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 どうも気になるのは彼らの目である。彼らのそれは情熱的な、ギラギラしたものではな
い。欲深そうな、人の弱みに付け込もうとする、ずるそうな気持ち悪さもない。意地っぱ
りで頑固一徹、何かに凝り固まっているのでもない。少しも人に強制するものがない。シ
ョボンとした目である。一面、ごくごく普通の目であり、時に悲しそうでもある。
 どこかで見た目だと思う。そうだ、馬の目か、鹿、犬、どうもそんな動物の目に近いよ
うな気がする。

 こんな動物の目を考えていると、浮浪者の存在理由に、何か解答の如きものが見出され
ない所に入り込んで行くような、これ以上考えない方がいいようなそんな感じがする。現
代文明、現代社会の構造、あるいは現代文明の成り立ちまでさかのぼる何か、その辺の所
に恐ろしさが潜んでいる。

 例えば、土地の所有に関して、これは自分の土地であると断言出来るであろうか。確か
に法律とか何かで決めてはいるが、それが何だと言うことになると、とんでもないことに
なりかねない。本来地球上の物は人間が絶対的な自己所有を完全に宣言することは、不自
然であり、正常とは言えない。つまり誰の物でもないと言うことが根底にはあるはずであ
る。土地所有は文明が起きた時から問題を含んでいる。仕事に関して言えば、今や競争経
済の真っただ中に生活している我々は競争せざるを得ない。競争することは悪くはない。
しかし、競争ばかりに重点を置いて競争だけが絶対的な事のように考え、これに凝り固ま
って仕事をするとどうだろう。本来、動物として持つべき人間の目はどこかに消え去り、
狂気の目ばかりになりかねない。

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