そらのやま「旅行記」Yukito Shimizu

旅行記5『赤い土・赤い水』
(アンコールワットの旅)
3.カメラがない

「あれっ?カメラがない。」
 ホテルの早い朝食をすませて、バンコク空港に着いたところで気がついた。まだ車は待たせてあるので、すぐに車を調べてもらったが見当たらない。ホテルに置いたままなのか。
 なにしろ4時半ごろの朝食はルームサービスだったので、「なかなかいい食事だ。」などと言いながら写真を撮ったところまでは確かに覚えている。そのあとロビーでガイドをちょっと待ってホテルを後にした。ホテルから空港までは30分位か。旅行2日目はバンコクからシェムリアップに向かう。ホテルには帰らない。

 ガイドはすぐにホテルに電話をする。
「調べてもらっていますが、すぐには分かりません。搭乗手続きをしなければなりませんから後で連絡します。」

 私のカメラはデジタルカメラで、一昨年買ったもの。今は毎日のように持ち歩いている。パソコンに何枚でも記録できるので、かなりの量のアルバムができている。カメラがなくなっても、パソコンの記録はなくならないからその面での被害はないし、今回写しているのは10枚くらいだから、その面ではそんなに損害という感じはないのだが、愛用のカメラなので何とか出てきてほしい。

 それにしても人間の記憶というのは曖昧なもので、いくら思い出そうとしても思い出せない。ホテルの部屋で見つかることにかすかな望みをつないでアンコール遺跡の旅を続けた。
 3日後、再びバンコク空港。ガイドが待っていた。
「残念ですがありませんでした。あれからホテルに行き、メードにも連絡を取ったのですが、カメラは見つかりませんでした。」
「そうですか。仕方ありません。こちらがうっかりしていましたから。写っていた写真はそんなに多くはありませんし、値段も5・6万円のものですから。あきらめます。」
「警察に届けましょうか。保険に入っていたら少しはお金が返ってくるでしょう。」

 私はガイドやホテルに迷惑がかかると思って遠慮したが、ガイドが話をどんどん進めて、夕方、日本でもめったに行かない警察署へ。バンコクのお巡りさんが簡単な事情聴取の後、私にはまったく読めないタイ語の盗難証明を書いてくれた。

 帰国翌日旅行業者に電話をすると、既にバンコクからの連絡が入っていて旅行保険請求の手続きをすませた。

 初めての、あまりない方がよい経験である。