「へえ、そう大きいわけでもないけど、なんか風格あるね」
「ええ、もともと有名なお蕎麦屋さんの本家で、お弟子さんに店を譲ってからご主人が隠
棲してこちらに小さなお店構えたそうですよ、受け売りですけどね」

 琥珀の案内で遠野家ご一行様が訪れた先の蕎麦屋。
 片田舎のもう少し小さい処を考えていた志貴には、驚くほど立派に目に映った。
 店構え自体は小さいのだが、何処か「できる」という風格が漂う。
 建物自体は意外と新しそうなのに、代々此処にて店を構えていますといった風情。
 これは意外と美味しいかも、期待できそうだ。
 そんな事を思いながら、生蕎麦と書かれている崩し文字を眺める志貴。

「感心してないで入りませんか、兄さん」

 秋葉の呆れたような声が背後から聞こえる。
 それにせかされたように、志貴らは暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ」

 カウンターとお座敷のみという外から見たとおりのあまり広くない造りであり、必然的
に座敷を選択する事になる。
 奥の卓にいる客と一つ間を置いた席に通される。
 とりあえず席を決め、腰を下ろす。
 そこにてきぱきとお品書きと湯呑み、おしぼりが並べられた。

 何となく落ち着いた気分になり、志貴は湯呑みを手に取った。
 湯気が漂い、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
 お茶じゃないな、と志貴は湯呑みの中を覗く。

「麦こがしですね」

 琥珀がずずっと啜りながら答える。
 ああ、これはこれで美味しい。ほっとする味だ。
 志貴は熱い液体を啜りながら一心地ついた。

「さて、何にします」

 広げたお品書きを皆で眺める。

「ええと私はこの静御膳にします」
「秋葉はどっちかと言うと巴御前って感じだけど……、いや何でもない。俺は天婦羅定食、
蕎麦は冷たいのを」
「翡翠ちゃんは何にする? こっちのセットは小鉢のがいろいろ入ってて綺麗ね」
「この自然薯巻きというのはなんですか、志貴様?」
「ええとね……」

 琥珀が取りまとめて店員に注文を告げる。
 とりあえず一騒動終わって落ち着く。
 あとは来るのを待つばかりだな、
 多少は心の余裕が出来た処で、志貴はこちらを見る視線に気がついた。
 露骨に見つめられている訳ではないが、ちらちらと目を向けられている。
 一人ではなく、複数の目。

 向こう端の席の方からか。
 まあ、不思議じゃないけど。
 志貴は内心苦笑する。
 秋葉はたとえ雑踏の中にあってもすぐにそれと分かる程、目につきやすい。
 外観もそうだけど、ただ立っているだけで独特の雰囲気を漂わせている。はっきり言っ
て兄だという立場でなければ多少気後れしそうな程に。
 翡翠と琥珀の二人も水準を遥かに超えるほど可愛い。
 さらに二人で立っていると、双子ということもあり必要以上に人の目を引く。

 ここに来る間もけっこう注目の的になっていたものなあ、そんな事を思いながら逆に志
貴はそちらへ顔を向ける。



              ◇    ◇    ◇
 

 和んだ雰囲気で柏木家の面々は食事を取っていた。
 旅先という日常から外れた空間。
 久々の耕一との再会。
 それ故にかいつもより弾んだ雰囲気が漂う。
 千鶴も初音も程度の差はあれ、嬉しそうに笑みを絶やさない。
 梓は普段と変わらないように、むしろ普段よりぶっきらぼうに耕一とやり取りしていた
が、その裏は少なくとも姉と妹達には明白に見て取れた。
 楓ですら、言葉は少なく表情にはほとんど表さないが明らかにいつもとは違う。楓の優
しげなそして思慕を含んだ瞳が耕一に向けられている。
 そして、耕一であるが……。

「いったい何日飯抜きだったんだ、こいつは」
「あの、耕一お兄ちゃん、慌てると喉につまらせるよ……」

 蒸篭が二枚、三枚と空になって積まれるまで、ほとんどまっとうな会話が出来ない状態
だった。

「美味しい蕎麦だった」

 やっと満足そうに呟き、今度はセットになっている山菜御飯のお椀を手にとる。

「気に入って頂いて嬉しいです、耕一さん」
「お茶のおかわり、耕一さん」
「ありがとう、楓ちゃん。でも久々にまっとうなもの食べたなあ」

 しみじみと呟く耕一。

「まあ、家にいる間は人間らしいもの食べさせてあげるよ」

 あんな調子じゃ味なんか関係ないだろうとか憎まれ口を叩こうとした梓だったが、幾分
同情心を起こして口にする。
 前に訊いた耕一の普段の食生活が、梓にしてみれば信じられないほどの悲惨なそれが頭
に浮かんでいた。

「ああ、梓の料理は楽しみだな」
「耕一お兄ちゃん、あの、わたしも……」
「初音も耕一の為に料理してくれるってさ。最近は腕も上げてるし、感謝するんだな」
「初音ちゃんもかあ、それは楽しみだな」
「うん、梓お姉ちゃんには全然かなわないけど」

 三人の会話に疎外感を感じたのか、千鶴はずずずとお茶を啜っていた。
 
「ねえ、お兄ちゃん、双子だね」

 隣の初音が囁く。
 座敷に新たに客が通されていた。
 不躾に他人をじろじろ見るのは当然失礼な事であるのが、その一行は耕一たちの目を引
きつけた。

「うん、ああ双子だね」

 小声で耕一は答える。
 間抜けな受け答えだが、初音も気にする事無く、色違いの服を着た少女を眺めている。
 特に目を引くのがその双子の少女。
 良く似た二人だった。
 それでいて随分と雰囲気が異なっている。
 同じ顔をして同じような格好をしていながら。
 にこにこと笑顔の少女と、あまり口を開かず静かな雰囲気の少女。

 ああ、良く見ると瞳の色が違うんだ。
 耕一は何が違うのだろうと思って、その相違に気がついた。
 琥珀色の瞳と翠にも蒼にも見える瞳。
 まるで映画か何かの中でしかお目にかかれないような、幻想的な二人だった。
 なにより、双子であるという点を差し引いたとしても、相当に人目を引く容姿だった。
 一人でぽつんと立っていたとしても周囲に埋没する事は無さそうな。
 あんな可愛い娘が双子ってインパクトあるな。

 ふと、耕一が視線を戻すと、耕一のみならず柏木家の面々が揃って彼女らに注目してい
た。
 さすがに正面切って見つめるような無作法な真似はしないが、食事を続けつつもちらほ
らと視線を向けている。

「あの髪の長い娘、いかにもお嬢様って感じだね」
「うん、ちょっと怖そうだけど、綺麗」

 一つ挟んで隣の席に通されたのは、高校生くらいの四人の男女であったが、もう一人女
の子がいた。

 ほう、と感心して耕一は今度はその少女を見つめた。
 確かに、寒気がするほどの美少女だった。
 凛とした感じで、姿勢や表情などが、梓が呟いたようにお嬢様然としている。
 さっきの双子ともうひとりが彼女に接する様子からしても、そんな印象を受ける。

「お嬢様とお付きの三人って感じだな。雰囲気からして庶民とは違って……、よく考える
と初音ちゃんとか楓ちゃんも十二分にお嬢様の筈なんだけど。千鶴さんなんか柏木グルー
プの会長だし」

 実際、お嬢様だろう。
 屋敷と言うに相応しい家だって全然庶民レベルじゃないしな、と耕一は思う。

「ええっ。わたし、お嬢様なんかじゃないよ。ねえ、楓お姉ちゃん」
「うん……」
「そりゃ、そういう風に育てられていないし、あたし達は」

 お手伝いさんが何人か働いていてもおかしくない家で家事を担当している梓も、妹達に
同意する。
 確かに柏木家ってそうは見えないんだけど、でもなあ、と耕一は首を捻る。

「そうかなあ。でも地方の名家で立派なお屋敷に住まう美人姉妹って出来すぎなくらいの
シチュエーションじゃないか。
 向うの三人も綺麗だけど、初音ちゃんも楓ちゃんも、何より千鶴さんも決して負けてい
ないと俺は思うな」

「え、あの、わたし……」
「……、恥ずかしいです」
「耕一さんったら……」

 目に見えて赤くなる三人。
 柏木三姉妹。
 耕一も恥ずかしい事口走ったなと感じていた。
 そして残された一人。

「おい、耕一」
「うん?」
「あたしは?」
「え?」
「あたしは入っていないのかって訊いてるんだよ」
「…………梓? おおっ」
「その顔、素で勘定から外してたな。…………そうだよな、あたしは女の子っぽくないし、
可愛くないし、耕一から見たら女ですら無い……」

 怒気を漲らせるかと思いきや、ぼそぼそと言いながら下を向いてしまう梓。
 消え入りそうな声に、末尾にこもる湿り気に、耕一は慌てる。

「待て、悪かったって。梓だって充分可愛いって。黙って立ってればしかなりのものだと
思うぞ。千鶴さんより胸大きいし料理だって上手いし、けっこう女の子らしい処もあるし、
自信もてよ。俺は憎まれ口は叩いてても梓の事、女の子じゃないと思った事なんて最初だ
けだって」
「本当?」
「本当だって、だから顔挙げてくれ」
「うん。ふうん、耕一そう思ってたんだ。そうか、いい事聞かせて貰ったなあ」
「え……。梓、お前嘘泣きかよ、汚い真似しやがって」

 そう言えば千鶴を始め他の姉妹は静かに傍観をしていた。
 耕一は自分が何を口走っただろうかと、あせる。
 かなり恥ずかしい事言ったんじゃないか。

 してやったりと言う顔をしつつも、嬉しそうな梓の顔。
 まあ、これはこれでいいか。
 でも何で千鶴さんが冷たい笑いを俺に向けているんだろう。

「耕一さん、梓。外で騒ぐのはいけないと思うわ」
「は、はい」
「わわ、わかったよ」

 背筋に冷気が走った。
 耕一と梓はぴんと背筋を伸ばして千鶴の言葉に返答していた。

 しばし無言で食事が進む。
 何とも硬く冷たい雰囲気。
 それを何とかしようとしてか、梓が姉にに向かって話し掛ける。 
  
「ええと、ところでさ、あの男の子もちょっと可愛いね、千鶴姉」

 さっきより声は小さい。
 
「ちょっと線が細い感じで、あたしはもっと逞しい方がいいけど、千鶴姉はああいうタイ
プ嫌いじゃないだろ?」
「そうねえ。ちょっとイイ感じね」

 千鶴もぽそぽそと返す。
 耕一も改めて顔を見る。
 当然ながら耕一にとって、四人の中では一番興味をそそらない対象である。
 確かに物凄い美少年って訳じゃないけど、それなりにかな、と判断を下す。

「千鶴姉、ああいうタイプの男の子好きだものな、テレビとか観ててもさ」
「そ、そんな事ないわよ」

 え、そうだったのか。
 じゃあ良く俺なんか条件に合わないなあ。
 そう思って耕一は呟く。

「え、で、でも、耕一さんも、その、小学生の頃はそれはもう可愛かったですよ。私、良
く憶えてますから……」

 俺も、千鶴さんのセーラー服姿良く憶えていますよ、そんな表情で耕一は千鶴の顔を見
つめ、千鶴も耕一を見つめる。
 どこか二人だけの世界を形成しつつある耕一と千鶴に、梓がぽつりと言葉をぶつける。

「なるほど、今は見る影もないって訳だ」
「梓、なんであなたそういう余計な事言うのよ」
「否定しないの?」
「それは……」
「どうせ俺は可愛くないよ、悪かったな」

 ちょっぴり落ち込みそうになる耕一にフォローの声がかかる。

「耕一さんは、耕一さんだから」
「うん、私、お兄ちゃんの方が格好よいと思うよ」
「二人共、優しいな。とても梓の妹とは思えない」

 微かに頬を赤くする二人。

「でも、梓お姉ちゃんも優しいよ」

 本当に初音ちゃんはいい子だな、と何度思ったかわからない想いを耕一は抱いた。

「でも、あんなに可愛い子に囲まれるなんて、どういう奴なんだろうな」

 でもちょっと不釣合いな感じというか、奴だけ何と言うか普通だよなあと耕一は思った。
 もっとも普通に見える奴が一番とんでもない奴だったりするけど。
 まあ、向こうから見ればこっちこそ、不思議な光景かもしれないなとも思う。
 どう考えても俺なんかが柏木家の美人四姉妹と一緒にいるのはおかしいだろうから。



              ◇    ◇    ◇
 

 そのちょっと不釣合いな感じで、普通な奴は、そのおかしく不思議な先客に視線を向け
ていた。
 志貴はその五人、男一人に女四人という構成の一団を、そーっと出来るだけさりげなく
視野に入れる。

 へえ、随分と……。
 自分達に注がれる視線を確認と思ってちらりと顔を向けて、志貴はまじまじと見つめて
しまう。
 思わず目を奪われた。
 芸能人だと言われたらなるほどなと頷くような女の子がいた。
 それも一人でなく四人、タイプは違っているがそろいも揃って、男性の目を惹きつける
であろう存在、それが四人もいるのだ。
 志貴でなくとも、目を離すことは出来なかっただろう。

 省みれば似たような状況に志貴は慣れっこである。
 金髪巨乳の吸血鬼から、黒髪微乳の鬼妹まで、ある意味さらに多彩な面々に囲まれてい
るのが志貴の日常であったが、それでも志貴は感嘆しながら四人を眺めていた。

 確かに感嘆に値した。
 二十代初めくらいか、美しい流れる黒髪のお姉さんといった風情の優しそうな女性。
 ボーイッシュな感じでショートカットの活発で健康美に溢れた高校生くらいの少女。
 中学生くらいか、おかっぱで日本人形のように端正な容姿で物静かな少女。
 少し垂れ目がちで大きな瞳、笑顔が可愛らしい小学生くらいの女の子。
 年恰好はばらばらでタイプは違うが、いずれもかなり綺麗だったり可愛かったりと、遠
野家の面々に負けず劣らぬレベルの高さだった
 
 どういう一団なんだろう。まさか姉妹とも思えないし。
 見ているうちに志貴の頭に大きな疑問符が浮かぶ。
 四人の少女もそうだが、一緒にいる男を合わせるとなおさらどんな集団かわからなかっ
てくる。
 唯一の男は不釣合いとまでは言わないまでも、四人も連れ歩くほどの存在とは思えなか
った。
 でもかなり親密みたいだし……。
 ああ、でもこっちも同じ様なこと思われているんだろうなあ。
 向こうからすれば秋葉と琥珀さん、翡翠といった少女と共にいる自分は不相応に移って
るだろうなあ、と志貴は内心で苦笑を浮かべる。

「兄さん、何をご覧になっているんです」

 幾分拗ねたような声。
 慌てて志貴は視線を前に戻す。
 露骨に秋葉は志貴を睨んでいる。

「え、いや、その……」
「ずいぶんお綺麗な人達ですものね」
「うん。じゃなくて、どういう集まりなのかなあって」
「あまり、他所の方を見つめるのは不躾であると思いますが……」

 志貴は頷く。
 でも、それだけでなくて何かあの集団からは妙なモノを感じるんだよなあ、そう思いな
がら。



              ◇    ◇    ◇
 

「行きましょうか」
「そうだね」
「次は湖の方を回って、それから旅館に向かうんだよね」
「冬に雪景色になってからの方が見ごたえあるみたいだけどね」
「うん、いいんじゃないの、変なお寺とか回るより楽しいよ」

 耕一たちは食事を済ませ、立ち上がった。
 さすがに満腹になり、耕一は満ち足りた顔をしている。

「あ、ごめんね」
「いえいえ、こちらこそ」

 後ろを通る時、邪魔になりそうな鞄を琥珀はさっとどかした。
 大きく跨ごうとしていた梓は、足を止めて礼を言う。
 にこにことした琥珀と目が合う。
 双子と言っても表情でずいぶん印象が違うものだなあと琥珀はちらりと思う。
 もう一人の少女は笑顔の少女と対照的に表情が薄い。
 ちょっと楓みたいかな。
 髪の長い少女と男の子の会話の断片が耳に入る。

「湖の方が良かったですか、兄さんは」
「いや、どっちでもいいよ。秋葉が崖からの景色見たいっていうなら、それでいいんじゃ
ないかな」
「じゃあ予定通りにしますね」

 ふうん、この二人は兄妹なんだ。
 それにしてもこの人たちも観光か。変な時期に。

 自分達の事を棚に上げて梓はそんな事を思うと、靴を履いて外へ出た。



              ◇    ◇    ◇
 

 やっぱり多少無理してでも来てよかった。
 山道を揺られながら、秋葉はそう思っていた。
 非日常の空間に身を置いて志貴と一緒の過ごす事が、これほど自分を幸せにして満ち足
りた気持ちにさせてくれるとは思ってもみなかった。

 別に、屋敷の中でも兄さんと過ごせるなら構わないけど、ずっとお付き合いなんかして
くれませんものね。
 幸せそうな笑みを浮かべていた秋葉であったが僅かに表情を変える。
 ルームミラーに映る兄に対して少し唇を尖らせる。
 満ちたりた気持ちのままで、それでも愚痴がでる辺りが秋葉らしかった。あるいはそれ
だけ秋葉の志貴によって蓄積された想いが深かったのかもしれない。

 でも、とも秋葉は想う。
 自分としては不本意であるが、屋敷というテリトリーにあるとどうしても最低限のマナ
ーや格式を訴えるだけで、口喧しいという目で見られてしまう。
 外でなら、多少はそれら制約が薄くなる。
 今日は志貴と話が弾み、眉を吊り上げる回数が減っているのを秋葉は自覚していた。
 もう少し日常でも寛容になるべきかな、とちらりと思い、同時に兄さんがもう少ししっ
かりしてくれれば……、と思い直す。

 昼食を取り、遠野家の一行は山のほうへ回った。
 山と言うより丘といった感じの高さではあるが、切り落としたが如き断崖から眼下に広
がる街並み、湖の光景は素晴らしかった。
 なまじ観光地ずれした処よりもこうした景色のほうが心癒される。
 志貴も「木に囲まれた処は落ち着くよ」とぽつりと感想を述べていた。
 新緑の季節も良いかもしれませんね、という琥珀の言葉に秋葉も同意した。
 圧倒するような木々、自然の広がりは心に積もった澱を拭い取ってくれるようだった。

 しばし、その何もない処を楽しみ、その後は近くのお社などを見て、タクシーを捉まえ
て多少なり景観の良い道を通りながら、宿へと向かった。
 
 宿の名を告げると、多少訝しげな顔をしたものの、初老の運転手は丁重に年若い客を迎
えた。
 こんな何も無い処に、から始まった運転手の話はもっぱら、助手席の志貴と、秋葉と翡
翠に挟まれた琥珀が如才なげに受け持っていた。

 ――いやいや、立派なものですよ、あそこの宿は。
 ――まあ昔から隠れ宿ってほどでもないけど、けっこう立派な身分の方が泊まったり。
 ――そうさね、普通の客は隣の市の温泉街の方に行くね。
 ――まあ、ゆっくりするには良い処ですよ、もっとも……。
 といった話を少しうつらうつらしながら秋葉は聞いていた。


 そうしてしばらく車は走り、やがて宿の姿がフロントガラスの向こうに浮かんで来た。

 


 
以上、02/5/19更新 ...to be continued next chapter"Shadow dancer"

前頁へ 次頁へ  二次創作頁へ