「泣くからね。」
それが、去り際の士郎に叩きつける最後の抵抗だった。
いや、抵抗と呼ぶにもおこがましい、
手足の自由を奪われ、衣服とともに人間の尊厳を残らず剥ぎ取られ、
籠の中の小鳥と同等の存在にまで貶められた今の私には、
どんなに抗おうと、それらはすべて皆等しく、
檻の外の主人へ媚びへつらう惨めな哀願にしか聞こえぬのだろう。
きつく縛られている手や足とは対照的に、口だけは拘束具もなく自由なまま、
大声で助けを呼ぶこともできる、
しかし、それが身の破滅に直結すると加害者も被害者もわきまえている以上、
その一声が上げられないのだ。
「なにやってんのよ士郎ぉ〜!!!!
泣くのよ!?この遠坂様が泣くって言ってるのよ!!?
それを弟子でザコで無条件的奴隷の士郎としては助けてやるのが摂理って
ヤツでしょう!!?
この役立たず!!無能!!最下層!!平民!!痴れ者!!飛頭蛮!!
落武者!!早漏!!!!
いいから早くこの縄ほどきなさいぃ〜!!」
ぎゃー!!
うおーーーーー!!
しぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!と、
言った側から大音量でわめきちらすワタクシ、
しかし士郎はかような罵詈雑言にひるむことなく、逆に五月の青天のように
澄み切った態度のまま、この場から出て行った。
ペカーっと後光でも差しそうな笑みを浮かべて、
「それが他人にモノを頼む態度なのかな?」とか「お願いしますご主人様、って
言ってみな?」とか、陰湿ないぢめに発展しそうなところをしかし、
今日はそんな羞恥プレイに惰性で雪崩込むこともなく
あっさり、しかし決然と、
士郎は去って行ったのである。
絶対優位者の余裕というものであろうか、
とにかく私の拘束を解いてくれる唯一の希望は無情にもこの部屋から決別し、
後には置き去りにされた子犬のような私だけが残った。
さて、ここでひとまず状況を整理すると、だ。
1、全裸にされて放置されている私の名は遠坂凛、
2、そして我が手足は拘束されて身動きが取れない、
さらに詳しく状態を説明しておくと、腕は背中に回されて手首を縛り、
脚に至っては膝の裏に竹刀を挟んで、ある程度開脚させた状態で
竹刀と脚を一緒に縛り付けて体勢を固定してる。
要するに『M字開脚』という状態だ。
なのでもし誰か入って来ようなら どうしたって隠しようがない、ていうか一番奥の
部分がタイムラグなしでご開帳、
おまけにロープや竹刀には『強化』の魔術がほどこされ脱出不可、
士郎唯一の取り柄がここに来て脚光を浴びる。
3、そして、コレが最も重要なことだが、
私が置き去りにあっているこの場所が、他でもない士郎の実家である
衛宮屋敷の一室であること、
さすがに外なんかに放置したら、まったく関係のない札付き男に見つかって
襲われる可能性もあるので、ここは仏心が動いたのか、
私有地という防壁に囲まれている以上、少なくとも無関係の人間は近寄れ
ないというスンポーである。
―――――まあ、
そうはいっても私を筆頭とする第三者たちが断りもなく出入りするのを鑑みれば、
ある意味 日本でもっともセキュリティの緩いこの屋敷、
……決して安心はできぬということだ。
ああ、しかしなんでこんなことになったのだろう、
そもそもの発端といえば日に数回と とてつもなく若さに任せたペースの割に
変化の乏しい“愛の営み”がいけないのか、
来る日も来る日も、まずはキスして乳揉んでアソコを舐めて、
正常位でやって正常位でやって たまに背後位でしてから また正常位、
あっちからは騎上位もやってくれとか、せがまれることもあるけれど、
自分から男の上を跨ぐなんて恥知らずなマネなど断固拒否、
フェラチオは論外、
要するにマンネリにウンザリの性生活だった。
それに不平をもらすのは士郎の彼女として当然の権利だと思うんだけど、
それを伴うに少々言葉を選ばなかったのが問題だったのかもしれない、
『早漏』とか『包茎』とか言っちゃったからなぁ、
しかしそんなことで頭に血が上るまでいくこともないと思う、
その上報復の意味合いかなんなのか、こんな飛躍した変態プレイに走るとは、
士郎の激発によって放置プレイという未知の領域に放り込まれた私、
おそらく人生もっとも長くなるであろう一日は、
ついさっき、テープカットを済ませたばかりである。
凛様にはもう放置プレイしかない
作:40%の60L
…………With セイバー
「セイバー!!?」
よくよく部屋を見渡してみたら、私とまったく同じ状態でセイバーが転がって
いた。
具体的にどういう状態かといわれたら上記の説明を読み返せ、
要するにマッパで縛られてアソコが丸見えということだセイバーが、
この狭い六畳間、
障子を通過して仄かに差し込む明かりだけの薄暗い部屋に、
恥も外聞もなく女の一番大事な部分を晒した可憐な美少女二人、合わせ鏡の
ように向かい合っていた。
その自由の利かない肢体をユッサユサと揺さぶりながら、
「……恨みますからね、凛」
タイヘン恨みがましい眼つきで、私に非難の視線を浴びせるマイサーヴァント、
「なんで!?つーか私のせい!!?」
「当然です!!いきなりシロウに呼び出され何事かと思えば
『遠坂一人だけじゃ寂しいだろうからお前も付き合ってやれ』などと申し渡されて
この仕打ち!
いかにサーヴァントがマスターに忠誠を誓う者といってもコレは人の尊厳を
踏みにじる冒涜です!!
私はこんな屈辱を受けるためにこの時代に留まったんとちゃうありますよ!」
「セイバー落ち着いて…なんか語調が変くなってる。
ってイヤイヤ、そんな苦情だったら私じゃなくて士郎に言ってよ!
今回に関してはアイツが主犯で、私だってアナタと同じ被害者なんだから!!」
「いいえ!
あのシロウに限って、こんな人を人とも思わぬ非道を理由もなく行使するとは
断じて思えません、
どうせ凛が聞くに耐えない毒舌でシロウを罵り、彼の正常な判断力を
奪い去ったからに他ならないのです!!」
ううっ!!
さすがセイバー、のっけから鋭いところを突いてくる。
「……凛、なんで現状に満足できなかったんですか?
二人の間に真実の愛が育まれていさえすれば、手順の単一化など意識するに
も足りぬ瑣末事ではないですか、
それを奔放な我儘によって殿方を困らせ、あまつさえ私をも巻き込んで
こんな変質的な余興を催すよう差し向けるなど人格を疑われますよ?」
「ちょっと待て!
人を捕まえて性倒錯者みたいなこと言わないでよ!
こんな巫山戯た事態をプロデュースしたのは首尾一貫して士郎一人なんだから、
っていうかね、士郎ってあれで結構ヘンタイなんだからね!
あの、私と一緒にアレする時も、ことあるごとに『口でしてくれ』なんて臆面もなく
要求して来きて、私がその度どーいう顔で対処したらいいか
いつも困ってるんだから!」
「なにを言う、口淫など極々ありふれた性技ではないですか」
あなたは上海人ですか?(中国風俗では大抵フェラはNG)
と素で訊ね返すセイバー、
あれ、もしかして異端は私ってこと?
なによセイバーその「しょうがねえなあ」的な顔はっ?うわ溜息つくなっ!!?
「……いいですか凛、
男女の営みにおいて重要なのは、双方がいたわりと奉仕の気概を持って
接しあうことです。
一方が一方からのみ快楽を享受されるのは献身の心根であって愛では
ありません、貴女にはその認識が欠けていると見える」
「なによ?私がマグロだって言いたいの!?」
「違いますか」
「で、でででででもっ!?
あんなモノを口に含むなんてどう考えても有り得ないわよ!?
アレってもともとは排泄機で、おしっことか垢とか、そういうのが沢山こびり
ついてて、バイキンが入ったりするかもしれないじゃない?」
「ではシロウは、凛の秘所を愛でてはくれないのですか?」
「う、それは……」
「でしょう、貴女自身がそうやって惜しみない愛撫を身に受けながら、
シロウに対してはなんの返礼もないのでは明らかに公平を失している
といえます。
大体ゲーム本編では三人中、私と桜の二人までも艶かしい口妓を
披露しているのですから、残る凛が一線を踏み越えんとするに何の不具が
ありましょうか、
淫夢プレイまでやらかしておきながらフェラがないなど月姫ですら考えられない
特殊事態です」
「だからこそじゃない!
あっちの経験では素人の私がいまさらナニしゃぶったって、技術の拙さをアンタ
たちと比べられるのがオチよ。
『けっして上手くはないが、そのたどたどしさが逆に興奮を呼ぶ』みたいな
通知表のコメントめいた誤魔化しなんて私のプライドが許さないのー!!」
「難儀な……、
気持ちさえこもっていれば技巧など二の次で良いではないですか」
「そんなのは一般人の概念よ、
なんでもトップに立つことを宿命付けられた遠坂家の者にとって、
こんな自堕落な行為でも一敗地を舐めるなんてことは許されないの、
そ、それに……」
「それに?」
「……これ以上ベットの上で弱みを見せて、士郎に落胆されたくない」
と、胸中を明かした。
言葉尻が消え入りそうになりながら秘する思いを打ち明けたのだ。
一糸纏わぬ全裸の上に秘裂までぱっくり暴かれて、これ以上なにを恥じようかと
思いながら、それでも面持ちを耳まで赤く染める。
それがセイバーにはことのほか好感だったのだろうか、
「凛も、そういうことなら最初からそういえばいい、
大事ありません、技能の不足は修練によって幾らでも穴埋めができます。
それによって存分にシロウを悦ばせてあげれば善いだけではないですか、」
と、優しい言葉をかけてくる。
「求められれば、私も及ばずながら知恵を分かちましょう、
いえ、いっそ桜に相談してみるのはどうでしょうか?
彼女の場数は遥か高みをゆくものです。我々の想像を絶する叡智を
享受してくれるやも知れません」
「いや、桜は変態だから」
「そうですね、桜は変態です」
妙なところで意見が一致した。
* * *
そうして意気投合がなったところで、私たち二人の奇妙な放置生活がスタート
を切った。
始まってみれば何のことはない、ぶっちゃけて言うとヒマ、
プレイといっても極論すればただ放置されてるだけなので、
お互いの奇異な格好にさえ慣れてしまえばこれと言って気になることもない。
いや、そもそも放っとかれるだけが放置プレイの意義なのだから、始まって
みれば耐えるだけの地味な時間がひたすら続くだけ、
相手に放っとかれるわけだから能動的な刺激もない、
両手両足縛られてるから なおさら何もできない、
これで放置された地点が公園の茂みだとか不特定多数の行きかう場所なら
発見されるスリルやらリスクやらに刺激の満ちた時間を過ごせるのだろうが、
いかんせんここは人がもっとも無防備にくつろげるマイホームの中である。
(セイバー注:ここはシロウの家です、凛は人の家でも異様にくつろぎすぎです)
緊張しようにもこれでは気の張りようがない、
ヒマと思い始めたら際限なくヒマになっていくのが放置プレイという行為だった。
「これは明らかな構造的欠陥ですね」
同じく退屈に蝕まれつつあるセイバーが憮然とつぶやく、
私もまったくだと同意する。
「家の中に引きこもったのは大失敗だわね、
大体放置プレイってそのものが衆目監視のスリルに高揚を求める
野外露出の一環なんだもの。
いくら外が危険だからってその一番大切な刺激から隔離されちゃ、甘くない餡子
辛くないカレーと同じだわ」
「セーフティに配慮する余りその意義を見失うとは、シロウにあるまじき
失策です」
「バカねえ、士郎は元からマヌケだったじゃないの」
ケラケラと笑う。
士郎のヤツ結局なにやるにしたって詰めが甘いんだから、
大体放置プレイなんてのは伊頭鬼作や比良坂竜二や遠野志貴のような
その道のプロがやって初めて様になる高等技術、
それを経験希少な若造がいきなり挑戦してもこういう初歩的なミスに破綻するの
がいいトコだったのよ、
まったくカッコ付けようとして慣れない行為に走るもんだから、
でもあんまり露骨に失望しても可哀想だから、戻ってきた時には少し涙目でも
浮かべてやろうかな?
そういう演技も二人の仲を潤滑するに必要な補強材よね、
などと余裕をかまして考えていたら、
「……アレ?」
突如、体に異常が、
「これって…………」
まさか、
この下半身の奥からムズムズ湧き起こる感覚は、
雨が降り、
山土に染み込んで地下水脈を進む後、
地表へ現れ、河に注ぎ、そして海へと流れ込む、
それと同じように自然極まりない生理機能とも呼べるこの体の反応は…
「もよおしてきたのですか?」
「うひゃあ!!」
不意打ちで話し掛けてくるセイバーに思わず過剰反応、
危うく ちびるトコだった。
場所が場所だけに、状況が状況だけに、それだけは絶対に避けなければ、
「…凛、やはり御不浄ですか、
よりにもよってこんな時にタイミングが悪すぎですね。
だから水分摂取は節度をもってと申し上げていたのに、日頃の不摂生が
祟っていますよ」
「だって!だって士郎がいけないのよ!!
士郎のヤツが当番した今日の朝食!朝からトムヤンクンだとか
ペチュキムチだとかチリビールだとか異様に辛いものばっかり用意して、
その分水をガバガバ飲まなきゃーとても………」
――――はっ、
―――まさか、
士郎め!そこまで狙っての献立か!!?
「シロウもあれで策士だったらしい…」
とセイバーまでが感嘆と戦慄の入り混じった声音を漏らす。
数秒前の見解を覆す士郎の計算し尽くされた行動、
その術中にアッサリはまってしまった自分に叱咤の思いが湧いてくるも、
今はそれより下半身から湧き出てくる生物的衝動に
全身が支配されている、
やばい、
ヤバイ、
ここではヤバイ、今はヤバイ、
こんな格好じゃートイレまで移動するにはとても我慢が持たないだろうし、
なにより障子や襖を開けてこの部屋から出るのも至難の業だ。
そう言ってる間にも体はヤバイ、膝をモジモジ擦り合わせて尿意をごまかそう
にもM字開脚拘束ではそれも適わず、せめてお尻の穴をキュッとすぼめて
尿道の閉鎖を硬く強化する、しかし、それももう時間の問題だ。
「凛!あれを見てください」
セイバーが顎で指し示す先を、冷静な判断もままならなくなった頭脳で、反応
するまま視線を移す。
さすればこの殺風景な和室の隅にカランと転がる謎の物体、
「……あれは?」
「洗面器です。おそらくシロウが残していった物かと」
士郎が残していった、とは容易に看破できる推理だろう。
なにせ、この和室と洗面器という組み合わせ自体、一般的な家庭では
有り得ないコラボレーションなのだ。
だとすればコレは、なにをするためのものか聞くまでもない、
まさかアレで顔を洗えというわけでもないだろう、
だとすれば、答えは一つ、
「あの中にしろって言うのぉー!!?」
私は半泣きになった。
迫り来る尿意は刻一刻と、私本来の優雅さを削ぎ落としていく、
「落ち着いてください凛、
ここまで周到な状況が演出されてる以上、あのボウルの意味するところは
そうとしか考えられません、
この計算され尽くした顛末の終着点こそあの甕の底なのですよ!」
「でっ、でも!でーもー!!」
「ここまで来たら貴女の採る道は二つしかないのです!
このまま畳をぐしょぐしょに濡らしシロウの嘲笑を受けるか、
それともあのボウルに不浄の一切を投げ込んで被害を最小限に留めるか!
貴女があの激辛朝食にこめられた悪辣な罠を看破できなかった時点で
この二択は避けられざる残酷な天使の命題となったのです。
さあ凛!ご決断を!!
恥を忍んで生き残るか!?それとも自決か!!?」
「いやー!!どっちもいやぁー!!!?」
なんか妙なテンションが入ったセイバーの影響も手伝って、
いよいよパニックに陥る私、
なんでおしっこの一回や二回でそんな重大な決断に迫られなきゃならんの
か、
しかしそうてんぱってる間にもリミットは目前だ。、
全身に浮かぶ脂汗は無論陰毛の根元からも噴出し、極限の尿意が開放される
その前から、茂みをツンと濃い臭いに蒸らしている。
その臭気が鼻腔をくすぐって、さらに尿意が加速される悪循環、
オッパイにはどれが乳首か判らないほどの汗珠がびっしりと咲き乱れ、
肛門は、水面を上がる鯉の口のようにパクパク開閉を繰り返している。
堰は今にも破られそうだ
はやく、早く決断を!
いや!!もう考えている暇すらない!!
う…、うあああああ、
うああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
――騎士王、後に語る――
それは清水のように細流のように、
もしくはスペイサイドの山間深く、絶えず流るる小川のように、
雫、静かに、泡沫、歌うように
ああ、大地に降り注ぐ一条の雨、
その潤いこそ母なる君の、賜り物と余は存ずる。
「……お疲れ様でした、凛」
微かなる哀れみの情を込めて、セイバーがかけた言葉は明らかに慰めだった。
しかしその言葉は私の背中にも届かない、
プライドをズタズタにされた私の体は、縄や竹刀で固定されていながらも、
なかば強引に床に突っ伏して、涙で畳を濡らしていた。
やってしまった、
この輝かしい魔術師の血筋たる遠坂家の私が、取り返しのつかないことをして
しまった。
この憤りを誰にぶつけたらいいのか、
見てなさいよ士郎、この両手の戒めが解けた時がアンタの命日なんだから!
洗面器はもはやカラン、ではなくゴロン、という響きで転がっていた。
その内部に、なみなみと注がれた質量によって、
* * *
―――ガラガラガラ………!
「(なんですっ!?)」
遠くから鳴る物音にセイバーは声を殺す。
それは多分玄関の硝子戸が開く音だ、すなわち何者かの来訪を意味する、
しかし、もうそんなことはどうでもいい、
遠坂凛のアイデンティティーを屋台骨から崩壊させられてしまった私は今、
さながら龍海王に負けたドリアンのように自暴自棄の海をたゆたうのみ、
「(凛、しっかり気を保ってください、誰かがこの家に侵入したのですよ!!)」
「え、なに、キャンディーでもくれるの?」
「(シャキッとせんとアンタが今出したションベン飲ませますよー!!!)」
セイバーとしても現在この痴態を目撃されるのは王の尊厳が許さぬの
だろう、
気配を沈め、縛られた足でヒョコヒョコ壁際に移動してから、
この忽然と現われし侵入者の足音に鋭く意識を通わせる。
「いーわよー、どーせ士郎が帰ってきたんでしょー?
アイツ神経細いから私たちのことが心配になって戻ってきたのよ、
放置プレイももうおしまい」
「(シッ!!!)」
トタトタトタトタトタ、
一人、
軽さから察するに女の足音、
この時点で少なくとも士郎でないことだけは判明した。
さらにこの屋敷に家主の断りもなく自由に出入りすることのできる女性といえば
思い当たるのは二人だけ、
そのうちの一人藤村先生はこの前のSSでゲップが出るくらい書いたから
必然して屋敷に現われたのは消去法的に最後の一人、
「(……桜)」
に限定される。
ハテ、しかしなぜ桜が今のこの時間にわざわざやって来たのだろうか?
今日は私たちが昼間っから放置されてるぐらいだから当然のごとく日曜日、
しかも朝食にも昼食にも半端なこの時間帯に、桜が訪問してくる理由が果たして
あんのか、
ただ純粋に遊びに来たんだとしても、その目的であるはずの士郎に約束の一つ
も取り付けてないなんてあの子の性格からして考えにくいし、
事実士郎は私たちをこんな苦難に放り込んだまま何処とも知れぬ地で
遊び呆けている。
「(桜……いったい何しに来たんだろ?)」
そんな思案にあぐねていると本人は露知らず。
桜はトテトテ廊下を突っ切り、皆が普段 憩うている茶の間へ足を踏み入れた。
さて、ここで一度屋敷内にいる私たちの位置関係を確認しておこう、
秘密の放置プレイに処された私とセイバーは、現在正式には使われていない
空き部屋の一つに監禁されている。
和室四方のうち壁二面、障子一面、衾一面といった構成だ、
障子戸の向こうは当然縁側になっており、その真向かいに据えられた衾戸の
向こうがお馴染みの茶の間になっている。
要するに、私たちと桜は衾一枚を隔てて目と鼻の先というわけ、
桜の吐息・気配が剥き出しの肌に否が応でも伝わってくる。
この部屋が普段使われてないだけに見つかることは考えにくいが、
「ああー空気の入れ替えでもしようかなぁー」なんて気紛れで戸を開けられたら
そこまでだ。
瑣末の偶然が命運を分ける放置プレイの醍醐味が、ここにきて私たちの心臓を
打ち早らせる。
息を殺し、衾一枚隔てた先に意識を集中する私とセイバー、
僅かに開けた戸の隙間から、桜の姿を窺う、
その線のように細い細い視界から窺い知れる別世界の映像、その中で桜は、
いつもと同じ桜だ。
薄桃色のカーディガンにロングスカート、年頃の女の子にしてはちょっと
オバサンくさくて先行きを心配してしまう格好で、
部屋を掃除などにかかるでもなく、また奥のキッチンへ進むことなく部屋に
留まっている。フンフン〜♪などと鼻歌交じえて、
なにやらその浮かれっぷりが、花畑を漂う蝶々のようだった。
そして桜は左を振りかぶり、右を振りかぶり、
一通り周囲に注視を払うと、茶の間の中央に当然のように鎮座している
ちゃぶ台に、まるで天日に干した布団にそうするように頬を摺り寄せた。
この時点でなにがしたいのか既に意味不明、
「ん〜〜〜、せんぱぁ〜い………♥」
声まで漏れ出してきた。
そのとおり、桜が頬擦りするテーブルのあの位置は、まさしく士郎の指定席だ。
さらにベロリ、
桜の舌がテーブルを這う。いかにも士郎本人の胸板を舐っているかのように、
「んふふふふ……、せんぱぁい、せんぱ〜〜い」
ちょっとまて、
桜は少女の純粋で、花と戯れるように硬いテーブルに甘えまくってる、
豊かな胸を押し付けて、大きなお尻を芋虫みたいにモゾモゾ悶えさせて、
少しづつ、自分のもたれかかっている位置を移動し始めた。
テーブルの角に、自分の股間を押し付けるためだろう、
「あふっ、いや…先輩のおちんちん…とっても固い…」
固かろう、なにせ総天然木だ。
そんなものに比べられたら本物の士郎とて強気を保てるかどうか、
さて、そろそろ積もる話も始めていいかね?
いやもうなんだこの珍妙奇天烈な景観は、人ん家にまでやってきてなにやってん
の桜、
敷居る衾に身を預けてひたすら石化する私、
その隣で同じく向こうを窺うセイバーも、この急展開に難しい顔をしていた。
「(………桜は、よくこの屋敷に誰もいなくなるのを見計らってから、
ああしてシロウが落とした食べ零しを含んで自慰に耽っています。
…ホラ、今も舌を這わせたでしょう、
あそこには今朝シロウが落とした醤油がこびりついているのです)」
先輩の汗、とっても塩辛いですぅ〜と
桜の声がいよいよ艶かしくなってきた。
「(なにセイバー、アナタこのこと前から知ってたの?)」
「(ハイ、私は特に外出する用事はありませんから、
この家の怪奇にはすぐに気がつきました」
怪奇ね、まあたしかに怪奇だ。
昼下がりから人知れず人家に忍び込み、想う男の食べ糟を舐っていく女、
なんか似たような妖怪いなかったっけ?
そんな取り止めのないことで現実逃避を模索している間も、
桜はまだまだ乾いてこびりついた醤油の跡にベロを合わせていた。
知ってのとおり一度乾いた醤油汚れは頑固で、布巾で拭ってもなかなか
落ちないもの、しかし桜の舐めねぶりは執拗でそれがもう士郎の唾液
そのものと思えるよう、
「(大河の悪戯によってシロウが噴飯したときなどは、桜にとっては
フィーバーデーだったようです)」
丁寧な解釈を付け入れてくれるセイバーなのだ。
「(……セイバー、アンタの話からすると桜ってずいぶん前からこんなこと
習癖にしてたっていうの?)」
「(はい、少なくとも私が現界し、凛がこの屋敷に出入りするようになる以前
から始まっていたように察します)」
とのことだ、要するにあの和テーブルは私がここで初めてご飯を食べた
時には既に、あの子の唾液が漆塗りのように…、
「(セイバー)」
「(はい)」
「(明日になったらすぐさまあの机捨ててきて、代わりのテーブルは
ウチの資産で買うから)」
「(ムダです。三日も経てば元の木阿弥になります)」
いくばくかの諦めをこめて、セイバーは断言した。
「はぁぅんん、先輩……先輩のこと想って、こんなにアソコが湿ってます。
パンティーを澄み通して、スカートにまで染みが広がって、……あはっ、
おもらししたみたい……」
くちゅくちゅくちゅ、
なんかさらに嫌な物が付着していってるような、
「(とにかく桜の性癖について今は黙殺しましょう、
肝心なことは我々の存在を気取られないことです、彼女が一通り満足して
退出するまでなんとしても気配を殺し、周囲の風景と同化してやり過ごしま
しょう)」
「(そ、そうね…)」
変態度からしてみれば私たちも桜と頭一つの差なのだ。
この現場をあの子に抑えられて騒ぎが大きくなるのもイヤだし、
かと言って仲間と思われるのもいただけない、
だのでここは桜の一人舞台に終始させようと思い達した折、
しかしどこに至っても律儀なものは血縁というものであろうか、
大抵のことはソツなくこなし、ここぞという時に失敗するという遠坂家代々の
はここにても律儀に発動する。
あっさりと、
どしゃーんと、
私の身の拠りどころにしていた衾が立て付けから外れ、ドリフのコントよろしく
倒れこんだのであった私もろとも、
「…………」
「…………」
絶句したまま私と桜の視線が交わる。
折りしもテーブルの上の舞姫は本格的にステージへ伸し上り、乳房や股間を
鷲掴みにしている宴もたけなわな時だった。
そのまま固まっている、さすがにこの不意打ちは見られてするのもOKな桜とて
許容範囲外だったのだろう、
マッパで縛られてる姉、
オナってる真っ最中の妹
その予期せぬ邂逅に、互いが互いに二の句が次げず目をしばたたかせた後、
先に行動を起こしたのは、より変態な方だった。
「姉さぁん!?」
チャオ ソレッラ!とでも訳さんばかりの溌剌さで私を呼ぶ桜、
背筋に冷たい汗が浮く、
「どうしたんですか姉さんこんなとろで、かつ!そんな格好で?
やだ、私ぜんぜん気付かなかった。
そんなところからこっそり覗いてたなんて趣味が悪いですよ姉さん!!」
「い…いやね、ちがうの桜、
この奇天烈な状況はすべて士郎が関与したことで私の意志はないの、
信じて、私はアンタと違って変態じゃないから
それだけ信じて!!」
「やだ、姉さんたらまだ何も聞いてないのに先輩のせいにするんですか?」
「だって事実は事実なんだもの!
士郎のヤツがなんやらわけのわからんこと言い出して私をこんな姿のまま監禁
したの!!私に変態の気はないの!!」
「そんなこといったら先輩が可哀想です。
それじゃあ先輩が一方的に姉さんを暴行監禁したみたいじゃないですか、
姉さんは先輩に乱暴されたんですか?
遠坂の魔術師である姉さんが、なんの抵抗もなしに?」
「うう、それは…」
「魔術師として、先輩との勝負に負けてこんな辱めを受けてるとか?」
「!!?、バカにしないでよ!!
この私がなんでD級劣等生ごときに遅れをとらなきゃいけないのよー!?」
「きゃあ!?じゃあやっぱり合意の上なんじゃないですか!
いいなー姉さん、先輩とこんなことするまで仲が進んでたんだー!」
うういかん、
どんな理屈をこねたとしても事実が残ってしまっては逆転が難しすぎる。
なんか一番見つかってはならないヤツに見つかってしまったのではあるまいか、
誰も帰ってこない真昼の密室にまろび出てきた全裸の美少女、
桜の眼は、学校帰りにエロ本を拾った中学生のように爛々としている。
「えとっ…じゃあ姉さん!私も裸になりますね、」
「えぇー!!?」
耳を疑うより早く、桜はさっきのワンマンショーで汗みずくになった衣服を
ほいほい脱ぎ捨てる。
「ってかなんでアンタまで脱ぐ必要があるのよ!?」
「だって偶然にもこんな素敵な催しに遭遇できたんですから、
私も混ざりたいじゃないですかー」
などと戯言が飛び交ううちに、すっかり脱皮して私たちと同じ一糸纏わぬ裸体
を晒す桜、
オナニーで出来上がっていた肢体はその名の通り桜色に上気し、
小山のように隆起する二つの乳房、下方へ移るにキュッとすぼまったウエストを
経てこれまた大質感の大きなお尻、
それらはただ大きいというだけでなく、整った曲線に柔らかそうな肉質、
豊かさというモノがこぞって凝縮された芸術性には、
鉄板の上で肉汁を滾らせるレアステーキのような濃厚な匂いが嗅ぐわってる。
思わず生唾がゴクリ、
これが私とは違う『女』の魅力というものか、
「姉さん、そんなに見ないでください」
桜が頬をさらに赤らめる。この子でもまだ照れくさいことがあるのか、
頭の配線が乱れっぱなしの私の反応を待たず、
ポフッとこの身を抱き寄せる桜、
「ーーーーーーー!!!?」
この時の私の心拍をリアルに再現するなら、
ゴドッ!!ドドドドドドドドドドド バグッ!オブッ!!ズドドンッ!!
……てな感じ、
本当にそんな鼓動の刻み方してたら今ごろ私は心停止だ。
でもそれぐらいビックリするほど、この扁平な胸に押し当てられた桜のオッパイ
の豊かさは衝撃的だった。
「あぁーん、姉さんの体ってやっぱり暖かい、一回やってみたかったんです、
こういうの」
などと桜は赤ちゃんを抱きしめるのと同じノリで、ギュッと抱擁に力をこめた。
しかし暖かさ、柔らかさを感じているならむしろ私の方がゲージはやばい、
腕と腕、
髪と髪、
おっぱいとおっぱい、
肌という肌が密着する感覚は、当然のように私の全身をくまなく浸透し、
その温感に骨までとろけるよう、
砂風呂に入るとこれに近い感覚を味わえるかもしれないが、
この肉質、この甘い香は砂なんかに真似することはできない、
隠遁して人肌との関わりを避けてきた私が、唯一知るぬくもりこそズバリ士郎
だけであったが、
このぷにゅぷにゅ感に比べたら士郎のなんてそれこそ岩肌、
ああ、わかる、
男どもがなんで女性の裸体に狂うのか直感でわかってしまう!
それ以上にこのままいくとヤバイということもわかる。
姉と妹、
女同士、
この交わりには禁忌が重複しすぎていて、そんな犯罪を犯してしまうことに
私の理性は慣れてない、脆い、だからこれ以上コトが進んで桜と、
妹とセックスの真似事でもしようことになったら、
……いやっ、それはヤバイヤバイヤバイ、マジヤバイ、
お願いだから桜、このまま抱擁だけに留めて、
胸を触ったりキスをしたりアソコに手を這わせたり、露骨な行為は絶対やめて!
「…わかります、姉さんの体温が薪をくべられたみたいに上がってます。
私の肌身を感じて火が付いたんですね、嬉しい、
姉さんが私で感じてくれてる」
より禁断の行為に足を踏み入れんと、ヌラリと輝く舌先が
私の耳朶をチョンと突いた。
「ひあっ!?」
攻撃の跡を示すように耳たぶから舌先まで、唾液の糸が伸びる。
そしてそれが前座に過ぎないと証明するように、今度は直接獲物を捕らえる
道具の歯が、唾液で濡れた耳たぶを挟む、くちゅくちゅと甘噛みするのである。
「ひゃっ、くん…!」
士郎しか相手を知らない私にとっては想像の域を超える愛撫だった。
少なくとも士郎からこんなことをされた覚えはない、
しかも、この耳たぶ甘噛みの真の恐ろしさは口によって為される愛撫だけでなく
切歯の間から漏れ出してくるぬるっぽい吐息が耳奥に流れ込んで、
変な、感じに、
「あっ……あん…ああっ…くん…」
いつの間にか、喘ぎが連番になっていた。
士郎に胸を触られたり乳首を吸われたりするときと同じように、
逃れようとして束ねた黒髪が揺れると桜の鼻先をこそぐって、
「こそばゆいです、姉さん」
と可愛らしげに言うからたまらない、
執拗に攻め立てられ、苦し紛れに突き出した膝が、何かの拍子に桜の
太腿と太腿の間に滑り込んだ。
「きゃんっ!!?」
桜がなおいっそう率直な性交の鬨を上げる。
「ああ、…あ、凄い姉さん、どこでそんな、いやらしい脚捌きを
思えたんですか?」
一度刺激を与えてしまえば、こちらの意思はお構いなしに自分から
股間を擦り付ける桜、
私だって、この太腿の上側に感じるザワザワした茂みはなんとなくわかる、
これが桜の女の子の部分だ。
私のアソコが士郎のを受け入れたように、桜のコレも士郎を飲み込むことがで
きる。
上気する全身の肌でもなおいっそう熱のこもったソレは竈と比べても大差ない、
そこから滴るマグマが、私の腿に垂れていく、それがあまりに熱すぎて、
火箸でなぞられてるみたい、それが何本も、何本も同時に筋を引いて、
「あああぁぁぁぁ、熱、熱い…、桜、アンタ熱いの漏らしすぎ………」
「は、はい、私お漏らしばっかりする悪い子です。
だから叱ってください、姉さんのいつもの厳しい口調でお仕置きして……!」
ペロリと唇を一舐めしてから、本格的に、貪るように口を重ねる。
桜がズズズと唾を吸うので、それに誘われるままに舌を差し込んだ。
ついに本格的な性行為が始まったかと私は感極まったが、私の理性は
なんの警報も発せずに、ただ自堕落な悦楽を与えられるままに貪るまま、
桜の口内を味わい尽くさんとしていた。
桜を抱きしめる私の腕にも自然力がこもる、
局部に挟まれた右足も抉るように、この子の女陰に擦り寄ることをやめない、
腕にも脚にも、もはや自由が利かなくなっていた。
きつく戒めに束縛されていたつい先程と寸分違わず、こんどは淫靡と劣情という
鎖にこの手足は囚われている……って、
「アレ?」
つい、と桜の乳房を押し戻す、さしたる抵抗もないまま桜はこの身から離れた。
「………姉さん?」
極上のお楽しみを中断されて、その理由がまったく思い当たらぬと
訝しげにこの顔を眺めやる桜、
私はそんな子の戸惑いに答える余裕もなく、なんか開始当初とは随分待遇の
違う、我が四肢に眺めを見やっていた。
「…いつの間に、縄ほどけてたの?」
いや、思い返せば随分前から自由になってたような気がする。
少なくとも桜からポフッなんて抱きつかれた時には既に、
「そうですよ、抱き合うのに邪魔だから私が解いてあげたんじゃないですか、
たしかに無理やり縄縛されてる姉さんも背徳的で魅力的でしたけど、
あんなモノがあったらしっかり肌と肌を合わせられなかったですものね」
「でも、あのロープには士郎の『強化』の魔術がかけてあったのよ?
だから私でも脱出できなかったのに、どうやってアレを解呪できたのよ」
「え?簡単に解けましたよ」
「ウソ?」
「う〜ん、たぶん先輩は、『引きちぎること』に対して『強化』で耐性をかけて、
『解くこと』には関与しないように魔術を微設定したんじゃないですか?
そしたら何かあったときに先輩がいなくても姉さん自由になれますし、
そしたらある程度のアクシデントには対処できるようになるじゃないですか」
まあ、たしかに、
士郎のヤツ、こういうのに限って俄然器用さがアップするから、そういう風な芸当
もやってのけたとて不思議はない、
しかし、色々あったとて最終的に私はヤツの“くびき”から脱しえたわけだ。
私はのそっと、畳の跡がびっしり付いたお尻を持ち上げると、廊下へと続くほう
の衾へと向かった。
とりあえずここに寝泊りする時に寝室として使ってる離れなら着替えの一つも
残ってるだろう、
その様を見てあわてて追いすがる桜であったが、
「ごめん桜、手足の自由が戻った以上アンタの変態に付き合ってるわけには
行かないの」
と一声に切り捨てる。
いや、本当はもう少しで危ないところだったんだけど、
だから私がこうして撤退を急ぐのは、このままでは姉妹の壁がイヤーンな意味で
打ち壊されるのも時間の問題に他ならないから、
あの子の修練を思わせる手管に加えて、じっとしてても人心を惑わせる
豊熟として濃密にあふれた乳と尻の蜜毒が回りきる前に、
速攻でここを去らなければ、
私は、妹の色気に惹かれてしまった自分の情動を叱咤する。
頭の中では士郎に模した私の情動が、アーチャーに扮する同じく自制心に
虎竹刀で滅多打ちにされていた。
しかしその撤退路を、ぶるん!とこれみよがしに乳揺らして桜が遮る。
「そんなあ姉さん、ここまで来てどうしてそんな無体なことするんです?
せっかく姉さんと今まで以上に親密になれる機会を得られたのに、
今度はセイバーさんも仲間に入れて、三人で楽しみましょうよ!」
私が崩した衾側の、まだ立てかけの無事な部分、
そこが桜の一言をきっかけに異常にガトゴト鳴り響いた。
ふん、あの使い魔失格め、
マスターの私が窮地に立たされている間、我可愛さにずっと衾の蔭で縮こまって
いたとは、
「そんなに火照りが治まんないならセイバーを好きにしていいわよ、
私はもうコレで降りるから、後は二人で隙におやんなさい」
といいつつも、疼きが治まらないのは実のところ私の方だったり、
このままではヤバイので、一刻も早く士郎を見つけ返して押し倒すしか、
それぐらい桜に注入された蜜毒は強力で、
背後で嘆願するセイバーなど一刻も早くブッチ捨てここから脱出しようとするも、
「ふんだ、じゃあ私も奥の手を出しちゃいますから!」
胸を揺らしてだだっ子する桜が、そんな不吉なことを呟いた。
「ライダー!来て頂戴ライダー!!」
「「なにぃー!!?」」
なにぃー、なにぃー、なにぃー……(エコー)
* * *
「―――――という展開まで予測していたのか雑種?」
「さあ?」
言峰教会に遊びに来ていた衛宮士郎は
格闘ゲームをピコピコやる片手間、ギルガメッシュとの取りとめのない会話に
花を咲かせていた。
しかし、ギルのヤツは反則的スペックなボスキャラや隠しキャラしか使わない
ので対戦すると始末に追えない、
しかもそういう反則キャラがある程度の条件を満たさないと選択できない場合、
そこまでのスコアやクリアデータを他人に作らせるという王様ぶりで、
この前など『バイオ2』でロケットランチャー使うために一晩かけてSランク獲った
とランサーが泣いていた。
プロアクションリプレイでも買いやがれ、と心中密かに思う士郎である。
ガラリ、
言峰が入ってきた。
「衛宮士郎にアーチャーよ、茶菓子を見繕ってきてやったぞ」
「「麻婆豆腐は茶菓子じゃない!」」
つづく
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