歯科治療

 

 だれにとっても、歯科治療はおおむね快いものではありません。

@他人に口の中を触られる生理的不快感(嘔吐・過敏など)

A痛み・音・振動

B開口状態を長時間保つ苦しみ

C治療内容・手順が直接見られないことの不安

D嚥下を我慢しなければならない苦しみ

などが考えられます。

 特にCに関しては、事前に十分な説明があれば、治療時の不安はずい分と軽減されると思います。(インフォームドコンセント)

当たり前のことですが、私たち歯科医師は、十分な説明などなしに治療を行ってきました。歯科医師不信の根はここにあると思います。

 歯科医師は「患者さんに我慢を強いる」ことを日常臨床ではずいぶんしていると思います。

しかし、小さな子供や障害児は、我慢してくれません。泣いたり暴れたりします。当然です。治療優先という大義名分で、抑制治療をすることもあります。

 

 自閉症児に対する歯科治療・保健指導

 しかし、歯科医院だけでこれらのことを進めようとしてもうまくいきません。家庭や学校で日常的に取り組まれていることが必要です。

また、患者さんの情緒が安定している場合とそうでない場合では、診療室での対応が大きく変ってきます。私の患者さんでも、過去に何らかの歯科的トラウマを植え付けてしまったケースでは、対応が非常に難しいことがあります。

 

歯科における構造化とコミュニケーション

私たち歯科医にとっても大変有意義な研究論文が発表されました。

特に最後の提言に関しては、大変よくまとまっていて、医療、保護者双方とも実行していただきたい内容です。

日本自閉症協会および発表者のご好意により全文を資料としてファイルしました。

提言の部分はこちらです。

 

資料  PDFファイル

発達障害児の歯科治療に関するアンケート調査

〜 自閉症児と他の発達障害児との比較 〜

長野県精神保健福祉センター  竹内靖人 重田三恵子 日詰正文 飯田祥子 木村宜子

 


症例

自閉症児ふたつのタイプ

歯科的問題行動があるタイプ

  1. 診療室に入らない

  2. 治療椅子の上で暴れる

  3. 治療行為、器具、薬剤などに対して拒否反応を示す

  4. 虫歯の程度がひどい

  5. 終わった後も泣き叫んだり暴れたりする

 問題行動を起こす原因の徹底的な究明が大事。慣らして行く方法は効果が薄いことが多く、むしろ抑制してでも短期間に無痛的に処置を終えるほうが、悪い記憶を残さない。虫歯の程度が低い場合は、あえて処置をするより、フッ素などを使った経過観察をしていくほうが良い。定期健診を重ねていく間に、歯科的問題点を解決していく。

 家庭での日常生活上の構造化や問題行動に対する対応法などが確立していなかったり、上手くいっていない場合、おおむね歯科診療上も問題が多い。

 一般の小児,児童の場合でも、虫歯のひどい子供は、虫歯のない子に比べ、診療にてこずることが多い。お菓子食べ放題や食習慣の乱れのある生活はどこか子供の精神状態を不安定にしている気がする。

 

導入や治療時の対応さえ誤らなければ、比較的問題なくできるタイプ

 

 歯科治療の流れをしっかりと構造化できれば、一般の歯科治療と同様にできる。物理的構造化としては、診療椅子をパーティションで区切ったり、静粛な環境にする、他の患者さんのアポイントを入れない、待たせない、担当医や椅子に対するこだわりなどに対応するなど。さらに見通しをしっかりと示さないと、長時間の治療は上手く行かない。見通しをどのような視覚的支援にするかは、個人差ががあるので、保護者との事前の打ち合わせが必要になる。診療サイドでも、綿密なプログラムとスタッフの連携が必要になる。

 多動に関しては、抑制も必要なことがある。


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実例

症例 1

説明

 歯石とりをしている。

 

 歯石除去は、音ときりきりとした不快な痛みが連続する

 簡単な処置のようだが、我慢を強いる時間が長いので要注意

 一回の時間を短く、通院回数を増やす事が、治療に慣らすという意味でも有効。

 この点を保護者に理解を求める。

 

 10分ぐらいしてから、勝手にうがいを始めたり、帰ろうとする。

 治療の流れや終了の見通しを示さないとこういうことになる。限界に近づいているシグナルを見逃さない。

スタッフが制止を始めると・・

 

 終了まで、あとわずかなら制止も有効だが、いつもこの方法に頼ると失敗する。

 ここで、わっと人が集まって、みんなが勝手な事を言い出すと収拾がつかなくなる。

 声かけは、ひとりだけ!

 

パニックが起きそうになった。

 パニックが起きたら、最後。

 パニックの芽をいかにに早く感じ、抑えるかは、ドクターやスタッフの資質に左右される。

 30数えて、うがいをさせる事を様子を見ながら、3回ほど繰り返して、無事終了。

 数をかぞえるペース、痛みを与えない処置、適切な声かけ、スタッフの連携は、あうんの呼吸が大事。

 

 

症例2 説明

「こんにちは」

 歯石除去の予定でした。

「はりしない?」

 「はり」とは、歯を削るドリルのこと。もちろん今日は使いません。

「はりしないよ」

 言葉での確認はしています。

「さあやろう」

 何かそわそわしています。

「はりしない!!」

 椅子を倒したとたん逃げ出しました。

 

 理由は簡単。テーブルの上に「はり」(ドリルのこと)が、ずらっと並んでいたからです。彼の視線に入らないところに片付けるとおとなしく治療をすることが出来ました。

 今日の課題(歯石除去なのでドリルは使わない)が、目の前のドリル(歯を削る)によって負の強化因子となってしまった例です。

 歯科医院のようにせまい場所に、色々な器具などがひしめき合っている場合、彼らにとって、視覚情報の整理がつかずに(結構私たちが気が付かない細かいところまで目がいっている)混乱を起こすことがままあります。

 感覚統合という点から彼らにとっては、歯科医院はもっとも苦手な場所といえます。

(健常者にとってでしょうが・・・)

 

 


 

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