王都人形騒乱録
エピローグ 騎士見習いとそして魔術師の未来
…オーザン=サムール、ミュート=ジアル両名の結婚式は、巨大な人形の乱入という事態を挟みつつも、どうにか延期されることもなく執り行われた。これは両家の家族も司祭も騒動の直後に虚脱してしまっている中、彼等をファルラスが強く説得したためだった。この事態を乗り越えた二人であれば、この先どんな苦難に対しても力を合わせて立ち向かって行ける。今日この日ほど新たな門出にふさわしい日はないと、そう言っていた。そして直接事態の解決に活躍したタンジェス、ティアともにファルラスの意見を支持したため、そのような運びになったのである。
実際その後の披露宴は盛大に行われ、祝勝気分も重なったために並一通りでなく盛り上がった。花嫁も花婿も熱烈な祝福を受け、同時に人形を倒した少年の勇気が称えられた。そうして送り出された二人は、現在新居を構えてひとまず幸せな新婚生活を送っているという。
一方もう一人の当事者、ストリアス=ハーミスは肩に矢傷、更に人形から落下した際に頭部打撲を負ったものの命に別状はなく、捕縛されて国王直々の裁きを受ける身となった。ただ、死者が出なかったこと、またサムール家並びにジアル家、更にファルラス=ミスト、タンジェス=ラント、以上事件に関わった多くの人間の連名になる減刑の嘆願書が提出され、更にティア=エルンの口添えで宗教界の有力者である王都施両院の院長からも同様の具申があったため、国王としても裁量の及ぶ範囲は大きくなかった。
無期停職、すなわち魔術師としての資格の停止、それが国王の下した裁可である。また監督責任を問われて、魔術研鑚所所長に対しては一年間の減俸処分が下されている。ストリアス自身の身柄はひとまず事件解決の責任者となったノーマ=サイエンフォートに預けられた。
ストリアスの供述によると、彼が気絶した後に人形が動き出したのは、潜伏中に新たに組み込まれた自動追尾・捕獲命令が作動したためである。通常の命令が途絶える、つまりストリアスの身に何か起これば発動するよう仕組まれていた。
普通の人間が聞く限り、命令そのものは極めて単純だ。「動く白いもの」、それを捕獲することを目標とし、それを妨害する存在を排除する、内容的にはそれだけである。それが襲撃を式の当日に行った、もう一つの理由であった。彼女が何色の服を着ているのか、それが確実に分かるのはその日だけだ。
つまりその場で大きな白い旗でも振っていれば、少なくともミュートを逃がすことはできたのだ。しかしあの状況下でそこまで分かることを要求するのは、あらかじめ正解を知った上で試験の問題に解答しろと言うに等しい。タンジェスもティアもエレーナもファルラスも、全力を尽した。
そしてストリアスも、持てる力の全てをそこに注ぎ込んでいた。単独ではごく単純な動作しかできず、通常要求される作業をこなすためには魔術師の監視が必用というそれまでの技術水準を前提とすると、その命令は他の魔術師達を驚かせるほど高度なものであった。何の設備もなく更には追い詰められた状況下でそこまでの機構を組み上げ、自らが倒れてなお花嫁を手に入れようとするその執念は、聞く者を慄然とさせた。
もっとも素直に白状したことを考えると、凄まじい執念も現在では雲散霧消しているらしい。彼が目を覚ましたときには既に結婚式も終わり、あまつさえ翌日の朝を迎えていたのだから。その意味においては、式を強行したファルラスの判断は正しかった。
ストリアス=ハーミスによる人形持ち出し事件は王都の人々を騒がせる前に、ここに終結した。
そしてタンジェス=ラントは、茜商会の一室、長いようで短い日々を過ごした部屋を片付けていた。元々大した荷物は持って来ていないので、すぐに終わるめどが立つ。しかしそれは、作業に専念できればの話だ。
「タンジェスさん」
開け放したままの戸口に小さな影が姿を見せる。タンジェスはそれを見るなり片付けを放り出した。
「よお、サーム、久し振りじゃないか」
ノーマが来た日以来顔を見せなかったサームがそこにいる。タンジェスは気分良く、彼を抱え上げた。
「はい、お久しぶりです」
サームもそう答えるが、実は十日と立っていない。しかし何となく、久し振りと言いたい気分だった。
「元気だったか」
「はい」
「ここしばらくどうしてたんだ、しかし」
「お母様に算術を教わっていました」
元気の良い返答で、どこか自分まで元気付けられる。しかしそれはつきっきりの監視がついた事実上の自宅謹慎じゃないのかと、ふとそうも思えた。だがそれを口には出さない。幼いうちは知らないほうが良い事はいくらでもあると思う。
「へえ、偉いんだな」
「いえ、楽しかったですよ」
「算術が? お前それ才能あるよ、きっと。普通は嫌がるからな、あれは」
「はい、お母様も喜んでくれました」
それは親だからだろう、多分。しかしそれも、言った所で何がどうなる訳でもない。タンジェスの質問が途切れたのを機に、今度はサームが聞いて来た。
「タンジェスさん、出て行ってしまうんですか」
「…お前、意外に重いなあ。若旦那が時々楽そうに持ち上げてるから、もっと軽いかと思ってたよ」
サームを下ろしてから、タンジェスは膝をついて目の高さを合わせた。
「ああ、学校に戻れることになったからね。ここから通えないこともないけど、やっぱり寮よりは不便だし」
「寂しくなります…せっかくお友達になりましたのに」
「何言ってんだよ」
少年の小さな頭を両手で挟んで、その額に自分の額を合わせる。子供特有の髪の柔らかさと肌の滑らかさ、そして温もりが心地よい。
「友達はどこに行ったって友達だろ。それにそんなに遠くに行くわけじゃない。いつでも会えるさ。男だったらそんなことでしゅんとならない。いいな!」
「はい!」
「良し、いい返事だ。さて、ちゃっちゃと片付けてしまおう」
「手伝います」
「気持ちだけ受け取っておくよ。こういうことは自分でやらないと、後で何がどこにあるか分からなくなるから」
「そうですか。では…」
「あ、そうだサーム。ちょっと聞きたい事がある」
「はい、何でしょう」
怖い物見たさだ、とタンジェスはこの時自分の心理を分析していた。
「お前さ、この前結婚したい子はいないなんてこと言ってたけど、でも一生結婚しないつもりじゃないんだろ」
「それは…まあ」
「じゃあどういう女の子と結婚したいんだ?」
「ええと、それは…」
視線が逸れ、普段から血色の良い頬が更に赤くなる。少なくとも理想の女性の型は、確かにあるようだ。
「誰にも教えたりしないから、言ってみろよ。もしかしたら俺の知り合いに、そういう女の子がいるかもしれないじゃないか。そしたらお前は大きな好機を逃がすことになるんだぞ」
「多分…そういう人はいないと思いますけれど」
「わかんないぜ。そんな事。試してみなけりゃ何も始まらないって」
「…ええと…ですね」
「うん」
「僕は…」
「お前は?」
サームは息を吸い込み、そして背筋を伸ばした。
「結婚するならお母様としたいです」
「…………」
それが悪いことだとは分かっていた。わざわざ喋らせたのは自分なのだし、サームは彼なりに精一杯真剣に答えている。だが、しかし、それでも、どうしても、笑いをこらえるのは不可能だった。理由を考える余裕すらなく、とにかくおかしかった。
「くっ…………くっくっく…くくくっ…ふ、ふ、ふ…ふ、あはははははははははははははは! あーっはっはっはっはっはっはっは!」
「ど、どうして笑うんですか!」
「ご、ごめん…く、くくくくく…」
「もう…ひどいです」
「悪い悪い。別にお前のことがおかしくて笑ったんじゃないんだよ。俺がひどい勘違いをしているのが分かって、自分がおかしかったのさ」
それが笑った主な理由ではないのだが、とりあえずそう誤魔化すことにした。それにしてもサームは気を悪くしたままだ。さてどうしたものかと考えている所へ、また別の人間が訪れた。
「…お邪魔でしたでしょうか」
エレーナがやや不思議そうに中を覗き込んでいる。タンジェスは苦笑して首を振った。
「いや、別に。大したことじゃないですよ」
「それならよろしいのですが…お約束の物をお持ちしました」
エレーナが手にした物を差し出す。それは、大きな花束だった。美しい花が大量に束ねられている。
「わ、綺麗ですね…さすがです」
「いえ、わたくしは良い店を存じているだけでございます。よろしければご案内致しますが」
「そうですね。ご都合が良ければいつかお願いします。わざわざありがとうございます。ええと、この花は…」
元々花のことはあまり良く分からず、現物を見てもその名前が出てこない。その程度だから、エレーナに買ってくるのを頼んだのである。
「新月草です。花言葉は『未来』だそうですよ」
「『未来』…ですか。それも花屋さんが勧めてくれたんですか?」
「いえ、今のタンジェス様にはそれが良いかと思いまして。お気に召さないでしょうか」
「とんでもない。これ以上はありませんよ。やっぱりさすが、エレーナさんです」
「恐れ入ります」
言葉ではそう言いつつもまんざらではなさそうに、エレーナは花束を手渡した。
「いい匂いですね…どうするんですか、これ」
美しい花束を前にして、サームはとりあえず機嫌を直したようだ。
「ええとね…」
エレーナを見やると、さりげなく視線を外してくれている。タンジェスは笑って言うことにした。
「好きな女の子に渡しに行くのさ」
「あ、そうなんですか。頑張ってください」
サームが目を輝かせる。そうすると何故か、本当にやる気が出てきた。
「ああ、頑張るよ」
既に気持ちが向こうに行ってしまう。手早く荷物をまとめると、タンジェスは部屋を後にした。サーム、エレーナがそれに従う形になる。
ファルラスは店頭で待っていた。客を迎えるのにも、そして送り出すのにも、便利な場所である。
「何かいいことでもありましたか?」
タンジェスの顔を見てそう口を開く。少し考えてから、タンジェスは花束を軽く叩いた。
「これから起こしに行く所ですよ」
「ほう…それは素晴らしい」
ファルラスは笑うと、それ以上言葉を続けようとはしなかった。タンジェスの言葉を待っている。だからまず、深く頭を下げた。
「何から何までお世話になりました」
「人間は助け合って生きて行くものですよ。この商会の仕事はその仲立ちです。私もあなたも、当然の事をしただけですから、そうかしこまらないで下さい。正直な所今回の一件は、こちらも予想していなかった方向に向かってしまいましたからね。事態が無事解決したのはあなたのお陰です」
穏やかに語るその口調が、却ってタンジェスを恐縮させた。
「あれはノーマ卿があの剣を貸してくれたからですし、それに無事に済んだのは俺だけじゃなくて、ティアさんや、それにエレーナさんのお陰でもあります。何より若旦那も剣を渡して、助けてくれたじゃないですか」
「それも助け合うということですよ」
「なるほど…」
土台たった一人で何かを為すなど不可能に近い。タンジェスは勝利し、ストリアスは敗北した。そういうことなのだろう。ここでファルラスが表情を切り替える。
「さて、別れの挨拶なんてしませんよ。どうせ同じ王都にいるんですから」
軽快な笑いに、タンジェスも笑みを返す。
「同感ですね」
「また何かお仕事をお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「うーん…とりあえずは真面目に学生をやっておかないとまずいんですよね。休んだ分をちゃんと取り戻さないと、卒業できません」
「あ、そうでした。それではですね…出世してこちらに仕事を回してくれるような身分になってください。そうすると助かります」
「いつまでかかるか分かりませんよ、それは…」
「そう長くはかからないですよ、きっと」
「だといいんですけど。さて…じゃ、そろそろ行くとしますよ」
「はい。お気をつけて」
「エレーナさんにもお世話になりました。ありがとうございました」
「どういたしまして」
「サーム、またな」
「はい。またお会いしましょう」
「じゃ、行ってきます」
三人が笑顔で見送ってくれる。戸口を出たタンジェスは、そのまま走り出した。荷物と、そして花束を抱えて。その姿が見えなくなるまで、サームは手を振っていた。
「元気ですねえ…」
「よろしいではありませんか」
「まあそうですけど」
ファルラスはやや苦笑がちだが、エレーナはすましている。それでは屋内に戻ろうかとした所で、脇から大きな声がかかった。
「あ、サーム!」
「ほんとだ、サーム君だ!」
「いなくなっちゃったのかと思ったよ」
サームの友達であるらしい子供達が駆け寄ってくる。今回は男の子ばかりだ。サームは本心から済まなさそうに頭を下げる。
「ごめんなさい」
「勝ち逃げなんてずるいんだからな。もう一回勝負だぞ」
サームが父親を見上げる。ファルラスは苦笑して手を振った。
「行ってらっしゃい。でも日が暮れる前に帰って来なさい。お母さんが心配するからね」
「はい、行ってきます!」
友人達と一緒に、サームもタンジェスとは別の方向へ駆け去って行った。
「よろしいのですか」
珍しくいたずらっぽく、エレーナが話しかける。ファルラスは肩をすくめた。
「うちの子ならば大丈夫…と、妻が申しますもので。妻子を信用することにしましたよ」
「なるほど…」
「それにしてもタンジェスさんの方は、うまく行くといいですねえ…」
ファルラスが話題を逸らす。エレーナはしれっとした顔で、一言言った。
「無理でしょう」
中に入ろうとしていたファルラスの体が大きく揺らぐ。戸口をつかんで、辛うじて転倒を免れていた。
「…そこまで大袈裟に反応なさらなくても」
ファルラスを助け起こそうともせず、エレーナが論評する。姿勢を戻し、乱れた髪を手櫛で整えながらファルラスは反論した。
「しかし…。私も確実にうまく行くなんて思ってませんけど、そこまで情容赦なく否定しなくてもいいじゃないですか」
「世の中にはできることとできないことがございます。今度の場合は後者かと存じます」
エレーナはあくまで冷徹に言う。それにファルラスは反発を覚えたようだった。
「…じゃあ、不謹慎ですけれど、賭けますか? うまく行くかどうか」
挑戦的な笑みを浮かべながら、接客用のカウンター上に金貨を一枚置く。ファルラスにとってはそれほどでもないのかも知れないが、エレーナのような給与所得者にはかなりの高額だ。彼女は小さく、かぶりを振った。
「遠慮致します」
「そうですか」
ファルラスが勝利の笑みを浮かべながら金貨をしまう。しかしエレーナは素の表情のまま理由を述べた。
「旦那様にはただでさえわたくしなどに過分のお給金をいただいております。その上こんな機会にまでお金をいただいたのでは、もったいのうございます」
「…滅茶苦茶強気ですね」
エレーナははったりなど使わない。実力で押してくる。それをファルラスは承知していた。
「理由をお知りになりたいですか? 賭けは成立しなくなりますが」
「分かりました。私の負けです」
「ではお教えします。リアンゼ様のことはご存知でしょう」
「それはもちろん。今タンジェスさんが会いに行こうとしている恋人ですよね。身辺調査を命じたのを忘れるほど、私も呆けてはいませんよ」
「はい。それでわたくしはリアンゼ様のお宅にもうかがっております。確かに多少警戒している様子もありましたが、しかし中の人間が出ようとして出られないほど厳しいものではございませんでした。それにその際、タンジェス様がこの茜商会にいらっしゃる旨も、使用人の方にそれとなくお伝えしております」
「…つまり彼女の気持ちがまだタンジェスさんにあるのならこちらに対して何らかの反応があるはず、それがないということは…」
「絶望的です」
再びきっぱりと、エレーナは言い切った。ファルラスが溜息をつく。
「やれやれ…」
「どうせするのでしたら、賭け率は五対一ないしそれ以上がよろしいかと存じます」
「止めておきます。それでも割に合わないような気がしますから」
「それがよろしいでしょう」
「しかしじゃあ、どうして彼に花束を買って来てあげたりしたんです? 無駄になると分かっていたのに」
「旦那様がミュート様の行状に関して誰にも教えるなとお命じになったのと、同様の理由です。ストリアス様もオーザン様も決してミュート様を疑おうとしなかったのと同じく、わたくしの口から聞かされた所でタンジェス様がリアンゼ様の心変わりをお信じになったでしょうか。わたくしも旦那様と同様、無駄に波風を立てるのは好みません」
「そうですね、例え疑ったとしても、本人に確かめに行くでしょう。それでもその事実がまだ信じられないかもしれない…つまり結果は同じですか」
「はい。しかしそのまま逃げてしまうよりは良いでしょう。未来をつかみ取るには、過去と決別しなければならないこともございます」
「それで新月草を」
「はい」
「辛いですね…」
ファルラスは手近にあった椅子に座り込んだ。エレーナは何となく、立ったままである。
「確かに楽なことばかりではございません。しかしそれでよろしゅうございます」
「何故です?」
「確かにその夜タンジェス様が犯した失敗は大きなものでした。しかしそれでも、それはたった一度のものです。たった一度の失敗を赦す事のできない、その程度の器量しか持たない女であれば、別れた方が後々タンジェス様のためになりましょう」
その声が切れるように冷たい。ファルラスは溜息をついた。
「厳しいことをおっしゃる…。リアンゼさんに対してだけではなく、人間という存在そのものに対して。もしリアンゼさんが後になって反省して、タンジェスさんを赦して、それを彼が受け入れられないとしたら…」
「タンジェス様もその程度の方です」
もう一度溜息をついて、ファルラスはもう何も言わなかった。そしてエレーナが付け加える。
「しかしわたくしは、心配には及ばないと存じております」
「何故です?」
エレーナがふっと笑った。冬の雲間から陽光がのぞくような、そんな温かさがあった。
「タンジェス様はここにいらっしゃる短い間に大きく成長なさいました。いずれ、あるいはすぐにでも、そのことに気づき、そして惹かれて行く女がおりましょう。それで良いとは、お思いになりませんか? あの方もまだ、若いのですよ」
「あなたは教条的に過ぎます」
苦笑しながら、ファルラスは再び立ちあがる。そしてこの話題を断ち切るように口を開いた。
「待っていた客が来たようです」
「…? どなたでしょう」
「すぐに分かりますよ」
ファルラスが言い終えた瞬間、ノーマが店先に姿を見せていた。ファルラスはゆっくり、エレーナは素早く、それぞれ一礼する。
「お待たせしたでしょうか」
「いえ、丁度良い頃合です。タンジェスさんが今しがた出て行った所ですから」
「彼にはもう一度会いたい所ですが…今はその方がいいのかもしれませんね」
「はい。それで、例の方は外ですか」
「ええ。待ってもらっています。もう呼んでよろしいでしょうか」
「構いませんよ、私は」
二人の間では一通り打ち合せが済んでいるらしい。エレーナは疑問に思ったが、しかし表情には出さなかった。ノーマが外にいるという人間に声をかける。
「入って来てくれ」
のろのろと、中背で痩せた男が入ってくる。彼も状況が飲み込めていないらしく、視線を泳がせている。その顔を確認した瞬間、エレーナはぎょっとして思わず後ずさった。にやにや笑いながら、ファルラスが説明する。
「しばらくここで療養してもらう事になりました。その後はまあ…そうですね。ひとまず事務の手伝いでもしてもらいましょうか」
「こ…この方は…!」
礼儀正しい彼女が目の前の人物を思いきり指差している。ファルラスは笑いで言葉が詰まったりしないように努力しながら、話しかける対象を新たに入ってきた人物に切り替えた。
「茜商会へようこそ。ストリアス=ハーミスさん」
主が最高の笑顔で迎える。魔術師、ストリアス=ハーミスは、不思議そうな顔をしたままだった。
王都人形騒乱録 完
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