刺激が、欲しい。

作:ミスヒテン

            




「兄さん、さあ、行きましょう?」
 そうやってふたりが下校したように見えたのは、ほんの数十分前の事だった。



 誰もいない手洗い。
 放課後の学校というのは、恐ろしく人の気配が薄れる。運動部はともかく、
文化部でさえ、一般の教室は滅多に使わない。
 故に、そのフロアの手洗いなど使う人間はいない。水をうったように静かな
空間は、明日の時間を求めて眠りについているようだった。
 が、耳を澄ませば、僅かに聞こえる音がある。
 何か粘り着いた水っぽい音。荒い呼吸。
「……っ、あっ……兄さん……」
 声を抑えきれないとばかりに、閉められた個室から切ない女性の声。そして
「秋葉……静かに。誰かに見つかったらどうするんだい?」
 こちらは楽しむかのような軽い声。
 志貴と秋葉であった。
 ふたりは帰ったのではなく、始めからここにいたのだ。
 秋葉が手を引き、志貴が仕方なさそうに苦笑いでついて行く。何も知らない
人から見れば、わがままな妹とその兄の下校風景、という仲むつまじい姿であ
る。
 が、このふたりは違う。
 誰もいなくなったこの場所で、獣のように繋がっていた。

 志貴が秋葉を後ろ向きにさせ、壁に手をつかせている。そうして洋式の便器
を跨り、腰を差し出し尻を掲げる格好になった秋葉を、後ろから貫いていた。
 志貴のそそり立ったペニスが秋葉の中を出入りすると、めくれ上がった秋葉
の花びらが志貴の茎に張り付き、自身の中から分泌されている濁った愛液でベ
トベトに濡れたペニスを、離すまいと本能で吸い付いている様だった。
「で、でも……んんっ」
 困惑したように秋葉が振り向く。
 瞼は薄く開かれて、伏せがちとなっている瞳は僅かに怯え、見つかる事への
恐怖を感じているようだ。
 しかし、同時にその瞳の奥には、見つかりそうな場所でしている事に酷く興
奮しているという、淫らなオンナとしての妖しい光がはっきりと見えていた。
 そんな秋葉の恥辱の表情に、志貴が熱く欲情する。
 亀頭が入り口ギリギリに来るまで腰を引くと、志貴は秋葉の尻に自分の腰を
打ち付けるようにして、ずんっと強く突いた。
「んあっ……!」
 首を振り、秋葉が悶える。最奥まで兄のペニスを突き立てられ、思考が止ま
ってゆく。
 志貴の動きは止む事はなかった。引いては突き、そして焦らすように抜いて
ゆく。そんな動きはやがて早まり、やがてぴしぴしと肉と肉がぶつかり合う鈍
い音が響き渡る。
「ひっ……兄さん……やめて……」
「やめられるか……秋葉だって絡みついてくる」
「やっ……ああっ!」
 まくり上げたスカートから覗く美しい尻を、容赦なく掴んで穿つ。
 志貴をおかしくさせるのは秋葉の痴態。
 誰か来るのではないか、というギリギリの緊張感もそれを煽り、高速で膣中
をピストンした。
 壁に伸ばした指をぐっと握りしめて何とか声を抑えようとするのに、秋葉の
体はそれを許さず、きっと閉じた唇の間から、空気を引き裂くように声が断続
的に漏れた。
 突き上げられる度に目の中に白いものが走り、その快感に浮いてしまいそう
な極限の緊迫感が、秋葉をも無意識のうちに昂らせていく。

 いつしかふたりはここが何処であるかも忘れ、激しく獣に成り果ててお互い
を貪っていた。
 ぱんぱんと尻を打つ音。
 にちゃにちゃと結合部が濡れる濁った音。
 志貴と秋葉のはぁはぁと興奮した息の音。
 全部混ざり合った音は無人の手洗いに波紋の様に広がり、静寂の空間にざわ
ざわと響き渡った。
「ああ……秋葉、いくよ……」
「はいっ……! 中に……っ!」
 小声で意思を確認し合うと、猛スパートをみせて志貴が動いた。
「んっ……あっ……ああっ!」
 ぎゅっと唇を噛み堪えるも、後ろから激しく犯される快感に声が出てしまう。
 その激しい責めに、秋葉が体を震わせて達した。
 ほぼ同時、収縮した秋葉の胎内へ、志貴がびくりと一度震えると、ドクドク
と精液を迸らせた。
 吹き出した白濁が秋葉を汚し、一寸の隙間もないように埋めていく。
「ああ……出てる……」
 うわごとのように呟く秋葉の腰を掴んでペニスを深く突き刺し、最後の一滴
まで妹の膣に出す。そうして大量の欲望を吐き出した志貴は、ゆっくりと後ろ
に下がり、秋葉の中からペニスを抜いた。
「は……はぁ……」
 がっくりと膝を落として、秋葉が便座に座り込む。支えを失って力の抜けた
体では自らを支えきれず、まだ遠いところにある意識を呼び戻すのに必死だっ
た。
 そんな秋葉を自分の方に向かせて、志貴は僅かに萎縮したペニスを突きつけ
る。
 それを見て、まるで何かに取り憑かれたが如く秋葉が動き、すっかり慣れた
動きで白濁で汚れたペニスを口に含む。
 口の中にむあっと広がるなま暖かさとえぐみを、むしろ悦びを感じながら味
わい、本能のままそれを嚥下する。
 まるで志貴に調教されたかのように従順に、秋葉が志貴のペニスの後始末に
奉仕する。
「ん……兄さん……兄さん……」
 愛する兄の腰に顔を埋めながら、秋葉は白濁を呆けたまま舌で舐め取り……
 その股間からは、溢れ出した泡立つ液体がどろりと陰唇を伝わり、便器の水
に落ちていった。



 身支度を終えたふたりは、外を確認すると手洗いを出た。静寂の廊下を並ん
で歩き、玄関へ向かう。まったく無人の校舎は、二人の歩く靴音しか聞こえな
い程で、畏怖にも似た情景。
 誰もいなかった事にほっと一息つく秋葉に対して、志貴はいかにも楽しかっ
たという表情を見せていた。
「いやぁ、よかったなぁ……」
「まったく……心臓に悪いです」
 ニヤニヤと秋葉を見ると睨み返されるが、それでも志貴は優位に進める。
「そんな事言って、秋葉だって興奮していたくせに。いつもよりきつかったぞ」
「な……!」
「ふふふ……」
 周りに人がいない事をいいことに、志貴が恥ずかしい言葉を出すと、顔を真
っ赤にし秋葉が狼狽える。
 しかし、秋葉本人にも志貴の発言の内容に自覚があったらしく、それを見抜
いて志貴は妖しい笑いを漏らした。
「に、兄さんだっていつもより固くて大きかったのに……」
「当たり前だろ? あんなところでして、興奮しない訳がない」
「うっ……」
 何とかするつもりで小声で反論するが、あっさり肯定されて、秋葉は言葉を
失う。
 自分が志貴に煽られて、とても女性が公衆で口にしてはいけないような事な
ど言ってしまっていたのも気付かずに。
 そんな、普段の様に少々きつい印象を覚える秋葉だったが
「でも……秋葉も、気持ちよかっただろ?」
 志貴が優しく耳元で囁くと、途端に驚く程頬を赤らめ、秋葉が恋する普通の
少女に変わった。
「……はい」
 こくんと頷く表情は、しかし少女と言うよりもすっかり妖艶な女性そのもの
であったが。

 刺激が欲しい。
 最初にそう言い出したのは、実は秋葉の方からだったのだ。
 愛し合う関係として認められた屋敷での逢瀬に、秋葉は十分に満足していた
が、それ以上の何かに興味を覚え、志貴に訴えていたのだ。
 幸せ過ぎる故の欲求。
 秋葉はそれを自覚した時、自分に苦笑するしかなかった。
 志貴はその求めに応じて、放課後誰もいなくなった手洗いで秋葉を抱いただ
けなのだ。

「んー、たまには……秋葉が考えてくれよ」
「わたし、ですか……」
「そう。秋葉ばっか興奮してたんじゃ不公平だし」
「まぁ……そうですね。分かりました」

 ふたりがこうして学校での禁断の密会をするのは、別に今回だけではなかっ
た。
 今までも、校舎裏の木の茂み、屋上、体育倉庫など、学校という場所を生か
したプレイを行っていた。
 いつ、というのは秋葉が誘っている。
「さぁ、行きましょう?」
 その言葉と共に手を引いて歩き出せば、それは逢瀬の印であった。
 しかし、どこで、というのは、全て志貴がセッティングしていた。
 前から決めていた場所もあれば、志貴のその時の思いつきもある。
 そして、秋葉はどことも知らされずに兄に抱かれる事に、常に興奮を覚えて
いた。
 放課後、秋葉は志貴の手を引いていたはずが、学内を歩くにつれて位置関係
が変わり、いつの間にか志貴に引かれて歩いている。
 小さい頃、ずっとそうされていたように、志貴に手を引かれる自分。
 童心に返った気分になれるそれが、秋葉は心臓が爆発してしまいそうになる
程嬉しかった。

「では、突然行いますから、楽しみにしていて下さいね」
「ああ、期待してるよ。好きなようにして構わないから」
 最初に誘う時間の決定権は秋葉にあるのに、最終的な場所の決定権だけは志
貴にある。
 そんな不思議な逢瀬にも、また変化が必要なようだった。
 志貴のリクエストに答え、時間と場所を同時に掌握した秋葉には今、全ての
決定権が委ねられていた。
 校門を抜けふと振り向けば、そこには当たり前のように学校がある。
 自分は一体どうしたらいいのかと、早速策を巡らす秋葉であった。



「兄さん」
 ある日の放課後。
 掃除で居残っていた志貴の教室へ、秋葉が現れた。
 その日は既に大半の人間はそれぞれに散り、教室には志貴と数人、という状
態であった。
「お、秋葉か……」
 志貴は鞄を掴むと、そこにいた数人へ挨拶を交わし、秋葉の元へやってくる。
 そんな志貴の手を、秋葉は至って自然に掴むと
「行きましょう、兄さん?」
 そう、にっこりと笑いかけた。
「? ……ああ、行こうか、秋葉」
 久しぶりの事だったので一瞬意味がわからず、反応が遅れていた志貴だった
が、その言葉の意味を理解したらしく、すぐその顔に不敵な笑みが浮かびあが
った。
 それは、普段なら秘密を共有するという、周りを欺いている愉悦であったり、
秋葉がまた求めてきてくれている満足感であったり。
 しかし今回は、遂に来たか、という期待感によるものであった。

 手を引かれて歩く。
 それはいつもの事だけど、志貴は物凄くわくわくした気分であった。
 これから何処へ連れて行ってくれるのか。
 それは秘密の場所へ連れ言って貰えるみたいで、ああ、秋葉もこういう気持
ちなのか、と初めて理解できた。
 秋葉は志貴がそうしているように、手を引いて歩く事を楽しんでいるのか、
最初から目的地へと向かわなかった。
 志貴の教室から校庭を回り、体育館、校舎裏、そしてまた校舎へ。その間は
一言も話さずに、しかし手は嬉しそうにぎゅっと握りしめられたままだった。
 校舎へ入り階段を登る頃、志貴は予想していた。
 屋上かな、と。
 現に、今階段をふたつ登ったところだ。もしそうだったら前に経験があるか
ら、まだまだ秋葉も芸がないかな、などと思ってしまう。
 しかし、秋葉は階段を三つ登ったところで立ち止まり、そして廊下に出た。

「なるほど……」
 志貴が案内されたのは、紛れもなく秋葉の教室だった。
 確かに、今は誰もいない。
「ここは、かなりリスクがあるんじゃないか?」
 流石の志貴も、一番奥の教室とはいえ、廊下からすぐ見えるこの場所に不安
を覚えた。
「そうかも知れませんけど、大丈夫ですよ」
 妙に自信あるそぶりで秋葉は笑う。
「そうか」
 志貴はそれを見て追求はしなかった。何があるか分からないけど、秋葉がそ
う言うなら構わない。
 それよりも、この場所で秋葉を抱く事への欲求の方が遙かに勝っていた。
「兄さん、ここへ」
 秋葉は、志貴を連れてある席へと導く。
「私の席ですよ」
「へえ」
 教室の真ん中の真ん中、ちょっと周りの机が遠慮しているかのように広く取
られたスペースに、秋葉の席はあった。
「今日は、私が全部してあげますから、兄さんは座っていてください」
 そう言うと秋葉は着席を促し、志貴が素直にそれに従うと、愉悦の表情を浮
かべた。
「私が普段授業を受けているこの席で……」
 志貴は、軽く見上げていた秋葉の言葉に、瞳にやられる。
 背徳感がいつも以上にびっしりと詰まったここで、自分たちはするのか……
と。

「兄さん、今日は趣向を凝らしましょう」
 と、秋葉は鞄の中から数枚の布きれを取り出した。
 それは恐らくスカーフか何か、少し大きめの布。
 それを開くと、秋葉は志貴の手を取る。
「縛らせて……ください」
 その言葉を言った瞬間の、秋葉の表情がたまらなかった。
 恥ずかしさはあるのに、そこからにじみ出た秋葉の本能、エス。
 ぞくっと背筋が震えるような、恐怖とは違う何かが志貴を興奮させた。
「ああ、好きにすればいい……」
 志貴が不敵に笑うと、秋葉は満足したようにこくりと頷き、志貴の後ろに回
った。
 そのまま、椅子の後ろで志貴の手を組ませ、スカーフで鬱血しない程度に結
ぶ。
 同じようにそれぞれの足首を椅子の足に縛り付け、ほぼ完全に自発的に身動
きをとれないようにさせた。
 そうして……志貴の前に戻ると、改めてその姿を見下ろす。

「……」
 言葉がない。
 自分の中から僅かだが、しかし確かに湧き出てくる否定できない感情が、秋
葉を熱くさせている。
 私、兄さんを……縛っている
 潜在的な自覚があったとはいえ、志貴を自分へと縛り付けた事へのあまりの
充足感。
 普段自分の想像もつかない振る舞いで、いつもするりと指の間から零れてし
まうような志貴を、今こうして自分が自由を奪っている。
 私が、兄さんを独占しているの……?
 そう感じると、外向きであったはずの、強気な自分を振る舞う感情と、志貴
の前だけでは、その欲求に従順に従う感情が、今僅かに入れ替わりつつあった。
 自分を見上げてくるその瞳は、この状況を酷く愉しんでいる好奇心の瞳の筈
なのに、今の自分にはフィルターがかかって、許しを請うような瞳にしか見え
ない。
 子犬のようだと言った誰かの言葉があまりに今の状況にマッチしすぎて、イ
ヤだといっぱい鳴かせてみたくなる。
 それは望んだ事であり、その為の全ての手筈だったのに……秋葉は全てを忘
れて、兄を全て貪ってしまいたい感情に震えていた。
 そうしたい。
 兄さんを、全て自分のものにしたい。
 爆発しそうな想いがあるはずなのに、しかし、驚く程冷静に秋葉は笑ってい
た。
 それは、それ以上の愉しみが得られるであろう結末に……

 ふっと、秋葉が近付く。
 座っている志貴の頬に手を当てると、こちらを向けさせた。
 視線が絡み合ったのを確認すると、何も言わず、秋葉はそのままゆっくりと
顔を近づける。
 秋葉のかわいい唇が、志貴に触れた。
 瞬間から、互いにそれだけで体が熱くなるのを感じてしまう。
「んっ……」
 おずおずと、少し控えめに舌が志貴の口の中に潜り込んでくる。
 今回はされるがままがいい、そう感じ始めた志貴は、ただ求められるままに
舌を差し出し、秋葉に好きなようにさせる。
 ぴちゃ、ぴちゅと、粘膜が触れ合ういやらしい音を響かせて秋葉が志貴の舌
を吸う。舌にまとわりついていた唾液を吸い取って嚥下すると、心の底から嬉
みを感じて、体温が僅かに上昇する。
 誰もいない教室で、触れ合う部分のみ音が聞こえる。
 それはとても退廃的で、時間の流れがあまりにもゆっくりに感じられる。
「兄さん……」
 ふっと唇を離し、秋葉がゼロ距離で志貴を見つめる。
 その貌の、なんて綺麗な事か。
 潤んで薄目になり、半開きとなった唇は濡れて、チロリと覗く可愛い舌先。
 脳の後ろの方が痺れる感じが、たまらなく心地よい。
 自らは触れずに、秋葉に好きなようにさせてやる、その意志は変えてしまい
たかったが、今は秋葉に奉仕させる事への様々な期待感の方が上回っていて、
ただされるがままに。
「脱がしてあげますね……」
 そう言うと、秋葉は志貴のシャツへ手を伸ばす。
 第一ボタンが自然に外されているシャツの、二番目のボタンに手を掛け、音
もなく外す。
 その時点で志貴の首筋が露わになり、秋葉は興奮を隠しきれなかった。

 兄さんの……綺麗
 確かにほっそりとして中性的ではあるが、やはり男性を思わせるたくましさ
があって、それが女性である秋葉にはたまらないセックスアピールとなる。
 惹かれるように、秋葉はそこへ自然と唇を這わせていた。
「ん、いいよ……」
 志貴がむず痒そうに、しかし嫌がっている風でなく声を漏らす。
 秋葉はその反応にオンナとして酷く満足して、より悦ばそうと舌を差し出し
た。
 首の後ろに手を回して、志貴の首筋から鎖骨へと愛撫する。
 歯を立ててしまいたいくらい綺麗なその首筋を、何よりも愛しく、優しく舐
めた。
 僅かに感じられる汗の味も、かえって嬉みを増す媚薬のような感覚。
 体の中から湧いてくる熱さは、もう我慢ができないようだった。
 かくん、と体が落ちるようにして、秋葉は志貴の足下へ跪いた。
 そして、目の前に座っている志貴の股間を見つめ、うっとりとした視線を向
ける。
「ああ……」
 感じてくれていたのか、そこは確かにはっきりと存在を示すものがあって、
秋葉は愛おしい気持ちとなる。
 思わず志貴の股間へ顔を埋め、頬ずりをし、その空気を吸った。
 化繊の向こうから、志貴の体温と匂いが僅かに感じられる気がする。
 雄の、自分をめちゃくちゃにしてくれる強い性の感覚。それは雌として、何
にも換えられない淫らな悦。
「兄さん、腰を……」
「ああ」
 秋葉がベルトを緩めホックを外すと、志貴は協力して腰を浮かし、ズボンを
抜き取らせる。
 そして、トランクスになったそこへ秋葉が手を寄せ、いきり立つそれを押さ
えながら、続けて下着も取り去っていた。

「ああ……」
 志貴のはちきれそうにそそり立ったペニスを見て、秋葉の口から出るのは熱
いため息だけだった。
「こんなに……」
 熱く、大きく、グロテスクなのに。
 その存在を感じて、愛しさが溢れてくるのは何故だろう。
 わからない。
 わからないけど、それはきっと兄さんに教えられた事。
 自分も、酷く熱くなってくる。
 だから、その熱を少しでもどうにかしたくって、手を伸ばした。
「んっ」
 志貴のペニスに指を絡ませると、優しく包み、そしてゆっくりとしごきだし
た。
 何処よりも熱く、ぴくぴくと反応する志貴のそれに惹かれてしまう。
「気持ちいいよ……」
 志貴の声。
 いつも奉仕する時に聞こえるのと同じ、嬉しそうな声が、なぜか自分には弱
々しい少年の、意に反した感覚に戸惑う声にしか聞こえない。
 いじめている。
 いじめてる。
 その実感に、体の熱さと同調した不思議な震えが沸き起こる。
 もっと、兄さんをいじめたい。
 困らせたい。
 それが、今の秋葉の素直な欲求だった。

「兄さん」
 驚く程醒めきった声。
「ん……?」
 すっと、ペニスに添えられていた指が離れる。
 その行動に、志貴は不思議そうな表情を向けた。
 秋葉は、何も言わず立ち上がると、志貴を見下ろした。
「兄さん、なんてはしたない格好なんでしょう? 縛られて、そんなものを剥
き出しにして。まるで……変態ですよ、兄さん」
「え?」
 唐突の秋葉の行動に、志貴はまったく思考が追いつかなかった。
 そのまま秋葉は自分に奉仕して、最後まで行き着くものだとばかり思ってい
たのに、なぜそうなったのか、秋葉の心の中を覗きたい気分だった。
「こんな姿……誰かに見られたらどうしますか?」
「おい……」
「そうですね、それはそれで面白そうですから……」
 と、秋葉は歩き出した。
 教室のドアに向かって。
「私はいなくなりますね。こんな所を一緒に目撃なんてされたら、私にまで変
態の称号が捺されてしまいます」
「待て、秋葉……」
「それでは兄さん、また後で様子を見に来ますから」
 それだけを言い残すと、秋葉はいつも通り下校するようにして、教室から姿
を消した。



 誰もいなくなった教室で、志貴は言いようのない焦りを感じていた。
 もし、誰かに見られたら……
 その考えは、今までにも頭にあったはずだったのに、ここまで切迫した状況
に貶められたのは初めてだった。
 まだ縛られているだけならいい。
 しかし、今の自分はこんな姿でいる。
 萎縮すべき筈のペニスは、この状況を悦んでいるのか、それとも何に期待し
ているのか、全く衰えを知らず張りつめたままだ。
 今まで見つかりそうな事に興奮していた弊害か、緊張感が増す程に血は集ま
り、どうしようもなくなっている。
 その姿を、仮に誰かに見られてしまったら……
 恥辱にまみれたこの姿を、笑いものにされてしまうのか。
 それとも、この露出狂を恐怖されるか。
 そうなったら、この学校にはいられる訳がない。
 気持ちの悪い汗が、額を流れた。
「何とか、何とかしないと……」
 そう思って体を動かそうにも、手足がしっかりと縛り付けられている状況で
はどうする事も出来ない。
 なによりもまず、この下半身をどうにかしなければならない。
 その為に、手を必死であちらこちらに動かすが、結び目は志貴の力でも全く
緩む気配はない。
 前に持ってこようと思うならば、肩の関節をはずす以外考えられないが、そ
んな芸当は流石の志貴でも無理だった。
 得意の点を突こうにも、その点が見えなければ能力は無意味だ。
 ただ、いたずらに時間だけが過ぎていく。
 窓の外からは、部活に励む生徒達のかけ声が聞こえる。
 しかし、教室、いや、このフロア全体は水をうったように静かだ。
 まるで死んでしまった空間の如く、ただ自分の呼吸と、時計の秒針だけが響
き渡る。
 時の流れが、水飴のように遅い。
 焦れば焦る程、その流れはより固さを増していって、針が一つ動く瞬間でさ
えもどかしい。
 誰も来るな……秋葉が戻ってくるまでは……
 それは希望と言うより祈りに近かった。
 緊張が、またペニスをいきり立たせて、びくりとなった瞬間だった。

 カツ……

「!?」
 足音。
 それは聞き間違えではない。誰かが靴を鳴らす音であった。
 誰かが……来た。
 瞬間、志貴は凍り付いた。
 カツカツ……
 酷くリズミカルに、正確に。足音は向こうからやってくる。
 それは、死へのカウントダウンにも似た恐怖の調べ。
 頼む、来ないでくれ……
 その足音の正体が秋葉である事だけを願いつつ、志貴は教室から見える廊下
の先へ必死に祈りを捧げていた。
 ……カツ
 足音は、教室のすぐ手前で止んだ。
 一瞬、志貴は息をのんだが、それから音がしなくなった事へ気付いて、僅か
に安堵の息を漏らした。
 しかし、無情にも祈りは天まで届かなかったようだった。
「あれ?」
 続いて教室のドアから顔が覗いた時、志貴は完全に硬直していた。

「せ、せ……」
「遠野君じゃありませんか? どうしたんですか、こんなところで?」
 ひょっこりと顔を出したのは、望んでいた秋葉でもなく、見知らぬ誰かでも
なく、よりにもよってシエルであったのだ。
「せ、先輩……? なんで?」
 志貴は予想だにしなかった来客者に、ただ口をぱくぱくとさせるだけだった。
「いえ、ちょっと静かな校内を散策していたら、たまたま通りかかっただけで
すけど」
 シエルはそれこそ罪悪感の欠片もないように、さらっと答えていた。
「そんなことより、遠野君も……ここは、確か秋葉さんのクラスですよね? 
どうしてこんな所に?」
 今度は逆に、志貴がシエルに質問される側だった。
「あ、いや……秋葉が、一緒に帰ろうって言うから来たんだけど、今ちょっと
職員室に呼び出されて……待ってる所なんです」
「そうなんですか……妹思いのお兄さんですね」
 志貴がぐちゃぐちゃになりかけた思考の中、なんとかそれらしい言い訳を並
べると、シエルは納得してくれたようだった。
「だから、気にしなくってもいいですよ。先輩は先に帰ってください」
 ここが勝負と、志貴は何とかシエルを近づけさせぬよう冷静を努めて装った。
 しかし
「それなら、私も一緒に待ってあげますね」
 そう言って、シエルは教室の中へ足を踏み入れてきた。
「あ! 先輩、ダメ!」
「?」
 志貴はそんなシエルの行動に、慌てた声を張り上げてしまい、しまったと思
った。
「どうしたんですか? そんなに慌てて……」
 シエルの言葉には、素直な疑問が含まれている。
 まだシエルの場所からは、立ち並ぶ机のお陰で、志貴がどうなっているのか
を確認することは出来ない。
 しかし、あと数歩、机をいくつか過ぎてしまえば、志貴の腰より下の姿が明
らかになってしまう位置だった。
「ほら! 先輩と秋葉っていつもあまり仲良くないから、こんな所で俺と話し
てたら秋葉が戻ってきた時、怒るかも知れないから……」
 必死に、それこそ許しを請うように、志貴は最終線を越えられないよう、ギ
リギリの交渉を試みた。
「あら、そんな事ないですよ。最近はお食事もご一緒しますし、なにかと学校
の事でもお話ししますからね、昔程険悪ではありませんよ」
 シエルは笑顔で「大丈夫ですよ」と、志貴の推論を簡単にうち破ってしまっ
た。
「それとも……あれですか? 私がいると二人っきりで帰れなくて、腕を組ん
だり、喫茶店でお茶したり出来ないからですか?」
「なっ……」
「羨ましいですねえ。ちょっと、妬けちゃいます」
 シエルはちょっと意地悪いように笑うと、歩を進めてきた。
「先輩、だめ……」
「何言ってるんですか。自分の好きな男の子が他の誰かと仲良くしてるなんて、
黙って見過ごせませんからね」
 からかうように、そして志貴の願いなど完全に知らないように、シエルはゆ
っくりと志貴の所へやってきた。
「ほら、遠野君も秋葉さんばっかりに優しくしないで……」
 と、そこでシエルの言葉は途切れた。

 視線が、志貴の全体像を遂に捕らえてしまっていた。
「と、遠野、君……?」
「せ、せんぱ……い……」
 最初、志貴の姿を理解しかねていたシエルだったが、志貴が足を必死で閉じ
ようと悶え、シエルの視線から瞳を逸らす頃には、それが何なのか解ってしま
ったようだった。
「……」
 シエルの周りから、いつもの穏やかな空気が消えていた。
 それはぴんと張りつめた、シエルの夜の姿を想像させる空気。
 例えようのない緊張感が、場を支配する。
 志貴は、それこそ許されるのなら舌を噛みきり、どうにかなってしまいたい
程だった。
 しかし、僅かに残された理性がそれを許さず、ただどうする事も出来ず、シ
エルの次の言葉を待つだけだった。
 そのシエルが、何も言わずに自分を見つめていると感じている。
 何を言われるのか……
 罵倒の言葉か、蔑みか、哀れみか、それとも死の宣告か。
 一瞬は無限にも感じられ、ただ、執行の瞬間を待つ死刑囚の気分だった。

 ……が
「……へえ、珍しい格好をしていますね、遠野君」
「……え?」
 シエルは、ひどく穏やかに、そして当たり前のように話していた。
「あらあら。よく見たら足も縛られてますし……手まで。かなり凝ってますね
え……」
 縛られた椅子をぐるりと回りながら、志貴の様子をいかにも楽しそうにシエ
ルは観察し、また正面に戻って笑った。
「せ、んぱい……?」
「いえ、私だってびっくりしてますよ。まさか遠野君がこんな、その……それ
を、むき出しにしちゃってるなんて……」
 すこし小声になりながら、シエルは顔を僅かに紅潮させて志貴のペニスを指
さし、言葉を呟く。
 志貴は、明らかに混乱した。
 予想されていた答えとはまるで正反対の言葉を投げかけられ、一体どう反応
したらいいのか解らない。
 しかし、とにかく怒られたり逃げられなかっただけマシだと思った。今はこ
の状況をなんとかして貰いたかった。
「せ、んぱい……助けてください」
 志貴は素直に助けを請う。
 が、シエルは動かなかった。
 ある一点を見つめ、佇むだけ。
「先輩……」
 志貴は、息をのんだ。
「あっ……?」
 瞬間、シエルの口から漏れ出た声は……艶を含んでいた。
「遠野君、今、ピクって……」
 シエルは、その一点を更に見つめ続ける。
 それは、明らかに志貴の股間にあるモノであった。
 この状況だというのに、いや、シエルに視姦されているこの状況だからこそ
か、志貴のペニスは大きく脈打ち、反応してしまっていた。
「すごい……こんなに大きく……」
 うっとりと魅了されたかの如く、シエルの瞳が潤んでいた。
「せ、先輩……頼むから見ないで……」
 視線を感じては、余計収まりが効かない。
「そう、ですけど……」
「とにかく先輩、今の状況を見て解ると思う。助けてください」
 志貴はただ、一刻も早くこの束縛を解いて欲しくて懇願した。
「……はい、わかりました」
 シエルは何故か一瞬躊躇したが、やがて志貴の言葉を受け入れた。
「よかった……」
 志貴が安堵の息を吐く間に、すっと、シエルが志貴の足下へ跪いた。
 ああ、最初は足から解いてくれるのか、それなら手を解いてくれれば自分で……
 志貴はやっと解放される安心感から、ようやく正常の意識を取り戻しつつあ
った。
 はずなのに。

「……!?」
 柔らかな甘い感覚が、突然志貴を襲った。
「な! せ、先輩?」
「んっ……はぁ……」
 シエルは、何を思ったのかその手を使って志貴のペニスを包み込み、優しく
撫で始めたのだった。
 あまりに突然の事で、志貴は反射的に腰に力を込め、結果ペニスを大きく反
応させてしまう。
「ああ、まだ大きくなるんですか……」
 シエルは目を細めてうっとりとそれを見つめると、上下に扱きだした。
「な、何、を……?」
 志貴のつぶやきは、シエルの絶妙な指の動きに遮られて、掠れていた。
「何をって……助けてるんですよ、苦しそうな遠野君を……」
 亀頭の方に指を這わせながら、指の腹で傘の部分をなぞるようにしてシエル
はうっとりとした声を出す。
「助けてくださいって、言ったじゃないですか。その……今まで、男性の一方
的な性処理なんて頼まれた事なんてありませんでしたが、遠野君のお願いなら、
わたし……」
 シエルは、志貴の言葉を違う意味と捉えてしまっていたようだった。
「ち、違う……俺はただ、紐を……んあっ!」
 志貴は必死になって否定したが、シエルの巧妙な愛撫に声を上げるしかなか
った。
「ああ、そう言う意味だったんですね……てっきり私はこちらだとばかり……」
 納得した口振りのシエルだったが、尚も手の動きは収まらない。
「でも……ここまで来てしまいましたし、私ももう……だから、させてくださ
い……」
 もうシエルが顔をペニスへと近づけた。立ち上る雄の香りに、シエルの本能
は引くことを忘れてしまっていた。
「すごい……匂い。これが、遠野君のおちんちんの……」
「だ、めだ……先輩……」
 官能にあてられて、シエルの口からはぁと熱い吐息がペニスにかかる。
 そしてどうする事も出来ない志貴の、幹を握られて赤黒く光った先端に舌が
触れ、遂に……

「んっ、ふうっ……」
「か、はぁっ……」
 飲み込まれた。
 熱く滾ったペニスが、同じくらい熱いシエルの口内へと導かれ、そして粘膜
へと包まれていった。
 ひどく興奮していたからか、シエルの中に含まれた瞬間、電撃が走るように
して快感が駆け巡る。
「んっ……んんっ……」
 ず、じゅると特有の音を立てながら、シエルは股間に埋めた顔を上下させ、
志貴のペニスを唇と舌とで何度も往復させた。
「んっ、んん……はあっ……ふっ……」
 喉の奥までは辛いのか、時折苦しそうにシエルがペニスを口から吐き出すと、
そのまま顔を横にずらしては、幹の部分を舌で這い下がり、同じように登る。
 その間にも、少し先走りが滲んだ鈴口を指が絶え間なく愛撫し、ぷくりと漏
れだした白濁を亀頭全体に指の腹で塗り込めてゆく。
「こんなに……凄いです……」
 シエルは舌先に先走りを掬い取ると、志貴の方を見上げてそれを口の中へ含
む。
「ん……濃い」
 見上げられた志貴の、心がパンク寸前になる。
 例えこんな状況でも、シエルの艶濡れた瞳で見上げられてそんな感想を甘い
声で漏らされては、興奮しない訳がなかった。
 もはや、状況も忘れかかる程、シエルの口戯に精神が侵されてゆく。
「溜まってたんですね……私だったら……いつでもよかったんですよ……」
 シエルはそんな囁きを繰り返しながら、志貴のペニスを愛おしそうに含み、
吸い上げた。
 んちゅう……ちゅ……
「ん、あっ……!」
 隙間もない程にすぼんだ口で上下されて、まるで尿管の中から精液が吸い取
られそうな感覚に呻いてしまう。
「遠野君、女の子みたいですね。すごくかわいいです……」
 併せて陰嚢を優しく揉みながら、シエルはもっと志貴の声を引き出そうと唾
液を垂らして潤滑をよくする。
 ぷちゅ、ちゅ……と水気を多く含む音と、志貴の途切れ途切れの声と荒い呼
吸が、静かな教室内に響き渡り、シエルをより一層興奮させた。

「いいんですよ……私のお口に出しても……」
 そうシエルが宣言してから、一気に吸い込んでしまう様に志貴のペニスを銜
える。
「あ、あああ……っ」
 志貴は呻き、何とか快感を堪える事に必死になっていたのだが、シエルの舌
と口と指との絶妙なリズムに、次第に腰の奥の方がむずむずとざわめき出す。
「ん……んっ……ここも……ふうっ……」
 なかなか志貴が到達しないのを我慢の故と悟ったシエルは、更なる手段に出
る。
 一瞬志貴を見上げて、その位置を確認したかと思うと、陰嚢を触れていない
余った手で、志貴のYシャツの間から志貴のお腹の中に手を入れた。
「せん、ぱ……んあっ!」
 志貴はそのすべすべとした手が腹を這い回るだけでも気持ちよかったのに、
その爪先が自分の乳首に触れた瞬間、より女の子のような高い声を上げてしま
っていた。
「んっ……んふふふ……」
 志貴を口に含みながら、シエルは陰謀が成功した事で笑う。
 その振動までも、志貴のペニスをいいように揺れ動かして、おかしくさせて
いた。
 その快感を覚えさせた事で満足せず、シエルは指を動かして乳首を摘み、軽
く擦ってやる。更に反対の乳首にも同じように快感を与え、志貴を震わせてい
た。
「んあっ……ダメだ、先輩……」
 未知の快感が送られて、志貴は上擦った声を上げるのみ。
 自分も女性と同じように乳首を弄ばれて感じるなんて、考えてもみなかった
事だったから、抜けそうになってしまう。
「ん……もう、出しても良いですよ……」
 シエルは、両手と口で志貴をいたぶるように責めながら、来るべき瞬間を待
ちこがれていた。
「あ、あああ、ああああ……」
 志貴は次々に多面的に襲いかかる快感に、意識を手放しそうになっていた。
 しかし

「兄さん」

 たった一言。
 たった一言が、瞬間で志貴を全力で現実に引き戻した。

「!」
「兄さん、どうでしたか?」
 見れば、先程シエルがいた同じ場所には、いつの間にか秋葉がいた。
 廊下から教室へ、丁度ドアの境目に立つようにして。
「あ、きは……っ……!」
 絶句し、口を開けて秋葉を見つめる。
 見つかった!?
 誰かに、というのが秋葉であればよいと思っていたはずの志貴だったが、今
の状況を秋葉に見られる事が、どの選択肢よりも最悪な結果に違いなかった。
 だというのに、膝元で奉仕を続けるシエルは、ちっとも気がついていない風
に愛撫を続け、それどころかより一層の激しさを増しているようだった。
 丁度秋葉から見えそうになっている胸への愛撫は、秋葉の声がした瞬間に払
われていたが、今度はその手までもが、ペニスへの愛撫に荷担していた。
 口の先だけで亀頭を含み、その赤い肉を舌を使って包み込み、唇で傘の部分
をすっぽりと覆い尽くす。
 茎は指が支配し裏筋から全体をこそばゆく撫でるように動き、陰嚢への愛撫
はやがて、椅子に隠された会陰部の方まで伸びていっている。
 そんなシエルの熱心な愛撫が今は自分への虐めだとしか思えない中、必死で
志貴は快感の声を堪え、冷静を装うと努力した。

「あら、何だかお疲れのようですね。呼吸が少し荒いですよ」
 そんな志貴を知ってか知らずか、秋葉は至って冷静に、志貴の足下に誰かが
跪いているとも考えずに話している様子だった。
 幸か不幸か、秋葉からはまた足下が見えない。
 だから、今はただ志貴が勝手に動悸を起こしているようにしか見えないのか。
 そう考えると、志貴は心臓を直接握られたような気持ちになり、更に脈拍を
急激に上昇させていた。
 額には先程から流れている熱い汗に加えて、新たに先程以上の冷たい汗が流
れ始める。
「その様子だと……何かお楽しみでもあったんですか、兄さん?」
 愉しむように。
 秋葉は志貴へと詰問した。
「……」
 答えられない、その質問に。
 今、目の前でシエルがペニスにしゃぶりついている事に。

 しかし……
「どうしたんですか、兄さん? 興奮したいって仰ったのは兄さんじゃないで
すか」
 秋葉は、当たり前のように一歩一歩近付いてきた。
 先程のシエルと同じ様子に、志貴はデジャヴを覚えながら、より絶望してい
た。
 何も言わなくても、秋葉がこちらに来る事は明確だった。
 だから、今何も言わなかったのは、間違いだったのか……!
「あ、あ……」
 声が漏れる。
 それは、絶望の声と、シエルに極限まで追いつめられている快感との混ざり
合った、今まで出した事のない声。
 絶対に、気付いている。
 秋葉は、それを承知で愉しんでいるのだ。
 そう考えると、秋葉がとてつもなく恐ろしい存在に思えてしまい、脊髄を丸
ごと抜かれたような震えが来た。
 同時にそれは、腰から来るあまりに大きい快感にもフィードバックして。
「んぁっ……!」
 もはや志貴は耐えきれず、目を瞑りながら快感の声を上げてしまっていた。
「ふふふ……」
 秋葉は、明らかにゆっくりと歩を進め、その姿を確認するのを愉しんでいる
ようだった。
 まるで、じわじわと獲物を追いつめてゆく獣のように。
「さぁ兄さん、愉しみましょう……」
 秋葉はこれから訪れるであろう志貴の究極の修羅場に、今まで志貴の前では
見せた事もない冷徹な笑みを浮かべ、最後の一歩を踏み込んだ。

「ふふっ……」
 秋葉は、嗤っていた。
 志貴の膝元にいるシエルを見下ろして、嗤っていた。
「あ、あ……」
 志貴は真っ青に震え、絶望を悟った。
「先輩でしたか……私はてっきり、兄さんに憧れてるうちのクラスの子かと思
っていましたのに……」
 それは予想とは違えど行為は一緒であったと、秋葉はふっと笑い、髪をかき
上げた。
「先輩……兄さんはどうですか?」
「はあっ……秋葉さん。遠野君の、凄く大きくて、ビクビクいってます……」
 シエルは、秋葉を見つめながら、うっとりとした表情で志貴のペニスに頬を
寄せ、告白した。
「そうですか……先輩、兄さんをイかせてあげてください」
「……いいんですか?」
 シエルの問いに、秋葉はええと頷く。
「先輩、私達は兄妹なのですよ。そんな、近親相姦の真似事なんて出来ると思
いますか?」
「ああ……そうでしたね。では、私が……」
 シエルは秋葉と同じように笑って頷くと、もう一度志貴のペニスを飲み込ん
だ。
「んああっ……! あきは……せんぱい……」
 放心によりやりとりを見届けるしかできなかった志貴は、再び与えられた強
烈な刺激に、ただ声を漏らすだけしか出来なかった。
「んっ……ほら、こんなに……」
 シエルは今度、秋葉にもその様子が解るように体を傾け、志貴の大きなペニ
スが何度も口内を出入りする様を見せつけていた。
 だらだらと唇の端から涎を垂らし、淫らに光ったペニスを銜える様は、志貴
を、秋葉を、そしてシエル自身をも興奮の中に巻き込んでいく。
「ん、あっ……だめ、だ……」
 志貴はシエルの行動を、秋葉の視線を止めようと必死に懇願するが、二人は
それをおもしろがっているようにしか思えない。
「ん、ふうっ……」
 ぐちゅぐちゅと淫靡な音を響かせて、シエルがペニスをしゃぶると同時に、
志貴の胸への愛撫を再開する。
 すると、それを見ていた秋葉がその行動に興味を抱いた。
「あら、そこも弄るんですか? 先輩は男性想いなんですね」
「ふうっ……はい……」
「くあっ!」
 ペニスを銜えたままのシエルのくぐもった返事が、志貴の股間にびりびりと
空気の振動で伝わる。
 すると、秋葉は志貴のシャツのボタンを一つ一つ外し始め、それから中に着
ているTシャツをもたくし上げた。
「な、何を、秋葉……くっ!」
「んふっ……兄さんのここ、かわいい……」
 秋葉は、チロリとその舌で志貴の乳首をねぶった。
 既にシエルに弄られて固くなっているそこへ、容赦なく舌でのヌメヌメとし
た刺激を与え続けてくる。
「兄さん、感じてるんですか? 妹に乳首を舐められて……はしたないですね」
 秋葉は志貴を蔑むように、少しきつい口調で責めた。同時にシエルの手を押
しのけて、反対の乳首も指で挟んでコリコリと弄くりまわす。
 しばらくすると位置を入れ替え、舌で唾液の筋を胸に作っては交互の乳首を
吸い、舌先でころころと転がして遊ぶ。
 そんな秋葉に負けじと、シエルは秋葉の与える愛撫の合間を見計らい、志貴
の鈴口に舌先を突き刺し、傘の部分を強く吸い、指で幹から陰嚢全てに絶え間
ない愛撫を与え続けた。
「んあっ……秋葉、先輩、や、め……っ!」
 言っている側から、志貴は快感に正直にペニスを膨らます。
 もう、ワケが分からなくて。
 二人に散々弄られて、射精が近付いてきた。
「んっ……秋葉さん、遠野君がそろそろ……」
 シエルが一端口を離して志貴の予兆を報告すると、秋葉はふっと笑って志貴
を至近距離で見上げた。
「兄さん、イっちゃうんですか? 二人にこんな事されて、罪悪感も感じずに
欲望に身を任せて、先輩の口の中に、白いのを出してしまうんですか?」
「あ、あ……」
 秋葉の言葉責めに、志貴は抗えない所まで来ている。
 ただ射精感をぐっと堪えて抗いたいのに、もう欲望の堰は決壊しかけていた。
「私はいいですよ……」
 シエルは呟き、むしろ離すまいと志貴の腰へ手を回し、ぐっとペニスを口の
奥深くへと引き寄せた。
「兄さん、イっちゃいなさい、欲望と背徳と絶望にまみれて!」
 瞬間、秋葉が志貴の乳首をぎゅっと噛んだ。
「ん、あ、くああっ!」
 それがスイッチとなって、志貴は崩壊した。
「ん、んんんっ!」
 シエルの喉の一番奥へと、志貴は精液を吐き出す。
 何度もイかされそうになり、そして耐え続けていた分だけあまりに濃すぎた
ドロドロの精液を、勢いよくシエルの口内へ出していた。
「んふう……」
 しかし、シエルはそれを一滴たりとも零さず口に含み、恍惚の表情を魅せる。
「あ、あああ……」
 射精と共に覚える高揚感に絶望というアクセントが加わった感覚。
 志貴は心がおかしくなりかけながらも、未知の快感を覚えてブルブルと震え
ていた。
「はぁっ、兄さん、出してるんですね。素敵……」
 秋葉は兄のそんな恍惚の表情にうっとりとした視線を投げかけ、よりいい顔
を引き出そうと、舌を乳首に優しく這わせ続けていた。

「ん、んん……」
 志貴の脈動が次第に小さなものとなった頃、じゅるりとシエルの口がペニス
から外れた。まだ微かにぴくり、ぴくりと震えるペニスの、先端に残る精液を
唇に擦りつけてから、シエルは顔を上げる。
 何故か口は閉ざされたままで、シエルは溜息も吐き出そうとはしないでうっ
とりとした表情を浮かべている。
 それが口内に射精された精液を貯め込んでいると分かったのは、シエルが口
を開けたからだった。
 シエルの口を汚している、ドロドロの白い液体。
 自らのペニスから吐き出したそれがあまりにも扇情的な光景を呼び出して、
志貴はぞくりと震えた。
「先輩」
 ふと、秋葉が呼びかける。
 シエルはその秋葉を今度は見上げると、瞳の中に映る色を察して、立ち上が
った。
 秋葉の前で、同じようにして口を開き、それからふふっと微笑む。
「凄い。それが、兄さんの精液……」
 うっとりと見つめる秋葉の瞳は、欲情の炎に染まって赤く濁っているようだ。
 と、その体がすうっとシエルの方に近づいていた。

「!?」

 何を……と思っていた志貴は、次に突然行われた二人の行動に目を見開くば
かりであった。
 シエルは、秋葉は、視線を絡ませあってどちらともなく頷くと、口づけを交
わしたのだ。
 それも、唇を触れるだけのものではない。
 秋葉が口を開いて呼び込むと、シエルは応じるように斜めに顔をずらし、秋
葉の唇を上から塞ぐ。
 そして、明らかにその傾斜は……精液を口移ししていた。
「ふぁ……」
 秋葉の口から声が漏れる。
 流れ込んでくる精液が喉に張り付かれたのか、むせ返りそうな表情で眉間に
皺を寄せるが、僅かにシエルが角度を調整する事でそれは収まり、替わりに、
より濃い愉悦が秋葉の顔を染め上げた。
 そうして秋葉の口内へと精液が伝わったらしく、二人は繋がっていた口腔を
離した。
 今度は秋葉が、その口の中に大量の志貴の精液を抱え込んでいる。
 反対にシエルは口内を精液だまりから解放されると、舌なめずりをして唇か
ら零れていた精液を掬うと、はぁ、とようやく溜息をついた。
 その瞳には、背徳が浮かんでいる。聖職者の顔を持つシエルのそんな表情は、
本当に神を冒涜する行為だと志貴は感じて震えていた。
「どうですか、秋葉さん。遠野君の……いえ、お兄さんの精液を口に入れた感
想は?」
 わざとらしくシエルが訪ねる。秋葉は精液を嚥下せず口に含んだままでいる
ため、答える事はかなわないと分かっているのに。
 秋葉は無言で、しかしはっきりと
「……」
 妖しく微笑んだ。
 あまりに艶が勝った貌。その美貌はとても清楚な少女では魅せる事など出来
る訳がない。
 すると、今度は秋葉が顔を傾け、シエルにのしかかる格好に、またそれを受
け入れようと、シエルも自然に顎を引いた。
 今度は、秋葉からシエルへと橋渡しされていく精液。
 繋いだ口腔から、唾液が混じった精液の雫がひとつ零れ落ちる。精液を授受
する二人の頬が擦れ合いその雫が潰れると、肌が離れた瞬間ににちゃりと糸を
引いて広がっていった。
「はぁ……凄く、濃くて……舌に残るこの味と、鼻に抜けるこの香りと……こ
れが、男性なのですね……」
 二度目の交歓が終わり口腔中の残滓を味わうようにしながら、秋葉が自由に
なった喉を震わせて告げた。
 例えそれが白々しい告白だと分かっていた志貴でさえも、惚けた意識の上で
の言葉は身をよじらせる官能を生み出している。
 喉が渇いて張り付き、志貴は言葉が出ない。
 今見せられているこの光景は、夢なのか、幻なのか……胡乱な心は錯乱を覚
えてゆく。
「……」
 二人は構わず、相変わらず目の前で口づけを繰り返していた。
 今度は志貴に見える様、二人の口腔は繋がずに、流れ落ちる砂時計を作り上
げる。
 上になった者の口腔から垂れ落ちる精液。細い繋がりとなって零れ出たそれ
は、的確に下の者の口腔に吸い込まれてゆく。
 そして、全てが無くなったと思えば上下が入れ替わり。
 的確に時を刻む訳でなく、むしろ曖昧な時間を並べながら、シエルが、秋葉
が、精液を口移しに楽しんでいた。

 何度目の反転だっただろうか、
「ん、むっ……」
 少しずつ大胆に交歓しあうふたりの、僅かに位置をずれた精液が秋葉の鼻先
を汚した。
 とろりと絡みつくそれは、唾液に徐々に薄まって粘度を弱め泡立っている。
 それを見て、自らが顔にかけた時の事を想像し志貴が震えた。
 そして更に、今度はシエルが口の端から精液を零してしまう。
「ああ、む、んんん……」
 精液が唇から顎を伝い、喉へ流れていく。
 勿体ない、というような声をあげてシエルが身をよじる。
「ああ……」 
 志貴はいつまでも見せられるこの拷問に終わりがないのかと悟り始め、瞳孔
がぼうっと開き加減になってゆく。
 それに気付いたのか、それとも気付かなかったのか、先程からの砂時計は半
分の時間で時を刻む事を終えていた。
「あ……」
 志貴が気付けば、秋葉とシエルが互いに口に精液を含みながら見つめ合って
いる。
 そして、先にシエルが先導するかの如く、コクリと喉を鳴らして口内のそれ
を嚥下した。
 続いて秋葉が同じように飲み下すと、ニィと笑った。
「ああ……どうしてでしょう、こんなはしたない事なのに、こんな体の中から
熱くなるのは」
 対象に、深く溜息をついたシエルは幾分ぼうっとした表情で、僅かに自戒を
失いつつあった。
「信じられません。飲精なんて初めてなのに、こうも甘美なものとは……知り
ませんでした」
 そう言うと、秋葉の鼻先に残る精液を舌で掬う。
「ああ、ダメです先輩。それは私が貰った精液……」
「ふふふ、はしたない妹さんですね。そんなに遠野君の精液が……ふうっ」
 シエルが掠め取ろうとするのがイヤなのか、秋葉はシエルの舌がその口内に
消えるより早く、その唇を奪っていた。舌を絡ませて残滓を自らに導くと、そ
のままシエルの口腔をいじり、更に残りまで掻き出そうとする。
「ふぁ……秋葉さんのお口、遠野君の匂いと味がします……」
「先輩もそうですよ……ああ、むせ返りそうな匂いのそれをこんなところに……」
「ああっ、ふあっ。秋葉さん、そこは……あっ!」
 奪われそうになったお返しとばかりに、今度は秋葉がシエルの首筋に白く張
り付く精液の雫に舌を這わせた。
 ぴちゃり、という妖しい唾液の音と一緒に、首筋から顎、そして唇までの道
程をなぞった秋葉の舌が、最後にシエルの唇の中へ滑り込む。
「はあ、あんっ……!」
 何度か往復してシエルの反応を楽しんだ秋葉が、ふと首筋の一点を集中的に
舐め続けた。
「うふふ……先輩、ここが弱いんですか?」
「んっ……そこ、感じてしまい、ます……!」
 それは精液という媒介によるものではある筈なのに、どう考えても秋葉がシ
エルの首筋を愛撫しているようにしか見えない。
 二人は互いの精液の飲み忘れを貪って、お互いを責めている。
 まるで百合の園での背信の交わりを思わせるそれは、しかし一人の男性の精
を貪り合うより背徳的なもの。
 そして、その精の主である志貴は二人の痴態に身動きが取れず、壊れてしま
ったような彼女たちの行動で脳幹を直接揺さぶられたように意識が混濁してい
る。
 鳥肌がおかしな位に立って、勃起がより一層激しく脈打っていくのを感じて
しまっていた。

「ああ……秋葉さん」
 たっぷりと交歓を繰り返し、ようやくシエルが唇を離すと志貴の方をちらり
と見やり、その逞しい志貴の猛りを感じた瞳は、潤んで切なそうに何かを訴え
ていた。
「わたし……我慢出来なくなってしまいました……」
 そこで言葉が詰まっていたシエルだったが、内から沸き上がる耐え難い衝動
に逆らう術はなかった。
「遠野君のが、欲しい、です……」
 言葉は、はっきりと二人の耳に届いていた。
 志貴はその言葉に激しい興奮を覚え、脊髄から電流が全身を駆けめぐり、肌
を粟立たせる。
 そして、秋葉は別段驚いた様子もなく
「先輩、どうぞ私に伺いをたてていただかなくても構いません。矢張り先輩も
女性なんですね」
 さも当たり前だというように、志貴の方へと目を向けた。

「……遠野君」
「シ、シエルせんぱ、い……」
 促されてシエルが目の前に立つと、流石に志貴は狼狽えた。
 何かが間違っている。
 俺は、秋葉は、二人で楽しむためにこうしていたんじゃ……?
 だというのに、秋葉はこの状況を楽しむようにして俺達を見ている。
 何を……間違えたんだ?
「大丈夫ですよ……わたし、その……処女じゃありませんし、それに……」
 一瞬の志貴の躊躇が自分への心遣いだと思ったシエルは、志貴に初めてをあ
げられぬ事に少し残念そうにするが、すぐににっこりと笑ってスカートの中に
手を入れる。
 そして、ゆっくりと自らのショーツに手をかけ、するすると腿から膝、脹ら
脛まで落とすと足から抜き去ってしまう 更に、脱いだばかりでくしゃっとな
ったショーツを手に取り、中央のクロッチを広げて志貴に見せた。
「ほら、遠野君のを感じて、もうこんなにびちょびちょに濡れちゃってますか
ら。見てください……軽蔑しないでくださいね?」
 嬉しそうにそのショーツを志貴の顔に押しつけながら、シエルが頬を染めて
微笑んだ。
 志貴の唇と鼻に、シエルの愛液が触れた。えもいわれぬ匂い、それは女性が
強く発する性欲の証。
 今まで秋葉のそれしか感じた事の無かった志貴だったが、シエルのそれもま
た激しく男の本能をくすぐって、交わりたいという欲求が段々と罪悪感や躊躇
いを押しやっていってしまう。
「先輩、兄さんのおちんちんを銜えて、精液を口に含んで、そんなに濡らして
いたんですか?」
 僅か、蔑むように秋葉がシエルに話しかけるが
「だって……ずっとお気に入りだった男の子にこんな事できて……嬉しくて感
じない訳が無いじゃないですか?」
 それを気にも留めないで、むしろ恍惚の表情を浮かべつつシエルは志貴の上
にまたがった。
 ペニスは先程の痴態を目前で見せられた結果、元の固さに戻っており、シエ
ルはそれを掴むとはぁ、と熱い溜息をついた。
「遠野君……ずっと好きだったんですよ。なかなか気付いてくれないんですか
ら、わたしこうしちゃいます……」
「せ、先輩……」
 とろけるような目で志貴を見つめると、シエルは腰をゆっくりと下ろしてい
った。そして……

「く……はぁ……っ」

 一度亀頭に熱い粘膜が触れたかと思うと、すぐに熱く溶けた坩堝の中に入れ
るみたいに、志貴のペニスはシエルの膣内に飲み込まれていった。
「あ……遠野君の、わたしの中に入っちゃいました……」
 入れただけで軽く痙攣を起こしながら、シエルは待ち望んでいた志貴のペニ
スを一番奥まで飲み込んでその感覚に甘い声をあげながら、膣内全体で志貴の
雄々しさを感じ取っていた。
「すごいで、すっ……さっきあんなに出したのに、まだこんな……」
「う、くあっ!」
 志貴は、シエルの入れただけでどうにかなりそうな膣のざわめきに、瞳をぎ
ゅっと閉じてうめき声を上げる。
 その行動に呼応するように、ぶるりと腰が震えあがり、シエルの膣内をペニ
スで突き上げて振動させてしまう。
 ここで堪えてしまうのは、すぐに終われないという男の意地なのか。
 志貴はシエルと交わるという事実に衝撃を覚えつつも、秋葉とはまた違うオ
ンナの気持ちよさに陶酔してしまいそうになっていた。
 そんな姿がシエルには、自分の中で気持ちよくなっている事を感じさせてく
れていて、余計にエクスタシーを呼び寄せていく。
「はぁ、っ……動きますね?」
 シエルは志貴の肩に手を置くと、ゆっくりと位置を確認しながら腰をくねら
せ始めた。
「あっ、ああ、あっ、あっ、あん……はあっ……ふうん、きもちいい……」
 始めは軽く揺する程度に志貴を味わっていた腰が、少しずつ大胆な動きに変
わっていく。
 単純な出し入れから、やがて志貴を包み込んだまま前後運動を加え、互いに
キモチイイトコロを擦らせてシエルが動く。
「はあん……遠野くぅん……気持ちいいですか?」
 ぷちゅぷちゅとぬめった音を響かせ、志貴のペニスを貪るシエルが、とろん
とした瞳で志貴を見る。すっかり虜になってしまったその体は、ひとときも休
むことなく志貴を感じ続け、もっと欲しいとわなないていた。
「あ! わたしはこんな、んんっ! 気持ちいいのに……あっ、遠野君、気持
ちよくなさそう……あああああっ!」
 ずんっと一気に奥まで志貴を沈めて突き上げに喘ぎながら、シエルは尚もそ
の動きを止めるどころが激しくして続けてゆく。
 勢いを増した抜き差しに何度も淫唇にペニスのくびれが引っかかり、掻き出
す様にして押し広げられた肉はベトベトな液で淫らに咲き誇り、反対にずぶり
と埋まっていく時には襞が亀頭にぶつかり、やがて幹にぬらりと絡みついて吸
い尽くそうとざわめいた。
「ふぁ……! す、ごいっ……こんな、初めて、あっ、あっ、ああっ!」
 志貴の上で艶舞するシエルの快感は責め立てられ、奥からしとどに愛液を沸
き出させて潤滑油どころかぼたぼたと椅子を伝って床にまでこぼれ落ちていく。

「く……あ! せんぱい……や、め……!」
 その動きは、志貴にとってはとんでもない拷問だった。
 あまりにも蠢惑的な動きと責め、更に熱い吐息が何度も志貴を襲い続けてい
る。
 普段あれだけ凛としていかにも聖職者らしき姿を見せている先輩が、これほ
どまでに官能的な姿を魅せている。そんな衝撃にも似たギャップも志貴を惑わ
し、責め苦となって心を千々に乱れさせてゆく。
「どうしてですか? 遠野君のはこんなにおっきくて……んっ、嬉しがってい
るのに……んあっ」
 シエルは本当に不思議そうに動きを緩めるが、なおも快感で声を詰まらせな
がら志貴を見つめる。
「ほら……見てください」
 と、シエルはおもむろに自らのスカートをたくし上げる。
 ゆるゆると上がっていくそこを見つめていた志貴は、徐々に視界に飛び込ん
でくる痴態にぐらぐらと頭を揺さぶられる。
 互いの腰が密着しみっちりと肉が合わさったそこには、白く濁った愛液のぬ
めりがまとわりついて粟立っている。にちゃりと、一瞬動いたシエルの肉に合
わせて、既にぐちゃぐちゃの股間が更にべっとり上塗りを施されて熱く火照っ
た。
 妖しく笑ったシエルが、自分の股間を凝視している志貴へ見せつけるように
腰を僅かに後ろへずらすと、深く熱く膣に埋没していたペニスがずずりと姿を
現す。
 根元から徐々にせり上がる肉の棒は名残惜しそうに抜けていき、蜜壺と化し
たシエルの膣をかき混ぜて溢れさせた大量の恥液が絡んだそれは痛い程に張り
つめ、爆ぜてしまいそうなまでに膨れていた。
 ふるふると震えたシエルの腰が、やがて真っ赤になった亀頭が入り口まで見
える所までくると、もう少しで抜けそうな刹那の位置で動きを止めた。
 離れまいとするシエルの淫唇をめくらせ、外側に肉をにちゃりと広げさせ、
グロテスクな、しかし美しい華を咲かさせている先端の膨らみは、志貴が腰に
含める力に合わせて僅かに収縮を見せていた。

「あぁ……」
 そんな強烈な光景で、先に恍惚の声を上げたのはシエルの方だった。
「あは……こんなにわたしのおまんこがめくれて……ふああっ!」
 少々無理な体勢からぴくりと動くと、それだけで華を擦り上げる亀頭が突き
つける快感に声がうわずってしまう。
「ひ……ああっ!」
 その快感は等しく志貴にも享受されたため、たまらず志貴は悪戯をされた子
供のようなうめき声を上げてしまう。
 そんな状況に不釣り合いな、たまらない声がシエルをまた喜ばせていた。
「ふふ……遠野君、可愛いです」
 そこでもう一度志貴を深く自らに沈め込むと、シエルは志貴の唇を奪った。
「!? ふううっ……!」
 塞がれ声も出せない志貴に、シエルがじゅるりと熟れた舌を滑り込ませた。
志貴の驚いていた舌を探り寄せると、半ば強引にホールまで連れ出して淫らに
踊らせた。
 唾液がドロドロと絡み合う口内で熱い息までも飲み込みながら、シエルは志
貴を貪る。
「ふあっ、遠野君……もっと、気持ちよくしてください……」
 シエルはたっぷりと唾液を絡めた唇を話すと、それさえも舌なめずりしてか
ら志貴を見つめた。
「せ、んぱい……」
 志貴はぐちゃぐちゃになった思考の中、どう堕ちてしまうのか分からないと
ころにいた。


                          ……つづく


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