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「絵は高く売れるからいいねえ。」
 このとぼけた、まったく、ガクンとくる皮肉を言ってのけて、ますますニタニタ笑いを
強めたのである。

 ああ、何という事だ。
 この連中は日本の現代絵画の市場をよく知っているのである。ゴッホもムンクも、あっ、
と驚くような、あの表現主義絵画が日本ではまったく売れずどこかの小屋の隅にほこりを
かぶって眠っている事を、この連中は知っているに違いない。
 ああ、何という事だ。
 おまけに致命的な事があった。彼らは私に弁当をくれるのである。私に昼飯をくれるの
である。
 ああ、何という事だ。

 私は名誉も誇りもなく、彼らから弁当を貰った。なぜなら、私がいつも昼に食べる物よ
りはるかに御馳走なのだ。どこかのスーパーで余ったものだとか何とかいっているが、私
から見れば、豪勢なものである。
 
  私は彼らを気の毒がって見ていたが、実は、彼らの方が私を気の毒がってみていたので
ある。逆転である。

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