どうしたんだろう。
 少女がいなくなった。
 毎日、あの電車を使うと聞いている。
 今日は土曜日。
 使うはずなのに。
 けど、二、三日前から姿が見えない。
 胸騒ぎがする。
 なんともいえない漠々としたのが感じる。
 あれからたまに電車に乗り、痴漢に身を委ねていた。
 ……触られる日もあれば触られない日もある。
 ただ、普通に乗り、少女と話もした。
 互いの彼の下の方の話題もした。
 喫茶店とかで卑猥な話題で盛り上がりもした。
 志貴のこと。話した。色々と。
 痴漢された日には必ず志貴に抱かれにいく。
 ついでに誰かを誘う。
 この前は妹と。その前には琥珀と翡翠。さらにその前は琥珀と……。
 妹のときは志貴の部屋ではなく妹を強襲し責めさせた。その後、志貴の部屋に
二人で行った。
 そんな話をした。
 少女は志貴の事を「鬼畜のケダモノの絶倫」と感嘆していた。
 少し羨ましそうだった。
「抱かれてみる」
 アルクェイドの誘いに少女は首を振った。
 今更の事は分かっている。けど、自分は彼だけに捧げたい。彼だけでいい。痴
漢行為はささやかな。かすかな冒険なのだから。深みに嵌りたくない。
 他にもいろんな話をした。
 世界が広がる。
 そんな気がした。
 自分には志貴しかいない。
 志貴が中心としていた。
 でも、それ以外の世界もある。
 そんな気がした。
 普通の人の世界。
 憧れてしまう。
 所詮、自分は……。

「どうしたんだろうな。本当に」
 電車の中を一通り捜してみた。
 居ない。
 少しため息をつく。
 もちろん、色々と予定というのがあるだろう。
 それは理解できる。
 けど、何故か嫌だ。
 不安で。恐くて。たまらない。
 考えてみれば何も知らなかった。関係はこの電車で会って話をする。携帯やそ
の他の連絡方法はなかった。
 なんとなく。
 なんとなく、そうしたくなかった。
 なんとなく拒んでいた。
 つり革に掴まっている。
 少し満員気味。
 ふと、考える。
 多くの人が乗っている。
 人、一人ずつに何かを抱えているのだろう。
 あの少女も抱えていた。
 一見、ごく普通に見えても。
 いや、それが当たり前なのだろう。
 他者にとっては些細でも、当人にとっては深刻。
 みんな生きているんだ。
 当たり前の事。
 一人一人何かを抱えて生きている。
 それを実感した。
 少女にそれを教えてもらった。
 窓の外を見る。
 暗くなってきた。
 もう、日が落ちるのが早くなっている。
 窓は鏡のようにアルクェイドの顔を映す。
 憂鬱な顔。
 志貴にいろいろ教えてもらった。
 少女にもいろいろ教えてもらった。
 自分は何ができるのだろう。
 何でお返ししたらいいのかな。
 そんな物思いにふけっていた。
 電車は進む。
 ふと、自分の後ろに下卑な笑いを張り付かせている若い男が目に入った。鏡の
ように映す窓を通じて。
 一人でない。二人。いや、三人。
 嫌な奴ら。
 痴漢目的かな。
 そんな気でないし、こんな奴らに触られたくない。
「静かにしろ」
 男は言ってきた。耳元で囁くように脅す。
 ──それで。
 違う男が携帯電話を眼前にかざしてくる。折りたたみ式。開く。少し息を飲む。
 電車の中で痴漢に触られている自分。それが映し出されていた。
 いつの間に。音は聞こえなかった。ああ、この頃は身体能力をわざと落として
いた。人並みに。あえてそうしていた。魔性の気配があれば別だが。それはなかっ
た。だから──あだになったな。
「これをネットにばら撒かれたくなかったら……。分かるな。俺たちについてこ
い」
 ──だから。
 けど、それがどうしたというのだ。それでどうしようというのだ。
 冷えていく。
 自分の心が冷えていく。
 冷たい目で男たちを見る。少し驚いてるようだ。
「ふっ、ふん。てめえも────と同じなんだろ。痴漢に触られて感じてる淫売
なんだろが」
 男の一人が強がる口調で言った。
「知ってるの。あの子がどこに居るのか知ってるの」
 問い詰める。
「ああ、俺たちと一緒に居るぜ。丁重にもてなしてやってる」
 その男の言葉を受けて、
「案内して」
 ただ、一言だけ言った。
 一瞬、男たちは顔を見合わせた。
 だが、すぐに笑うと、
「いいぜ。もともと、そのつもりだ」
 そういったのだ。

 近くの駅で降りる。
 車に案内される。
 黒の乗用車。アルクェイドは後部座席に乗せられた。
 男たちは三人。一人は運転席。一人は助手席。もう一人はアルクェイドの隣に
座る。
「へへっ……」
 アルクェイドの隣に座った男が馴れ馴れしく肩に手をやり、もう一方の手を胸
に伸ばそうとする。
「やめて」
 拒絶。冷たく一言。男はあっけに取られてる。運転席と助手席の男は少し笑う
。嘲るように。アルクェイドの隣の男は「けっ」と毒づいてそのまま窓のほうに
向く。
 アルクェイドは腕組みしている。冷たい表情をしていた。
 車は人気のないところへ進んでいった。
 工業団地。
 幾つかの企業が集まって小さな工場を隣接している地域。
 ただ、昨今の様々の事情によりいくつかは閉鎖、または事業の縮小を余儀なく
されていた。さらに今日は週末。どこの工場も静かなままである。
「ついたぜ」
 車は止まる。どこかの廃工場の倉庫か。その周りには何台もの車が無造作に駐
車している。ワゴン車。スポーツカー。いくつもある。共通点とすれば若者に人
気の車種が多いというところか。
 車から降りる。あたりに人影はない。民家とかもなく道路に車の往来も少ない。
「この中に居るの」
 その問いかけに「ああ」という短い答え。「ひひっ」と笑いで同調する二人。
 進む。
 アルクェイドは自ら進み、倉庫の大開扉を開ける。

 目を見張る。

 激しく鳴り響く音楽。種類はわからない。ただの雑音にしか聞こえない。けど、
それはいい。
 多くの男たちが居る。広いコンクリート張りの床にマットなどしている。鉄の
コンテナを背に座るものも居る。薄暗い水銀灯。ほのかに照らす中、アルクェイ
ドを見て笑っている。嗤っていた。囃したてていた。
「おおっ、いい女だな」「すげー、ゲキマブ」「たまらんぜ」「外人だぜ、外人」
「おい、見ろよ、あの巨乳」「最高だな」「いいね、いいね」「あんな美人、初
めてだな」「うひー、今日はツイテル」それもいい。
 タバコの匂いがする。酒の匂いもする。灰沢や空き缶に吸殻がたまっている。
酒瓶や缶ビールの空き缶も転がっている。今も飲んでるもの達が多い。
さらに──クスリの匂いもした。──それもいいのだ。
 男たちの服装は様々だ。年代は総じて若い。十代後半から三十代前半。全般的
に二十代が大半を占める。
 暴力的。刹那的。退廃的な雰囲気が蔓延している。ただ、笑い、見ている。こ
れから起こる事を想像し笑っている。──そんな事は関係ない。
 アルクェイドが見てるもの。たった一つに視線は固定されている。
 無造作に転がっていた。
 使い古しの絨毯の上に横たわっていた。
 ぴくりとも動かない。
 何も着ていない。
 裸のままだ。
 白い裸身にみにくいアザがいくつも付けられている。赤黒く晴れている。
 髪はくしゃくしゃ。顔も……アザだらけ。晴れ上がって膨れている。見る影も
ない。
 全身に白いのがこびりついている。髪にも。精液。男の精液をまんべんなくか
けられた。
 太ももには血が黒く乾いてこびりついている。
 ……無残だ。
 無残な姿で少女はそこに居た。
 顔に涙の後。
 乾いていた。
 虚ろな目をしていた。
 かろうじて肩が上下している。生きている。生きてはいる。だが……。
 その心は砕かれている。
 ああ、ウサギのような可愛い少女は無残な陵辱の末、棄てられていた。
 ああ、彼氏との幸せを語ってた姿は消え果ていた。
 ああ、ただの精処理の肉人形と成り果てていた。
「ああっ、あっ、アッ―――――――――――――――」
 いつしか絶叫していた。
 アルクェイド・ブリュンスタッドは叫んでいた。
 そして、見てしまった。この部屋にこびりつく記憶を。苦痛と怨嗟。恐怖と絶
望。嘆きと悲しみ。染み付いた風景。ここで行なわれ続けたものを。見えてしま
った。世界が教えてくれた。
 男たちはうるさそうに顔をしかめた。それだけ。たったそれだけだった。
 かれらはとある「レイプサークル」のメンバーだ。幾人もの女たちを毒牙にか
けてきた。
「レイプサークル」信じられない話かもしれないがいくつも存在する。
 このような無軌道な若者たちの集まりもあれば、サラリーマンたちのサークル
も。企業の中堅やトップクラスたちの集うサークルなども存在する。
 その目的はただひとつ。女性を喰い物にする事。尊厳、誇り、想い。そういっ
たものは全て踏みにじり己の欲望のただ、はけ口のみとして扱う。
 ただ、喰らい尽くす。
 いくつかの方法でおびき寄せる。コンパの誘い。写真の撮影、映画、ビデオの
撮影。出会い系サイトを通じて。等々……。様々な手段で誘い、そして嬲る。陵
辱の限りを尽くす。
 もちろん、その後は様々な手で口封じをし、泣き寝入りさせる。あるサークル
には本物の警察官がメンバーに連ねていた場合もあった。
 まあ、そうでなくても、写真、ビデオ、デジカメ画像。そういったもので脅す。
免許書、その他。そういったもので身分を確かめておいて脅す。会社に。学校に。
家族に。知られたくなかったら黙っていろと。他にもまったくこちらの事を隠し
ておいて脅す。様々な方法で脅して泣き寝入りさせる。

 まさしく人間の屑。

 だが、彼らに良心の呵責などない。心なんて痛まない。このような行為は当然
のことだ。悪い事だなんてこれっぽっちも思っていない。
 その場限りの快楽だけを求めている。
 その場限りの遊びなのだ。
 それだけなのだ。
 叫んでいた。ただ、叫んでいた。ここで行なわれてきた男たちの非道の行為が。
女性たちの陵辱の苦しみが。見える。見えてしまう。そして──
 少女は動かない。何も目には映らない。乾いた涙。そのまま横たわっている。
 何をされたか。
 見えた。
 ここに連れ込まれ休む間もなく行なわれた非道にして残虐。壮絶にして凄惨な
る暴行の時。
 どんなに泣き叫んでも。
 どんなに抵抗しても。
 無駄な行為。
 誰も助けてくれない。
 声がかすれても。
 涙がどれだけ零れ落ちても。
 止まらない。
 いつしか壊れてた。砕けてしまった。閉ざしてしまった。
 涙は乾く。
 声もでなくなる。
 想像をも越える絶望だけが残される。

「えー、今月は『一人の女を徹底的に嬲ろう』月間です」
 誰かがそんな事を言った。周りが囃し立てていた。
 彼らは様々な方法で女たちを嬲りつづけてきた。
 薬で自由を奪ったり、器具を使って責め立てたり、集団で穴という穴におのれ
の肉棒を突き刺したり。色々な方法で嬲りつづけた。何人も騙しての乱交輪姦騒
ぎなどはよくあることだ。
「というわけだ。さっさと脱げよ」
 一人の男があるクェイドに近付き、服の裾を掴む。そのまま捻り挙げる。
「それとも、なんだ。脱がしてやろうか」
 下卑た笑い。──それが最後の表情だった。
 アルクェイドの手が閃いた。
 男の襟首を掴む。
 叩きつける。
 上に。
 一瞬の事だった。
 男はまさに天井に叩きつけられる。何メートルも飛び上がり、ぶつかる。天井
に這うパイプや配線を打ち破り金属製の波打つ天板に叩きつけられた。
 落ちる。
 そのままコンクリートの床に落ちた。
「あひっ、あひ、あひ」
 全身の骨が折れ、言葉にならない。ただ、うめいていた。這いつくばっていた。
「やろう」
 それを見た他の男たちは色めき立つ。「ひぃー」と怯えるものもいれば怒りを
露わにするものいる。
「……許さない。あなたたちを絶対許さない」
 白くなっていく。心が。頭の中が白く白くなっていく。
 全てを忘れていく。白く忘れていく。
 後に残るは圧倒的に膨れ上がる怒り。

 ゴメン、志貴。ゴメン、シエル。そして、ごめん。──

 かすかに残る理性が詫びをいえる。志貴に。シエルに。そして少女に。だが、
霧散していく。
 最後に心に浮ぶ風景は──だった。

 アルクェイドは一歩、前に出た。取り囲む男たち。当然だ。玩具ごときが生意
気に歯向かって来た。この牝ブタが。ああ、人間の常識というのはなんとも強固
で愚かなのだ。アルクェイドの行った行為。人間技ではない。ここに対峙するの
は人ではない。
 だが、分からない。認めない。‘この女が逆らいやがった’それだけだ。
 一人の男が進み出て手を突き出す。何かを持っている。青白く火花が散る。ス
タンガン。それを押し付けようとする。ひょいと避ける。その手首を掴む。ぐし

ゃ。折れて砕ける。男の手首は粉々になった。
「ぐぎゃー」
 甲高く叫ぶ。全てをかなぐり捨てて叫ぶ。スタンガンは落としてしまう。
「うるさい」
 落としたスタンガンを拾って、スイッチを入れたまま男の口の中に押し付けた。
激しく痙攣し動かなくなった。
「ん?」
 何かが腕に当たった。別の男がスタンバトンを押し当てたのだ。バチバチと音
がした。それだけ。
「ふーん」
 掴んだ。電流が流れるスタンバトンを掴む。砕く。バチッと大きな火花がした。
 平然としている。少し笑って男と向き直る。
「ひぃ」
 男は怯える。
 さらに一歩。
「化け物だ」
 やっと理解した。目の前のものが人でないことに。伝染する。恐怖は伝染して
いく。男たちは我先へと逃げていく。
「逃がさないわ」
 一言だけ呟く。それだけ。それだけで男たちに最悪の事態へと招いていく。
 扉が閉まる。倉庫の大開扉。少しだけ開いていた。それが閉まっていく。誰も
触らないのに。むしろ開けようとしているのに。勝手に逆らって閉まっていく。 
 二度と開かなくなる。どんなに男たちが力をこめても開かない。絶対に。
 
 コツコツ。

 歩いてくる。白い女が歩いてくる。目は金色に輝いている。黄金の闇。光り輝
く暗き闇。もう逃げたすことは出来ない。

「逃がさないから」
 そう言った。

「ひぃぃぃぃ」
 鉄パイプを持った男は殴りかかった。当たる。あえて避けない。わざと当たっ
て見せる。痛い。かすかな痛み。鉄パイプは頭を強打した。それだけ。じろりと
見る。目だけで男を。
「ごっ、ごめんなさい」
 鉄パイプを放り投げ、その場で土下座する。手を組んで頭の上に置き腰を高く
掲げる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるしてくださいゆるしてください」
 先ほどまで嘲笑っていた男。恥も外聞もなく泣き叫ぶ。対峙してみれば分かる。
近付けば分かる。目の前のモノは自分がどうこうできるものではない。
 視線は下がる。目の前で泣いて謝る男を見る。哀れを誘う。だが……

「知ってるか。尻は入れるより出る時に気持ちがいいんだ」
 女の尻を高く掲げさせ、手にはきゅうりを持つ。泣き叫んで暴れるが、別の男
が叩いて黙らせる。
 ぶち込む。ぐりぐりと奥に。
「ほら、ひねり出せよ。気持ちよくなるぜ」
 笑って、尻を叩く。ふんばるが中々出ない。
「ほら、なにしてる」
 尻から突き出るきゅうりを根元でへし折る。指でさらに押し込む。げらげら笑
う。女は泣き叫ぶ。ただ、苦痛のうめきをあげる。

「ふうん。そっか。そういうのが気持ちいいのか」
 転がっている鉄パイプを拾う。無造作に先端をねじり取る。ぎざぎざに尖った
鉄パイプ。
「じゃあ、気持ちよくさせてあげる」
 土下座する男の後ろに回る。「なにを……」振り向こうとする男に地獄の苦痛
が襲う。鉄パイプを差し込む。ズボンの上から突き破り、尻の穴に突き刺す。
「うぎゃくぎゃ、ひぎゃー。抜いて抜いて抜いて。痛い」
 泣き叫ぶ。ただ、泣き叫ぶ。
「あら、痛いの。ふーん。そうなんだ」
 ひょいと持ち上げる。鉄パイプを男の尻に挿したまま。なにやら騒ぐが気にし
ない。たったったと進む。逃げ惑う他の男たち。その一人に即席の棍棒で叩きつ
ける。双方のうめき。気にしない。何度も叩きつけて黙らせる。
 沈黙。
 ぴくぴくと動いているのを見ると生きてはいるようだ。次に向かう。

「くそ、どうしてだ。どうしてなんだ」
 何人かの男たちは従業員用の小さなドアに向かった。開かない。カギを開けよ
うとしても無駄。ガラスを思いっきり叩いてもびくともしない。窓を無駄。いく
ら叩いても叩きつけても、ヒビ一つ付かない。どうしてだ。
 聞こえてくるのは叫び声。うめき声。アレが暴れまわる。暴虐の限りを尽くし
て嬲られる。ナイフで刺そうとした奴もいた。両手持ちの大きなハンマーで殴り
かかった奴もいた。
 無駄だった。
 避けようとしない。当たる。しかし、傷一つ付かない。その手が振るうとき、
想像を越える暴力が襲い掛かる。
「見つけた」
 後ろを振り向く。血まみれの金髪のアレが壮絶な笑みを浮かべていた。カツカ
ツと靴音鳴らして近付いてきた。
「うぉぉぉぉぉ」
 誰かが殴りかかる。手には大きなモンキーレンチ。叩きつける。ガッという音。
しかし、何も動じない。手が伸びる。
「こんなので叩かれたら痛いよね」
 取り上げたモンキーレンチをもてあそびながら言った。
 コクコクと男は頷く。
「そう……わかってるんだ」
 カラン。床にモンキーレンチを落とした。静かに伸びる手。男の頭を掴む。
「とりあえず。投げようかな」
 近くの壁に叩きつけた。「ぐへっ」とカエルの潰れた鳴き声をうめき沈黙する。
ぴくぴくしているところを見ればかろうじて息はあるようだ。 
「ごめんなさいごめんなさいゆるしてください」
 他の男たちは腰を落とし、へたり込む。だらんと投げ出された足。手を振って
大きく拒絶する。
「許してあげてもいいわよ」
 慈悲深い言葉。金髪を軽く振ってアレは言った。
「ただし、わたしの質問に答えられたらだけどね」
 答えてくれる。という問いかけに男たちは首がもげるほど頷く。
「簡単なことよ。どうしてあんな事するの。どうしてあんな酷い事したの。どう
してあんな事が出きるのよ。答えてよ」
 穏やかな口調からだんだん激しいものに変わってくる。それこそ血を吐くほど
の苛烈な口調に。
 言いよどむ男たち。どう答えればいいのだろう。
「答えてよ」
 グシャ。誰かの脚の膝を踏む。砕け、あれ得ない方向へ曲がる。恐るべき絶叫
とともにのた打ち回る。
「うるさい」
 顔を蹴り飛ばして沈黙させる。
「ひぃっ」
 他の男たちはいっせいに脚を引っ込め、縮こまる。
「伸ばしなさい」
 ちらりと視線を向けて命令。フルフル首を横に振る男を一人を殴り飛ばして血
塗れにしてもう一度。
「足を伸ばしなさい」
 全員がいっせいに伸ばした。
「さあ、答えて。どうしてなの」
 冷たい問いかけ。男たちはただ謝る。懇願する。
「そんなの聞いてないのよ」
 また、膝を踏みつけて一人を殴り飛ばす。腹に一撃。血反吐を吐きながらのた
うち回る。
「ああん。決まっているだろう。遊びだよ遊び。おもちゃなんだよ。所詮、女な
んて俺たちの玩具なんだよ。腰振ってよがってたぜ、みんなよぅ。てめえもそう
してやるよ」
 強気の発言。誰かが部屋に入ってきた。手には拳銃を持っている。それゆえの
発言だろう。
 振り返ってみる。勝利を確信した下品な笑みをへばり付かせている。床に這い
つくばる男たちにも希望の光が見えたのか、かすかに喜悦の表情が浮ぶ。

 銃。

 人が世界に広がり発展していく上で欠かせぬ存在。大自然の脅威を銃の力で
駆逐した。
 だが、人よ。思い上がるな。牙むく獣に有効でも、大海原の津波に。全てを
なぎ払う竜巻に。全てを駆逐する雪崩に。ああ、銃は役に立たない。荒れ狂う
嵐に銃などなんの役に立たない。
 そして、アレに対してもそうだ。
 白く輝く金色の闇よ。アレを滅ぼしたいのか。アレを破壊したいのか。なら
ば役不足だ。拳銃ではとてもとてもムリだ。アレを滅ぼす。ならば核を持って
来い。それこそ戦略級の水爆を。そうでなければ滅ぼせない。
 ほら、冷たく見ている。
「そう。それが答えなの。ふーん、そういうことなんだ。ふーん」
 拳銃を持った男を見て、床にへたり込む男たちを見て言った。
「まあ、そうだろうと思ったわ」
 そう言って、拳銃を持った男に向かって歩いていく。
「まて、動くな。撃つぞ」
 少し焦った声。予想してなかった。拳銃を向ければ大人しくなる。そう思い
込んでいた。いくら武術の達人でも拳銃にはかなわない。そう思っていた。
 だが──
「撃てばいいじゃない。わたしは一向に構わないのよ」
 先ほど言った事。人の常識は強固で揺るぎにくい。しかし、ひとたび崩れれ
ばあっさりと崩壊するの事実。「おい、動くなよ。撃つぞ。本当に撃つぞ」
 うるさいな。撃ちたければ撃てばいい。避ける気なんてないのだから。
 近付く。ゆっくりと近付いていく。膨れる。恐怖はだんだんと膨れ上がって
くる。
 白く金色の闇をたゆませる女。笑みを浮かべてる。壮絶な笑み。血塗れの顔。
服。ああ、考えてみれば彼女は血を流したか。アレについてる血は全て返り血
だ。ああ、思い出してみれば彼女は何度殴られた。鉄パイプで。ハンマーで。
モンキーレンチで。ナイフで刺された。大きなサバイバルナイフでも刺そうと
した。結果を見ろ。
 無傷だ。
 引き金を引いた。手首に反動のキックが走る。弾はそれた。アレは避けよう
としなかった。ぴくりとも動かずに近付いてくる。
「外れたわね。それともわざとなの。いいのよ、遠慮はしなくて」
 そう言った。
「もう少し右に構えるといいわ。そう。その辺り。ほら、引き金を引いてみて」
 そう言った。引いた。
 パンッ。
 乾いた音。銃声。弾は当たった。胸に。アレの左胸に。それだけ。
「うん。初めて当たってみたけど。まあ、こんな感じかな。うん」
 それだけだった。無傷だ。血は流れない。平然としている。何で?
 近付いてくる。
「弾はもう無いの。もう少しでわたし近付いてしまうよ。いいの」
 とても優しい笑み。気遣ってくれる。何せ近付いたらどうなるか。きちんと
教えてくれる。さあ、早く止めないと。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
 引き金を引いた。引いた。引いた。引いた。
 当たる。当たる。当たる。なのに無傷。なのに動じない。ああ、今弾は顔面
に当たらなかったか。ああ、当たった。額に当たった。なのにそれだけ。痣一
つ付かない。ああ、近付いてくる。間近にまで接近してくる。
「弾は残ってるの」
 ほとんど至近距離まで来た。こくりと頷く。アレの手が拳銃を持つ手に添え
られる。そっと導く。アレの顔面に。自らの手で導いた。
「撃って」
 引いた。当たる。外しようのない距離。当たる。なのに無傷。
 もう一度引き金を引いた。
 カチッ。
 軽い音。反動のキックはこない。弾は切れた。予備の弾は持っていない。
「あら、弾切れ」
 無造作に取り上げられた。玩具のようにもてあそぶ。
「うん。使い方は理解した」
 そういって構える。弾の切れた拳銃の銃口が向けられる。
「ふーん。あなた、この拳銃でそんな事してたんだ」
 見えてくる風景。

 女のアソコに銃口を突っ込む。
「知ってるか。昨日の動画で見たがアメリカ軍の兵士。女のあそこにアサルト
ライフル突っ込んでバイブ代わりにしていたぜ。最後に引き金を引いて。ひひ
っ。俺もやってみようか」
 わざともてあそぶ。女は首を振って逃げようとする。
「おいおい、逃げるなよ。変なところに当たって、余計に苦しむぜ」
 指が引き金にかかる。激しい絶叫。必死の懇願。浮ぶは笑み。残虐な笑み。
 引いた。
 何も無い。何も起きない。
「ひゃはははは。ばーか。弾装入れてないんだよ。弾が無いんだよ。どうだ。
緊張したか。ひゃは」
 世界が教えてくれる。ここに染み付いた記憶の断片。

「ふーん」
 引いた。引き金を。弾が無いのに。なのに。
 パンッ。
 乾いた銃声。男の太ももに当たる。えぐられる熱い痛み。悲鳴をあげてのた
打ち回る。
 引き金をもう一度引く。マズルフラッシュは確かに閃く。肩に当たる。もう
一度。腹に当たる。
 弾は無いはずなのに。なのに。銃声は鳴り響く。撃ちこまれる度に体に走る
激痛。焼き爛れた鉄の棒がえぐりこまれるかのよう。
「あっ。ああっ。あっ」
 信じられない信じられない信じられない。全身に撃ちこまれる。致命傷では
ない。
 興味を無くしたのか、拳銃を男の眼前に放り投げて後ろを向く。立ち去って
ゆく。
「くそ。くそっ。くそー」
 男は震える手で拳銃を掴み、引き金を引く。
 カチッ。
 弾は当然出なかった。
 アレが振り向く。
「バン」
 手の指を拳銃のような形に変える。人差し指と親指を立てる形。銃を撃つ真
似。男は吹っ飛ぶ。なぜか。
 その意識は途絶えた。かすかに「どうしてどうしてと」呟いているところを
みると生きてはいるようだ。
「さて、今度はあなたたちに聞きましょうか」
 にっこりと微笑み、他の男たちに向き直る。腰が砕けて動けない。ただ、縮
こまるしかなかった。おのれの行なった所業を心のそこから後悔した。もう遅
いのだが……
 
 ふらふらと歩いている。辺り一面に転がっている男たち。皆うめいている。
怨嗟と苦痛の合唱。無事なものは誰もいない。
 ふらふらと歩いている。手は血塗れ。顔も血塗れ。服も血塗れ。みな返り血。
自分自身には一切傷ついていない。避けなかった。あえて避けずに受けた。そ
れでも傷一つ付かない。
 ふらふらと歩いている。止まる。少女の前で立ち止まる。少女は動かない。
乾いた目で。虚ろな瞳で何も映さず何かを見ている。生きてはいる。ただ、そ
れだけ。乾いた涙の後。
 ぽつり。ぽつり。何かがこぼれる。少女の顔に。乾いた涙の後に。乾いた唇
に。腫れあがった頬に。濡らしていく。
「ごめんなさい」
 アルクェイドは涙を流していた。何に謝るというのだ。
「ごめんなさい」
 分からない。何をしていいのか。どうすればいいのか。謝る事しか出来ない。
 自分の所為かもしれない。志貴は言った。少女は言った。自分は目立つ。外
人だから。綺麗だから。目立ってしまう。だから、目をつけられた。そうかも
しれない。
 虚しい心。悔恨の涙。復讐は果たした。少女に。ここに連れ込んだ女性たち
に酷い目を合わせた男たちは叩きのめした。けど、それだけ。いくらぶちのめ
しても消えない。少女に残る傷はいえない。心も体。癒える事は無い。
 あえて受けた。男たちの反撃。緩慢で避けるのは簡単。けど、受けて見せた。
自分は傷一つ付かない。ああ、化け物だから。人で無いから。自覚してしまう。
おのれは違うことに。はっきりと。
 何も出来ない。癒せない。どうすればいいのだろうか。自分は確かに力を持
っている。けど、それが何だというのだ。少女一人の傷癒す事が出来ない。矮
小な存在だ。ああ。
 不意に顔を上げる。閉ざされた大開扉が開いた。誰かが入ってくる。
「いらっしゃい、シエル」
 出迎える。笑みを浮かべて。自分を許して置けないだろう。ままごとは終わ
りだ。どんな理由であろうと人を傷つけた。魔の力で蹂躙した。見逃すはずは
無い。
 シエルは完全戦闘装束で。固い顔で入ってきた。

 コツコツコツ。

 固い編み上げブーツの靴音。視線はまっすぐとこっちに。男たちはうめいて
いる。無視してる。シエルはまっすぐ歩いている。素手だ。
 アルクェイドは監視されている。シエルの使い魔に常に監視されている。当
然の事だ。埋葬機関の実力者が日本に滞在しつづけている。その理由は言うま
で無く真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドの監視のため。前例無き長
き目覚め。憂慮すべき事態。そのためシエルはここにいる。アルクェイドを止
めるために。アルクェイドは暴走した。恐るべき魔の力を開放し、一般人を傷
つけた。許される行為ではない。
 全ての事はシエルは知っているのだろう。何が起きたか。何をしたか。
 アルクェイドも覚悟している。だから笑って出迎えた。まっすぐと進んでく
る。

 そして…………。

 通り過ぎた。

 えっ。

 シエルはアルクェイドを無視し、少女の前に屈み込む。無防備に背中を見せ
る。今なら一撃。不死を無くしたシエルなら瞬時に殺せる。

 祈りの言葉。癒しの祈り。少女に手をかざす。淡い光。シエルは少女を癒し
ていた。優しい光に包まれて少女眠る。つかの間の安らぎが訪れる。
「さて、ずいぶん派手に暴れましたね、アルクェイド」
 そう言いながらも普通の笑み。緊張感は無い。殺意は無い。敵意も何もない。
いつもの普段の微笑。
 
 どうして。

「あーあ。後始末が大変ですよ。ほんとうに」
 やれやれと首を振っている。

 どうして。

「とりあえず病院の手配ですか。この子は特別なところで治療しなければなり
ませんね。なるべく心の傷は癒してあげないといけませんし。こいつらは……
ほっとくわけにも行かないし、軽く洗脳して放り込めばいいですよね。まあ、
見たところまともな社会復帰は難しそうですが。仕方ないでしょう」
 ああ、大変なんですよ。本当に。事後処理こそ難しいんです。

 だから、どうして。

「アルクェイド。あなたも早くシャワーを浴びなさい。汚れまくってますよ。
それでは遠野くんに失礼でしょうしね」
 いつものように。普段どおりに。シエルは接してきた。

「シエル。あなた、ふざけているの」
 アルクェイドは絶叫していた。シエルはきょとんとしている。
「なにがですか」
 少し首をかしげる。本当に不思議そうだ。
「わたしは人を傷つけた。魔の力を使って叩きのめした。なのに。なのに何で
そんなに普通なの。なのに何で罰しないの」
 ああ、そのことですか。やっと納得したかのように手のひらをぽんと叩く。
アルクェイドの叫びを受け流している。
「だって、あなたは堕ちてませんし。血に酔ってません。アルクェイド。あな
たの怒りはもっともな事。これは彼らの自業自得ですよ」
 えっ。という顔になる。おもわず、シエルの顔を見る。
「わたしだって、同じ目にあえば同じ事をしたかもしれませんし」
 本当は治療なんかしたくないです。人間の屑ですしね。まあ、そういうわけ
に行かないですけど。そう言ってシエルは少し苦笑する。
 少し呆然としてします。言葉を紡げない。
「アルクェイド・ブリュンスタッド。質問があります」
 不意にシエルは真面目な口調で。代行者としての表情で詰問してきた。
「どうして殺さなかったのです。あなたの力ならば彼らはすぐにでもミンチに
出来たでしょうに。やはり志貴くんを悲しませたくなかったのですか」
 アルクェイドの一撃。本気を出せば戦車の装甲を紙のように切り裂き、車体
も豆腐のように簡単に崩れ去る。そのような一撃。まともに喰らえば人なんて
簡単に消し飛ぶ。
 なのに生きている。重傷だが生きている。何故。
 ううん。頭を横に振る。
「……頭の中が白くなった。この子にこんな酷い事をした奴ら。許せない。一
瞬、志貴の事も。シエルのことも浮んだ。押さえなきゃいけないとも思った。
けど、それ以上の怒りが。衝動がわたしを突き動かした。
 ただ。ただ、最後に絵が浮んだの。前に三人で見た『聖者の抱擁』その赤子
の表情。無垢な瞳が。恐かった。すごく恐かった。この子が語っていた事。人
はみんないろんなのを抱えている。恐かった。すごく恐かった。人を殺す事。
人の未来を奪う事。人を消し去る事。恐くて恐くて出来なかった。どんなに酷
い奴でも。どんなに許せない奴でも。人を殺すのが恐かった。何でかわかんな
いけど恐かったの」
 泣いていた。いつしかアルクェイドはシエルの胸に抱かれて泣いていた。そ
の背中を軽く叩いて慰める。
「大丈夫です。大丈夫ですよアルクェイド。あなたは正しいのです」
 張っていた緊張感が切れたのか。泣きじゃくるアルクェイド。慰める。優し
く抱いて慰める。

 ああ、やはりわたしの思ったとおりでしたね。

 壊れてない。アルクェイドは壊れていない。人として正しい怒り。それを示
しただけ。

 それに──

「あなたは理解したのですよアルクェイド。人の事を。生きるという喜びと悲
しみ。正と負。物語の理を。だから戸惑っているのです」
 長き人生が機械人形のごとく無駄も知らず、精密に正確に行動してきた。一
瞬の隙の無いアルクェイド。志貴が壊してくれた。回り道の人生。無駄な事だ
らけの人生。楽しい事だと。
 だが、物事はいいことばかりでない。奇麗事ばかりでない。裏と闇がある。
希望があれば絶望がある。それを知った。
 それだけでない。
 人は生きている。緩慢にではない。何かを抱えている。みながいつも抱えて
いる。楽しい事ばかりでない。辛い事。悲しい事。いろいろ抱えている。
 アルクェイドは感情を知った。覚えた。そして今、光り輝く人生だけでなく、
暗く辛い事があるのを。故に人の命には重みがあるのを知ったのだ。
 だから恐かった。自分は人でなく簡単に人を殺せる。そんな事実を目の当た
りにし震えたのだ。
 
「アルクェイド。あなたは大丈夫です。遠野くんがいます。わたしがいます。
みんながいます。だから大丈夫ですよ」
 いつまで泣いていた。そこに殺戮人形としてではない。人として震えるか弱
き少女が泣いていた。
 シエルはいつまでも支えていた。
 暗い倉庫にアルクェイドの慟哭はいつまでも鳴り響いていた。


「わあー。綺麗だね」
 アルクェイドは感嘆の声を上げる。
 今日は三人で近くの美術館に来ていた。
 前衛絵画の集まり。志貴にはどうにも理解出来ない。シエルもフムフムと言
いながら苦笑いしている。
 アレから数ヶ月たった。
 全員病院収容し事後処理を行なった。
 詳しい事はシエルは話そうとしない。男たちは死んだのか。それとも障害等
が残ったのか話そうとしない。ただ、少女の回復は順調だったと告げた。周り
に気遣いつつ治療を行なったと告げた。全ての記憶は消した。辛い思いは忘れ
させた。ただ、アルクェイドの事も忘れてしまった。鮮烈な思い出がなにをき
っかけに思い出すか分からない。だから、接触も禁じさせた。アルクェイドも
了承した。
 志貴はなにも知らない。二人は話さなかった。いつものように接しつづけた。
 なんとなく。なんとなく理解していた。
 アルクェイドは変わったと。
 志貴はなんとなくそう思っていた。
「あれ?」
 アルクェイドは声を上げる。
「どうかしましたか」
 シエルは声をかける。アルクェイドの視線を追いかける。
 優しそうな彼に包まれたあの少女がいた。二人は寄り添いながら絵の話をし
ている。こちらの事は気づいていない。
「……よかった」
 涙が伝う。
「本当によかった」
 あれからなにがどうなったのかは知らない。ただ、二人は幸せそうに歩き、
通り過ぎていった。
「お、おい、アルクェイド」
 突然、涙を流したアルクェイドの志貴は戸惑う。
 アルクェイドはすぐに涙を吹き飛ばすと満面の笑みで言った。
「いこ。もうおなかペコペコなの」
 シエルは優しく笑い、
「そうですね。近くに美味しいカレー屋さんがあるのですよ。東南アジアのカ
レーを色々食べさせてくれるのです。そこに行きましょう」
 そう言ったのだった。
 そうしようとアルクェイドは駆け出した。志貴とシエルは追いかけていった。

 三人の様子を二人のカップルは振り返った。
 なぜか、少女に涙がこぼれた。
「ありがとう」
 一言だけ呟いたのだった。

                               終わり。















 どうも、ユウヒツです。今回の作品。実はかなりの実験作です。もともとの
プロットと大きく逸脱してます。始めは本当にほのぼのでした。構ってくれな
い志貴。そんな時、たまたま痴漢にあうアルクェイド。あてつけのように身を
ゆだねる。そんな感じ。エスカレートして志貴に似た少年に触らせる。本当に
そんな感じでした。
 大きく変わったのはとあるサイトの所為です。チャットで同志に紹介されて
もらったサイト。覗いてみて衝撃でした。
 殺人鬼たちの殺戮の記録を綴ったサイト。
 哀れな犠牲者たち。狂気の日々。人から外れた人の陰惨たる運命。
 ショックでした。本当に。何も言えず答えられず夢にまで出ました。
 一番ショックで衝撃的だったのは海外の狂気の殺人鬼達ではありません。
 普通の人の狂気。集団で集まり暴行輪姦リンチ。日本で近年起きた若者たち
の無軌道な暴雨でした。
 後先を考えず、刹那的な衝動に駆られ拭え去る事の出来ない傷を生み出す。
 被害者の事を思うと何も言葉が出ません。
 奇しくもこの作品の執筆中に様々な暴行事件が明るみに出て世間を騒がせて
ました。
 自分はダークは嫌いです。陵辱は嫌いです。
 そりゃあ、痴漢や触手。ロリとかは好きですよ。けど、それは虚構の場に置
いてです。実際に痴漢する気も触手プレイする気も(どうやってするんだ、お
い)ましてや幼女に手をだす気もありません。

 人の痛みを知る。

 これは簡単そうで難しいです。人知れず傷をえぐる事はあるでしょう。
 様々な思いを込めて書き上げました。
 拙い作品ですが、読んでくださってもらえれば満足です。
 どう思ってくれるかは「読み手」の判断に任せます。
 最後に。この話はフィクションです。ただ、一部の描写は実際起きたことを
参考としてます。

 では、次の「痴漢電車」にて。今度は明るくいきますよ。

                               終わり


 

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