さんさんと照りつける太陽。
 火照る頬を撫ぜる潮を含んだ風。
 焼けた熱い砂浜。
 そして広がる青い海。

 いいなあ。
 こういうのも決して悪くない。
 泳ぐのももちろん楽しいけど、今日は他にもお楽しみ満載だ。
 なんでこんな事になったのかは憶えてないけど、遠野家御一行様で海に来て
いるのだから。
 目の保養とでも言うか。
 端的に言えば、女性陣の水着姿。
 男として楽しみだと言っても非難されるいわれはないと思う。
 だって実際、こんなにみんな良い仕事をしてくれているし。

 そんな訳で最後になった登場を俺はワクワクとして待っていた。
 初めてだもんな、こうやって海どころかプールにだって出掛けた事はない。
 従って初めての水着姿。
 楽しみだなあ。

 お、現れた。
 恥ずかしそうにやって来る。
 うーん、まだすっぽりとタオルで体を隠している。
 気を持たせるなあ。

 すんなりとした足と剥き出しの腕。
 それだけでもドキドキするけど。
 さて……。
 しかし、もじもじと埒が開かない。
 よし。
 悪戯してタオルの端を引っ張った。
 
「きゃっ」

 ぱっと、強引にお披露目させてしまう。
 その水着姿は?

 !

 息を呑む。
 取り巻くようにして見ていた他の面々も声を上げる。
 それに構わず俺は口を開いた。

「アキラちゃん、それ……」
「志貴さんなら、こういうのお好きかなって思って」

 大正解。
 見事な回答、見事な選択だ。
 すごいぞ、アキラちゃん。

 そんなに露出度が高いわけではない。
 というか、非常に低い。
 胸も腰も厚くガードされていて、お臍なんか見えやしない。
 布地も厚手で、間違っても透けたりはしない。
 デザインも、どちらかと言えば野暮ったいかもしれない。
 でも……。
 その、水着の破壊力は……。

「なんで、そんなの持ってきたの、瀬尾は。
 そんな水着を、なんで兄さんが喜ぶと思っているの?」

 秋葉が幾分呆れたようにアキラちゃんに言う。
 さっきまでは、アキラちゃんが頑として明かさなかった水着がどんなものか
妙にそわそわとして待っていたと言うのに。
 今は嘲笑すら僅かに含んだ声を出していた。

 馬鹿め。
 その蒙昧なる認識に心中でダメだしする。
 アキラちゃんも恥ずかしそうにしながらも、秋葉の言葉にはまったく動じて
いない。
 むしろ、勝者の如き佇まいで秋葉に対しており、その違和感に秋葉はさらに
何かを言いかけ……。

「黙れ、秋葉」
「え?」
「そうです、敗者は引っ込んでいるべきです、秋葉さま」
「え、ええ?」

 琥珀さんが秋葉に声をかける。
 僅かに悔しそうな響きを覗かせている。
 さすがに琥珀さんはわかっている。

「そういう手で来るとは思いませんでした、瀬尾さん、お見事です」
「兄さん、琥珀、あの……」

 秋葉は自分だけ状況をつかんでいない事に気づいたのか、不安そうな声。
 とりあえず、秋葉なんかどうでもいい。
 俺はアキラちゃんを賞賛の眼差しで見つめた。

「素敵だ、可愛い、絶品だよ、アキラちゃん」

 ああ、いくら言っても言い足りない。
 本当に目が離せない。
 多分にヒラヒラで体の線を、特に胸の辺りを巧妙に消しつつも優雅な姿に見
える秋葉の水着も、翡翠と琥珀さんの色違いのセパレート、双子ならではのお
揃いの姿が素晴らしいそれも、確かに目を奪うに足るものだった。
 いや、そちらも幾ら誉めそやしても足りない。
 
 でも、今はこちらだ。
 一撃必殺の破壊力に関しては、遠く及ばない。
 一流デザイナーのデザインした魅せる水着とやらも、これには勝てない。
 
 アキラちゃんが着ている水着には。
 幾分、着古しているその水着には。

 その輝くスクール水着には。 

 ちょっと恥ずかしげに手を前にして左右の指をくにくにとさせているアキラ
ちゃんを、濃紺のスクール水着を俺は穴が開くほど見つめた。
 なんて素晴らしい眺めだろう。
 瞬きの間すら惜しくなる。

「いいですか、秋葉さま、ちょっと特殊嗜好の方々にはこのスクール水着と言
うのはある意味、最終兵器なんです。回避不能の即死レベルの」
「なんで、あんな学校で普通に着るような」
「そこです。秋葉さまだって志貴さんの制服フェチっぷりはご承知でしょう」
「ああ。それは……、そうね、頷けるわ」
「浅上のスクール水着なんて言ったら、それだけで、志貴さんのような方には
たまりませんよ。
 おまけに、瀬尾さんにこんな似合っているなんて。」

 何か琥珀さんと秋葉が話しているが、ほとんど耳に入らない。
 聴覚も味覚も嗅覚も全部、視覚に回したいくらいだったから。

「わたし、こんな幼児体型で胸も無いから、背伸びしてビキニとか無理して着
ても志貴さんに笑われちゃうかなって思って。それで前に私の体操服姿見たい
なとか仰っていたの思い出して……」
「ちょっと、兄さんはそんな事いつ仰って」
「無駄ですよ、今の志貴さんは何も耳に入りません」
「うん、うん。似合ってる。ひらひらで可愛いのもアキラちゃんは似合うと思
うけど、これはベストチョイスだよ。
 胸が無いくらいの方が似合うよ、スクール水着は。ああ、可愛いなあ」

 思わず、頭を撫ぜ撫ぜしてしまう。
 嬉しそうなアキラちゃん。
 本当はぎゅーっと抱き締めたいけど、それは我慢。
 
「俺の為にこんな素敵な格好をしてくれるなんて」
「えへへ。本当はゼッケンも付けようかと思ったんですよ。学年とクラス、そ
れと、名前を入れて」
「うっ」
「名前はもちろんひらがなで、せお、って」
「わかっているなあ、アキラちゃん」
「さすがに、そこまでやってやりすぎと思われてひかれると怖いから、断念し
ましたけど」
「そうだなあ、ちょっと残念な気もするけど、縫い付けちゃうと外し難いかも
しれないしね……」

 秋葉が異次元の会話を見聞きしているような、不可解な顔をしている。

「でも素敵だなあ。可愛いよ、うん」

 我慢できずにぎゅっとしてしまった。
 あああ、スクール水着の感触。

「わわわ、志貴さ〜ん」
「あ、思わず。ごめんね、アキラちゃん」
「いえ、嫌じゃないですけど、その」

 もじもじと頬を赤らめるのが、くらくらするほど可愛い。
 うう、もう一回ぎゅってしてあげたくなる。

「放しなさい、琥珀。帰るんだから、帰って私もスクール水着を……」
「今からじゃ、行って戻ったら日が暮れちゃいますよ」
「うるさい、外野」
「外野とは何ですか」

 けたたましくも楽しい、遠野家の私設ビーチでの行楽の一日。

 ちなみに、姿が見えないなあと思っていた翡翠は波打ち際に座り込んでいた。
 濡れた砂浜に穴を開けては、そこに水が湧き出すのを見て楽しんでいたそう
だ。小さな虫みたいなのが蠢いているのが楽しいらしい。
 ええと……。

 少し泳ぎを楽しんだり、翡翠やアキラちゃんに泳ぎを教えたり、1対3で、
ピーチバレーをしたり、オイルの塗りっこをしたりと有意義な一日。
 琥珀さんが用意してくれたお弁当も美味しかったし。
 楽しかったなあ。
 
 でも、秋葉はいったい何処に行ってしまったのだろう?

 それにしても、アキラちゃんのスクール水着良かった。
 ああ、海に来て本当によかった。

 でも、アキラちゃんが一等賞だけど、他の面々だって良かった。
 例えば―――――

 
     1.琥珀さんの姿なんか新鮮だったし。

     2.秋葉だって別に捨てたモノじゃなかったよな。

 

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