかり肩を押さえつけている。
目だけでアルクェイドと会話している。
「あらあら、いつも、わたしたちが頼んでも止めてくれない遠野くん。それは
ないんじゃないかしらねー」
 シエルもふふっと、笑いながら指で志貴の乳首を弄り、鎖骨に唇を寄せる。
その間もアルクェイドは玉袋に唇で吸い付き、舌で舐めていく。

 甘美な地獄。

「わたしも相伴しますね」
 シエルは志貴の脇から四つん這いになって、股間に向かう。そそり立つ肉棒
に、ちゅっと吸い付き咥える。「うおっ、それは……」
 自分の股間に爆発する快感。ただ、翻弄されるしかない。シエルの口技はア
ルクェイドより巧みだ。これも経験の差なのだろうか。大胆さと力強さはアル
クェイドに譲るが、繊細にうごめく舌は凶器としか言い様がない。皮膚の一枚
一枚を丁寧に吸い付き舐めていく。ただ、うめくしかない。
 上がって来た。シエルは上から舐めていく。アルクェイドは下から舐めてい
く。二人は肉棒に吸い付き、互いの反対側から吸い付く。
 アルクェイドの唾液。シエルの唾液。志貴の肉棒の先端からにじみ出る液。
もう、べとべとの限りを尽くす。
「もうだめ、限界」
 志貴がそう言って腰に力を入れたとたん、二つの魔性の唇は離れていった。
「……えっ」
 昇りつめる寸前で感触が消え、不完全燃焼になり行き場を無くしてイクこと
が出来なくなった。
「だーめ」「ダメです」
 二人の魔性の唇からそんな言葉が漏れ出す。アルクェイドは立ち上がり、エ
プロンの裾をめくる。ぺロリ。そこには潤った蜜壷が見える。果実のようだ。
初々しくもみずみずしい果実。熱く熟しきった果実。相反する秘裂が志貴の目
を離さない。
「ふふ。志貴の熱くて白いのはここに出すの。もう決まりよ」
 その声は秘裂から聞こえた気がした。
 ふたたび、ベットはぎしぎしなる。志貴にアルクェイドが跨っている。肉棒
に貫かれ喘いでいる。エプロンの肩紐が片方取れている。シエルはアルクェイ
ドの後ろに回り、胸を揉み、首筋や耳に舌を這わせている。「いいっ。いいよ。
いいの」
 泣き叫ぶようにアルクェイドは喘ぐ。涙がこぼれ、それもシエルが舐め取っ
ていた。

 本当に幸せだった。




 ……あれは確かこの前の──
 ある日の夕方。電車の中でアルクェイドは視線に止まる物に注目した。ほど
ほど混んだ電車の中。アルクェイドはつり革につかまってガタンゴトン揺れて
いた。今は一人。一人で近くの百貨店で行なっている個展を見に行こうとして
いた。
 アルクェイドの移動は主に公共機関を利用している。死者を追いかけるとき
とかは別だが、基本的に車を運転しようとはしない。買うことは簡単。覚える
のもたぶんすぐできる。ただ、今のところは必要としてない。だから、電車や
バスで十分なのだ。
 とはいうのの、始めは少々戸惑ったのは確か。満員電車に乗ったときは押し
潰されるのかと本気で思った。本来は人との接触は好まない。ただ、この頃は
変わっていった。

 だから。

「なにしているの」
 人ごみ掻き分けて、アルクェイドは男の手首を掴んで持ち上げる。男の手は
少女のスカートの中に忍ばせてあった。
「おっ、おい、はなせ、離せ」
 二十代後半ぐらいだろうか。男は必死になってアルクェイドの手を振り払お
うとしている。当然、びくともしない。少女は呆然としている。──痴漢され
ていたのだ。アルクェイドには必死になって堪えてる少女の顔見て気づいた。
見覚えはある。この前、三人でデートしていた時「聖母の抱擁」や「四川風麻
婆定食」を食べて涙を流していた少女。優しそうな彼と一緒に幸せそうに歩い
ていた少女だ。
「いたっ。痛い。痛い。たのむ、離してくれ」
 少しひねると男は泣き言を漏らし始めた。
「あっ、あの、いいんです。いいんですよ」
 少女の懇願の声が聞こえる。同時に電車は駅に到着。プシューとドアが開く。
「……あっ」
 アルクェイドが少女の言葉に少し戸惑った隙に男は強引に振り払ってホーム
に出て行った。
 改めて少女を見る。少し涙目。顔も赤く上気している。そして、気づいた。

 少女は嫌がっていなかったのだ。

 アルクェイドは鈍感だのアーパー吸血鬼だのよく言われる。ただ、人の機微
を察しする事はだれより長けている。嘘、ごまかし。そんなのは通用しない。
その人がどう思っているかはすぐに分かる。ただし、分かったとしてもどう対
応すれば良いかまでは別だ。その当たりが志貴に怒鳴られる原因だろう。

「ねえ、ちょっといいかしら」
 少女は目的の駅に付くと降りていった。アルクェイドはそこが目的ではなか
った。しかし、気になり追いかける。
「あの……なんでしょう。助けた事には御礼を言います。ただ、あたしとして
はそんなに事を大きくしたくないのですが」
 恐る恐るという感じで少女は言った。年は志貴より二、三歳程度上。初々し
い感じでどこかウサギを思わせる。少し、波打つ感じの髪はとても似合ってい
る。
「ううん。そんな事はいいの。わたしも警察沙汰にはあまりしたくないし。た
だ、ひとつだけ聞きたいの。あなた、嫌がってなかったでしょう。なんでなの」
 アルクェイドの問いには少女は少し目を見開いて驚いていた。ぱちくりと瞬
きをする。

「好きで行なっているというわけでないんです」
 あれから二人は近くの喫茶店に入っていった。アルクェイドが「奢るよ」と
いい、強引に少女を連れて行く。コーヒーを注文した後、少女はぽつりぽつり
と恥かしそうに語る。
「えっと、アルクェイドさんでしたよね」
 少女の言葉にアルクェイドは驚く。
「何で知ってるの」
 自己紹介はしていない。
「だって、この前、彼とのデートのときに見かけました」
 くすくすと少女は笑う。
「皆さん凄く目立っていたし。──彼ですか。眼鏡の方が何度も怒鳴ってまし
た。あなたの名前を」
 これにはアルクェイドは苦笑いするしかない。「俺たちは目立つ」志貴は何
度となく言う。うん、理解できた。
「彼もあなたたちを見とれてました。なんとなくむっとしてしまいました」
 そう言って唇を尖らすのは本当に可愛いと思う。
「話がそれてしまいましたね」
 少しだけ笑う。
「わたしの彼、優しいんです。すごく。そして、あたしは彼だけを見つめてき
ました。小さいときから──」 少女は笑う。かすかに。何故か憂いをこめて。
「小さいときからあたしの家と彼の家はよく付き合ってました。両親同士が高
校時代からの付き合いというから余計親しくしてました。それにあたしの父さ
んはよく出張で海外に出かけ、お母さんもずっとではないですがよく一緒に付
き添ってました。自然、彼の家にお世話になることが多かったです」
 どうも、両親同士、二人の子供をくっつけたがる傾向もあったみたいだ。
「あたしも不満ではありません。小さいときから彼を見つめ、憧れてきました。
始めは優しく頼りになるお兄さんとして。そして、憧れの彼に。たぶん、あた
したちは結婚します。彼もあたしを大切に。大事に想ってくれてますから」
 彼には夢があるようです。小さな洋食屋さんを開くためコックとして修行し
てます。そう言葉を紡いだ。優しくて堅実で頼りになる。まさに理想的だろう。
アルクェイドも思い出す。色々と気が効く彼に思える。
「けど、なんで、痴漢に──」
 そんなに幸せな彼がいるなら不満もないだろう。けど、なんとなく分かる。
少女は不満なのだ。優しい彼に対して。だから、身をゆだねる。痴漢に──
「優しすぎるんです」
 淡い声。壊れ物の砂糖菓子のように大事にしてくれる。けど、それが不満。
もう捧げている。愛する彼に自分の大切な、たっひとつの大事なものを捧げた。
彼は受け止めてくれた。優しく静かに。そして大事に。今でも変わらない。包
み込んでくれるのは柔らかい愛。不満に思うのは罰当たりかもしれない。ただ。
「それだけでいいのかなと考えるのです。あたしは彼と一生を添い遂げるのに
不満はありません。むしろ、願って止まない事。ただ、それだけで良いのかな
と。なんだか自分を狭めているだけでないのかなと」
 贅沢な悩みなのです。そう締めくくる。
 分かるような分からないような。そんな気がする。アルクェイドには不満が
ない。考えた事がない。志貴以外に身を委ねる。想像した事もない。呆けてし
まう。
「まあ、だからと言って、他の人に抱かれたくはありません。この身は彼だけ
に捧げたいです。ただ。ただ、あたしを触る人に抵抗をしないだけ。抑えるだ
け。人によって本当に触りかたが違うので、びっくりしてしまいます」
 ささやかな不満の解消。ささやかな冒険。そんなところだろう。
「ねえ、アルクェイドさんもどうです。無理とは言いません。けど、世界が変
わりますよ」
 彼だけしか知らないのなら余計に。はにかむように笑う少女。清純なのに何
故か淫靡な誘い。
 じっと、アルクェイドは見ていた。


 つり革を掴む手に力がこもる。何故か汗ばむ。緊張している。ああ、こんな
緊張はいつからだろうか。ごくりとする。いつ来るのだろう。いつか来るはず。
けど、分からない。どうすればいいのだろう。固くなる。体が強ばる。
 ガタンゴトンと電車は走る。体も揺れる。周りに視線を走らせたくなる。で
も、それはダメ。だめな事。
 車内はほどほど込んでいる。座る席はないけど息苦しいというわけではない。
ある程度のスペースは確保されている。それでも隣の人とはすぐ近くに接して
しまう。

 あっ。

 お尻のほうに感触が来た。何かが当たった。手……ぶつかっただけかな。い
や、違う。明確な意思でお尻を触る。撫でまわしていく。
 どうしてこんな事しようとしたのだろう。
 不満なんて無いはず。
 わたしは満足しているのに。
 そうよ、今からでも遅くは無い。やめよう、こんなこと。
 そう思う。そう思っていたはず。
 なのに、お尻を這う手が指先に変わり柔らかい肉を押し始める。固い爪先を
感じる。
 あっ……。
 抵抗は簡単。すぐにでも振り向いて一言いえばいい。
 それだけですむ。
 なのに甘受している自分。
 なんで──
 指先はお尻のあいだに食い込んできた。スカート越し。なのに感じる。嬲ろ
うとしている。分かってる。分かってるのに。
 心に浮ぶは罪悪感。背徳感。
 けど、期待と喜びがかすかに滲む。なぜだか。
 アルクェイド・ブリュンスタッドは痴漢されて抵抗せず、なすがままにされ
ていた。
 なんとなく分かる気がした。
 いつだっただろうか。志貴の屋敷に遊びに行った時だ。
 怒号が聞こえた。
 いや、自分に対してではない。
 秋葉が志貴に詰め寄っていた。
 ひょいと覗くと琥珀と翡翠もいた。
 翡翠は冷めた目で自分の愛しいご主人、志貴を見ていた。
 琥珀は笑っていた。──目は全然笑ってなかった。
 レンもいた。猫のレンは我関せずベットで丸くなっている。けど、なんだか
ふてくされてる様な気がする。
 ──どうしたの。
 不思議に思って聞いてみる。
 ──聞いて下さい。アルクェイドさん。兄さんはこんなものを持っていたん
ですよ。
 普段は相手にしようとしない秋葉。しかし、今回はそうでなかった。秋葉が
アルクェイドに見せたのは写真集。しかも男女の絡みが露骨な卑猥なもの。そ
れも何冊も。巨乳、ロリ、コスプレ、外人。色々ある。
 ──ふーん。
 自分の視線が冷たくなるのを感じた。 
 ──誤解だ。それは有彦から──
 志貴の言い訳は琥珀が瞬時に断ち切る。
 ──あはー。でも『抜いた』事は変わりないでしょう。
 琥珀の手にはごみ袋。そこから無造作にティッシュを取り出す。
 わー、わー。
 焦りまくる志貴。にじり寄る女性陣。逃げ場などなかった。



 徹底的にお仕置きした後、みんなで仲良くお茶会。何故かシエルも来ていた。
 まあ、それぐらいにしましょう。そう言って、みんなを止めたのだ。
 ──それにしても分かんない。志貴はわたしに不満なのかな。
 どうしても頬が膨らんでしまう。
 ──大方、垂れた乳に飽きたのでしょう。
 秋葉の辛辣な言葉。カチンと来る。
 ──まあまあ、いいじゃないですか。男の子ですもの。
 シエルだけがにこにこ笑っている。
 ──どういうことでしょう。志貴様はわたしたちを飽きたということなんでし
ょうか。
 翡翠の不安な声。
 ──だとしたら許せませんよねー。乙女の心をもてあそんでポイだなんて。
 琥珀も笑顔で言った。けど、やっぱり目は笑っていない。
 ──ふふふ。そんな事ありませんよ。ただ、男の子はね、たまにはそういうこ
とがしたくなるのです。まあ、美味しいご馳走を食べたいだけでなく、たまには
インスタント食品のようなのも食べたくなるという感じでしょうかね。
 シエルの言葉には皆、首を傾げるだけだった。

 ああ、今なら理解できる。志貴がわたしたちを差し置いてエロ本を見ていたの
を。
 この気持ちを味わいたいためなのかも。
 他者に委ねる。いつもと違う他人。名前も知らない誰かに触られる。
 いやなはず。裏切り行為。けど、興奮する。
 稚拙な行為。電車の中という他者の目が目立つところ。どうしてもそろりそろ
りとなる。
 服の上からの愛撫。感じるはずはない。
 知らない人の愛撫。気持ちなど篭もっていない。
 なのに興奮する。熱くなる。胸が痛くなるほど切なく。けど、胸の先は尖る。
 お尻の割れ目に食い込む指。くりくりと捻られる。少し強引。なのに許容する
自分。
 後ろからの手が這い上がってく。抵抗しないからエスカレートする。興奮して
いる。自分も。相手も。
 腹のあたりを撫でていく。這い回る。男の手。誰だろう。知らない。見たくな
い。そろりそろりと来る。
 強く触らない握らない。確認している。自分の反応を確認している。
 大丈夫だ。
 そう思いこんだ手はさらに這い上がる。志貴にしか触らせた事のない。──胸
に。来る。
 服越しに撫でるだけ。びくりっ。抵抗したくなる。どうしよう……ここまでさ
せていいの。どうしよう。
 柔らかい量感を握ってくる。乳肉も丹念に、恐る恐る揉んでくる。あっ……。
 志貴と違う感触。初めて味わうもの。いとおしさとは無縁。なのに反応してし
まう。いやだよね。いやなはずだよね。そう思いたい。
 丹念に揉みこんでくる。思い出すは志貴の愛撫。違う。志貴とは違う。他人の
は志貴とは全然違う。そっと触り揉んで来る。もう少し力入れてほしいのに……
もどかしい。志貴は違う。強く優しく荒々しく繊細に。ああ、何を言ってるのだ
ろう。ふうっ。吐息が漏れる。どうしても。服の上なのに。どうしても反応して
しまう。他愛のない行為なのに。
 ……わたし、何をしているのだろう。志貴に対する裏切り行為だよね。なのに。
志貴が知ったらどうするのかな。怒る? 呆れる? 軽蔑する? 嫉妬する? 
絶対に志貴はいい気持はちしないよね。
 ねえ志貴、答えて。わたしは見知らぬ他人に触られてる。嬲られている。どう
するの。答えてよ、志貴。
 答えは無い。当然のことよね。ほどほどに人の詰め込まれた電車の中で。人の
熱気に勝らぬ興奮がわたしを襲う。
 胸を揉まれている。後ろから両手で。少し荒々しい手つきで。んっ……。
 あっ──抵抗しよう。しようという気持ち。そのまま委ねたいという気持ち。
 なんで──
 わたしは満足している。
 あの子と違う。
 志貴一人でいい。
 たまにシエル達といっしょでも構わない。
 志貴がわたしの事を愛してればいい。
 これは裏切りだ。
 絶対いけない行為。
 ああ、志貴──許して。
 んふっ……、下手な愛撫ね。志貴のほうがずっとうまいよ。
 欲しいな。
 志貴のほうが絶対いいよ。
 だから、欲しい。
 はあー。
 電車は進む。アルクェイドはその身をただ、身をまかせていた。痴漢に。ずっ
とそのまま──

 その日の夜。アルクェイドは志貴の部屋に強襲をかけた。何も言わずに志貴に
抱きつきキスをする。混乱する志貴を尻目に淫らに乱れていく。既に尖りきった
乳首。熱く熔けて爛れる秘裂。愛液は太ももを伝って足首まで濡らす。有無を言
わさず求めていく。己の激情に興奮したまま。はじめは戸惑った志貴だが、すぐ
に応えていった。乱れた。泣き叫んだ。志貴が止めても収まらない興奮。ただ、
志貴にすがり泣いた。熱く熱く泣いたのだった。
 ……途中見回りのため屋敷内を回っていたとき、志貴の部屋から声がするので
様子をうかがいにいった翡翠。
 アルクェイドに見つかり、強引に引きずりこまれ、二人の熱き饗宴に参加する
羽目になった。

 背徳の甘美たる果実の味を覚えてしまった。
 たった一回きりの気まぐれ。
 そう決めたはず。
 なのに、我慢できず求めていく自分。
 なんで。
 なんで、電車に乗っている。
 用も無いのに電車に乗っているの。
 理解できない。
 説明できない。
 雰囲気は伝わるのだろう。
 アルクェイドの周りに男が寄ってきた。
 触る。
 そっとお尻を。
 びくりと体をよじる。
 けど、それだけ。
 お尻に這い回る手を払おうとしない。
 体をよじるだけ。
 逃げたいの。
 いや、逆に痴漢の手に押し付けるようによじる。
 酷薄の笑みを浮かべた。
 痴漢が。
 そんな気がする。
 誰が触っている。
 知らない。
 見ようとしない。
 確認したくない。
 顔を伏せて体をよじる。
 手は這い回る。
 スカード越しに。
 明らかな意思。
 極上の美肉。
 ああっ。
 どうしてこんな事しているの。
 自分に聞く。
 分からない。
 分かりたくも無い。
 手はお尻だけを触っている。
 前に触られたときは胸ばかり攻められた。
 今回はお尻だけを攻められている。
 片手で強く掴まれ、割れ目越しに指を這わせ、ああっ。
 志貴と違うな。
 やっぱり志貴と触りかたが違う。
 ふうっ。
 あの日は熱くなった。
 初めて、痴漢に触られた日。
 火照った体を冷まして欲しかった。
 襲った。
 強引に。
 何も言わず言わせずキスをした。
 志貴の手を胸に導かせた。
 触って欲しかった。
 強く。
 ずっと嬲られていた胸。
 そのときの痴漢は胸ばかり触り揉んでいた。
 だから、触って欲しかった。
 志貴。
 あなたが揉んで。
 揉んで忘れさせて。
 わたしに刻まれた痴漢の感触。
 消して頂戴、志貴。
 始めは戸惑っていた志貴。
 けど、熱く火照り、とろとろに熔けたわたしに応えてくれた。
 ああっ。
 何度も触って。揉んで。胸を。熱く尖っているの。硬く尖っているの。コリコ
リしてるの。でるよ。でちゃうの。
 服を脱ぐのももどかしい。服越しに触られていてもダメ。脱いだ。破り捨てる
ように脱いだ。白い裸身をさらけ出した。
 さあ、触って。揉んで。嬲って。罪深いわたしを責めて。
 ぐにゃぐにゃと形が変わる。もっと、もっとと懇願した。力を強くしてと懇願
した。痛い。けど、いいの。裏切ったわたし。志貴以外に触らせた。この胸は志
貴のものなのに触らせて感じた。だから責めて。揉んで、つまんで、舐めて、噛
んで。お願いだから。志貴の服も脱がす。破るように脱がす。起立する肉棒に座
る。一気に自分のトロトロとした秘裂に差し込む。来た。すぐに来た。貫かれる
快感にあられもなく泣き叫んだ。胸を揉ませたまま腰を振った。ベットが壊れろ
といわんばかりに腰を振りつづけた。志貴の上で振り続けた。熱く熱くなる。け
ど、足りない。自分の激情は納まらない。体の芯。心の心まで冷える罪悪感と背
徳感。熱く溶かしたい。もっと、熱くなりたい。求める。ただ、求める。
 途中で翡翠が尋ねてきた。
 ──志貴さま。何かありましたか。物音がするのですが。
 志貴は慌てていた。今までの興奮が嘘のように志貴から消えていった。
 けど、わたしは違う。
 ふふっ。翡翠の魂胆は知っている。
 もう、わたしがここに居るのを知っている。
 志貴に何をしているのかも知っている。
 だから来たのだ。
 可愛い。
 忠義で健気。
 翡翠。あなたも好きよ。
 翡翠。わたしはあなたの志貴を裏切ったの。
 だから責めて。
 わたしを責めて。
 ドアを開ける。
 翡翠はびっくりしていた。
 ──アルクェイドさま。
 何も言わずにキスをして、翡翠の手をわたしの熱い胸に導く。
 ──おい、アルクェイド。
 咎めるような志貴の声。
 無視してぴちゃぴゃと舐める。
 翡翠の口の中を舐めていく。
 強引にわたしの胸を揉ませる。
 嫌がるそぶり。だから囁く。
 ──翡翠、知ってるのよ。もう濡れているの。
 動きが止まる。
 ──志貴、これを見て。
 翡翠の後ろに回り、スカートを持ち上げる。
 ──咥えて。
 翡翠にスカートの裾を咥えさせる。
 息を飲む志貴。
 翡翠の下着は濡れている。
 太ももまで伝っている。濡れて、てかっている。
 くちゅり。
 翡翠の下着の奥に指を差し込む。甘くうめく。あぁっ。
 ──少し時間たっているのよ。これ、今濡れたわけでないの。
 指についた翡翠の蜜を舐めて言った。そう。翡翠はずっと部屋の外でわたし達
の痴態を聞いていた。廊下で自分を慰めていた。わたしは知っていた。
 ──志貴さま。お許しを。
 少し顔を背ける。ああ、わたしの嬌声と自分を重ねながら慰めていたのだろう。
熱くてトロトロしている。ああ、わたしもさらにトロトロしてくる。
 ──安心して。わたしのほうが罪深いの。
 えっ。とした顔で翡翠はわたしの顔を見る。
 ──翡翠。わたしにお仕置きして。志貴のためにわたしを責めて。
 わたしの胸に手を導いた。強くつねられた。乳首をひねられた。
 ──志貴さまを裏切ったのですか。
 きつく。咎めるような口調。わたしが何をしたか分からないと思う。けど、感
じている。わたしの背徳感と罪悪感を見抜いている。だから、強くつまんできた。
痛い。けど、それでいいの。
 ──志貴。こっちに来て。志貴もわたしの胸を責めて。もっと。もっと、責め
て。
 翡翠の胸に手をやりながら言った。わたしは優しく揉んであげる。メイド服の
上からそっと。優しく。
 翡翠は強く攻めてくる。容赦なく。きつく。強く。
 わたしは見つけた。翡翠の乳首。硬く尖っている。服の上からも分かる。下着
をあいだに挟んでいても分かる。軽くひねる。
 ──ああっ。
 軽くうめいてきた。同時に二つのわたしの乳首をきつくひねられた。はぁー。
 互いの胸をもんでいく。わたしは優しく服の上から。翡翠は強く直接わたしの
胸を。
 それだけでとろとろになる。
 志貴が近付いてくる。
 互いに向き合い、立ったまま互いの胸をもみ合う二人。
 すでに裸の志貴のあそこは硬くなっている。びんびんに。
 手を伸ばす。わたしの胸と翡翠の胸。容赦なく乳首をつまみ、強く揉んできた。
 ──ああっ、はぁー。
 同時にうめいた。わたしのほうが少し声が大きい。なにせ、じかにだから。翡
翠はメイド服越し。だから、刺激は少し弱い。
 ──志貴、翡翠。舐めて。責めて。わたしの胸を。どんどん責めて。
 志貴は左の胸に唇を寄せる。翡翠は右の胸に唇を寄せてきた。ほぼ、同時。志
貴はやさしく。翡翠は手荒く。噛んできた。志貴はそっと。翡翠は強く。乳首を
吸う。
 ──ああ、いい。すごくいい。
 わたしも手を伸ばす。志貴のあそこと翡翠のあそこに。志貴の肉棒は硬い。掴
んでしごく。翡翠の秘裂はとろとろ。スカートの下に手を入れて下着越しに指で
挿す。共通点は二つとも熱い。やけどしそうなほど。
 ──うっ。
 二人ともうめく。同時に乳首は強く噛まれてひねられた。いいな。もう一度。
 わたしは志貴の肉棒を掴んで、親指でその先端をこねた。先走り液を肉棒の頭
に塗りつけていく。翡翠の肉芽。見つけてつまんだ。下着越しに少しだけ強く。
 ──ああっ。
 さっきよりも強い刺激がわたしの胸に来る。辛い。立ったままの行為は辛い。
志貴の部屋の入り口の行為。二人がわたしを責めて。わたしが二人を愛撫する。
 ──ベットに行こう。
 二人を誘う。同意した。二人に責めさせた。徹底的に。わたしはそれに酔いし
れた。
 今日も行こう。今も触られている。お尻を徹底的に。だから、今日はお尻を責
めてもらおう。
 痴漢はまだ触っている。飽きもせずにわたしのお尻を撫でて揉んでくる。ふぅー。
 ふと、視線が合う。
 あの少女だ。
 わたしに禁断の味を教えてくれた少女。顔が上気している。
 少し、満員なので何をされているか分からない。
 けど、後ろに男がへばりついている。
 やっぱり、触られているのだろう。
 わたしたちは微笑んだ。
 視線を合わせて微笑んだ。
 今日も志貴のところに行こう。翡翠か琥珀。いや、妹でもいい。誰かも誘おう。
 電車は進んでいく。
 甘い吐息とともに。
 熱い吐息とともに。
 電車は進んでいく。









【注意】
 ここから先はダーク。陵辱、暴行、残虐シーンが描写されます。話としてはこ
こまででも十分に成立しています。ですのでそれらが嫌な方はここで閉じてくだ
さい。なお、アルクェイドが暴行、陵辱される訳ではありません。というよりも
そんな事をどうしたらできるのか教えて欲しいです(笑)
 けど、真面目にえぐいシーンは続きます。ご了承ください。


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