安全毛布の外から
作:しにを
「ねえ、秋葉ちゃん。助けて」
そう言って羽居が私を掴まえた時、正直、またかと思っただけだった。
冷淡かもしれないけど、いちいち羽ピンの言う事に付き合っていたら体が幾
つあっても足りない。
でも、羽居の次の言葉で、少し気を向けた。
「蒼ちゃんが変なの」
もう一人のかつてのルームメイト。
ここ数日授業を休んでいるのが、気になってはいた。
特に入院とか、大きな怪我や病気ではないらしいので心配はしていなかった
けど、続けて休むとなるとそれも変わってきていた。
それにこの羽居の常ならぬ能天気さの薄れた表情。
「蒼香がどうかしたの?」
うん、と頷いて、でも羽居はすぐには話さない。
どうすればいいのかなと考えているよう。
急かさなかった。
いつもなら話しているうちに右のものが左になるような羽居が、真剣みのあ
る顔をしているのだ。
こちらもある程度の覚悟を必要とする。
ようやく羽居は話を始めた。
特に入り組んだ話ではない。
正直、だからどうしたという内容。
でも、どこかそれは私の心に響くものがあった。
月姫蒼香という少女は、羽居と同じく近しい存在だったからかもしれない。
だから、羽居に引っ張られるように、私は部屋へと向かった。
蒼ちゃんが毛布に包まって顔も見せてくれないの。
煎じ詰めればそれだけの事実が何を秘めているのか。
それを明らかにする為に。
「いるみたいね」
「うん」
懐かしの……、と言ってもしばしばここを訪れはするのだが、の寮内。
廊下ですれ違う顔見知りも、殊更に驚いた顔をしない。
挨拶はしてすれ違っていく。
用事があることだし、あっさりしたもの。
で、三人部屋のひとつ。
扉の前。
鍵は掛かっていない。
もっとも、異変の日から羽居を締め出したりはしていないそうだけど。
無造作に中に入った。
今はここに住んでいないとはいえ、かつては私の部屋でもあったのだから。
遠慮なんてしない。
ふうん。
部屋の壁側。
ベッドの隅にそれはいた。
毛布の塊。
いや、毛布に全身包んだ蒼香?
「ね、秋葉ちゃん?」
「そうね、羽居の言う通りね。
確かにちょっと異様だわ」
どうにも間抜けな姿。
なのに、その毛布の中から染み出すような、一種おどろおどろしい雰囲気。
あまり毛布の中の小世界で幸せな様子にも見えない。
毛布があれば満ち足りる訳でもないのね。
ちらりとそんな言葉が頭に浮かぶ。
それとも指をしゃぶらないとダメなのかしら?
……。
何を訳のわからない事を。
「ね、こんな具合で一日中ベッドの中なの」
羽居がすがる眼で見る。
さっきより切迫感がある。
まあ、確かに現物を前にすれば。
「変でしょ。ねえ、おかしいよ」
「変だけど、蒼香が変なのは今に始まった事じゃないし……」
蒼香は聞いているのだろうか?
中でもぞりと動いたから、眠っている訳ではあるまい。
「まあ、食事は摂っているんならそんなに心配しなくても」
「でも……」
「ずっと見張っている訳ではないんでしょ?
羽居が授業の間は、一人で部屋にいるんだから、本当にベッドからまったく
出ていないとは限らないわ」
本人を前にしての会話。
聞いているのなら、どんな気分なんだろう。
いたたまれなくなって出てきたり……はしないわね、蒼香だもの。
まあ、こうしていても埒はあかない。
一応は羽居の相談を受けたのだし、事態の解決に到らぬまでも多少の進展は
図らないと。
とりあえずは、新しい事実は当人から聴取するしかないわね。
と、すると……。
「まあ、いいわ」
「どうするの、秋葉ちゃん」
両手を開いたり閉じたりして見せると、羽居が首を傾げる。
うーん。
実力行使。
口にすると蒼香が警戒するから、手で羽居をどけておもむろに獲物に近づく。
「蒼香、聴いてるかどうかしらないけど、羽居は心配しただけだから、恨むな
ら私にしなさい」
一応、宣言しておく。
では。
毛布を掴む。
そして、毛布ごと中身にも腕を回す。
抱きかかえ、
腰から体を捻る。
持ち上げ、そしてその体を素直に下へ。
重さがそのまま破壊力に……、おっと。
どしん。
いや、ぐしゃり。
あやうく投げっぱなしにするのを止める。
掴んだまま精一杯スピードを殺す。
くぅッ。
腕が痛い。
でも、なんとか蒼香も叩きつけられるのを免れた……かしら?
「大丈夫、蒼ちゃん?」
「平気よ。絨毯の上だし、毛布が上手くクッションになって……」
「な……、な、なるか、ばッ…けふ」
つまった声。
やっぱり受け身もとれずに落っこちたら、こうもなるわね。
でも、ようやく……。
「わあっ、蒼ちゃんだあ」
「顔出したわね、蒼香」
蒼香の怒った顔。
私たちを、主として私を睨んで、それからふぅと溜息。
「どうしたのよ、蒼香?
羽居が心配しているわよ」
「どうもしない。体の調子がおかしいから休んでいるだけだ」
「その割には医者にも行かないし、だいたいなんで顔一つ見せないのよ?」
「それは……、羽居がきゃんきゃんとうるさいから」
「なるほど」
「あ、秋葉ちゃん酷い。わたしそんなにうるさくないもん……。
じゃあ静かにしていたら蒼ちゃん、このままでいてくれる?
わたしおとなしくしてるから、ひとりで毛布被ったりしないで、ねえ?」
羽居の懇願の目。
あああ、傍にいる私の方が少し気恥ずかしくなる。
逆らえないわよね、蒼香も。
返事はしないが、かといって再び逃避しようともしない。
「それにしても、顔色は悪くないわね。
むしろ……」
その顔を見て、ふと違和感を感じた。
病気だったのなら、やつれたり逆にむくんだりするのも自然だけど。
そんな感じではない。
羽居も蒼香の顔を見つめて、私同様に首を傾げている。
まあ、その詮索は後。
気の抜けた様子の今こそ、チャンスだ。
「それはそうとして……」
ずいと足を踏み出す。
「いつまで毛布被ってるのよ」
「そんなの勝手だろう」
「まだ、反抗的な態度取るんだ」
ふんと、馬鹿にした笑いをわざと浮かべて見せた。
乗って来るかしら?
ああ、やっぱり。
蒼香は逆に挑発的な顔で私を見つめる。
「見てのとおり、あたしはぴんぴんしている。
お前さんにして貰う事はないね」
言葉だけでなく、眼でも私への拒否を示している。
面白いわね。
そんな事言われたら、こちらも応えないとね。
ふふふ。
「ふうん」
数秒、威圧する。
さすがに大して動じないわね。
「じゃあ、力比べといきましょうか」
手を伸ばす。
まずは正攻法。
羽居にも参加させれば2対1だけど、あえてサシの勝負。
何やっているのだろうと思わなくもないけれど。
引っ張る。
うん、手強いわね。
手で押さえるだけでなく、足でも踏みつけてるみたい。
「意外にしぶといわね」
「……」
返事はない。
眼だけが、うるさいと言っている。
よし、とりあえず終了。
均衡してて、ケリがつかなそうだったから。
ぱっと手を放した。
すかさず蒼香は毛布を手繰り寄せ、またしっかりと握り締めている様子。
「これじゃ埒が開かないし……」
「え、おい」
じゃあ、もうひとつの方法を取りましょう。
抵抗する蒼香が悪いのよ。
うわ、勘がいいわね、さすがに。
私の心のうちを読んだように、露骨に警戒心に満ちた顔。
では、いくわよ。
手を伸ばした。
蒼香の毛布と言うより、毛布に覆われた体へと。
「な、な、何を?」
「力づくがダメなら今度は懐柔策。あれね、北風と太陽のお話。
うん、実にぴったりだわ」
「や、やめろって……、おい」
後ろから抱きすくめた。
毛布の中から布地を掴んでいる蒼香には、抵抗できない。
すれば、毛布が手薄になる。
羽交い絞めにして、そのまま掌を胸に走らせる。
膨らみがわからない胸。
……。
このくらいが可愛いのよ。
ええ、そうですとも。
作戦変更に効果的に対応できず、じたばたしている蒼香。
その耳元に顔を近づける。
小さな耳に唇を寄せる。
「内側から毛布掴んでいるんじゃ、抵抗出来ないわよね」
「遠野……」
「そして力づくの北風は終わりで、太陽の出番……」
手に力を入れ、体の自由を奪う。
ふっ。
耳に息を吹きかけた。
「ひゃん」
いきなりの攻撃に悲鳴じみた声が洩れる。
体が硬直している。
蒼香の弱いところ。
「ふふふ」
それだけじゃないわよ、蒼香。
胸をゆっくりとく揉みほぐす。
こうすると、それなりに柔らかさや丸みがわかるような、わからないような。
まあ、確かにあるのだけど。
少し大きくなったかしら。
まさかね。
ほら、どう?
胸の先端。
けっこう敏感よね、蒼香のここ。
「や、やめ…ひゃああ」
胸に気をとられているところに、また耳にふーっと息を吹きかける。
びくんと体が動く。
じたばたと身を捩って抵抗しようとするが、自由は利かない。
右がダメなら、反対に。そっちを首を曲げて防ごうとすれば、剥き出しの右。
そら。
ふと、視線を前にすると、羽居が止めようかどうしようかという顔。
少し羨ましそうな表情にも見える。
いいわよ。
一緒に……。
「あー、危ないなあ。
今度は体丸めて蹴飛ばされるかもしれない」
わざとらしい声。
楽しいわね、しかし。
「羽居は、脚をお願い。
蒼香の足技は洒落にならないから手伝って」
「わかったよ、秋葉ちゃん」
察し良く羽居が反応する。
顔に笑み。
うん、いつもの羽ピンだ。
さっそく毛布の中に手を突っ込んでいる。
「パジャマ下ろしちゃった方がいいよね、秋葉ちゃん?」
「そうねえ、羽居にまかせるわ」
「んっ♪」
ためらい無く、羽居はパジャマの下を引き下ろした。
そしてそのまま腿の内側に手を滑らせる。
「蒼ちゃんいいなあ、ほっそりした脚で、お肌もすべすべで……」
そんな事を言いながら、ショーツの近くまで指を這わせ、また滑らせるよう
に膝の辺りまで戻す。
それだけでなく、毛布から出ている足首や足の甲にちゅっと軽い口づけを何
度もする。
うわ。
なんだか、こっちが圧倒される……。
ううん、呆けている場合じゃないわ。
下半身は任せて、私は上を。
だめだめ、逃さないわよ、蒼香。
手を隙間から毛布の中へ入れる。
ええと、これね、パジャマのボタン。
ちょんちょん、と。
あ、肌に触れた。
どきどきするわね。
ブラと。
うん、胸の感触をさっきより強く感じる。
脇腹もくすぐってあげる。
「ほら、降参なさい」
耳元に息。
そして、耳たぶを甘噛みした。
歯ではなく、唇で挟んで。
擦るように動かす。
舌でくすぐる。
面白いように反応する。
まあ、私だってこんな事されたら堪らないけど……。
ピクンて体が動いて、そして脱力していく。
わあ……。
じゃあ、こんなのは、どう?
やだ、私までなんだか……。
もっと耳たぶ舐めてあげるわね。
毛布をしっかりと掴んでいた手が、開いている。
羽居に目配せ。
すかさず羽居は引っ張り取った。
蒼香は抗おうという素振りすら、ほとんど見せない。
観念したのだろうか。
私と羽居の手だの唇だのを、受け入れている。
責められて感じて、力が抜けているだけかもしれないけど。
見るといつの間にか凄い有り様。
上も下もほとんど半裸。
下着こそつけているとは言え、そんな姿で身悶えする姿。
女の子同士とは言っても、なんとも眼を奪う艶やかさが漂っていた。
でも。
私と羽居の視線が、動く。
体のあちこちから、一点へと。
そして止まる。
止まってしまった。
?
なに、これ?
思考が停止した。
頭がまともなに働かない。
ただ、疑問符を膨らませている。
蒼香のショーツ。
少し濡れたそれが、不可思議な姿を見せていた。
膨らんでいる。
棒でも入っているような線。
いや、少しはみ出てさえいる……。
何なの?
まったく未知の物ではない。
むしろすぐにそれを私は連想した。
でも、ありえない。
蒼香は女な訳で。
こんな、
こんなペニスを、
ショーツでは隠し切れないペニスが付いているなんて……。
ありえない。
ありえないわよね、羽居?
「……わかったか?」
蒼香のちょっと恨みがましい顔。
脱力した疲労感が漂っている。
責められているなあ。
……無理も無いけれど。
羽居と二人で、何度も頷く。
蒼香の説明。
確かに、とんでもない事になっているのはわかった。
でも、何故という疑問でいっぱい。
あたしが知りたいわ、と蒼香がキレそうだからもう口にしないけど。
「三日前の朝、目を覚ましたら生えていた。
全然元に戻る気配が無い。
……煎じ詰めるとこれだけなんだ。
どうして、とか、どうやったら、とかはあたしが一番知りたい。以上」
こっちの気持ちがわかったのかな。
駄目押しでこの上ない要約を口にする。
そしてじろりとした目。
またしても、羽居と動きをあわせるように同意を示す。
まあ、原因は不明ね。
それはそれで納得するしかない。
後はこれからどうするかだけど。
蒼香の……、本物みたいなんだろうか?
驚きが少し落ち着くと、そんな興味が沸いてきた。
羽居も、好奇心に満ちた表情。
ふうん、少なくとも男の人のを見て気持ち悪がったりはしていないんだ。
まあ、蒼香のだし。羽居だものね。
二人で蒼香ににじり寄り、しげしげと股間を覗き込んだ。
「触ってもいい?」
「……やだ」
否定にかかわらず、羽居が恐る恐るちょんちょんと突付く。
さすがね。
私はまだ手が出せない。
「感覚はあるのよね?」
羽居がふうんと感心しているのを横目に蒼香に訊ねる。
「ある。羽居の指に触られてるのもわかる」
「そうなんだ。そにさっきは……その…」
ちゃんと大きくなったり小さくなったりするのね。
その言葉が喉でつかえた。
「ちっちゃくなると、柔らかくなるんだね。なんだか可愛い」
と、羽居にあっさりと言われた。
さっきまでの勃起した状態が、今はかなり状態に戻っている。
それはやはり、不思議に見える。
でも、可愛いと言うか、羽居は?
「……」
「……」
蒼香と目が合う。
言葉にはしないが、何となく共感している気配。
「機能は多分、本物だと思う」
「なるほどね」
私もようやく手を伸ばした。
あくまで、検証。
幹の感触、縮こまった袋のぐにょりとした感じ。
同じだなあ。
唯一の比較対象を頭の中で思い浮かべた。
でも、ここから下は……。
覗き込む。
自分でもとんでもない事をしている気がする。
蒼香も慌てた顔。
「おい……」
「こちらもあるんだ」
「うん」
男の人のモノがあって、でもその下には女の子のモノもそのまま残っていた。
まじまじと見つめてしまう。
どちらも初めて見るものではないが、両方が一つの体に並んでいるのは、変
で、それでいて目を奪う光景だった。
両性具有。
アンドロギュノスとか言うものだったろうか?
羽居の頬が触れた。
同じく屈み込み、蒼香のふたつの性器を覗き込んできたのだ。
やはりそれに驚きと心引かれるものを感じている。
「本当だ、両方。あれ、でも蒼ちゃん……」
「そうね、なんだか……」
羽居も感じたんだ。
この違和感に。
期せずして二人同時に顔を上げた。
蒼香は質問を予期していたのか。
何も言わぬうちに頷いた。
「ああ、男のものがついた代わりか知らないけど、こっちも変化している。
なんだかちっちゃくなってる。
これじゃ、指も入らないかなあ」
淡々とした口調。
でもそれだけに、逆に蒼香が凄く意識しているのを感じさせた。
蒼香のそこは、何と言うか小さく、あるいは幼くなっている。
人によって成長の差はあるだろうし、蒼香にそんな処をしげしげ眺めさせて
貰った事などないけれど。
それでも、小学生の時とかに近い形状に見えるのは尋常でないだろう。
そしてそれに反してもう一方の……。
「さっき、蒼香の顔見て、違和感があったの。
なんだか、男っぽいと言うか、顔の線が痩せたというんじゃなくて硬くなっ
てきたみたいで……」
「一昨日に顔だけ見せてくれた時とも少し違うみたい」
羽居も同意する。
それを受けて、蒼香がぽつぽつと話し始めた。
「実を言うと、これが生えて、それで変化が終わりじゃないんだ。
最初に気づいた時は、もう一回り小さくて、先のほうもちょっと違った形し
てたんだけど、だんだんと大きくなってきて……。
男性器とは逆に、こっちはだんだん小さくなるみたいで……」
「それって、女から男へ変わりつつあるってこと?」
「多分……」
蒼香は頷いた。
多分なんて言い方だけど、はっきりとそうなっていると確信しているのがわ
かった。
声が出なかった。
こんなのが生えているというだけでとんでもない事なのに、日々体が変わっ
ていくなんて。
それは……。
「蒼ちゃん、男の子になっちゃうの?」
羽居の声。
この事態を受けて、さすかの羽居も悲鳴のように声を洩らした。
弾んだ声で、笑顔になって……、って、何?
なんで。
なんで笑っているの、羽居は?
蒼香も愕然とした顔で羽居を見て言葉を失っている。
私もきっと間抜けな顔していると思う。
……。
数秒沈黙。
そしてやっと頭が働いた。
「羽居、あんた、蒼香が男になったらそれはそれでいいかなあとか思ってるん
じゃないの?」
「うん。蒼ちゃんならもともと格好いいし、男の子でもわたしいいよ。
どっちかと言うとそっちの方がいいのかな?」
馬鹿頭。
ちょっとくらくらとした。
「相変わらず脳がどこか眠ってるわね。
いい、ここは女子校なんだから、男になったら蒼香はもういられないわよ。
きっと、実家に戻されてそのまま仏門入りね」
「ええッ、そんなのわたし困る……」
なんだか、私も少し変な事を力説している気がする。
嗚呼。
そして、強引に話を戻した。
幸か不幸か、混乱の間に閃いた一案がある。
「あの、蒼香。
こういう場合、その…………しちゃえば元に戻ったりしない?」
「え? 何すれば、だって?」
「だから…………、射精」
「……」
「……」
呆然として蒼香が私を見ている。
や、やめてよ。
私だって、こんな処でこんな話しているの恥かしいんだから。
でも、蒼香の窮境を何とか……、ううう。
「あいにく、ダメだった」
「え?」
「それはあたしも思ったんだけど、効き目はなかった」
「……自分でしたの?」
こんな時なのに、蒼香の言葉に変な回路が反応した。
その時の姿を想像してしまう。
ふうん。
蒼香は私の視線に、頬を赤くして、顔を背けてしまった。
とりあえず無言のままで肯定も否定も無い。
「……」
「ふうん、したんだ」
「……」
「どうだった? 気持ち良かった?」
「よくわからなかった。いきなり吹き出てびっくりしたな」
観念したのか、蒼香は返答した。
そうなんだ。
そんな処まできちんと機能しているんだ。
ここから、あの独特の匂いのするねっとりとしたものが出るんだ。
兄さんみたいに。
どうだろう?
兄さんみたいなんだろうか?
そんな興味が起こった。
見てみたいな。
……何を考えているの、私は。
こんな時に。
でも、出すだけ出したら無くなったりしないだろうか?
不合理かもしれないけど、もともと女である蒼香に突如生えたのも理に反し
ているのだ。
黙っていても何ら解決には向かわないのは確かだし。
そう思うと、自然と言葉が口をついた。
「試してみない?」
「なにを?」
「自分でしたからダメなのかもしれない。
私と羽居でしてあげる」
「何を……」
蒼香は一言の元に拒絶しかけて、そして口ごもった。
一応は真面目に提案しているのがわかったのだろうか?
ちょっと聴いてと掌を蒼香に向けて、言葉を続けた。
「一人で閉じこもるほど悩んでいたんでしょ?
相談くらいすればいいのに。
まあ、それは今はいいわ。
むしろ私たちにだけは知られたくないという気持ちも理解できる。
でも、こうなった以上は恥ずかしいとか言うのは無しよ。
可能性があるなら、何でも試してみましょう」
「そうだよ、秋葉ちゃんの言う通りだよ」
羽居も口を出してきた。
さっきとは違う口調。
蒼香の為にという私の言葉に賛同して、説得が入っている。
「遠野、羽居……」
「ね?」
熱意に押されたのだろう。
蒼香は頷いた。
この事態はさて置いて、少し何ともいえないこそばゆい心地良い雰囲気。
「じゃあ、さっそく」
「っおい……、うぁっ」
そうと決まればと行動を開始した。
蒼香が何か言い掛けたが無視。
ぐずぐずと考えていると、私自身にもためらいが生まれるかもしれなかった
から。
蒼香の縮こまったおちちんを手にする。
こうなっている時は可愛いのよね。
幹を掌で転がす様にして、袋にも刺激を生じさせる。
軽く、ただ感触を味わうように。
さすがに兄さんのよりも小さい。
うん、可愛いかもしれない。
蒼香、気持よさそうなくすぐったそうな顔しているわね。
ふふ、ほらだんだんと掌から……。
「ほら、羽居、見て……」
「あ、大きくなっていく」
羽居が驚いて見つめている。
蒼香自身もなんだか不思議そうに自分の変貌を見つめている。
もう、手には収まりきれない。
幹を握るように持ち方を変化させた。
こうなると、おちんちんと言うより、ペニスと呼びたくなる。
こんなに大きく、熱く、硬くなると……。
「気持ち良くしてあげる……」
少し声が高ぶっているのが自分でもわかる。
平静でなんていられない、こんな真似をして。
どきどきとしてくるのを気にすまいと、さらに動いた。
握った手を幹に沿って前後に動かす。
そうしていると蒼香はさらに大きくなっていく。
小さく押し殺したような声が耳に届く。
蒼香の声。
感じて……るんだ。
私の手で。
蒼香が……。
なら……、こんな事もしてあげる。
ここも気持ちいのよね。
ぴくぴくしている。
「どう、蒼香?
少しは気持ち良くなって貰えているかしら?」
「少しどころか……、何だか腰全体がびくついて。
凄く気持ちいい。ああ、ダメだよ。そこは、あああッッッ」
感じているどころか、乱れてすらいる。
あの蒼香が。
もっと。
もっともっと。
蒼香をもっといっぱい感じさせて上げる。
幹を強くしごき、一方で空いた手が亀頭を弄りまわす。
先端と、ふくらんだ部分の縁。
敏感な部分を重点的に責める。
もう、限界が近いみたいね。
何となくわかる。
もうすぐ、もっとぷくんて膨らんで。
ここから出すんだ。
蒼香の顔がむしろ苦痛に耐えているそれに近い。
それでも、やめろとは一言も言わない。
やめたら、どうするだろう。
もっとと懇願するのかな。
あ、手の中で暴れる。
蒼香の腰自体がむずむずと動く。
来る。
手にしたペニスの幹が中の動きを伝える。
蒼香の精液が。
どくどくと弾けた。
その瞬間、反射的に体を動かしていた。
動かす手は最後まで止めないで。
ただ、蒼香が撒き散らす精液を素早く避けた。
兄さんのものならそのまま受けるけど。
こんな制服姿だったし……。
小さく悲鳴。
私が逃げた事で、白い飛滴は代わりにさらに後ろへと降り注いだ。
すなわち、すぐ近くで息を呑んで眺めていた羽居に。
羽居の服に、そして顔に。
びっくり顔で羽居は固まっていた。
ごめん、羽居……。
でも、ちょっとその……、こんな時なのに笑いが。
蒼香も凍りついたようになっているのが、さらに。
「あらあら、酷いわね蒼香。
羽居のこと、こんなに汚しちゃって」
ハンカチで羽居を拭きながら、蒼香に向かって言葉を投げる。
蒼香はようやく茫然自失の状態から復帰している。
「蒼香……、何しているの?
自分がやった事の責任は取りなさい」
「あ、ああ……」
身を起こして何か拭くものときょろきょろする。
ちょっと意地悪したくなって、唆すように無理難題を口にした。
「舐め取ってあげるべきではないかしら。羽居にこんな事をした罰に」
言って少し我に返る。
何を言っているのだろうと。
この今までの淫靡な行為。
蒼香の絶頂を迎えるまでの姿。
激しく飛び散った精の香り。
そんなものがない混ぜになって、少しおかしくなっていたかもしれない。
無性に蒼香が可愛くも思える。
苛めて困った顔が見たくなる。
蒼香の方もどこかおかしい。
ふざけるなと文句を言いそうなものなのに。
私の言葉に素直に従って、のろのろと体を動かしている。
膝立てで前に進んで、顔が羽居の頬に近づいて。
本当に、舐めるのだろうか。
自分で出したものを。
ううん、そうでないとしても蒼香がこんな白濁液を舐める?
でも蒼香は口を開き、ピンク色の舌を伸ばした。
近づく。
そして、頬にべっとりとついた粘液を舐めた。
舌が動いててすくい取る。
舐め取った。
顔が顰められる。
でも、また伸ばす。
何度も、何度も。
蒼香が羽居の顔を自分の舌で拭き清めている。
頬も、瞼も、口元も、顎や首筋まで。
「あ、蒼ちゃん。全部舐めちゃったの?」
羽居の声。
口をもごもごとさせて、蒼香は頷いた。
「少し、蒼ちゃんの舐めてみたかったなあ」
「……!?」
え?
蒼香も驚いている。
本当に、今日は羽居に驚かされてばかりいる。
「まだ、残っているじゃない。ね、蒼香?」
「蒼ちゃん……」
羽居に見えるように、唇をちょんと突付いて見せた。
ああと羽居は理解の色を見せて、唇をつんと突き出した。
口づけを求める仕草。
蒼香もそれはわかったのだろう。
すぐに自分の唇を重ねた。
さすがに回り込んで接触部を観察する真似は出来ないけど、息の乱れとくち
ゅっと言う音で、二人が何をしているのかわかる。
唇を合わせているだけでなくて、舌も絡めているんだ。
唾液を混ぜ合わせて、蒼香の口の中の精液を羽居の口に移して。
どきどきするような行為だった。
自分でするよりも、この二人のキスを見せられるのは興奮させられたかもし
れない。
あ、興奮しているんだ、私……。
自分の状態に気づく。
どうしようかと思う。
とりあえず、最初の仮定に基づく行為は終わった。
後は蒼香を説得して、きちんとお医者様に見せるように促して……。
でも、何故か私はそうしなかった。
少なくともまだ。
「蒼香、これで満足して貰っては困るけど?」
二人が身を離す。
正確には蒼香が。
羽居はまだそのままでいたかったようで、ちょっと不服そう。
もう一度、蒼香のモノを見つめる。
射精をしてもほとんど衰えは無かったけど、早くもそこは回復していた。
「まだまだ元気なのね。
ううん、もっと凄くなっているみたい……」
てらてらと光る亀頭をつんと突付く。
触れた程度では身じろぎもしないほど硬くなっている。
その頼もしい様に、ちょっと心惹かれる。
それにこの少しどろどろとして独特の臭気を放つのがかえって……。
「やっぱり、ただ出すだけじゃダメなのね。
ねえ、蒼香。最後までした事はまだ無いのよね?」
自然に言葉が口から出る。
最後?
最後って……。
「最後って……」
期せずして、蒼香も私の心の中と同じ呟き。
同じ事を思い浮かべているのね。
つまり、ただ射精するだけでなく本当に男女の交合を……。
問うような蒼香の顔に、頷く。
「試してみる価値はあると思うわ」
根拠は無い。
でも何だかそれでいいような気がする。
いや、自分を偽るのは止めよう。
蒼香の為というのは嘘ではない。
駄目元でやってみようという気持ちもそうだ。
でも、それと同じくらい、私はこの親しい友人のペニスに興味を持った。
これを自分の体で試したらどうなのだろう、試したいと強い衝動を持った。
私の体は兄さんのものだ。
兄さん以外の男の人など望まないし、考えるのも嫌だった。
でも……。
これは蒼香の、女性の持つ男性だった。
それにはあまり心理的な抵抗は正直なかった。
あくまで対象外として、兄さんに対する不貞、裏切りであるという意識もほ
とんど存在しない。
むしろ、その僅かな背徳の感覚さえ、私を促す衝動の一つになっている。
つまるところ、蒼香の初めてを私が奪う。
その事にぞくぞくとしている遠野秋葉がいるのだ。
アブノーマルな交合に興奮しているのだ。
でも、努めてそれを表さぬように……。
「仕方ないわね、私が……」
「蒼ちゃんとしたい、わたしがする」
羽居の声がぶつかった。
「……」
「……」
二人して見詰め合う。
蒼香は黙っている。
まあ口出しにくいだろうけど。
「羽居、あなたまだ経験無いわよね?」
「うん」
「なら、悪い事は言わないから私の次になさい」
「ええーっ、なんで、秋葉ちゃんずるい」
口を尖らせる羽居。
うーん、蒼香の事になるとちょっといつもよりこだわりを見せるわね。
表に出せぬ欲望を少し抑えて考える。
譲ろうかなとも思う。
羽居が望むのなら、先に。
私はその後でも構わないし。
それに、正直怖れもあるのだ、心の中には。
……。
でも羽居も初めてで、うまくいくのかな。
どう考えても、あまりスムーズに行くとは思えなかった。
それなら翻意させた方がいいのかな。
でもどう言ったら良いのだろう?
ちょっと考えて、理で諭すのはやめた。代わりに……。
「なら、いいわ。羽居が先で」
「やったあ」
羽居が小躍りせんばかりに歓喜を露わにする。
その喜びようには笑いが浮かぶ。
無邪気な子供を見る時の笑み。
そして、それが崩れるのを確信しているが故の笑み。
しばらくだまって羽居を眺め、おもむろに口を開いた。
出来るだけ感情を込めずに離し始める。
「でも……、蒼香も初めてだから、大変でしょうね」
「え?」
「だからね、加減がわからなくてきっと羽居は痛い思いをするでしょうね。
まあそれは我慢できるでしょうけど、さんざん苦しんで痛がって……、それ
で挿入されてすぐに終わるかもしれないわね。蒼香は初めてだもの」
「……そうなの?」
羽居の顔がやや曇る。
探るような目に、嘘で無いわよと無言で返事。
私が決して嘘を言っている訳ではないと悟り、今度は蒼香に眼で問い掛ける。
蒼香は当惑している。
まあ、わからないでしょうね。
私だって本当のところはわからない。
「男の人って一度出すと長持ちするし、少しでも慣れた方が蒼香にしても羽居
を相手にするの楽だと思うけど。いいわ、それでも羽居がいいと言うなら。
救急箱は用意しておくから、どれだけ血塗れになっても大丈夫よ」
「……」
にこりと笑顔。
これでも羽居が引かないなら、それはそれでいい。
その覚悟に免じて、私が引き下がる。
で、どうするの?
しかし、羽居が結論を出す前に蒼香が割って入った。
「そんなに脅かすな」
「別にそんなつもりはないわ。
でも正直その……、かなり痛いわよ。相手が初めてでなければまだリードし
て貰えるから楽だと思うけど。これは脅しじゃないから」
実体験に即しての言葉を口にして、ふと頬が赤らむ。
何を言っているのだろう。
もちろんこれまでも、兄さんとの初めてを語ったことなど一度たりともない。
でもその辺へは、羽居も蒼香も注意を払わなかった。
説得力ある忠告部分は心に響いたようだけど。
「蒼ちゃん……」
「遠野の様子を観察させて貰った方がいいな、その後で羽居と」
「うん。
じゃあ、一番は秋葉ちゃんに譲る。わたしはその後にするね」
それがいいわよ。
ならば二人の気が変わらないうちにと、私はてきぱきと服を脱ぎ始めた。
蒼香が少し意外そうな顔をしている。
「全部、脱ぐのか?」
「ええ、服とかに変な染みとかシワとか、そういう事した跡が残るのは嫌だし、
ただ繋がるだけなんて、動物みたいじゃない?」
「まあ、そうかもしれないけど」
それほど蒼香と羽居の前で裸になるのに抵抗は感じない。
別に初めて互いの裸を見たわけではないから。
同室でいる時には、着替え時にほとんど半裸の下着姿を晒したし、水泳の授
業や、お風呂なども一緒の事が多かった。
ある意味、お互いに相手の裸なんて見飽きているとも言える。
もちろん、結果として肌を晒したのと今では、全然状況が異なるけど。
でも、蒼香は自分の身動きも忘れて私を見つめている。
ううん、蒼香までが固まっている。
「どうしたの、二人とも?」
「驚いた、遠野ってずいぶん女だな」
「秋葉ちゃん、綺麗」
「え、ええッ、なによ、二人とも……」
からかいでは無い。
誉められているの、この体を?
わぁ。
いきなりの思いがけぬ言葉に、急に恥ずかしくなった。
体が熱を持ったように熱い。
まるで、兄さんに肌の白さや体の線を賞賛された時みたい。
そう思うと、さらにかぁっと肌に赤みが差していく。
「これなら、お兄さんが見たらめろめろになるよね」
「そうだな」
「兄さんは関係ないでしょ。あ、でも褒められているのか。
悪い気はしないけど……、恥ずかしいから。
……始めるわよ」
「あ、ああ」
慌てて気を取り直す。
私が動揺している訳にはいかない。
冷静に、とりあえず最初は冷静に。
……。
いいわ。
蒼香、始めましょう。
這い寄る。
蒼香の体に。
屹立したペニスに。
反り返っているそれを軽くこちらに向ける。
凄く硬くて、バネでも入っているみたいに困難。
こんなの倒したら痛いのじゃないかな。
兄さんは平気だって言うけど……。
うん、蒼香も平気みたい。
このまま挿入してもいいけど。
でも……。
あえてペニスからは手を引いて、変わりに体を寄せた。
蒼香の体を擦るように。
上半身が重なる。
蒼香の小さな胸の感触。
顔を寄せた。
さっき羽居と激しい口づけをしていた唇が濡れている。
「あ……」
蒼香の驚いたような眼。
構わず唇を奪う。
んん…ちぅっ、っん……。
そのまま舌を入れる。
蒼香の舌、軽くノックする。
少し蒼香の口腔を探り、そして戻った。
唇も離す。
「ふぁ…」
照れたような蒼香の顔。
さっきは性器を愛撫して絶頂に導くなんて事をしたのに。
それよりも何だかちょっと恥ずかしい。
「なんで……」
「だって、ただ挿入するだけなんて嫌だったから。
言っておくけど、私だって全然平然としてる訳ではないんだから。兄さん以
外とこんな事するなんて」
返事と言うより独り言めいた言葉。
少し、言い訳がましい。
「そうだな」
「だから、少し、こうさせて?」
「うん、遠野……」
蒼香から唇を求める。
それに応えた。
唇を小さく擦り、舌を互いに絡めあう。
妙に緊張してぎこちない動き。
兄さんと同じ事をする時とは、少し違う。
触れ合う唇や頬の感触だけでなくて。
なんと言うかもっとじゃれているような感触。
舌を誘い込んで、唇で挟む。
蒼香の舌を吸う。
ちぅぅと、水音にも似た音が唇を震わす。
あまりすると痛いかな、もっとこうしていたかったけど解放する。
蒼香はそのまま唇を離した。
眼が陶酔の色を浮かべている。
「はぁ……、遠野、うまいな」
「そう……?」
もっとと求められる。
もう少し軽い方がいいのかな。
何度となく唇を合わせる。
抱き締め、抱き締められ。
私の方が蒼香に甘やかな悲鳴を吸い取られる事もあった。
お返しに深く舌を挿し入れて、蒼香の舌の裏や頬の内側を丹念に撫で上げる。
ちゅうゅうと唾液をすすり込む。
「ふふ、蒼香のさっきの匂いが残ってる。
いやらしい匂いが」
「ああッ、ふぅん」
こんな処にも残っている、蒼香のさっきの。
羽居の顔を舐めまわしていた時に触れたのだろう、蒼香の顎や頬や髪。
乾きかけた部分も含めて精を今度は私が舌で拭ってあげた。
そして、また口づけ。
しばらく続けて、申し合わせたようにどちらともなく離れた。
もういいよね。
そんな無言の言葉を互いに投げかけて。
蒼香の体を仰向けに横たわらせた。
私が上から。
そちらの方がしやすいし、何だか奪っている感じだから。
「入れる…わよ……」
「うん……」
さすがに緊張している。
言葉を噛みそう。
蒼香はもっと緊張している。
羽居の視線。
彼女もいつになく黙ったまま。
いいのかな。
本当にこんな事して。
こんなぎりぎりになってためらいが生じる。
兄さん……。
許してくれますよね?
こんなに他の「男」に感じている私を。
これから起こる事に怖れと、それを遥かに上回る期待とを持っている私を。
兄さん以外の人と数え切れぬほどキスを交わして、触れてもいないのに、も
うこんなにしている私を。
ほら、とろとろになって。
はしたなく腿にまで垂らして。
もう、待ちきれなくなっているんです。
もう、何か入れないと耐えられないんです。
ごめんなさい、兄さん。
謝りながらも、手では蒼香のペニスを手にしている。
こちらに切先を向けて、蒼香の体を跨いだ腰を落とし始めている。
ゆっくり、ゆっくりと近づいて行く。
蒼香が震えている。
そうよね、私より怖いわよね。
でも止めないのでしょう?
蒼香が嫌がったら、もしかして私も安堵して止めるかもしれないけど。
このままね?
いいわ……。
さらに体を落とす。
もう止められない。
あと少しすとんと落とすだけ。
もう、腰を落とすよりも落とさぬ為に力が入っている。
蒼香の男に私の女が触れ―――、
呑み込んだ。
貫かれた。
す、凄い。
何なの、これ?
まだ半分も入れていないのに。
いつもなら、兄さんに軽く絶頂まで導かれ、その冷めぬ内に何度も何度も高
みを漂わされる時の快美感。
それがもう感じられる。
緊張で意識せずに蒼香を締め付け、鋭敏にその熱さや大きさを受け入れてい
るからだろうか。
気を抜くと、ふっとそのまま刺し貫かれてしまいそう。
そうなったらどんなに凄いだろう。
でも、その欲求に耐えて、ゆっくりと性器の挿入を続けた。
うん……はぁ。
全部…入った、ああん。
蒼香がいやいやをするように顔を動かしている。
顔を紅潮させ、息を乱している。
ああ、感じているんだ。
そう思うと嬉しくなり、そして少し冷静さを取り戻す。
意識して、蒼香を楽にする。
体の動きを止めて、緩めて?
自分でもどうなっているのかわからないけど、いつもはこうしているから。
はたして、せっぱつまった表情が眼に見えて緩む。
ちょっと可愛くなる。
「まだ、ダメよ。蒼香……。
せっかくだから、もっと……」
「と…おの……?」
受動的に貫かれているのと、能動的に呑み込んでいるのでは、こんなに違う
んだ。憶えておこう……。
すっかり余裕を持って、蒼香に接する事が出来た。
こんな言葉を口にできるまでに。
「初めてを楽しんでおいたら?」
そして、動き始めた。
でもゆっくりと、軽く。
蒼香の様子を見ながら微妙な加減をする。
高まりには足りないかも知れないけど、その分、私の中を味わって貰う。
私だって知らない秘裂の奥を。
兄さん以外には知られることの無かった筈の秘められた処を。
私も緩やかな動きの中で、蒼香の感触を存分に味わう。
もっと強く動いて、あるいは蒼香に貫かれ抽送されて、そんなのも良いけど、
こうしてゆっくりと体を合わせ離すのも決して悪くない。
凄く私は感じている。
ああ、ねちゃって音がするのが恥ずかしい。
こんなに淫らに腰を動かすのも。
蒼香が動かない分、私自身で蒼香を膣襞に擦らせるのも。
うんん……。
もっと奥まで呑み込んで上げる。
あ。
ぎこちないけど、蒼香も腰をあげている。
蒼香も奥の奥まで入りたいんだ。
もっと。
まだ入るわよ。
あ。
凄い、こんな処まで。
蒼香がここにいるのがわかる。
ふふ、こんなにいっぱい。
じゃあ、また抜く時の摩擦を味わってね。
こうするともっと引っ掛かるでしょ?
兄さんなんか、これで終わった事だってあるのよ。
ここまで引いて、また挿入。
こうやって、左右にも腰を振るの。
円を描くように。
当たる処が少しずつ変わるのが……、ううん。
どう、耐えられる?
もう、我慢できないかしら?
「遠野、もう……ダメ。もう、出ちゃう」
「いいわ。大丈夫だから、そのままで。
男の子としての初めてを心置きなく味わって……」
優しく言ってあげる。
凄く愛らしく感じる。
兄さんもそうだけど、男の人が自分の中で気持ち良くなって最後を向かえそ
うだという瞬間が、背筋をぞくぞくさせてくれるのだ。
奥に入れて、短くゆっくりとしたストロークを描く。
激しくは無いけど、今はこちらの方が良いでしょう?
あ、私の中が勝手に動いているのがわかる。
蒼香を搾り取ろうとする様に。
さあ、早く。
大丈夫な日だし、思う存分女体の奥へ放って。
蒼香。
あ。
ああッッ。
わかった。
蒼香が一瞬膨らんだのが。
ぐいと突き入れたのが。
そしてさっきよりも激しく迸らせたのが。
私の中に。
いっぱいの濃厚なミルクを。
「とお…の、凄い、ああ、何、これ。あああああッッッ」
激しく叫ぶ蒼香。
もしかして、女の子としてもクライマックスを迎えたのだろうか。
こんなになるなんて。
私も蒼香のものを熱く感じて、軽く飛んでいた。
自分の指でも、兄さんによってでもなく。
それでも、イッてしまった。
それが信じられなくて。
その頭の混乱と、体のフワフワ感とで、酩酊したようになった。
動けない。
絶頂を迎えまだ放心している蒼香と共に、ほとんど身動きもできずにじっと
して、その余韻に浸った。
蒼香がじっと私を見ている。
私がこんなになっているのに驚いている。
仕方ないでしょう。
何か言われる前に唇を塞いだ。
まだ喘いでいる息を吸う。
ふぅ。
のろのろと身を起こす。
駄目。
これ以上は体が動かない。
無理をすると、かくんと崩れそう。
少し粘っこい音。
蒼香が抜け落ちる音。
中でペニスと共に、どろりとしたものが滴るのがわかる。
ほら。
あとはこの膨らんだ……くぅぅ。
膣口を逆巻くように引っ掛かりが擦る感触。
まだ萎んでいない。
蒼香のモノは大きいまま。
それではダメだったのね。
交わって精を放っても、蒼香は元に戻らない。
少しがっかりする。
少し?
ああ、満足にしている自分がいる。
ごめんなさい、蒼香。
蒼香も少しは期待していただろうに。
肉体の悦びでこんな……。
でも、蒼香も絶頂に到り、満ち足りたような表情。
単に疲れたのかもしれないけど、悦びに浸っているわよね、これは。
ああ、蒼香が抜けた。
大きい。
こんなのが入ってたんだ。
兄さんので何度も体験しているけど、やっぱり自分でも不思議。
でも、こんなにぽたぽたと淫液が滴り落ちている。。
「どう?」
「気持ち…良かった……」
蒼香の声。
満足そうな声。
少なくとも、この初体験自体は嫌ではなかったみたいね。
「私も……良かったわ、蒼香」
そう言うと、蒼香から離れた。
なんだか無性に恥ずかしくなった。
改めて今の行為を思い出してしまって。
「ね、今度はわたし」
「あ、ああ……」
「秋葉ちゃんで満足したからおしまいとか意地悪しないよね」
「うん……」
私が離れると、待ちかねたように羽居が入れ替わる。
そう言えばまったく言葉も無く見守っていたのね。
羽居らしくなく。
どう映ったろう、私と蒼香は?
これから自分が体験する行為を、眼のあたりにした事は?
そうだ。
今度は蒼香と羽居がするのよね。
それを私は眼にするのよね。
……。
羽居は既に何も身に付けていなかった。
私と蒼香がしている間に準備を済ませていたのだろう。
久々に見ると……。
やっぱり大きいなあ。
自然と羽居の柔らかそうな豊かな胸に、眼が向いた。
私や蒼香が何人いればあれに匹敵するのだろう。
大きさもさる事ながら、丸い球状の形の良さ。
外人モデルのような大きくて突き出た胸とは違う、いかにも柔らかくて触る
と指が沈みそうな……、じゃなくて実際に手の中で形を変えるのよね、あれ。
前よりまた大きくなったみたいだし、なんて不公平。
胸だけでなくて、足やお尻、全体の体の線。
決して太っている訳ではなくて、それでも全体が柔らかい感じなのだ。
本当に抱き心地の良い体。
思わず見惚れていた。
上から下までゆっくりと眺める。
「どうすればいいのかな?」
「さっきの秋葉ちゃんみたいにすればいいの?」
うこうしていると、話は進んでいて、気がつくと二人は私を頼る眼でこちら
を向いていた。
好きになさいなと言いたかったが、それも無理と判断。
ささやかなるアドバイスする。
「そうね、やっぱり蒼香がリードするべきね」
断言。
まあ、一応経験者で男なのだから。
「さっきと逆に、羽居が横になって蒼香が上から……」
手でその動作を示しながら、ふと我に返る。
私は何をしているのだろう。
とんでもなく恥ずかしい事をしているような。
でも、蒼香は真剣な顔。
その眼に威圧されるように、とりあえずの説明を続けた。
後は。
後は蒼香の役割。
少し引いて二人を眺める。
「嬉しいのか?」
「怖いけど、嬉しい」
「優しくするから」
「うん」
すごく初々しくていいな。
私の時と蒼香も全然違う。
羽居ですら、どことなくしおらしくて、いつもと違う可愛らしさを見せている。
あ、いよいよ。
こんな処を見てていいのかなと思うが眼を離せない。
あ、でも。
蒼香が重ねかけた体を止めた。
見るな、出て行けと言われるのかな。
それならそれで仕方ないけど。
あ、違う。
真剣な顔で蒼香が羽居に話し掛けている。
「羽居、そのままじゃできない」
「え、なんで、ダメなの?」
「だって、そのさ……、痛いだろ」
「我慢する」
「そうじゃなくて、いきなりだと……ええと、濡れていないと、確か挿入する方もやり辛いとかで……」
笑った。
ごめん、二人とも。
どちらかと言うと蒼香に。
凄く意味不明といった風情でこっちを見るのがさらに笑いを誘う。
駄目。
無理やり笑いを殺す。
「ごめんなさい。でも、良く見て御覧なさいな、蒼香」
視線をそこに向ける。
羽居の、今まさに蒼香に破られようとしていた秘処。
そこは蒼香の心配に反して、存分な蜜液に満ちていた。
さっきから凄い状態だったんだけど、気づいてなかったんだ、蒼香ったら。
びっくりしている。
「え、……あ」
「準備完了って感じよね」
「あのね、秋葉ちゃんと蒼ちゃんの見てたら、変な気分になって……」
蒼香もまじまじとその花開きかけた様を確認している。
でも羽居、見てただけでそうはならないわよね。
私は見てたわよ。
「それだけ?
私、ちらっと見たけど。羽居ったら、変な気分になって自分の……」
「やだ、やだ。秋葉ちゃん、酷い。
言わないで」
そう、私と蒼香の交わる様を、蒼香が乱れる様を見て、羽居は自分の手をもじもじとした股間に
滑り込ませていた。
それ以上何をしたかは知らないけれど、少なくともそれであんなになるまで感じていたのは確か。
あーあ。
可哀想に、羽居は真っ赤。
さあ、どうする、蒼香は?
「羽居」
名を呼んで蒼香は羽居の唇を奪った。
軽いキス。
でも長いことそうしている。
羽居の表情が穏かになっている。
こういう処、惚れ惚れするほど男らしいわね、蒼香って。
蒼香自身も羽居の方に意識が向いて、いい感じに緊張が解けたようだった。
うん、いいわね。
ささやかなお膳立ての手伝い。
自然な形で二人が横たわった。
蒼香が羽居の足を開かせている。
いよいよね。
最後に、もう一度口づけを交わしている。
激しく。
でも短く。
見ているこちらも呼吸が止まるようなキス。
そして唇が離れた。
蒼香の体が明確な意志を持って……動いた。
体の強張り、力の入り具合。
挿入しようとしている。
蒼香が羽居の中に。
スムーズではなく、ぎこちない。
何度も同じ処を動いている。
でも、ここから先は邪魔できない。
ただ、息を呑んで見守った。
「蒼ちゃん……」
「ごめん、羽居。どうもわからなくて……」
「ふふっ、蒼ちゃんの方が慌てて変だね。
ええとね、もう少し下の方だよ。うん、その辺かな……」
「あっ、ここだ」
「うん、そこ」
羽居の笑顔。
こんな時に。
わかるけど、凄いな。
私はただ身を委ねていれば良かったけど。
あ、進んだ。
さすがに羽居の顔が歪む。
入りかけているんだ。
あの、痛みを思いだす。
幸せで、でも痛みは痛みとして体が裂けるみたいで。
「ね、ぎゅっとして、蒼ちゃん」
「あ、ああ」
蒼香の体を求め、自分でもしがみついている。
少し休んでいる。
羽居は荒く息を乱して、そしてまた蒼香に向かって口を開いた。
「いいよ、蒼ちゃん、このまま……」
「わかった、しがみついていろ」
もう、どうなっているのかわからない。
じりじりと挿入しているのだろうけど。
まだ、最後の一線は越えていないのかな……。
「ひッ、んん……」
羽居が小さく声を洩らした。
口は閉じたまま。
「羽居、ちょっとだけ辛抱して」
「うん……、わたし平気だから、平気だか…ら……」
少し止まっていて、蒼香は動いた。
思い切って腰を打ちつけている。
乱暴なほどの激しさで。
その方がいい。
「んんッッ …はぅンンンッッ」
羽居は必死で堪えている。
声を出せばいいのに。
でも、出すともっと辛いのかもしれない。
蒼香がそのままの動作で、また口づけした。
挿入したまま。
羽居の純潔を奪いながら。
ずんと動いたのがわかった。
その瞬間、羽居が体を仰け反らせた。
「っあ、ああッッ。痛い、痛いよお」
「羽居、全部入ったから。
もう、これ以上痛くしないから」
全部入ったんだ。
蒼香が優しく声を出している。
苦痛に顔を歪ませた羽居を労わるように。
「全部……、うんん、入ったの?」
「ああ、羽居の中だ」
「良かったあ、蒼ちゃんに初めて貰ってもらえたんだあ」
羽居の声。
羽居の顔。
なんて……。
そして、蒼香の表情。
無理も無い。
こんなの見せられたら、蒼香でなくて私だっておかしくなるかもしれない。
しかも、あんなにぎこちなく動いて。
まだ痛みは大きいだろうに、それでも蒼香を悦ばせようとしている。
「羽居、何してる」
「そのままじゃ、ダメなんでしょ?
秋葉ちゃんみたいには出来ないけど」
睦まじく言葉が交わされている。
全部は聞こえない。
でも、何だか何を言っているのかわかる気がする。
きっと構わず動いてと言って。
蒼香はためらって。
でも結局は羽居に逆らえない。
そんな感じなのだろう。
ゆるゆると動き出す蒼香。
全部抜けそうな処まで腰を引いて、またゆっくりと挿入する。
二度。
三度。
四度。
そして、数え切れないほど何度も。
羽居の中に出入りする。
背後からそれを眺めていたけど、ゆっくりと横に回った。
邪魔はしないように。
でも私は二人の姿をしっかりと見ておきたかった。
だんだんと二人のちぐはぐな動きが息を合わせるように変わっていく。
蒼香の動きが少しリズミカルにスムーズに。
羽居もただ苦しいでけでない反応を時折見せている。
結合部をちらりと眺める。
ああ。
蒼香が出入りしている。
あんなにねとねとになって。
粘っこい音が微かに聞こえる。
それに、少し赤いものが混ざっている。
痛かったろうな、羽居……。
動きの音。
それに喘ぎ声。
荒げた息と、つまった吐息。
悲鳴じみた声も時に混じる。
それだけ聴いていても、何だかおかしくなってきそう。
羽居の腰が少しぶるぶると震えた。
心なしか動きが緩やかになっている。
「羽居、は…ねい……」
切迫した響きが混じっている。
これは、高まって耐えがたくなっている。
「蒼香、もう限界みたいね」
「あ……」
介入する。
ちょっと座視している訳にはいかない。
蒼香がもう限界だと頷くのを確認し、今度は羽居の顔を覗きこむ。
一応、羽居の大まかな周期は何となく知っている。
でも確認はしておかないと。
何も考えずにこのまま中で果ててもしもの事があったら……。
とんでもない事になる。
「羽居、離れてもらった方がいい?
危険日じゃないわよね?」
「ええとね……、大丈夫な日だよ」
「じゃあ、そのままでいいわね」
「うん、蒼ちゃんのそのまま欲しい」
羽居の言葉に、蒼香はちょっと考えてからそのまま抽送を続けた。
まあ、男の人がここまで来て止められる訳も無い。
兄さんなんか……。
私の場合は……、うん、それでもむしろ望むところではあるし。
私もあんな顔して、兄さんの最後を待ち受けているのかな。
言葉を交わしつつ高みへ向かう二人の姿をぼんやりと見ながら、兄さんとの
事を思い出していた。
蒼香がぎりぎりまで腰を引いた。
もう、最後の時かな。
「…嬉しいな…蒼ちゃんが……」
「羽居」
蒼香がぐいと強く深く突き入れた。
羽居が大きく息を吐く。
あ、蒼香が硬直して……。
射精しているのかな。
きっとそうだ。
蒼香もうめきつつ、さらにと腰を押し付けている。
もっともっと深く奥までつながりたいと。
あ、また。
またびくんて腰が動く。
脱力している。
ありったけを注いだのね。
蒼香はぐんにゃりと崩れている。
羽居は蒼香の体重を全部受けて、でも嬉しそうにしている。
ああ、わかる。
羽居はさすがに多少は感じたとしても痛みと不慣れさで、けっして肉体上の
悦びは得ていないだろう。
でも、好きな人が自分の中で果てた時の喜び。
受け止めた感触。
そしてぐったりと倒れ込んだ体の重み。
それらは心を泣きたくなるほど満たしてくれる。
きっと今、羽居は幸せな筈。
羨ましいな。
うん、しばらくそうしていたら、蒼香が息を吹き返した。
身を離す。
あーあ、あんなに腰砕けになって。
でも。
なんであそこだけまだ元気なのかしら。
あれ?
心なしか小さく。
萎んだからでなくて、大きくなっているのにさっきより小さい。
もしかして、本当に女陰の中で溶かされているのだろうか。
……。
なら、もっとすればいいのよね。
全てを消し去って、女の子に戻りたいのなら。
ふふふ。
そうよね。
「ふふ、まだ平気よね」
蒼香に這い寄る。
ようやく蒼香が身を起こした。
うん、羽居も物足りないみたいね。
熱っぽい目で眺めている。
そうね。
二人で一緒に。
さあ……。
うん……。
何よ、羽居?
もう朝なの?
じゃあ、起きない……うぅん?
なんで羽居がいるのかしら。
それになんで裸で……って、ああ。
意識が戻る。
まだ朝どころかそんなには時間経ってない…こともないわね。
でもまだ夜というには早い。
羽居だけでなく、私も、そして蒼香も裸。
そうよね。
なんだか三人とも変になったみたいにあんなに、淫らに……。
正気になって思い出すと、赤面してしまう。
まあ、後悔はしないけど。
誰にも言えないわ、あんなに恥ずかしい事を延々と……。
「ねえ、秋葉ちゃん」
「何よ、羽居。あなたは元気ね……、羨ましいわ」
「うーん?
それよりね、蒼ちゃん見てよ」
「蒼香? ええと、あ。嘘……」
羽居が指差した先。
蒼香の剥き出しのままの下半身。
まだ眠っていてぴくりとも動かない蒼香は、無防備にそこを晒している。
薄紅色の媚肉。
花弁という例えが相応しく見えるぴらぴらとした部分が広がり、濡れそぼっ
て、雨露を受けた様になっている。
この場合は、自らの甘蜜を分泌し滴らせているのだけど。
でも、あんなに垂らして光らせていて、綺麗で、でもとても淫らで……。
蒼香の女としての部分がこの上なく示されていた。
……。
そう、それだけ。
秘裂の上の肉芽、その上のこんもりとした丘とそこに茂っている柔らかくて
短い薄い翳り。
そこからはもう、ひきしまったお腹とおへそ。
さっきまでの体の大きさと不釣合いなモノは、
異様で、でね目を惹き付けてやまないモノは、
私と羽居を何度も何度も貫き喜ばせたモノは、
無くなっていた。
蒼香のペニスは消失していた。
まるで最初から無かったかのように。
「じゃあ、やっぱりあれで良かったんだ」
「うん、溶けちゃったのかな」
「それも変だけど、ともかく解決ね。
蒼香、どんなに喜ぶかしら」
「うん。蒼ちゃん、凄く落ち込んでいたものね」
そうだ、早く蒼香を起こして……。
寝息を立てている蒼香を揺すろうとした時、羽居が肩を抑えた。
「何、羽居?
疲れているからもう少し寝かせてやろう…って話じゃないみたいね」
羽居は、表情を変えていた。
少し困ったような、それでいて面白がっているような顔。
「秋葉ちゃん、気づいていないんだ?」
「何をよ。蒼香なら…」
「違うよ、蒼ちゃんじゃなくてね」
思わせぶりな言い方。
あけっぴろげな羽ピンにしては珍しい。
「見て、私のここ」
「な、羽居、あなた何を……、な、何、それ?」
羽居は、私の前ではしたなく股を広げた。
二人とも裸で、さっきはいろいろいろいろとあったけど、こんな……。
思考停止。
回復まで数秒を要した。
羽居のそこ。
さっき蒼香に初めてを捧げたそこ。
そこには、さっきまでは無かった筈のものが鎮座していた。
男の人の……、おちんちん。
まるでさっきまでの蒼香のように。
「蒼ちゃんのが伝染ったのかなあ」
「な、何を呑気に……」
さすがに呆れる。
「私だってびっくりしたよ。
さっきまで秋葉ちゃんも目を覚ましてくれなくて一人だったし。
でも、一人じゃないと思うと少し安心できるね」
「それはそうかも知れないけど……」
「秋葉ちゃんも一緒だし」
え?
羽居の視線が私の顔から下へ。
何を……。
私もそれに倣う。
胸に嫌な予感を抱いて。
下……。
あ。
ああッッ。
あああああッッッ!!!
「な、な、な、何よ、何なのよ、これはぁぁ!!!」
「おちんちん」
「冷静に答えないでよ」
「むぅ、訊いたら答えたのに」
「そう言う問題じゃないわよ」
「落ち着いてよ」
羽居の落ち着いた様を見て、少し乱れる心を無理やり押さえつけた。
まあ、羽居はもしかしたら何も考えていないだけかも知れないけど。
「ねえ、秋葉ちゃん。
とりあえず治療の方法はわかっているんだよ」
「どんな……、あ、ああ」
羽居は直接答えずに、視線をまた蒼香に、蒼香の下半身に向けた。
私たちの生やしたこれを先に生やして、今では消し去った蒼香の股間を。
「同じ事をしたらいいのかなって思うの」
「同じ事……」
同じ事と言うと、蒼香が羽居と私に……。
ああ。
何を言いたいのかわかった。
それに妙に羽居がわくわくとしているのも。
「今度は私が先だよ」
「いいわよ、こっちは私も初めての童貞だから」
「あ、蒼ちゃん、起きるみたい」
「ちょうど良いわね」
「蒼ちゃん、嫌って言わないかなあ」
「言わないわよ、もちろん。
喜んで私たちの窮地を救ってくれるわ。きっとね……」
まあ、嫌と言っても結果は同じだけど。
こんな姿で兄さんの元に戻れないし。
もしかしたら、ここで泊まりかしら。
まあ、たまにはいいわね。
ふふ、大きくなってる。
ああ、こんな風に熱を持つんだ。
羽居もあんなにして。
何だか、どきどきしている。
蒼香もこんなだったんだ。
さあ、目を覚ますわね。
楽しみましょう、蒼香。
二人でたっぷりと可愛がってあげるから。
≪了≫
―――あとがき
これはMoonGazer様の「凸祭」、本来の二作目になるべき作品でした。
でもちびちび書きながら、もっと短い馬鹿なの書きたいなあと晶ちゃんと秋
葉に寄り道して、その間にレベルの高い作品が次々公開されたので、何とはな
く止まってしまい、募集企画終了。
ちょっと勿体無いなあと貧乏性な処が発動し、自分の処用に書こうかなとい
う事で再開・完成しました。
秋葉×蒼香が書きたかったので。
生えるのは蒼香ですけどね。やっぱり蒼香に生やすのがいちばんしっくりい
く気がします。
……別に同意は求めませんが(笑
偏狭な秋葉支持者としては志貴以外の男と秋葉が……といったお話は読むの
はともかく書くのは嫌なのですが、凸少女とならいいか……、と思い立ちまし
て一本、いえ二本書いてみました。
蒼香視点のも合わせて書きましたので、よろしければそちらもお読み頂ける
と嬉しいです。両方だとちょっと長いですけど。 ⇒こちら
確か前にも似たような真似やったよね、と言われるとそっぽを向いて口笛吹
くしかありませんね……。
一応書いておくと、安全毛布とは、世界で一番有名なビーグル犬の出てくる
マンガのキャラのアレです。
お楽しみ頂けたら嬉しいです。
by しにを(2003/4/22)
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