ハライセ-The Counter Of Love-

    ―― 覗見。――

    作:狂人(クルートー)            




 1/

 病んだ溜息が、泥のように粘って絡む。
 陰鬱で憂鬱な、“うんざり”色の嫌な吐息。
 出しても出しても胸のむかつきは消えずに、
終いに頭の中までやってくる。
 ――頭に来る。
 そう、私はどうしようもなく頭に来ている。

「――いてっ」

 他所見をしながら歩いていたら、爪先が段
とキスをした。じん、と鈍い痛みが響く。
 また、頭に来る。
 ――あいつのせいで、頭に来る。

「……そうだ。みんなおまえのせいだからな、
コクトー」

 忌々しく名前を紡ぐ。
 実のところ、この数日両儀式を穏やかなら
ない気分にさせているのは、その名を持つ朴
念仁だった。
 コクトーこと黒桐幹也は、私の友人だ。
 高校時代、私がまだ二人の私だった頃に知
り合い、以来なんだかんだでいつもつるんで
きた。
 私はとびきりに曰くつきの人間だから、近
くにいれば良くないモノを呼び込む。
 何度か痛い目にも遭ってるっていうのに、
あの馬鹿はそれでも私の前から消えない。
 それを、どこか嬉しくも思っていた。

「だってのに――あいつ」

 恋人でもなんでもない。ただ、なんとなく
私は幹也を気に入っていて、幹也もきっとそ
うで。雲みたいにあやふやな関係が、ずっと
続いていくんだろうって思っていた。
 けれど、私達は――
 私達は、少しずつ変わり始めている。
 実際、気づいてはいた。
 一月ほど前から、幹也は何かおかしい。
 これまで、私達は特別な理由がなければい
つも互いの傍にいた。離れることがあっても、
せいぜい一日二日の短い間だったのに。
 その間隔が、少しずつ開きはじめた。
 たまに事務所で一緒になっても、仕事が終
わるとさっさと帰ってしまう。
 ……気にならないほど、私は鈍感じゃない。
 それでも、疑念を口にしてしまうことで、
蜃気楼が現実になる――そんな不確かな恐れ
が、私に足踏みばかりさせた。
 見えもしない不吉な影に悩まされ、結局私
は言い出せなかった。
 そんな躊躇いは病をさらに悪化させて、こ
の一週間はとうとう幹也に会っていない。
 独りでいる間に、思い出したのはアイツの
ことばかりだ。

「……そうだよ。おまえは、いつもいたよな」

 出会ってから数年。
 幹也は家族よりも近い場所で、いつも私の
傍にいてくれた。
 織を失って病院のベッドで目覚めた時、幹
也はくしゃくしゃの顔で笑ってくれた。
 泣いてるのか笑ってるのか、とにかくすご
くヘンな顔だった。
 浅上との戦いの後、雨の中で、私の罪を背
負うと言ってくれた。
 ドラマみたいな台詞を、恥ずかしいほど真
剣に。
 大切な記憶ばかりじゃなく、とても平凡な
部分でも、二人の時はどこか安らいだ。
 苛々したり、血が見たくなるような衝動も、
幹也の傍ではいつのまにか消えていた。
 私に開いた穴を、幹也が埋めてくれた。
 あいつといると、満たされた。 
 だから――幹也を疑えば、そんな幸福たち
までが泡沫に消えてしまいそうで。
 会いたいと強く願いながら、決して会おう
としない矛盾を、私はもう一週間も繰り返し
ている。

「……なんだよ。これじゃあいつじゃなくて
オレが避けてるみたいじゃないか」

 呟いて、即座に“それは違う”と自己否定。
 私が幹也を避ける理由なんてない。
 理由がないから、会いたくて。
 理由もないのに、会いたくて。
 会いたいという理由で、私はこの階段を上
っているのだから。

「――でも」

 もしも、幹也の側に私とあいつが寄り添え
ない理由があるとしたら?
 私は、このまま歩いていけるだろうか。
 そう自問して、ふと、階段の半ばで歩みを
止める。

「……ばか。ばか幹也」

 なんだっていうんだ、この不安。
 この先に幹也はいないかもしれない。
 そう考えただけで、また動かそうとした足
が馬鹿みたいに重くなる。
 本当、ばかみたいだ。
 馬鹿みたいなのに――怖いんだ。
 もう事務所の扉は見えてるのに。
 階段を一飛びに越えれば辿り着けるその場
所へ、私は踏み出せない。
 みんな幹也のせいなのに、私はあいつに文
句を言いに行くこともできない。
 不条理じゃないか。

「頭に来てんだ、恨み言の一つも言わせろよ」

 でも、独りの時間は長く重い。
 何の気兼ねもなく夜歩いていた頃より、今
の私は弱くなった。
 そう、私は独りきりという魔物に勝てない
くらいに弱くて、だから。
 怖くても、何も言い出せなくても、まっす
ぐ顔を見られなくても。
 やっぱり、幹也に会いたいんだ。

「ん――」

 胸いっぱいに空気を詰めて、鉛のように重
い足を踏み出す。
 ここで立ち往生してもはじまらない。
 この先に幹也がいてくれるのかは解からな
いけど、まずはそこへ辿り着かなきゃ。
 猫がいるかを調べるには、箱を開けてみる
しかないんだから。
 けれど、それはやっぱり冒険だ。
 数えるのに両手もいらない階段を一つ一つ
踏み締めるだけで、命のやりとりをするより
酷い緊張が心臓を高鳴らせる。
 どくん、どくん、どくん。
 肉のポンプが鮮血を送り出すオト。
 私が生きている証。

「はぁっ……」

 頬が熱い。汗が浮かぶ。頭は、ワタアメみ
たいに白く霞む。
 幹也がいたら何を話そうとか、さんざ放っ
ておかれた埋め合わせをさせようとか、そん
な普段は考えないようなことまで考えて。
 かつん、と最後の一段を踏み終える。

「――」

 目の前には、見慣れすぎた扉。
 だっていうのに、この奥にあるものが皆目
見当もつかない。
 まるで、異界が口を開けているみたいだ。

「……まあ、今更怖がっても仕方ないか」

 怖気づくなら、ここに来るまででもできた。
 息せき切って走ってきて、ゴールの前で立
ち止まるなんて馬鹿げてる。
 鬼が出ようが蛇が出ようが、後はこの扉を
開けるだけじゃないか。
 いつからこんなに優柔不断になったのか。
 そんな自分に苦笑して、

「――よし」

 僅か震える指を伸ばして、私はドアノブを
回す。当たり前だけど鍵はかかってなくて、
口を開けた闇が眼前に広がり、そして。

「――あ、はぁぁぁぁっ……!」

 隙間から漏れたのは、景色でなく音。
 琴を鳴らしたような、透き通った女の声。
 響きは、甘い艶に濡れていた。

「な、っ……?」

 思考が、展開する現実に対応できない。
 辛うじて行なえたのは、隠行というにはあ
まりにお粗末な方法で、壁の陰に身を隠すこ
とだけだった。
 呼吸を止めるつもりで気配を殺しながら、
先程の声のほうへ目を凝らす。

 私に日常というものがあるのなら、幹也の
部屋の次くらいに馴染みのあるこの事務所。
 レイアウトもそらで覚えているくらいの場
所に、二つの奇妙なオブジェがあった。
 いや、私はそれらを知っている。
 知っていると、思い出さなければ良かった。
 けれど、いまさら目は逸らせず。
 私はそのイトナミを直視する。
 瞬間、両儀式という思考は機能を停止した。

「あ、はっ――! や……っ、兄さ、幹也っ
……!」

 裸の、女と。
 
「っ、く……鮮花――」

 一番会いたかった顔。
 一番聴きたかった声。
 でも、今、一番見たくなかった形。
 幹也。
 わたしが、いちばんあいたかったなまえ。
 黒桐幹也は服を肌蹴させて、こちらは一糸
纏わぬ鮮花と繋がってあえいでいた。
 何をしてるのかも解からないほど、私は子
供じゃない。
 でも――何が起きてるのか、わからない。
 意識が、ぐにゃりと歪む。

「え――?」

 やっと見つけた。
 笑ってくれると思ってた。
 久しぶりにたくさん話そうと思ってた。
 でも、そんなことは全部忘れてしまった。
 わけがわからない。説明がつかない。
 どうして、幹也が――裸で鮮花と抱き合っ
てるの?
 どうして?
 頭にぽつんと浮かぶ言葉。
 二人が兄と妹であることより、鮮花と繋が
っているのが幹也であるという現実に、両儀
式は疑問する。
 裸で息も荒く絡み合う一組の男女を、二人
とも私は知っている。
 どうしようもなく知っている。
 でも。オマエは、私のそばにいる人じゃな
かったか――幹也?

「う――あ」

 眩暈で、寝起きのように身体がぐらつく。
 ダメだ。目の前の光景に、頭が適応できな
い。不如意な膝が笑って、ぐらりと揺れる。

「んん……ッ、く、あっ……凄い……兄さん
たら、今日も、こんなに……!」
「あ……」

 幹也の腹に両手をついて、鮮花が大胆に腰
を躍らせる。
 ぎし、ぎしと二人が軋むたびに、上になっ
た鮮花が耐えるように表情を強張らせる。
 しかしそこに苦痛はなく、悦びと怖れを綯
い交ぜにしたような複雑な仮面が見える。
 今まで、見たこともないような顔が。
 それは、幹也にしても同じことだった。

「あ……鮮花、強すぎる……! 少し、ペー
ス、落とさないと……」

 弱々しい声。誰かに解放し依存した声。
 私と歩いているうちには決して聞くことの
なかった、幹也の裸の声。
 それを、私以外の前で漏らしているのだと
気付いた時、何故だか胸が疼いた。
 ……わからない。
 こんな声を、こんな姿を、私は知らないか
ら。知ることもないと思っていたから。
 
「……コク、トー」

 言葉がない。何も頭に浮かばない。
 私の知らないアイツが、私以外の前にいる
ことが、信じられない。
 本当に、悪い夢みたいで。

「……もう。ここまで来て冷めさせないで。
 いいじゃない、このまま出してしまっても、
もう一度初めからすれば――ね?」

 鮮花は拗ねたように唇を尖らせ、かと思え
ば裏返ったかのような素早さで女の笑みを浮
かべる。
 そこには信頼と、抑えきれないほどの情愛
とが浮かんでいる。
 何故それがわかったかといえば、私も多分
そんな感情を幹也に持っていたから。

「――あ」

 唐突に気付く。鮮花は幹也に、異性として
の恋愛感情を持っていた。
 今、鮮花は隠していない。
 それは、隠す必要がなくなったから。
 ずっと躊躇っていた一線を、越えてしまっ
たからじゃないか――と。

「……遠慮なんていりません。兄さんの思う
存分、わたしを……貪ってくれればいいの」

 恥じらいもなく幹也を求める言葉。
 私はきっと、こんなに自然には言えない。
 鮮花もきっとそうだったはずだけど、今は
もう、その垣根を越えている。

「さあ――来て、幹也……」

 紅い花弁のように唇を歪めて、鮮花はびっ
くりするほど大人っぽい笑みを幹也に投げる。
 ……ああ。鮮花のやつ、こんな顔して幹也
を誘惑したのか。
 それでまんまと成功して、挙句に性交して
る。ギャグより陳腐な現実。

「じゃ……お言葉に、甘える」

 幹也が、ほのかに唇を緩めて微笑む。
 鮮花の身体を抱き締めて、繋がった部分へ
自分の腰を打ち上げる。
 
「――あ」

 幹也が動く。幹也から、鮮花を求めてる。
 それを見て、夢や間違いであったかもしれ
ないものは、揺ぎ無い現実に変わって私を襲
った。

「ん、っ……!」

 小さく震えて、幹也が鮮花へ密着する。
 股間のものが、一際深く埋没する。

「はっ……あ、ンっ、幹也ぁぁっ……!」

 鮮花の甘ったるい声が、遠い。
 私が、淡い。
 幹也が私の隣から消えてしまったんだと、
絡み合う二人の姿で確信して。
 ズレた歯車みたいに、頭はぎこちなく停止
ってしまった。

「ンぁ――あ、はぁぁッ……! すご、大、
きっ……!」

 幹也のズボンから突き出たものに何度も貫
かれ、鮮花は歌うような悲鳴を漏らす。
 見せつけるように脚を開いて、その中心、
女の部分で幹也を受け容れ締め付ける。
 陳腐というなら、それを、呆けたように見
つめつづけるこの私だろう。
 ――幹也とははっきりと恋人だったわけじ
ゃない。でも、それに近いものを感じていた。
 その幹也を、よりにもよって妹の鮮花に寝
取られた。
 怒るでもなく、問い質すでもなく、私は。
 こうやって盗人のように息を潜めて、二人
の行為に見惚れている。
 馬鹿なのは幹也じゃなくて、この私か。

「……いいや、違う」

 やっぱり、幹也も馬鹿だ。
 私をほっぽって、別の女の色仕掛けにあっ
さりやられてる。

「それも、血の繋がった妹だぞ。変態っ――」

 私が見ていることなんて気付かずに、恥ず
かしい格好で繋がってる。こんな時までのん
びり鈍いなんて、許せない。
 ……なんか、また頭に来た。
 浮気したなんて怒るのはお門違いだろうけ
ど、私にだって憤慨する権利くらいはある。
 鮮花としちゃうんだったら、初めから私に
なんて近付かなければ良かったんだ。
 思わせぶりな態度なんて、さりげない優し
さなんて、くれなくて良かった。
 それを全部押し付けた後で、私の前で鮮花
を抱くなんて。
 断言しよう。私は黒桐幹也を甘く見ていた。

「ふん……鮮花もだけど、お前も結構タヌキ
だよな、コクトー」

 私が思うより、幹也が大胆だったのか。
 幹也の期待より、私が臆病だったのか。
 ともあれ、確実にすれ違いはあったのだ。
 だから幹也は、鮮花を抱き締めている。
 私が言えずにいた言葉をきっと鮮花は言え
て、……幹也は、それを受け容れた。

「……でも」

 それは、私のせい?
 幹也が鮮花に惹かれないだけの努力を、私
がしてこなかったから?
 確かに私は無愛想だったかもしれないけど、
私なりに歩み寄ろうとしていたつもりだ。
 それこそ、邪険にしたことなんてない。
 だってのに――なんなんだ、コレは。

「……そもそも。なんで鮮花なんだ、変態」

 問題はそれだ。
 他の女なら諦めも――つくかは解からない
けど、一応の説得力はある。
 けど、相手が鮮花なら話は別だ。
 鮮花が幹也に好意を持っているのは知って
いたけど、まさか幹也のほうがそれを受け容
れるなんて思わなかった。
 あの現実主義者の一般論者が、近親相姦だ
なんて禁忌を理解するはずはない、って。
 でも、現実に二人は睦み合っている。

「あ……みきや、幹也っ……! もっと、強
くぅっ……!」

 幹也の腰が浮いて、鮮花を貫くものが深々
と内側へ沈む。その動きに合わせる鮮花にも
ぎこちなさはなく、むしろ艶が薫る。
 それで、二人の行為が一度や二度のものじ
ゃないと気付いた。
 つまりは、幹也がどこかよそよそしくなっ
たこの一月、二人は甘ったるい蜜月の真っ最
中だったというわけだ。

「……へーえ」

 得心が行ったと同時、むらむらと苛立ちが
込み上げる。
 なるほど、そりゃあよそよそしくもなるか、
幹也。私でもそうするよ。
 でも、いつこうして私が訪ねてくるかもし
れない場所で、堂々と絡み合う度胸までは自
信がない。
 でも――あるいはそんなことさえ忘れるく
らい、鮮花に参ってるのか。
 参らせるだけの誘惑を、鮮花はしたのか。
 ……私に、そんなコトが出来るのか?
 自問して、きゅっと息が詰まる。

「――くそ」

 断りもなく私のそばから消えた幹也を、許
せない。私の前をあっという間に抜き去って
いった鮮花を、許せない。
 そんな二人から、どうして、私は目を離せ
ないのか。
 自分に苛立ちながら、繰り広げられる淫劇
にくぎづけになる。そして、二人のゆらぎは
一際に激しさを増した。

「ねえっ……にいさん、きょう――も、壊れ
る、くらいにっ――! このままッ……最後
まで、してくださいっ……!」

 主に甘える猫の哀願。
 溢れる情熱を隠そうともせずに、鮮花は艶
っぽく幹也に迫る。
 そして、同じく禁断の愛欲に身を任せた幹
也も、その願いを受け容れた。

「あ、ぅ……んっ! にいさんの、指……!」

 痺れたような鮮花の吐息。
 その白雪みたいに綺麗な肌を、幹也の指が
撫でまわす。
 ぴんと上向いた乳首、小刻みに震える腰の
くびれ、惜しげもなく晒された丸みのある尻。
 至るところを、蜘蛛のように五指が這いま
わる。

「い……いっ、触られると、熱く、なって…
…! もっと、触れて――みき、やっ……!」

 鮮花は撫でられて悦ぶ小動物のように身を
くねらせる。大きな波を纏って、何度も股間
の亀裂を幹也に擦りつける。
 じゅぷ、じゅぷと、妖しくていやらしい音
が響く。

「あ……んっ――!」

 うねるように揺らめく鮮花の腰へ、幹也の
両手が絡みつく。
 そして、幹也は鮮花を自分のほうへ引きず
るようにして、股間のものを強かに打ち込む。
 僅かに覗いたそれはまるで棒。
 充血し、そそり立って、まっすぐ見られな
いくらい、いやらしい。

「く……ッ!」

 融けるくらいに密着すると、幹也は鮮花の
細い腰を捉えたまま激しく動き出す。
 互いにゆらゆらと不規則な屈折をぶつけて
いた腰が、まっすぐで力強い律動に変わる。
 あの肉の棒が、何度も鮮花の中に飲み込ま
れる。

「きて――来て幹也、もっと、わたしの、中
にっ……! わたしに、ぜんぶ、にいさんっ
……!」

 鮮花も大胆に背を反らして、ジャンプする
みたいな激しさで身体を幹也に打ち付ける。
 その度に汗で光る背筋と黒髪が揺れて、鮮
花のくぐもった嬌声が響く。
 幹也だけじゃない。
 鮮花だって、普段は絶対聞かせないような
可愛げでしおらしい声で喘ぎ鳴いている。
 それはきっと、女としての鮮花の顔。

「……ンっ、あ、はぁ、んっ……! 兄さん
の、なかで、膨らんでっ……あぁっ、もう―
―弾け、そっ……!」

 幹也を受け容れた場所をいとおしげに指で
撫で、鮮花はうっとりした表情のまま兄の上
で躍る。

「く、鮮花っ……!」

 鮮花の律動に合わせ、時には素っ頓狂なタ
イミングで腰を浮かせて、幹也もまた行為に
没頭している。
 肉と肉との交わりは相当に感覚的なのか、
自分の上で鮮花が揺れる度に幹也もまた耐え
るように顔を歪める。
 ああ、みんな私の見たことのない顔。
 私には見せてくれなかった顔。

「――ばか」

 聞こえてもいいやと思いながら、ぽつりと
漏らす。
 言ってやらずにはいられなかった。
 置いてけぼりが、一人ぼっちが悔しくて。
 こっちが言われるなら兎も角、幹也に恨み
言を吐くなんて思わなかった。
 でも、オマエのせいなんだからな。
 ……謝ってなんか、やらないんだ。

「あ……びくびく、してっ……もう、来るの
……? ン……あっ、に、さぁっ……!」

 潤んで期待に満ちた声音。
 二人の荒い吐息が絡む。
 そして、くちゅくちゅと響く艶かしい歌。
 およそ肉どうしがぶつかっているとは思え
ない、卑猥な水音。
 
「く……うっ、はあぁ……っ、鮮花――」

 時折幹也が顔を上げて、そこへ鮮花が唇を
合わせる。二人の手が互いの首に絡み合い、
寝転がるようにして何度も唇を貪る。
 股間だけじゃない。
 幹也と鮮花は、いまや唇で、肌で、身体じ
ゅうで一つに重なっている。

「にい――さん、兄さんっ……! もっとっ
……つよく、激しく抱いてっ……! 
 このまま、わたしの、なかで――!」
「よ、し……!」

 熱っぽく抱き合いながら、二人は際限なく
結合の勢いを増していく。鮮花は幹也のもの
を支点にして、独楽を回すように腰を使う。

「ん……くぅっ、熱いの、擦れてっ……!」

 半ば埋もれた肉の柱が、繋がったまま振り
回されて鮮花の中に飲み込まれる。
 再び引きずり出されると、柱は鮮花の中で
たっぷりと体液に濡らされて、涎を垂らした
みたいに粘って光る。
 卑猥さに、ごく、と渇いた喉へ唾液が絡む。

「う……鮮花の中も、すごく、熱い……!」

 幹也も負けてはいない。
 鮮花の背を抱きながら、惜しげもなく開か
れた脚の間に何度も腰を打ち上げる。
 鮮花の亀裂に、剣のように突き立つ肉柱。
 ――あれが、幹也の。
 強く意識して、頬に熱いものが走る。

「あっ、あっ、はぁぁっ……! んっ……兄
さん、凄い――もう、とまら、ないっ……!」
「僕も……このまま、いくよ、鮮花……!」

 鮮花の耐えかねたような甘い悲鳴。
 二人はまた唇を重ね、ぴったりと身を寄せ
合って動き出す。これまでよりもずっと悩ま
しく、情熱に満ちた肉体の衝突。
 燃え盛る炎のような交わりに、私は意識ま
でも捕われてしまう。
 こんなの見たくないのに、それでも、絶望
的に目を離せない。

「あ――く、るッ……! 兄さんっ、わた―
―私、もう、ダメぇっ……! はやく……兄
さんも、来て、くださいっ……!」

 幹也を抱き締めたまま、鮮花が妖艶に背筋
を震わせる。密着した二人の顔と対照的に、
別の意志を持つかのように浮いては落ちる丸
い尻がなんとも艶かしい。
 とん、とんとリズム良く上下していた柔肉
は、いつしか弾む鞠のように忙しく断続的な
ものへと変わっている。

「あ――ふっ、あぁっ、幹也、幹也っ……!
 一緒に……わたしのなかで、弾けて、しま
ってっ……!」

 重なる肌。重なる音。
 絡み合う吐息さえ歌のようで、二人の周り
に広がる熱が、私の頭を霞ませる。

「ふぁ、やっ……幹也、もうっ……!
 来て、出してぇっ……!」
「あ、ざかっ――」

 一度、二度、三度、
 壊れんばかりに弾けあう二つの裸体。
 鍵がはまるみたいに鮮花の中へ幹也が沈む。
 そして、ぴったりと繋がりあったまま、二
人の身体がびくりと痙攣した。

「あ……っ、出、てる、熱いのっ……! ん
っ、ふぁぁぁぁっ……!」

 鮮花の背がくの字に仰け反って、繋がった
部分からびくびくと震えが昇っていく。
 幹也もぎゅっと鮮花を抱いたまま、鈍く身
体を震わせた。
 そのままか細く身体をくねらせながら、二
人はしばらく呆けたように震えつづける。
 絶えず続いていた躍動が止まった。
 ――二人の交わりが済んだんだ。

「ん……っ、鮮花、だいじょうぶ……?」
「……うん、とってもいい気持ち……今日も、
すごく素敵……幹也」

 頬を紅潮させたまま、鮮花は幹也の上でく
すりと微笑む。
 上体をやや起こして、繋がったままの股間
をすりすりと甘えるように寄せると、それに
反応するように幹也も小さく痙攣する。

「あは……私の中で震えてる。まだ、足りな
いんですか……?」

 うっとりと濡れた瞳で幹也を見下ろして、
鮮花は楽しそうに頬を緩ませる。さすがの幹
也もやや動揺した様子で、何度か小さく首を
振る。
 その頬に触れるだけのキスをして、鮮花は
膝立ちのまま腰を持ち上げていく。

「ん……っ……」

 くぐもった声とともに、鮮花の股間からず
るずると幹也のものが抜け出てくる。
 それを見て、思わず小さく声を漏らしてし
まった。

「あ……す、ごい……」

 幹也のものは、まだ上向きにそそり立った
まま、べったりと白いもので汚れていた。
 あれが、幹也の体液。
 精液、というものなんだろう。
 鮮花の中に吐き出して、それでもあれだけ
収まりきらずに、沢山くっついてる。

 どろどろして、糸を引きながら流れて。
 それが、肉の柱の奇妙でいやらしい形とあ
いまって、本当に……すごい。
 同時に、紛れもなく二人がセックスをして
いたんだと、今更ながらに叩きつけられる。

「んんッ……お腹に、たくさん……」

 鮮花の股間のワレメからも、同じ白濁がと
ろりと零れる。雫はむっちりとした太腿を伝
って、床にぽたりと染みを生む。
 そして、鮮花は肌をほんのりと赤らめたま
ま、緩慢にまた動き出した。

「……鮮花?」

 鮮花は幹也の前に移動すると、まだ寝転ん
だままの足を開かせて――
 その間にもう一度寝転び、そそり立った肉
の前で頬杖をついた。

「そのままでいて、兄さん……ふふ、後始末、
してあげますから」

 子悪魔的な笑みを浮かべたあと、

「あ、っ……」

 鮮花は、白い粘りでたっぷりと汚れた肉の
柱へ、その細い指をぬらりと絡めた。
 ゼリーのような幹也の体液が、指と指の間
にぬるぬると絡みつく。

「ん……少し萎えたけど、まだこんなに硬い
……素敵よ、幹也……」

 ほうっと吐息を漏らして、立ち上がった性
器を眺めながら、鮮花が動き出す。
 肉茎を握って、バーテンがシェイクをする
ように何度か上下に擦り立てる。
 その度に精液まみれの肉棒と鮮花の指が絡
んで、にちゃにちゃと卑猥な音を立てた。

「う……あっ、鮮花……!」

 寝転がったまま、幹也が首だけを起こして
快楽に震える。鮮花は手の動きを休めないま
ま、窘めるように、唇を尖らせる。

「そのままよ、兄さん……動いたら、もっと
強く、しちゃうから……」

 お仕置きと言わんばかりにスピードを上げ
て、鮮花が目の前の性器を指で摩擦する。
 キノコのようにくびれた部分に残っていた
精液はほとんどが鮮花の指に拭い取られ、鮮
花は肉棒をしごきながらまたそれを幹の部分
へ擦りつけている。

「うあ……あっ、くっ……!」

 鮮花の指の中で性器が震え、幹也も同じよ
うに背を仰け反らせる。それを熱を帯びた瞳
で眺めながら、鮮花は飽きるでもなく男性自
身を擦りつづける。

「気持ち、いいですか……兄さん?」

 飽きるどころか、頬は赤らんで、唇は悦楽
につり上がっている。
 鮮花は、紛れもなくこの行為に激しい興奮
を覚えている。

「んっ……はぁっ、そろそろ、いいかな……」

 肉茎から白いものが見えなくなるまで擦っ
て、ようやく鮮花は指を離した。
 吐き出す息が、熱く湿っている。

「ふふっ……ほら、兄さんの、こんなに残っ
てる……」

 肉茎を握っていた五指が開かれる。
 そこには、幹也が吐き出したものの残滓が
あからさまに残って糸を引いていた。
 鮮花は指を曲げ、くねくねと互いに擦り合
わせて感触を確かめている。
 そして、まだ僅かにひくついている性器に
目を合わせると、

「……それじゃ、ここからがほんとうの後始
末よ、幹也」

 鮮花と私が喉を鳴らすのは、多分同時だっ
た。そうでなかったら気付かれていたかもし
れない。

「――綺麗に、してあげる」

 呟いて、鮮花は小ぶりの唇を蕾のようにゆ
るゆると開いていく。そこから突き出すのは
雌蕊(メシベ)じゃなく、濡れた赤い柔肉。
 震える舌先が、いや、鮮花の顔そのものが、
次第に幹也の股間へ近付いていく。
 ……その先を想像して、頭に血が昇る。

 ――冗談だろ、鮮花。
 まさか、そんな、コト。

「あ……んっ――」

 私の戸惑いなんて知らん顔で、鮮花は予想
していた通りの行動を実行した。
 その舌で、震える幹也の性器を、ぺろりと
舐めたのだ。

「っ……! え……あっ……!?」

 その、夢みたいな現実を、うまく認識でき
ない。そんなトコ、口で、する、なんて。

「ん、ふっ……まだ、匂い、すごくて……く
らくら、する……」

 味を確かめるように口内で舌をくゆらせて、
鮮花はまた丸く膨らんだ部分を擦るように撫
でていく。
 撫でる。幹也のものを、舌で――

「……え、何……?」

 信じられない。
 そりゃ、私だって初心な子供じゃないから
男女の営みの仕組みは心得ている。
 男である部分と、女である部分の交わり。
 でも、これはそんなものとは違う。
 食事やくちづけをする場所で、その――男
のものに、触れるなんて。

「ん……ぁむっ、ふぁ……ぁンっ……」

 くびれた先端を洗うように、鮮花の舌があ
ちこちへ躍る。カーブを描いた前部を滑り落
ちるように柔肉が拭い、カサの部分にキスの
雨が振る。

「ん――っ、ふぅ……」

 脇から膨らみをつぅ、と舐めあげて、先端
に開いた穴を舌の先でちろちろとくすぐる。
 それは、あたかもソフトクリームや飴を舐
めるかのような自然さで。
 鮮花は、嫌悪するどころか自ら貪るように
幹也の性器を口にしているのだとわかった。
 その事実が、昨日まですぐ近くにいた鮮花
との距離をはるか彼方へ引き離したように思
えた。
 ……私は幹也に望まれても、きっと同じよ
うに舌で触れることなんてできないから。
 それきり、頭はうまく働かなくなった。
 淫らな夢のような鮮花の姿を、魔法にかか
ったように見つめる。

「んふ……ぅっ、幹也の味、いっぱい……全
部、とってあげますから……」

 蕩けた顔を屹立へ近づけて、鮮花は両手で
ぐっと肉柱の根本を握る。舌がミルクに咽ぶ
子犬の熱心さで動いて、またくびれた先端の
汚れを拭いだす。

「は――ンっ、む、んふぅっ……」

 白濁の残滓は熱っぽい息遣いとともに喉に
通されて、鮮花は生臭い雫を嫌な顔一つせず
に飲み乾す。

「んん……っ、ふぁ、あンっ……」

 否、拭われるだけじゃない。
 屹立は、また別の体液――鮮花の唾液――
で濡らされ、妖しい光沢を放つ。
 そこへ濡れた鮮花の舌が蛇のように絡む。
 うっとりとペニスに口付ける姿は、不気味
な生物に情熱のキスを浴びせる美女のようだ
った。

「う……鮮花、そんなに、強くっ……」

 股間に吸い付いてくねくねと身を捩る鮮花
に翻弄されながら、幹也も弱々しく痙攣する。
 亀の首のような部分を鮮花の舌が這い回っ
て、辺り構わず唾液を塗りたくる。
 ほどなく、先端の膨らみはすっかり唾液で
浸される。

「ん……はぁッ」

 幹也の味を堪能した鮮花が名残惜しそうに
顔を上げる。夢中で舌を使っていたせいか、
頬には汗の珠が浮いて、唇から漏れる吐息は
荒い。
 けれど、肉棒と幹也の顔を捉える二つの瞳
だけは、一層に増した熱を纏って爛々と輝い
ている。

「今度は……こっち」

 鮮花は小刻みに震える男根を真上から見下
ろすと、開いた唇の中へ膨らみをすっぽりと
包み込む。

「ん、ふ……ぅっ、んんッ……」

 じゅる、と喉の鳴る音がして、鮮花の頭が
さらに幹也の股間に密着する。
 ――即ち、咥えたものを、喉奥まで飲み込
んでいる。

「ふぅ……むっ、ンっ、ふ、んんっ……!」

 鮮花の唇が窄まって、屹立を含んだままの
口内で肉と唾液の交わる水音が響く。
 ぐじゅ、ぐじゅとくぐもった異音は、鮮花
が含んだ男根に吸い付き、舌を寄せている証
か。先端を充分に味わい洗浄して、今度は幹
の部分の掃除にかかっている。

「ン……ッ、ふぅ、んぁ……むぅっ、んっ…
…!」

 鮮花は大胆に頭を揺らし、苦しげな声さえ
漏らして幹也のものを咥える。
 喉を使うと形の良い頬がへこむ。
 幹から舐め取ったものを嚥下しているのか、
忙しく喉がこくこくと蠢く。

「あ、鮮花……もう、充分っ……!」

 幹也の制止も聞く耳持たずに、鮮花は子悪
魔的にくりくりと瞳を揺らしながら舌を使い
つづける。

「ん――っ、んん……ッふ……」

 お辞儀をするようにゆっくりと頭を下げ、
幹全体を包んだ唇をじわじわと滑らせる。
 かと思えば、舌が覗くくらいに口を開いて
呆けた表情のままで舐め上げる。
 てろてろと左右に揺らめく柔肉は、ひどく
扇情的な淫虫のようだった。

「はぁ……あっ、あンっ……」

 斜めに反った男根を舌先で何度も突付いて、
鮮花はようやく唇を離した。
 ずっと堪えるように腹筋を緊張させていた
幹也も、やれやれと言わんばかりの仕草で身
体を弛緩させる。

「相変わらず凄いな、鮮花は……後始末にし
ては念入りすぎるんじゃないかな」
「――もう。少し鈍すぎるんじゃないかしら、
兄さんは」
「え、どうして?」

 幹也が首を傾げると、鮮花は口から抜いた
ばかりの男根を爪先でぴん、と弾く。

「う、あっ……」
「念入り過ぎて当然。……もうとっくに、後
始末は終わってるんだから」

 要領を得ない幹也に、鮮花は余裕の笑みで
反撃する。その仕草も、見たことがないくら
いに大人びて女性的だった。

「でも、今日はまだ離してあげない。ここか
らは――再戦の、準備です」

 屹立を勝ち気な瞳で眺めて、鮮花は幹也を
真似るように細い首を傾げる。
 唇は、妖精みたいに無邪気に綻んで。

「いただきます――幹也」

 囁きとともに、鮮花は横からはむ、と唇で
幹を挟みこんだ。
 そのままハーモニカを演奏するように、く
い、くいと頭を振って唇を滑らせる。

「は……ぁッ、あふ……むっ……ン……!」

 唇を強く吸いつけ、幹の表面を引っ張るよ
うにして鮮花の頭が上下に往復する。
 それは吸引というよりはむしろ摩擦。
 ぴったりと寄せられた唇の間で、刺激を浴
びた幹也のものがぴくぴくと卑猥に震える。

「……っ! あ、鮮花……」

 幹也は表情を固くするものの、鮮花の奉仕
を咎めようとはしない。身体を起こして、も
ぞもぞと股間で躍る鮮花の髪を優しく梳いて
やる。
 鮮花は表情を蕩かせて、奉仕に一層の情熱
を込めていく。

「ん、っ――」

 鮮花の唇から覗いた、健康的な白い歯。
 その硬質が、張りつめた男根へかり、と突
き立てられる。

「は――っ、くっ……!」

 しかし、息を呑む幹也に苦痛の色はない。
 鮮花はちらちらと上目遣いに表情を覗いな
がら、くすぐるような甘噛みを繰り返してい
るのだ。

「はんっ……むっ、ン……あぁっ……」

 屹立の根本からカサのくびれまで一気に上
ると、鮮花は溝になっている部分を丹念に舌
で磨いていく。ちゅるちゅると唾液の絡まる
音がして、鮮花の上でまだ男根が活性する。

「鮮花、そろそろ手も使って……」
「んっ……はい、兄さん……」

 幹也が促すと、鮮花は傾けていた頭を起こ
して、また口の中へくびれをおさめる。

「ぁむ――んっ、ふぅぅっ……」

 唇でくびれに吸い付いたまま、鮮花は両手
をするするとペニスへ絡めていく。
 片手で幹を握り、もう片方で袋を包み込ん
で柔らかく愛撫する。

「んん……んっ、ふっ……ぁんっ、ん、ふぁ
ッ……!」

 たっぷりと喉を使って吸い立てながら、両
手をふんだんに使って幹を擦り、二つの丸み
を撫で転がす。

「う……あっ、鮮花……!」

 貪るような舌使いに、幹也も腰を突き出し
て快楽に悶える。差し出されたペニスの幹を
愛しげに擦り、唇で愛撫しながら、鮮花はう
っとりと目を閉じる。

「んんッ……むッ、ン――! ふぅ、んっ、
んぁっ……」

 くぐもった声の下で、繊細な指が磨くよう
にペニスを摩擦して蠢く。振動を受けて揺れ
る二つの球体を、玩具を弄ぶようにこりこり
と撫でる。
 どくどくと脈打って暴れる男根。
 しかし鮮花の唇から、十本の指から逃げる
ことなどできない。
 救いもなく、快楽を無限に供給される屹立
は風船のように固く大きく膨張する。

「――くっ、そろそろ……キツい、かな」

 眼鏡の下で眉を顰める幹也に、鮮花はぼん
やりとした瞳を開いて小さく首を振る。

「ン、っ、――」

 ――まだ、ダメ。
 そう瞳で訴えて、鮮花は唇から幹也を解放
した。いや、したかに見えた。
 次の瞬間。

「ふぁ……ンっ」

 鮮花は袋に回していた指も幹に添えて、両
手でくい、と男根を自分のほうへ引き寄せる。
 そうして、自分からも幹也自身へ顔を寄せ
ていく。固く強張った肉柱へ、柔らかにたわ
んだ鮮花の頬が近付いて。
 ……やがて、ふたつの距離はゼロになる。

「あ……はぁっ、あつ、いっ……!」

 鮮花の熱に浮かされた喘ぎ。
 その光景の衝撃に、あらかたの機能を停止
していた私の意識が再生する。

「あ、っ――」

 仔犬が主にじゃれて擦りつくように、鮮花
は、その柔らかい頬を凶暴にそそり立った肉
の柱へ摺り寄せていた。

「あ……にいさん、震えてるの、わかるっ…
…ん……ッ、あ、ぁンっ……」

 夢見るような声で、呆けた表情のまま鮮花
は顔を揺り動かす。
 その度に指で押し付けられたペニスが頬に
擦れて、先端から滲んだ雫が鮮花の肌に筋を
引く。

「ふぁ……あっ、にい、さんっ……!」

 鮮花は顔を汚す粘りを嫌がりもせず、むし
ろさらに甘えるようにして頬を摺り寄せる。

「んぅ……はっ、ふぁッ……」

 控え目に言っても充分なほどの美貌を備え
たその顔に、グロテスクな肉の柱が密着して
上下に波打つ。
 そこへ恋人にするように頬を寄せる鮮花の
姿が、倒錯的な興奮を呼び起こす。

「んん……ンっ、あっ……すぅって、熱くな
って……は――あぁッ……」

 二つの手がペニスの形を確かめるように握
って、やわやわと揉みしだく。
 十の指による執拗な愛撫で男根はむくむく
とそそり立ち、頂から粘った涎を零す。

「また……出てきた。ねえ、幹也……もっと、
んっ、たくさん……」

 絹のような女の素肌、それも柔らかい頬が
豊かに跳ねながら屹立を滑る。
 こつん、とくびれが頬骨に触れ、鮮花の顎
から目尻にかけてを幹也の体液が濡らす。

「鮮花、柔らかい……それに、あったかい、
ね」
「にいさんは、すごく硬い……んぁっ、かた
くて、熱いです……」

 くしゃくしゃと頭を撫でられ、無邪気に甘
えながらも、鮮花はさらに熱と卑猥さを増し
ていく。

「んふ、ぁ……あっ、は――ぁっ……」

 吹奏楽の演奏のように鮮花の指がくねる。
 か細い爪先が、四方からペニスをくすぐっ
ていく。屹立の先端に、濡れた頬肉が覆い被
さって、また動き出す。

「くっ――!」

 すり、すりとくびれが筆のように鮮花の火
照った頬をなぞる。
 幹也は熱い息を漏らして、妹――いや、今
は恋人か――の痴態に忘我で見惚れる。
 白く凝った粘りをルージュのように頬へ引
いて、小さく震えながら鮮花は目を開く。

「兄さん、そろそろ……」
「……わかった。じゃ、最後までお願いして
いいかな」
「……はい。最後はちゃんと――口で、しま
すね」

 すっかり男の体液で濡れた頬を上げると、
鮮花は寝惚け眼でペニスをじっと見つめ、

「ん……ふっ――」

 かぶりつくような大胆さで、赤黒いくびれ
を唇の中に飲み込んだ。すぐにちゅるちゅる
と喉を使う音が立ち、頭が振り子のようにリ
ズムを持って動き出す。

「う……わ……」

 さっきまでは半分意識が飛んでいたから良
かったものの、改めて見るとやっぱりコレは
……凄すぎる。
 鮮花の唇。いつも私に憎まれ口を叩きつけ
る場所で、幹也の――ペニス、を、含んで、
舌を絡めている。
 なんて倒錯的で、いやらしい光景。

「……っ」

 ……それに、意識が戻ってからなんだか身
体がヘンだ。わけもなく喉が渇いて、汗が吹
き出て。息が、喉に絡みつくみたいで。

「ん……くっ」

 熱い。カラダ、溶けそうなくらいに。
 幹也の股間にむしゃぶりつく鮮花を、身悶
える幹也を見ているだけで。
 私がされてるわけでもないのに、鮮花が舐
める場所――足の間が、熱くなる。
 気付けばもじもじと脚を擦り合わせている。
 瞳は、魅入られたように二人へ注いだまま。

「は――あぁっ……」

 不意に、鮮花は口内で弄んでいたくびれを
離して息をついた。

「ん、ふっ……それじゃ――本気、出します
から」

 鮮花が妖艶に微笑む。
 そして、からかうような仕草でぺろりと舌
を突き出すと、それをペニスの先端――くび
れのなお先端へと、近付ける。

「んぁッ……」
「あ……!」

 喉まで出かけた声を必死に押し戻す。
 でも、そうできたのが不思議なくらいに頭
は混乱する。
 だって。

「ぁむ……ぅっ、ふぅ――あ、んっ……」

 幹也のペニスの先端にある亀裂。
 自分の股間にあるような肉のワレメに、鮮
花が舌を滑り込ませて、いたから。

「くぅ……あ、鮮花、凄い……!」

 しつこいくらいに先端の亀裂を舌で広げ、
ぴちゃぴちゃと啜りながら、鮮花はまた両手
でペニスを強かに扱く。

「むぅ……んっ、ふぅ……うっ、ふぁ、うぅ
……んっ!」

 荒々しい息遣い。
 小さな亀裂を広げて、鮮花の舌が幹也へ侵
入していく。
 とろとろと、柔肉を垂れ落ちる唾液。
 ワレメに流れ落ちるだけでは足りず、溢れ
たものはくびれを伝っていく。

「……んっ、ふぁ……兄さん、また、大きく
……もう、はじけそう、ですね……」

 垂れて来た唾液を指に絡めて、鮮花は熱っ
ぽくペニスを摩擦する。屹立を濡らし、鮮花
の指を濡らすのは、唇から溢れた唾液なのか。
 それとも――幹也が、鮮花に攻められ染み
させた快楽の証か。

「たくさん――鮮花に、ください……んっ…
…」

 舌が亀裂を覆い隠し、上から押し潰すよう
にして何度も往復する。幾重にも唾液が塗り
込められて、ほの暗い光を放つ肉柱は何か別
のもののようにエロティックだ。

 指も、止まる事を忘れてしまったかのよう
に幹也を握り、擦りつづける。
 ずる、ずると硬い肉の擦れる音。
 場違いに、ペニスは時を増すごとに様々な
雫で濡れそぼる。

「あ……幹也、鮮花……」

 気付けば、ペニスや唇ばかりじゃない。
 幹也も鮮花も、顔は真っ赤に燃えて、水で
も浴びたみたいに汗だくになって。
 ――二人とも、とろけてる。
 凄い。好き合う同士の時間って、こんなに
も熱くて、くらくらするほどいやらしい。

「――ふ、ぁっ……」

 ……やだ。どうしてか、私まで汗が滲んで。
 足の間が、さっきよりもずっと熱い。
 頭が、ふわふわしてくる。
 ナニモ、考えられない。
 喉が渇いて、それ以外は滅茶苦茶に潤んで。

「んんッ……」

 吐き出す息まで熱々のスープみたいだ。
 身体じゅうかっかして、泣きたくもないの
に涙で視界がくしゃくしゃになる。
 ……ああ。でも、悲しいのかな。
 幹也がいない、一人ぼっちの今は。

「んん……むッ、ンぅ――ふっ、むぅぅっ…
…!」

 鮮花が苦しげに鼻を鳴らして、また一層に
愛撫が激しさを増した。縋るようにペニスの
根本を握って、先端に吸い付いたまま蛇がう
ねるように頭を振る。

「く……うく、鮮花、もうっ……!」

 じゅっ、じゅっと舌と喉の絡む音が響いて、
幹也が堪えかねたように身を震わせる。
 鮮花は目を閉じたまま、畳み掛けるように
顔を押しつけ、さらに喉を使ってペニスをお
もいきり吸い立てる。

「ん、んっ、ふぅ……んっ、ンふっ……!」

 きつく握られたままだった指も、情熱を抑
えきれなくなったかのようにまた動き出した。
 ペニスの根本を両手で包み込んで、ねぶる
ように絡みつく唇から引き離さんばかりに激
しく引き扱く。

「は、くっ……鮮花っ……! この、まま…
…!」

 荒い息に紛れて、言葉の後は聞こえなかっ
たけど。
 “このまま、最後まで”
 そんな願いを鮮花は受け取ったのだろう。
 持ち上げた瞼から蕩けた瞳をちらりと覗か
せると、悪女のウインクで応えた。

「んん、ッ……! ふむ――ンっ……!」

 じゅるり、と唇が滑って、ペニスは中ほど
まで鮮花の口に埋没する。キスをするように
きゅ、と窄められた柔肉が、脈打った屹立の
肌に吸いつく。

「ふっ、はぁ……ンっ、んむぅ、んッ……!」

 子犬のように鼻を鳴らして、鮮花はストロ
ーというにはいささか卑猥で逞しすぎるソレ
を啜る。その下で、ずるずるとこちらにまで
はっきりと聞こえてくる摩擦音。
 擁くような熱心さでペニスを愛撫する、鮮
花の指先。

「はぁ……はぁ、あっ、んっ……!」

 自分のものなのか、鮮花のものかも不確か
な吐息。上下に勢いよく跳ねる指は、幹也の
ものから垂れた雫ですっかり濡れて、時折糸
を引く。
 その内側で、火山みたいに震える太い肉柱。
 ……もうすぐ、またあの白い雫が。

「っ――」

 鮮花の股間に、指に纏わりついた真っ白い
粘りを思い出したら、背筋を熱いものが昇っ
ていく。
 熱い。頭も、頬も、服の中もみんな、汗に
なって流れてしまいそうで。
 ただ見てるだけの私まで、もう堪らない気
分になってくる。

「は……んっ――」

 気がつけば、熱を出したみたいに疼いてい
る場所を指で押さえていた。飛び出そうとす
る熱いナニカを必死に留めるみたいに。
 でも、鮮花と幹也は、もう止まらない。
 私だけが置き去りなのに、なんで、こんな
に肉(カラダ)もキモチも昂ぶってる?

 くらくらする、式(ワタシ)。
 目の前で。とろとろの幹也と鮮花が、熱い
熱い風船になる。

「う、あっ……!」

 幹也が低くうめくのと同時、鮮花の顔がず
るりと股間に沈む。

「ん、んむ……ッ、ンっ――!」

 呼応するように、鮮花もくぐもった声を上
げる。震えた指がペニスの幹をぎゅっと握り
締めて、その震えが、流れるように二人へ伝
播した。

「く、うぁぁぁぁッ……!」

 背を大きく反らして、幹也が弾けた。
 鮮花に包まれたペニスに、根本から何度も
何度も震えが走る。

「……んんッ、む、ンぅっ……!」

 鮮花もぴくりと震えて、ペニスを含んだま
まの唇を小さく痙攣させる。
 ……出てる。
 あの、白い幹也の精液が、鮮花の中に吐き
出されてる。

「……あ」

 鮮花の喉が揺れ動いている。
 こく、こくと、口の中に溢れた粘りを、

「……鮮花、飲ん、でる……」

 頬を染め、眠るように目を閉じたまま、男
の体液を嚥下する鮮花。その仕草を眺めてい
るうち、私の喉までがごくりと鳴った。

「はぁ……あっ、く、鮮花……まだ……」

 弱々しく漏らして、幹也は僅かに腰を前に
突き出す。
 股間の性器が、また一つ大きく波打つ。

「んっ……! んふ、ぁんっ……!」

 また新たな精液が飛び出したのか、鮮花は
小さく悲鳴を上げながらも従順にそれを飲み
乾していく。

「ン……ふぁっ……」

 息苦しさからか、鮮花は窄めていた唇を呆
けたように広げる。

「あ、っ……!」

 鮮花の弛んだ唇から、吐き出された精液が
唾液のように零れ落ちる。顎を伝って、まだ
咥えたままのペニスをどろりと垂れる、白い
ゼリーの塊。

「……ん」

 鮮花は口内に残った精液を飲み乾すと、れ
ろれろと舌をくゆらせて先端の後始末をする。

「また……元気になった」

 唇が離れると、後には幹をべったりと白濁
で汚したペニスが残る。
 鮮花は濃厚な体液に指を伸ばして、絵の具
を塗りたくるように両の手へ擦りつけていく。
 二度目の放出だというのに精液は粘りも量
も衰えず、鮮花は楽しそうに指でそれを弄ぶ。

「兄さんの、いっぱい……ふふ、いただきま
すね」

 ぴちゃり、と艶かしい音。
 鮮花が、精液に濡れた指を一つ一つ口に含
んで拭っている。柔らかく咥え、根本からず
るりと吸い立てて、絡みついた白濁を余さず
味わう。

「ぁ、んぅっ……」

 鮮花の指を舐める仕草と、ぬらぬらと光る
精液があまりにいやらしくて、また足の間が
疼く。

「ん……っ。おいしい、幹也……」

 指を使って舌に粘りを塗りつけると、鮮花
はくすりと微笑んでそれを飲み干した。

「ね、兄さん。これだけ大きくなったらもう
一度くらいできますよね? 今日は橙子師も
大輔さんとお出かけだし……もう少し――楽
しみたいです」

 股間から離れると、鮮花は甘えながら幹也
の身体に両手を絡めて抱き着く。股間を擦ら
れてどきりとしながらも、幹也もまた頷きで
それに応えた。

「……そうだね。こんな風な時間があまり取
れるとも限らないし、楽しめるだけ楽しんで
おこうか」
「ええ。今度は……兄さんにしてほしいです。
 上になって、ケモノみたいに激しく……」

 鮮花は幹也から離れると、ぺたんと尻をつ
いて挑発するようにしなを作る。
 ゆるゆると、男の欲望を誘惑する蕾が脚の
間にひくつく。

「あ……」

 幹也が、昂ぶったペニスを曝け出したまま
鮮花に近付いていく。
 ……また、さっきみたいに繋がりあうんだ。
 でも、

「はぁ……はぁッ……」

 ――もう、見ていられない。
 カラダが、熱くて。
 股間の指を、今にも動かしてしまいそうで。
 いつのまにか、私もいやらしい気分でいっ
ぱいになってる。

「……だ、め」

 もう、ここには居られない。
 また二人が交わるのを見てしまったら、き
っとこの指が動く。鮮花と――幹也の睦みを
こそこそと覗き見ながら、はしたない逃避を
始めてしまう。
 幹也に、全てを問い質したかった。
 何が起きたかなんてもう分かりかけてるけ
ど、それでもアイツの口から聞きたかった。
 でも――それさえ今は手に余るんだ。

「っ……!」

 ただ、そっぽを向かれたヤツの秘め事に興
奮している自分があんまり惨めに思えた。
 それで熱くなって、恥ずかしい場所に触れ
てるのがバカらしすぎて。
 これ以上情けない自分になるのだけは耐え
られなかった。
 ――何もかもを忘れて、
 私は、現実に背を向けるようにその場から
逃げ出した。
 思い出したみたいに、ずっと瞼に引っかか
ったままだった涙の粒が、つぅ、と頬を伝っ
て落ちた。






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