安全毛布の中で
作:しにを
部屋の扉が開いた音がした。
羽居か。
そろそろ夕方に近い時間だな。
ちらと窓に目をやって、もぞもぞと毛布の中に潜り込んだ。
どうせ、こうしていても羽居は放っておいてくれないだろうけど。
きっとまたうるさく話し掛けてくるに決まっている。
……。
いや。
うるさくってのは少し言い過ぎだな。
うざったいのは確かだけど、本気で心配してくれているんだから。
それはむしろ嬉しいと感じさせなくも無い。
でも、放っておいて欲しい。
今はあたしの事を構わないで欲しい。
ごめん、羽居。
厚手の毛布で作られた闇は、あたしを心穏やかにさせる。
暗い暖かい空間。
ずっとこうしていたい。
なんだっけ、安全毛布とかいう言葉が……、なんだっけ?
……。
あれ、羽居が声を掛けてこない。
部屋に入っただけ。
変だな。
いや、それはそれでありがたいんだけど。
いい加減、あたしが相手したがらないのを……、話し声?
まさか、他に誰かいる?
まずい。
羽居だけなら、どうしようもなければ、ばれたとしても……、そう思わなく
も無いけど、他の奴なんて絶対に御免だ。
きつく毛布を掴んで、耳を澄ました。
外の声は、誰?
「ね、こんな具合で一日中ベッドの中なの」
羽居の声。
それに?
「変でしょ。ねえ、おかしいよ」
「変だけど、蒼香が変なのは今に始まった事じゃないし……」
この、真剣みを帯びた羽居に対し、冷静な声。
遠野か。
まあ、そうだろうな。
予測しておくべきだった。
羽居があたし絡みで誰かに相談するとすれば、間違いなく遠野だ。
まずいな、遠野までいると言うのは。
何だかんだ言っても、本気であたしが嫌がる事はしない羽居と違って、こい
つは遠慮が無い。
どうする。
顔だけでも出して話をするか、断固としてだんまりを決め込むか。
……。
結局、あたしは様子を見る事にした。
毛布を被ったまま、二人の会話に耳を傾ける。
「まあ、食事は摂っているんならそんなに心配しなくても」
「でも……」
「ずっと見張っている訳ではないんでしょ?
羽居が授業の間は、一人で部屋にいるんだから、本当にベッドからまったく
出ていないとは限らないわ」
鋭いな、やっぱり。
当然ながら、生理現象はあるし、そもそも身体が弱っているわけではないか
らそうそう寝てばかりもいられない。
外にこそ出ないものの、昼間はいろいろと動き回ってはいる。
事態の解決を図るためにも。
少なくとも手をこまねいている訳にはいかない。
「まあ、いいわ」
「どうするの、秋葉ちゃん」
どうする気だ、遠野?
こっちに近づく音。
「蒼香、聴いてるかどうかしらないけど、羽居は心配しただけだから、恨むな
ら私にしなさい」
恨む?
え、え、なにッ?
毛布を剥ぎ取られる位は予想していた。
でも。
まさか。
ベッドから毛布ごと体を引っこ抜かれるとは……。
どしん。
いや、ぐしゃり。
叩き付けられた訳では無いが、予期せぬ衝撃に息が止まった。
予期せぬ投げ技に、受け身など取れるわけが無かった。
うう……。
いつか、殺そう。
う、ううう……。
「大丈夫、蒼ちゃん?」
「平気よ。絨毯の上だし、毛布が上手くクッションになって……」
「な……、な、なるか、ばッ…けふ」
ああ、叫んだつもりなのに、つまった声しか出ない。
「わあっ、蒼ちゃんだあ」
「顔出したわね、蒼香」
心配そうに、でもどこか嬉しそうにしている羽居。
腕組みして平然として見下ろしている遠野。
溜息。
でもちょっと、ちょっとだけ、何故か安心した。
少し事態が変化を見せた事に対して。
「どうしたのよ、蒼香?
羽居が心配しているわよ」
「どうもしない。体の調子がおかしいから休んでいるだけだ」
「その割には医者にも行かないし、だいたいなんで顔一つ見せないのよ?」
「それは……、羽居がきゃんきゃんとうるさいから」
「なるほど」
「あ、秋葉ちゃん酷い。わたしそんなにうるさくないもん……。
じゃあ静かにしていたら蒼ちゃん、このままでいてくれる?
わたしおとなしくしてるから、ひとりで毛布被ったりしないで、ねえ?」
羽居の懇願の目。
ああ、止めてくれ。
こういうの見たくなかったから引き篭もっていたんだから……。
「それにしても、顔色は悪くないわね。
むしろ……」
遠野が怪訝な顔をする。
羽居もあたしの顔をまじまじと見て、同じく、あれっ、と言いたげな表情に
なった。
この二人ならやっぱり気づくよなあ。
「それはそうとして……」
ずいと遠野が足を前に出す。
「いつまで毛布被ってるのよ」
「そんなの勝手だろう」
「まだ、反抗的な態度取るんだ」
ふんと、遠野はせせら笑い。
下級生とかなら、ぶるぶる震えそうな凶悪な表情。
だが、そんなのに屈するあたしではない。
挑発的な態度で応じる。
「見てのとおり、あたしはぴんぴんしている。
お前さんにして貰う事はないね」
眼にも引っ込んでいろとの言葉を宿す。
こんな真似をしたら逆効果になるかもしれない、まずいかなとちらりとが、
とりあえず反射的にささやかなる敵意を示した。
「ふうん」
たっぷり数秒、腕組みで見下ろされた。
ま、負けるものか。
「じゃあ、力比べといきましょうか」
むしろ楽しげに遠野は宣言すると、体を倒して毛布を手にした。
ぐいと引っ張られる。
手で押さえ、足でも踏みつけ、それに抵抗する。
「意外にしぶといわね」
「……」
歯を食いしばっていて、返事も出来ない。
やれやれと遠野は頭を振ると、ぱっと手を放した。
こっちは引っ張られた毛布を手繰り寄せ、またその身を纏う鎧とする。
「これじゃ埒が開かないし……」
「え、おい」
遠野の表情が変わった。
これは、良くない事を考えている時の目。
何を……?
ひゃい?
「な、な、何を?」
「力づくがダメなら今度は懐柔策。あれね、北風と太陽のお話。
うん、実にぴったりだわ」
「や、やめろって……、おい」
力づくだと均衡するのを悟ってか、秋葉は戦術の変更に出た。
がばと後ろから抱きすくめられたのだ。
羽交い絞めにした手が、あたしの胸を掴んだ。
秋葉の口があたしの耳元に近づく。
「内側から毛布掴んでいるんじゃ、抵抗出来ないわよね」
「遠野……」
「そして力づくの北風は終わりで、太陽の出番……」
手に力が入った。
ふっと耳に息を吹きかけられた。
「ひゃん」
いきなりの攻撃に悲鳴じみた声が洩れる。
体が硬直する。
「ふふふ」
やわやわと胸を遠野の手が柔らかく揉みほぐす。
力をあまり入れない、絶妙な軽さ。
時折、パジャマの布越しに指が胸の突起を突付く。
「や、やめ…ひゃああ」
胸に気をとられていると、また耳にふーっと軽い風。
それほど強い刺激では無いのに、背筋がぞくぞくとする。
じたばたと身を捩って抵抗しようとするが、遠野は苦も無くあしらって、右
かと思えば左の耳に息を吹き込む。
「あー、危ないなあ。
今度は体丸めて蹴飛ばされるかもしれない」
なんだ?
まだ、何もやっていない。
それに、その気の入っていない言葉は……。
「羽居は、脚をお願い。
蒼香の足技は洒落にならないから手伝って」
「わかったよ、秋葉ちゃん」
そういう事か。
おまえも従順に頷くな、馬鹿。
毛布の中に手を突っ込まれる。
手で押さえられ……おい。
「パジャマ下ろしちゃった方がいいよね、秋葉ちゃん?」
「そうねえ、羽居にまかせるわ」
「んっ♪」
驚くほどあっさりと、羽居はパジャマの下を引き下ろした。
そしてそのまま腿の内側に手を滑らせる。
「蒼ちゃんいいなあ、ほっそりした脚で、お肌もすべすべで……」
そんな事を言いながら、ショーツの近くまで指を這わせ、また滑らせるよう
に膝の辺りまで戻す。
それだけでなく、毛布から出ている足首や足の甲にちゅっと軽い口づけを何
度もする。
くすぐったくも、その濡れた唇の感触が……。
まずい。
身を捩ると、今度は遠野が逃すまいとする。
いつの間にか、パジャマの前がはだけている。
ボタンが外され、遠野の手が直接肌に触れた。
胸こそまだブラジャーに遮られているものの、さっきよりはずっと手の感触
が伝わってくる。
それに脇腹を這う手の動きに到っては……。
「ほら、降参なさい」
耳元に熱い息。
そして、耳たぶを。
唇が挟んで擦るように動く。
濡れた舌の感触が、くすぐったくもぞくぞくと……。
ダメ……。
そこは、あたし……。
力がぐったりと抜ける。
まずい。
まずい。
必死で堪えていたのに。
毛布に爪を立てるようにして掴んでいた手が、軽く開いてしまう。
それはすかさず羽居に引っ張りとられた。
そして、遠野と羽居に受けていた胸と脚への責め、その堪えがたい快感にあ
たしは身を委ねた。
すなわち、上ははだけ、下は半ば下ろされた半裸に近い姿で、その姿で身悶
えするほど感じてしまっている状態を、あたしは二人の前に晒してしまった。
二人の視線があたしの体を上から下へ動いた。
そして、止まった。
一点で。
そして揃って浮かべる驚愕の表情。
絶望的な気持ちで、でも張りつめたものが崩れる解放感を確かにあたしは感
じていた。
ショーツでは隠し様が無い、あたしの股間から生えたペニス。
刺激され勃起したペニス。
それを羽居と遠野に見せ付けながら。
「……わかったか?」
いささかうんざりしながら言う。
その疲れた声に引きずられるように、こくこくと二人は頷いた。
ただし、あまり納得したように見えない。
まあ、無理もない。
あたし自身が納得していないんだから。
「三日前の朝、目を覚ましたら生えていた。
全然元に戻る気配が無い。
……煎じ詰めるとこれだけなんだ。
どうして、とか、どうやったら、とかはあたしが一番知りたい。以上」
念のために、これ以上無いくらい圧縮した説明をもう一度だけする。
そしてじろりとした目で見ると、揃ってさっきのようにこくこくと頷く二人。
……。
しかし、真っ裸で胡座かいて何を語っているんだろう、あたしは?
ふぅと溜息をついていると、羽居と遠野とがにじり寄ってきた。
「触ってもいい?」
「……やだ」
否定にかかわらず、羽居が恐る恐るちょんちょんと突付く。
「感覚はあるのよね?」
「ある。羽居の指に触られてるのもわかる」
「そうなんだ。そにさっきは……その…」
遠野が口ごもる。
ああ。何が言いたいのかわかるよ。
「ちっちゃくなると、柔らかくなるんだね。なんだか可愛い」
「……」
「……」
羽居の声に、遠野と顔を見合わせる。
まあ、そういう事だ。
「機能は多分、本物だと思う」
「なるほどね」
遠野もそう言うと、ちょっとためらいがちにあたしの幹の根元と袋に触れて
さらに下を覗き込んだ。
「おい……」
「こちらもあるんだ」
「うん」
まじまじとあたしの女の子の部分を見つめられる。
羽居まで遠野に顔をくっつけるように見ている。
無性に恥ずかしい。
それにここは……。
「本当だ、両方。あれ、でも蒼ちゃん……」
「そうね、なんだか……」
言い辛そうにして二人があたしの顔を見る。
「ああ、男のものがついた代わりか知らないけど、こっちも変化している。
なんだかちっちゃくなってる。
これじゃ、指も入らないかなあ」
今、あたしの男性器と女性器は共存している。
でも、その女の子の方はまるで子供のモノのように形状が変わっている。
なんというか、単純な構造になっているというか、幼くなっているとでもい
うか。
普通にしていると筋だけに見える。
「さっき、蒼香の顔見て、違和感があったの。
なんだか、男っぽいと言うか、顔の線が痩せたというんじゃなくて硬くなっ
てきたみたいで……」
「一昨日に顔だけ見せてくれた時とも少し違うみたい」
さすがに、この二人はよく気がつくな。
「実を言うと、これが生えて、それで変化が終わりじゃないんだ。
最初に気づいた時は、もう一回り小さくて、先のほうもちょっと違った形し
てたんだけど、だんだんと大きくなってきて……。
男性器とは逆に、こっちはだんだん小さくなるみたいで……」
「それって、女から男へ変わりつつあるってこと?」
「多分……」
頷く。
遠野も表情が硬くなっている。
驚きとそして、心配の色。
そうだろう。
両性具有なんてのもとんでもない話だが、男性化しつつあるなんて聞いたら。
「蒼ちゃん、男の子になっちゃうの?」
羽居の声。
さすがに羽居も事の重大さに……、あれ?
弾んだ声?
それに、なんでにこにこ笑っているんだ、こいつは?
思わず言葉を失う。
遠野もそうだ、唖然とした信じられないものを見る目で、羽居を見ている。
「羽居、あんた、蒼香が男になったらそれはそれでいいかなあとか思ってるん
じゃないの?」
「うん。蒼ちゃんならもともと格好いいし、男の子でもわたしいいよ。
どっちかと言うとそっちの方がいいのかな?」
「相変わらず脳がどこか眠ってるわね。
いい、ここは女子校なんだから、男になったら蒼香はもういられないわよ。
きっと、実家に戻されてそのまま仏門入りね」
「ええッ、そんなのあたし困る……」
……。
あーあ。
バカ。
なんだか、涙が出そう……。
「あの、蒼香。
こういう場合、その…………しちゃえば元に戻ったりしない?」
「え? 何すれば、だって?」
「だから…………、射精」
「……」
「……」
やや呆然として発言者の顔を見る。
あまり話題に出ることの無い単語の響き。
遠野の恥ずかしそうに真っ赤な顔なんて、あまり見ないなあ。
「あいにく、ダメだった」
「え?」
「それはあたしも思ったんだけど、効き目はなかった」
「……自分でしたの?」
今度は逆に遠野にあたしがまじまじと見られた。
頬を赤くして、顔を背ける。
もちろん無言だ。
「……」
「ふうん、したんだ」
「……」
「どうだった? 気持ち良かった?」
「よくわからなかった。いきなり吹き出てびっくりしたな」
遠野が妙な目であたしを、そしてあたしのペニスを見つめている。
何やら思うところがあるみたいだが。
「試してみない?」
「なにを?」
「自分でしたからダメなのかもしれない。
私と羽居でしてあげる」
「何を……」
悪ふざけを言うなと叫びそうになったが、遠野の目は真剣だった。
あたしの反応を察して、先に手で制せられる。
「一人で閉じこもるほど悩んでいたんでしょ?
相談くらいすればいいのに。
まあ、それは今はいいわ。
むしろ私たちにだけは知られたくないという気持ちも理解できる。
でも、こうなった以上は恥ずかしいとか言うのは無しよ。
可能性があるなら、何でも試してみましょう」
「そうだよ、秋葉ちゃんの言う通りだよ」
「遠野、羽居……」
「ね?」
頷いた。
さっきの脱力感とは違う意味で、涙がこぼれそうだった。
必死で堪えたけれど。
「じゃあ、さっそく」
「っおい……、うぁっ」
軽い感動の思いに浸る間もなく、遠野の行動は開始された。
微塵の躊躇いも無く、遠野の手があたしをそっと握った。
掌で弄び、揉みほぐすように幹と袋をやわやわと刺激する。
くすぐったく、そしてなんとも気持ちいい……。
遠野がそんなものを嫌悪するでもなく熱心に触れているのも、不思議と刺激
的だった。
「ほら、羽居、見て……」
「あ、大きくなっていく」
遠野の手の中で急速に、あたしの男の子は大きく姿を変えた。
本当に、あたしの意志と無関係に、こんなにむくむくと変貌するなんて。
もう、遠野の手には収まりきれない。
いつの間にか、幹を握るような手の形になっていた。
「気持ち良くしてあげる……」
少し熱っぽい遠野の声。
そして手が動き始めた。
幹を弱からず強からず、微妙な強さで持って幹に沿って前後に動かす。
手が幹の皮膚と摩擦をもって擦られると共に、少し強くすると皮ごと動く。
声が我慢しようもなく洩れる。
何……、これ?
自分でしたのとまるで違う。
初めての時なんかはビデオとかの見よう見真似で手を動かしたものの、何か
感じるより何より恐怖心が強かったし。
なんで、こんなに遠野は巧いんだろう。
やっぱり、した事あるのかな。
初めてなら……こんなにためらいなく触れないもの。
でも、こんな、あああッッ。
袋まで遠野の掌で動かされている。
こんな処まで凄く気持ちいい。
遠野は間近にこんな赤黒くて熱い肉塊を置いても、平気のようだ。
少なくとも嫌がってはいない。
むしろその少し上気した顔は、それに魅せられているようにすら思えた。
遠野、もしかし…、
ああ、ダメだ。
考えていられない。
「どう、蒼香?
少しは気持ち良くなって貰えているかしら?」
「少しどころか……、何だか腰全体がびくついて。
凄く気持ちいい。ああ、ダメだよ。そこは、あああッッッ」
幹を強くしごかれ、一方で空いた手が亀頭を弄りまわす。
先端と、ふくらんだ部分の縁を指で擦られると悲鳴すら洩れる。
ダメだ。
この感覚。
むずむずとして、最初は何だかわからなかったこの感覚。
出る。
出る。
出ちゃう。
止められない。
あの、あたしの中の、
男のエキスが出る。
変な匂いの白いのが出る。
べとべとして、ねっとりとした気味の悪いのが出る。
出るよ。
精液。
あたしの精液。
精液、精液、精液、精液。
全部、出ちゃうよ!!!
遠野の手の動きに抗うように。
あたしの意志なんて関係無しに。
腰全体がひとつの生き物になったみたいに。
ペニスが根元からびくんびくんと跳ね上がった
そして。
精液を放った。
どくどくと、
激しく、
精液を迸らせた。
圧倒的な快感と、ほっとしたような充実感。
こんなの初めてだ。
自分の手で初めてこの変なのを出した時は、えも言われぬ感覚に怖くて。
何かが出てきそうになって手を放した。
それでも中の疼きはそのままで。
ぶるぶる震える赤い先っぽからごぽごぽと白いモノがこぼれて。
それから何度か試したけど、やっぱり最後の最後まで行くのが怖くて。
こんなに勢い良く飛ぶなんて、自分の体なのに初めて知った。
一方、あたしに教えていた方は、こんな事当たり前のように知っているよう
だった。
射精の瞬間、遠野はじっとしてはいなかった。
そのままでいたら真正面から精液に塗れただろう。
でも、ひょいと遠野の体は横へ動いていた。
遠野がいた筈の空間に降り注いだ、凄い勢いの白濁液。
それは、床に落ち、そしてさすがに遠野の制服にも少しは飛滴が届いていた。
しかし、大部分は……。
秋葉にくっつくようにして凝視していた羽居の服に。
そして羽居の顔に弾けていた。
「あらあら、酷いわね蒼香。
羽居のこと、こんなに汚しちゃって」
軽い笑いが入った声。
自分だけ身をかわしたお前はどうなんだ。
羽居は呆然としている。
あーあ、制服もふわりとした髪も、それに驚き顔にも……。
遠野はハンカチを取り出すと、羽居の服に手を伸ばした。
「蒼香……、何しているの?
自分がやった事の責任は取りなさい」
「あ、ああ……」
身を起こして何か拭くものときょろきょろする。
そこへさらに遠野の叱責まじりの声がする。
「舐め取ってあげるべきではないかしら。羽居にこんな事をした罰に」
僅かに笑み。
からかいではまく、もっと何か別の……。
ふざけるなと蹴散らしてもよかったのに、何故か素直に従った。
さっきの行為以上に淫靡な雰囲気に、そして自分自身が放った精の香りに、
頭をやられてしまったのかもしれない。
それに初めて自分の手で精をこぼした時に、物珍しさに粘つく様を指で弄っ
てみた。ツンとする匂いを何度も嗅いでみたり、恐る恐る舌先で触れてみたり
もしている。
だから決して初めてではない。
心地よいものではないけれど、気持ち悪いまでは至らない。
舌を差し伸べ、羽居の頬を舐めた。
羽居の柔らかい頬の感触と、生臭いねとねとした粘液を共に舐め取る。
舌で羽居の顔の汚れを拭い、代わりにあたしの唾液を塗りたくる。
頬も、瞼も、口元も、顎にまで滴っている……。
「あ、蒼ちゃん。全部舐めちゃったの?」
羽居の声に無言で頷く。
口の中には、あたし自身の精液。
「少し、蒼ちゃんの舐めてみたかったなあ」
「……!?」
唐突な言葉に軽くパニックになる。
「まだ、残っているじゃない。ね、蒼香?」
「蒼ちゃん……」
唇がつんと突き出される。
薄紅色の、何もつけなくても艶のある柔らかい唇。
口を閉ざしたまま、羽居の唇を奪った。
羽居は嬉しそうにあたしの濡れた唇を受け入れ、待ちかねたように舌でノッ
クしてきた。
抵抗無く口を開く。
こちらからも舌を伸ばし、羽居の舌に絡ませる。
口の中の唾液とあたしの出した精液が混ざりながら、羽居の舌に擦られる。
羽居は舌を伸ばしたままという、自由の利かない状態で、こぼれないように
あたしの唾液を啜った。
息とも声ともつかぬ変な音が小さく洩れる。
でもそんな様子に笑う事も無く、あたしはむっとするような白濁液を丹念に
羽居に与え、羽居は美味しそうにそれを受け入れていた。
羽居と唇を合わせるのは初めてではない。
遊びのような触れるだけのキス。
ちょっと変な気持ちになった時の、ほんの僅か強くて長いキス。
ご褒美をせがまれてした、少し行き過ぎに思えるほどの愛撫じみたキス。
でも、こんなにねっとりと舌を絡ませた事は無い。
唾液を混ぜあうように、こぼすのも気にせず舌を動かした事は無い。
舌の先から根本まで全て舐め尽くすように潜らせ擦り合わせた事は無い。
それなのに―――
こんなに自然で、まったく違和感が無くて、
そして、うっとりするほど気持ち良いなんて。
信じられない。
信じられなかった。
遠野が声を掛けなければ、ずっとこうしてキスし続けたかもしれない。
「蒼香、これで満足して貰っては困るけど?」
はっとして、身を離す。
羽居は少し不服そうに鼻を鳴らしたけど、いつもよりずっとぼうっとした表
情で抗いはしなかった。
とろんとした眼が、こんなにキスで感じたのが決してあたしだけではないと
告げていた。
あたしもあんな呆けた顔なんだろうか。
少し表情を意識しながら、遠野の方を向いた。
だが、特に冷静な指摘はなかった。
遠野の関心はあたしの顔には無かったから。
もっと下を眺めている。
さっきまで熱心に弄りまわしていたモノを。
まだ、おさまっていなてあたしのペニスを。
「まだまだ元気なのね。
ううん、もっと凄くなっているみたい……」
てらてらと光る亀頭をつんと突付かれる。
触れた程度では身じろぎもしない。
「やっぱり、ただ出すだけじゃダメなのね。
ねえ、蒼香。最後までした事はまだ無いのよね?」
じっとあたしのを見つめて、遠野が呟く。
「最後って……」
誰か女の子とって事だよな。
それは当然試していないけど……。
頷く。
「試してみる価値はあると思うわ」
その根拠はと思うが、それでもしもこの悩みが解消されたら……、とも思う。
でも試すと言ったって、相手がいない。
「仕方ないわね、私が……」
「蒼ちゃんとしたい、わたしがする」
遠野と羽居の声がぶつかった。
「……」
「……」
見詰め合う二人。
ちょっと呆然とするあたし。
「羽居、あなたまだ経験無いわよね?」
「うん」
「なら、悪い事は言わないから私の次になさい」
「ええーっ、なんで、秋葉ちゃんずるい」
口を尖らせる羽居。
こんな状態で、おまけに二人で取り合いになっているのがあたしの……でな
ければ笑える光景だった。
いや、むしろ空虚な笑いこそ、この状況には相応しかっただろうか。
「なら、いいわ。羽居が先で」
「やったあ」
羽居が小躍りせんばかりに歓喜を露わにする。
それに対し、遠野はやれやれという苦笑。
そして、ひとしきり羽居を見つめて、ぽつりと言葉を口にした。
平坦に、独り言めいた喋りで。
「でも……、蒼香も初めてだから、大変でしょうね」
「え?」
「だからね、加減がわからなくてきっと羽居は痛い思いをするでしょうね。
まあそれは我慢できるでしょうけど、さんざん苦しんで痛がって……、それ
で挿入されてすぐに終わるかもしれないわね。蒼香は初めてだもの」
「……そうなの?」
全校生徒を一睨みで凍りつかせる遠野にも、まったく平気な顔でいられる羽
居であるが、さすがに動じている。
遠野だけでなく、あたしの方にもちらりと不安そうな目を向ける。
ごめん、あたしも経験無いから、その辺はわからない。
「男の人って一度出すと長持ちするし、少しでも慣れた方が蒼香にしても羽居
を相手にするの楽だと思うけど。いいわ、それでも羽居がいいと言うなら。
救急箱は用意しておくから、どれだけ血塗れになっても大丈夫よ」
「……」
平然と、笑みすら浮かべて遠野は言い放つ。
アキラ辺りが震え上がる言い方であり表情。
いつものようにはスルー出来ていない羽居はさらに不安げになっている。
思わずあたしは水を差した。
「そんなに脅かすな」
「別にそんなつもりはないわ。
でも正直その……、かなり痛いわよ。相手が初めてでなければまだリードし
て貰えるから楽だと思うけど。これは脅しじゃないから」
「蒼ちゃん……」
「遠野の様子を観察させて貰った方がいいな、その後で羽居と」
「うん。
じゃあ、一番は秋葉ちゃんに譲る。わたしはその後にするね」
あれ、いつの間にか「する」のは既定事実になっている?
ちょっと呆然としているあたしに気づいてか、無視してなのか、遠野は次の
行動に転じていた。
てきぱきと着ている物を脱ぎ始めた。
「全部、脱ぐのか?」
「ええ、服とかに変な染みとかシワとか、そういう事した跡が残るのは嫌だし、
ただ繋がるだけなんて、動物みたいじゃない?」
「まあ、そうかもしれないけど」
別に初めてお目にかかる訳ではない。
変な意味でなくて、遠野の裸など見飽きるほど見ている。
下着姿は同室生活故に嫌でも目にしたし、風呂なども羽居も含めて一緒の時
間に入る事が多かったから。
だから遠野の、目を疑うほどの…スレンダーな身体つきに今更ながら驚くこ
とは無い。
同時に、溜息が出る程の白い肌の滑らかさについても。
でも、こういう状況で、これから肌を合わせるという状況で見る遠野の何も
纏わない姿は、その記憶の姿と全然違っていた。
なんだろう、女であるあたしから見ても陶然とするような、艶かしさと言う
かどきりとするほどの色っぽさで、目を疑った。
もしかして股間のこれの影響かしらと横を見ると、羽居までも感嘆したよう
にぽかんと遠野を眺めている。
「どうしたの、二人とも?」
「驚いた、遠野ってずいぶん女だな」
「秋葉ちゃん、綺麗」
「え、ええッ、なによ、二人とも……」
突然のあたし達の反応に、遠野は不意を突かれた様子で少し頬を赤くした。
でも、体を隠そうとはしない。
本当に綺麗だな。
普段まじまじとは見ない、でもこれから肌を合わせる事になる、遠野の谷間
にも眼をやる。
薄く彩られた翳り、そしてその下の割れ目。
これまでの事で当然ながら遠野も興奮しているのだろう。
そこは明らかに濡れて、太股にも光るものが見えた。
それがまた、あたしをどきどきとさせる。
「これなら、お兄さんが見たらめろめろになるよね」
「そうだな」
「兄さんは関係ないでしょ。あ、でも褒められているのか。
悪い気はしないけど……、恥ずかしいから。
……始めるわよ」
「あ、ああ」
我に返った様子で遠野はいちど冷静な顔つきになり、そして頭のスイッチを
切り替えたように、艶然とした表情に変わる。
例えは変だけど、蛇が鎌首を上げるような優美さであたしに這い寄って来た。
握るとも指を引っ掛けて手繰るともつかぬ微妙な手付き。
遠野の手があたしを引き寄せている。
なんだかさっきよりお腹にくっ付きそうになっていて、曲げられると少し痛
いくらい。
触れている遠野の手が、なんだか先ほどまでより熱く感じる。
と、手が離れた。
いよいよかと身構えると、あたしの緊張をすかすように遠野は細い体を擦り
付け、覆い被さった。
下半身はずれているが、胸が合わさり、顔が至近距離に来る。
「あ……」
止める間もなく、唇が重ねられた。
え、あ、んんん……ッ。
舌が優しくあたしの舌を撫でた。
「ふぁ…」
遠野が顔を上げる。
少し恥ずかしそうにしている。
多分、あたしも同じ顔をしている。
「なんで……」
「だって、ただ挿入するだけなんて嫌だったから。
言っておくけど、私だって全然平然としてる訳ではないんだから。……以外
とこんな事…」
最後はぼそぼそと消えた。
「そうだな」
「だから、少し、こうさせて?」
「うん、遠野……」
こちらから首を伸ばして、唇をねだった。
遠野は嬉しそうにそれに応えてくれた。
躊躇いがちに、お互い舌をぎこちなく動かす。
頬が、鼻梁が、触れ合う。
くすぐったくて、それでいて嬉しい感触。
「はぁ……、遠野、うまいな」
「そう……?」
擬似的かもしれないけど、恋人めいた抱擁とキスの応酬を繰り返す。
「ふふ、蒼香のさっきの匂いが残ってる。
いやらしい匂いが」
「ああッ、ふぅん」
口の中を好きに舌で探り、それだけでは足りないと、唇以外の顔のあちこち
にもキスをされた。
何とも酔うような感触。
拭き切れなかったさっきの残りも
そして、どちらともなく離れた。
いい頃合だなと思って。
「入れる…わよ……」
「うん……」
さすがに遠野も緊張に言葉が掠れている。
あたしも、ほとんど頷くしか出来ない。
横で見ている羽居までが、何も喋らないでただ見つめている。
位置とか、角度が合ったのかな。
遠野の腰が動く。
ゆっくり、ゆっくりと近づいて来る。
恐い。
なんだか恐い。
今からでも、遠野が止めてくれないだろうかと思う。
何よ本気になって、と馬鹿にしたような笑いを浮かべてくれれば……。
いや、止めようと思えば簡単だ。
体を捻って、手で払いのければ……、抵抗すれば……。
でも、何故か出来ない。
怖れに体は震えているのに、黙ってそれを待ってしまっている。
遠野は?
ああ。
遠野も余裕の表情なんて無い。
きっとあたしが浮かべているような、そんな顔をしている。
強張った表情で、体も心なしか小刻みに……。
でも、遠野もまた、止める気は無いみたいだった。
ゆっくりでも、確実にあたしを受け入れようと体が沈んでくる。
もう、止められない。
そして。
そして……。
遠野の女にあたしの男が触れ―――、
呑み込まれた。
貫いた。
あ…。
あああ……。
なんだ、これ?
火花が散った。
ただ、遠野の性器に半ば押し込んだだけなのに……。
こんな……、あああ……。
ずぶ、ずぶ、ずぶ。
ぎゅうぎゅうに締め付けられて、それでも奥へとあたしは進んだ。
遠野の体が密着した。
全部入ったの?
もう、遠野は動いていないの?
だったらなんで、こんなにめちゃくちゃに握って絡み付いてずるずると動い
ているの?
わからない。
なんだか全然わからない。
もう―――。
ふぁ?
ダメだ、と思った瞬間、ふっと軽くなった。
うねうねとした感触はあるのに、だいぶ楽になっている。
「まだ、ダメよ。蒼香……。
せっかくだから、もっと……」
「と…おの……?」
笑っている。
遠野は笑って、あたしを上から見下ろしている。
あたしから見てもぞっとするほど妖艶な笑み。
「初めてを楽しんでおいたら?」
ぞくり。
でも、その背筋の寒気と別に、体の奥は熱くなっていく。
遠野の何かに感応したように。
動き始めた。
凄い。
じっとしていても気持ち良くて何だかわからなかったのに。
動いて、中に入ったものが擦られると。
その感触は全然違ったものになった。
自分でも女として持っている部分だけど、深く奥を見た事も無ければ、指で
だって周りを触れたりする程度。
だから、中がどうなっているのかは実感としてわからない。
それを男として感じて味わい陶酔させられている。
柔らかい絡みつく感触。
少しぶつぶつした感触。
ぐねぐね収縮する感触。
遠野の意思でこんなに動いているのだろうか。
だとするとあたしにも出来るの、これ?
信じられない。
ああ、呑まれる。
それに誘われるように、あたしも自然と腰を突き出している。
緩めて、また締め付ける。
先っちょが少し固いものに当たる。
上下運動だけでなくて、遠野の腰が円を描くように動く。
ううん、抜き差しの動きも続いている。
螺旋。
さっきとはまた違うなぞり方。
こんなの。
こんなのいつまでも耐え切れない。
「遠野、もう……ダメ。もう、出ちゃう」
「いいわ。大丈夫だから、そのままで。
男の子としての初めてを心置きなく味わって……」
優しいと言っていい笑み。
ゆっくりと遠野が腰を前後に動かした。
激しさの無い、揺すられ擦られる刺激がたまらなく気持ちいい。
それに、遠野の中がぎゅっぎゅっと不規則にあたしを締め付ける。
さすがに女として、避妊とかそういう事が頭に浮かぶ。
遠野が大丈夫と言うのなら大丈夫なんだろうけど、でも……。
そう理性の欠片が躊躇いを持っている。
だけど、こんなのに耐えられる事は出来なかった。
何度目かの、そして初めての放出の激しい欲求に身を任せた。
破裂するイメージ。
出てる。
遠野の中に、あたし出している。
腰が勝手にひくついた。
より強く、奥へと動いて、ありったけをその甘美な源泉へ放出しようと身悶
えしていた。
「とお…の、凄い、ああ、何、これ。あああああッッッ」
遠野の中でびくびくと動いている。
きつくて身動きできないのに、それでものたうつように。
あたしを置いて。
体だけが動いていた。
長かったのか。
それとも意外と短かったのか。
クライマックスの後の余韻。
果てて、まだ遠野の中で、緩やかに戻るのを感じて、動かなかった。
もう起き上がれそうだったけど、下手に動くのが怖かった。
すぐにふにゃりとなりそう。
それで、先に動いたのは遠野だった。
自分の事に精一杯だったけど、遠野も様子が違っていた。
見ると顔が上気していて。
息もなんだか乱れていて。
遠野も感じたんだ。
あたしの体で……。
それは、ちょっとどきどきするような発見だった。
秋葉の唇が近づいた。
荒い喘ぎを、絶頂の後の息を吸われる。
そして、膝をついた遠野の体が立ち上がる。
さすがにそろりと、ゆっくりとした身の動き。
根本まで呑まれたペニスが姿を表すのを黙って見守った。
軽口は聞けなかった。
ずるり。
音はしないが、そんな感じか。
半分ほど抜けて、少し引っ掛かるような感覚。
まだ、小さく萎んではいない。
……というか、女と交わっても溶けて無くなったりはしなかったな。
本来の目的を忘れていた。
そして思い出しても残念さがほとんどあたしの中に無い。
今の快美感、満足感の為かな。
むしろ……。
引き出される時に、ぎゅっと体が縮こまって震えが起きた。
強い摩擦と、暖かい気持ち良い処から出てしまうのが、切ない。
そう、深く挿入する事が無くなるのが寂しいほどだった。
少なくとも今は。
完全に抜けて、遠野は離れた。
今までこんな大きいのを受け入れていたのが信じられない、小さく繊細な谷
間が遠ざかる。
ただ、嘘でない証拠に、濡れた秘裂からぽとり、またぽとりと雫が垂れた。
「どう?」
「気持ち…良かった……」
小さく息を乱して、素直に答える。
こんなに、男って気持ち良くなるんだ。
こんなに、女の体って気持ち良いんだ。
「私も……良かったわ、蒼香」
そう言うと、遠野は完全に身を離した。
リードし続けたさっきまでの姿からは意外なほど、はにかんだ顔をして。
「ね、今度はわたし」
「あ、ああ……」
「秋葉ちゃんで満足したからおしまいとか意地悪しないよね」
「うん……」
虚脱でふぬけた返事。
でも、あたしはとんでもない事を考えていた。
この世の物とも思えない遠野との交わり。
凄かった。
だけど、どうなのだろう?
羽居の中は?
同じくらい気持ち良いのだろうか?
それとも全然違うのだろうか?
ああ、拒否する気持ちも嘘じゃないけど、期待して待ち望むあたしもいる。
羽居とも体を合わせたいと、はやくとせがんでいる。
いつの間にか、羽居は下着まで全部脱ぎ捨てていた。
遠野の抜けるような白い肌の体とはまた違った、柔らかそうな羽居の裸体。
手で恥ずかしそうに前を押さえているが、こぼれそうな大きな胸はそれだけ
では隠し切れない。
全体的ななだらかな曲線と少しぷにぷにとした肌の張り。
こちらも日夜良く見るし、背中の洗いっこをしたり、ふざけて触ったりして
いるが、こうして見ると……。
女らしいんだな、そう思って変なほどどきどきしてくる。
おまけにその体を、初めてを、今からこのあたしが……。
「どうすればいいのかな?」
「さっきの秋葉ちゃんみたいにすればいいの?」
二人ですがるように遠野に目を向ける。
「そうね、やっぱり蒼香がリードするべきね」
きっぱりと言い切られる。
まあ、そうだろうな。
男だし。
……いやいや。
でも、初めてではなくなったんだしな。
「さっきと逆に、羽居が横になって蒼香が上から……」
てきぱきと手順を指示して、ふと顔を真っ赤にする遠野。
なんだ、急に冷静になったのかな。
そんな事はどうでもいい。
こっちはそれどころじゃ……。
「蒼ちゃん」
「なんだ、羽居?」
「えへへ、嬉しいな」
「嬉しいのか?」
「怖いけど、嬉しい」
微かに体が震えている。
「優しくするから」
「うん」
そして、羽居の体に覆い被さろうとして、ふと気がつく。
「羽居、そのままじゃできない」
「え、なんで、ダメなの?」
「だって、そのさ……、痛いだろ」
「我慢する」
「そうじゃなくて、いきなりだと……ええと、濡れていないと、確か挿入する
方もやり辛いとかで……」
ぷっと笑う声がした。
遠野?
「ごめんなさい。でも、良く見て御覧なさいな、蒼香」
「え、……あ」
「準備完了って感じよね」
「あのね、秋葉ちゃんと蒼ちゃんの見てたら、変な気分になって……」
まじまじと羽居のそこを見つめる。
そこは既に、どうしたんだろうと思うほど蜜液がこぼれていた。
「それだけ?
私、ちらっと見たけど。羽居ったら、変な気分になって自分の……」
「やだ、やだ。秋葉ちゃん、酷い。
言わないで」
わかった。
あたしと遠野がしているのを見て羽居は興奮して、そして自分の指で慰めて
いたんだ。
一人で指を這わせてこんなに…・・・。
どっと羽居と同じくらい顔に血が集まる。
「羽居」
名を呼んでこちらを向かせて、唇を合わせた。
軽い感触、羽居の唇の柔らかさに触れるだけのキス。
「ふぅ」
「落ち着いたか?」
うん、と頷き、改めて羽居は身を横たえた。
手がこっちに差し伸べられる。
こちらもお姫様のお誘いに応える。
あてがった。
今しがたの秋葉との経験があるとは言っても、完全な受け身。
自分からは、当たり前だけど初めてだ。
これでいいのだろうか。
ああ、そうだ。
先端は外さないようにしながら、上半身を動かす。
ちょっと無理な姿勢。
でも、意図を察して羽居からも動いてくれた。
さっきの遠野との始まりのように。
まるでそれが直前の儀式と言うように。
二人で唇を合わせた。
緊張と、そしてどきどきを。
舌で混ぜ合わせる。
激しく。
でも短く。
唇は離れた。
言葉ももういらない。
改めて少し位置を合わせて。
そのまま、体を動かした。
腰だけを前に押し出した。
挿入する。
さっきと同じ熱くてぬめる感触。
でも、体勢の上下が違うからか。
それとも自分で動くのと、受け身の違いか。
全然違う。
あたしの不慣れさで変な処を突付いてばかりで、なかなか入らない。
ただ、その柔らかいびらびらしたのに擽られ、穴の周りの粘膜に触れるだけ。
それが、といも気持ちいい。
だけどもどかしい。
「蒼ちゃん……」
「ごめん、羽居。どうもわからなくて……」
「ふふっ、蒼ちゃんの方が慌てて変だね。
ええとね、もう少し下の方だよ。うん、その辺かな……」
「あっ、ここだ」
「うん、そこ」
羽居はにこりと笑った。
これからが大変なのに。
……行く。
行くからな。
ずらさないようにして、体ごと角度をつけて。
そのまままっすぐ動いた。
うう……入る。
沈む。
さっきの狭いけど呑まれる感じでなくて。
見えない隙間に手を突っ込んでいるような。
入りはするけど、怖いような。
つっかえそうになる度に、びくんとうるような。
どこまで入るんだろう。
どこまで平気なんだろう。
どこで、羽居の……、処女を破ってしまうんだろう。
抵抗。
それ以上はほとんど入っていない。
羽居の顔が歪む。
「ね、ぎゅっとして、蒼ちゃん」
「あ、ああ」
大丈夫か、止めようか。
そんな言葉を口にする機先を制された。
労わりではあっても、それ以上に「逃げ」である言葉を飲み込む。
そして代わりに、羽居の言葉に従った。
羽居の両脇に置いた手を曲げて、背に回す。
肘で体を支えつつ、体重をかけて同時に羽居の柔らかい体を寄せる。
大きな胸がつぶれる。
あたしの哀れなくらいの膨らみを擦り、何とも言いがたい弾力を伝える。
羽居もあたしの背に手を回した。
「いいよ、蒼ちゃん、このまま……」
「わかった、しがみついていろ」
抱き合った姿勢のまま体を下にずらし、腰を少しだけ引いてから羽居のそれ
に沈めた。
進んでいくのがわかる。
遠野とはまた違ったぬめぬめとした感触。
初めてという意識があるからか、よりいっそうきつく感じる。
触れた下半身から震えが伝わる。
それでも羽居は逃げようとはしない。
開いた脚を閉じようとしない。
でも、羽居の純潔を護る最後の部分が、抵抗している。
羽居の意志に関わらず、無遠慮に入ろうとする私を拒んでいる。
少し力を加えたが、先端が締め付けられる感触が強まるだけ。
さらに奥へとは進めない。
一度でなく、二度、三度と繰り返す。
「ひッ、んん……」
羽居が小さく声を洩らした。
口は閉じている。
見ると口の端に皺が寄っている。
歯を食いしばっているんだ。
「羽居、ちょっとだけ辛抱して」
「うん……、わたし平気だから、平気だか…ら……」
声の途中でずっと腰を押し付けた。
喋っている時に良い具合に力が抜けたから。
うん、進む。
羽居の中にあたしいるんだ。
でも、まだ……。
ここ。
初めてだけど、わかる。
ここを越えればいいんだ。
痛いだろうか。
出血するだろうか。
泣いたりしないだろうか。
あたしも怖い。
だけど。
いくよ。
思い切って腰を打ちつけた。
さっきの遠野がしてくれたのとは違う乱暴さで。
でも、じわじわと痛みを与えるよりこの方が辛くないと思ったから。
「んんッッ …はぅンンンッッ」
羽居は必死で堪えている。
声を。
苦痛を洩らす声を。
痛みに対する悲鳴を。
いっそ叫べばいいのに。
そう思ったら、体が動いた。
顔が羽居の苦痛に歪んだそれに近づく。
口づけした。
強引に舌を捻じ込んで口を開かせた。
息が、
声が、
迸る。
羽居が溜め込んだものを吸い寄せる。
あたしの舌が動く。
羽居の口が開き、閉じ、舌が跳ねるから。
歯が当たる。
がちりと噛まれた。
鋭い痛み。
鈍い鉄の味。
血が出ている。
でも、そのまま出来るだけ舌を前に突き出す。
羽居の痛みの幾ばくかを共にする。
全部、入った。
あたしの全てが羽居を貫いている。
「っあ、ああッッ。痛い、痛いよお」
とうとう限界を越えたのだろう。
羽居が顔を振り、仰け反り、声をあげた。
「羽居、全部入ったから。
もう、これ以上痛くしないから」
声を掛ける。
そうしている間も声が喘いで途切れそうなほどの快感の中で。
なんて酷い対比。
痛がって羽居が身をよじり、ぎゅっと力を入れる。
その度に、あたしは締め付けられ奥から擦られる。
羽居の苦痛が変換されてあたしの快感になっている。
だからせめて優しく声を出す。
羽居を宥め、労わる。
「全部……、うんん、入ったの?」
「ああ、羽居の中だ」
「良かったあ、蒼ちゃんに初めて貰ってもらえたんだあ」
なんて事。
にこりと笑みを浮かばれた。
苦痛に涙をこぼした顔で、それでも心から嬉しそうに。
下半身を動かさないようにして、羽居の体を抱き締めた。
このままじっとして……え?
羽居が動いている。
もがいていたり、離れようとするのとは違う動き。
「羽居、何してる」
「そのままじゃ、ダメなんでしょ?
秋葉ちゃんみたいには出来ないけど」
ああ、ぎこちなく、それでもあたしを悦ばせようとしているのか。
「いいよ、じっとしてろって。
痛いだろ?」
「痛いよ。さっきよりは平気だけど……。
でも、蒼ちゃんが嬉しくなってくれるなら我慢できる。
あたしの中入って蒼ちゃんが気持ち良くなった顔して、わたしも一緒に少し
気持ち良くなったの」
「わかった。
でも、せめてあたしにさせてくれ」
「おっけーだよ」
いいのかな。
そう思いながらも、ゆっくりと下がってみる。
ああぁ……。
これだけで、むずがゆくて、震えるほど気持ち良くて。
もっともっとと体が欲求する。
精一杯我慢しないと、羽居に構わず強く動きたくなる。
でも、お腹までくっついた状態から離れて、
羽居とむすばれた場所を見て、
愕然とした。
いっぱいに小さな膣口が広げられていて、何とも痛々しい。
こんな大きなものが入っていいるのが信じられない。
少し赤いものが滲んでもいる。
羽居の血。
「蒼ちゃん、動いて」
「あ、ああ」
止まったあたしを羽居が促す。
ゆるゆるとまた抜く動き。
全部抜けそうな処まで腰を引いて、またゆっくりと挿入する。
抜く時の締め付けともまた違うきつさ。
その痛いほどの摩擦。
あったかくて、ぬるぬるしていて、柔らかくて。
でも、狭くてきつい。
柔らかい硬さ。
二度。
三度。
四度。
そして、数え切れないほど何度も。
羽居の狭道を往復する。出入りする。
だんだんと馴染むのがわかる。
抽送が少しだけスムーズになって、そしてもっとももっと気持ち良くなる。
そんなに激しい運動じゃないのに。
息が荒くなっている。
大きく息を吸って、吐いて。
声も小さく洩れる。
時々、羽居が動いて予期しない刺激があたしを喘がせる。
気持ちいい。
気持ちいいよ。
どんどん止められなくなる。
気がつくと、ずっと速く動いていた。
でも、羽居もそれを平気で受け止めている。
ああ、まただ。
体の奥から、込み上げてくる。
羽居の中に……出ちゃう。
「羽居、は…ねい……」
名前しか出ない。
抜かなきゃ。
でも……。
「蒼香、もう限界みたいね」
「あ……」
じっと傍で佇んでいたらしい遠野の声。
あたしが頷くと、羽居の顔を覗きこむ。
「羽居、離れてもらった方がいい?
危険日じゃないわよね?」
「ええとね……、大丈夫な日だよ」
「じゃあ、そのままでいいわね」
「うん、蒼ちゃんのそのまま欲しい」
それは、いいのか?
でも、ここから出て行くなんて出来ない。
羽居の中にずっといたい。
できるだけ奥に入って、ただじっとしていているのもいい。
ぐにぐにと動く羽居の中をゆっくりと出入りすねのもいい。
でも、どんどんと高まっていく。
そうなると出したい。
出したくなる。
羽居に気持ち良くしてもらって、最後まで達したい。
より敏感になったみたいなペニスを先端まで引き抜いた。
ゆっくりゆっくり。
急いで摩擦を強くしたら、ちょっと気持ちよさに気を抜いたら、
そのまま終わってしまいそう。
抜けそうな処まで、腰を引いた。
「蒼ちゃんのぴくぴくしてる。
もう、おしまい?」
「ああ、これを入れたらもうもたないと思う」
「うん、じゃあ、奥まで入れて。
嬉しいな…蒼ちゃんが……」
「羽居」
その顔で止めを刺された。
ぐいと突き込む。
まだ、痛みが残っていたかもしれない。
そんな羽居への気遣いよりも、来てと全身で乞うている想いに応えた。
あたしも、羽居を求めたから。
凄い勢いで、挿入しながら、爆発したような快感にうめいた。
射精している?
わからない。
でも、あああ…、羽居の奥に当たった。
入れられる一番奥。
これ以上無いくらい、あたしは羽居を穿ち結びついている。
いる……。
どくん。
え、ああ、ひゃんん……。
今、出ているの?
さっきのはまだ射精じゃなくて、今?
それとも立て続けに射精しているの?
何、これ。
おかしく…なる……。
出てる。
まだ、出てる。
止まらない。
変だよ。
こんな……。
気が狂っちゃう。
でも、気持ちいい。
腰が蕩けて、ペニスが溶けて。
どろどろ。
羽居と混じる……。
体が、崩れ……。
終わった?
終わったの?
羽居とはくっついてない……か。
動く。
うわ、腰がふにゃふにゃ。
崩れるように、
「ふふ、まだ平気よね」
遠野が、狩猟犬のような顔で微笑んでいた。
まだ甘い痺れの中であたしは頷き、身を起こした。
遠野と羽居が、あたしを、あたしの男を、熱っぽい目で眺める。
柔らかい二人の体に跳び込むように体を投げたした。
そして……。
うん……。
なんだ、うるさい。
もう、朝か。
まったく朝っぱらからうるさくし…て……、あれ?
朝じゃない。
なんで眠って…………、あ、ああッ。
そうだ、あれから遠野と羽居と何度も何度も……。
夢じゃないよな。
なんだか体のあちこちがまだ……。
うん?
あ……、なんだか。
変だな?
恐る恐る視線を下ろしていく。
胸、お腹、下腹部、そして……、股間。
「無い」
見た瞬間、歓喜が胸で破裂した。
「無い、無い、無くなってる」
握り拳で立ち上がる。
素っ裸で何をしているのだろうなんて冷静さは皆無。
どれだけ、アレの存在で沈み絶望的になっていたか。
その反動で、躁状態。
実際、もう少しネジが外れていたら小躍りしたまま外に飛び出してしまいそ
うだった。
「よかったわね、蒼香」
「蒼ちゃん、元気になってる」
遠野と羽居の声に、少しだけ正気に戻った。
「ああ、よかったよ。
嬉しくて気が狂いそうだよ。今なら何されても笑っていられそう」
「そうなんだ、…何をされてもね」
ぽつりと遠野が呟く。
「本当に男として女と最後まですれば、元に戻るみたいね」
「そうだな、自分でしただけじゃダメだったけど」
なるほどと遠野が頷き、ふっとあたしの背後に視線を向けた。
うん?
羽居がいつの間にかあたしの背から首に手を回して抱きつくようにしていた。
「ひとつお願いがあるの」
ああ、と返事をしたのと羽居があたしの肩をしっかりと掴んだのが同時だっ
たろうか。
そこで気付くべきだったろう。
二人の異常さに。
あたしより早く意識が戻った筈の二人が、なんで裸のままなのだろうとか。
全裸とは言え、両手で股間を隠し続けているのは何故だろうとか。
あたしを見る目が妙な色を浮かべているのではないかとか。
遠野が立ち上がって初めて、あたしは驚愕に目を見開いた。
手が外れて現れた遠野の股間。
そこにはある筈のないものが。
そして、それは明らかな情欲を示していて……。
≪了≫
―――あとがき
これはMoonGazer様の「凸祭」、本来の二作目になるべき作品でした。
でもちびちび書きながら、もっと短い馬鹿なの書きたいなあと晶ちゃんと秋
葉に寄り道して、その間にレベルの高い作品が次々公開されたので、何とはな
く止まってしまい、募集企画終了。
ちょっと勿体無いなあと貧乏性な処が発動し、自分の処用に書こうかなとい
う事で再開・完成しました。
秋葉×蒼香が書きたかったので。
生えるのは蒼香ですけどね。やっぱり蒼香に生やすのがいちばんしっくりい
く気がします。
……別に同意は求めませんが(笑
偏狭な秋葉支持者としては志貴以外の男と秋葉が……といったお話は読むの
はともかく書くのは嫌なのですが、凸少女とならいいか……、と思い立ちまし
て一本、いえ二本書いてみました。
秋葉視点のも合わせて書きましたので、よろしければそちらもお読み頂ける
と嬉しいです。両方だとちょっと長いですけど。 ⇒こちら
確か前にも似たような真似やったよね、と言われるとそっぽを向いて口笛吹
くしかありませんね……。
一応書いておくと、安全毛布とは、世界で一番有名なビーグル犬の出てくる
マンガのキャラのアレです。
お楽しみ頂けたら嬉しいです。
by しにを(2003/4/22)
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