食べる練習をするための調理
食べる練習をするときに用意する食事は、その子の口腔機能の発達に合ったものでなければなりません。基本的には離乳食を参考にしてください。
調理者や介助者は与える前に必ず自分で試食してください。
飲み込みの練習
とろみのある液体・離乳初期食
どろどろにしたつもりでも、つぶつぶが残っている場合があります。試食して、均一に調理されているか確かめてみましょう。裏ごしをかけたり、すり鉢でさらに均一にしましょう。味や温度、香りにも気を使いましょう。酸味の強いもの(果汁やヨーグルトなど)は意外に苦手です。温度は体温に近いと生ぬるくておいしく感じません。とろみをつけるために増粘剤を使うと香りを封じ込めてしまい味気がなくなります。使いすぎに注意しましょう。
重心のこどもたちは、ここでつまづいていることが多いです。年齢の低いうちから、成人嚥下獲得のためのトレーニング(脱感作・口唇訓練・鼻呼吸訓練・舌訓練)を始めるべきです。(年齢が高くなればなるほど、獲得が難しい。)
舌で押しつぶしの練習
離乳中期食
かたさと大きさが重要です。指で軽くつぶれるかたさ(*)で、口の容積を考えて、大きさを決めましょう。小さすぎても大きすぎてもだめです。根菜やイモ類が適当です。それ以外は、なかなか適当な素材がありません。市販の離乳食で中期食と表示されているもので合格点をあげられるものは大変少ないです。(こんにゃくやぼそぼそとした肉などが含まれている。)市販のものを使うにしても必ず試食をしてみてください。
飲み込んだ後、口の中をのぞいてみて、食べ物がきれいになくなっていれば合格。舌の中央に残っている場合も問題はありません。ただし、丸呑みしていることもあるので要注意。食べ物が左右にばらけて残っている、上顎にくっついて残っている、などの場合はうまく舌が使えていないか、機能と食品の調理形態があっていないことが多いです。
機能的に舌がうまく使えない脳性麻痺の子供の場合は、舌訓練を行なう。
一般には指でつぶすことを指標にしていますが、私は、自分で食べて確かめる方法をオススメします。舌だけで処理をすることの難しさは、実感しないと絶対分かりません。一口量や大きさなども、自分の口の感覚に勝るものはありません。この段階の調理が大変難しいことが分かると思います。 |
そしゃくの練習
離乳後期食
歯茎や奥歯でつぶせるかたさです。舌の動きやかみとりができるかどうかで大きさを変えましょう。
歯が生えているからといって、必ずしも十分に咀嚼が出来るとは限りません。3歳ぐらいまでは個人差が大きく、発達がやや遅れている子供に大人と同じ物を与えると、かまない、のみこまない子供を作ることになります。
ごっくんができる・口唇閉鎖ができる・鼻呼吸ができる・舌が口の中に納まってるなどそしゃくを獲得する準備が整っていることが大事。
咀嚼の動きが出た瞬間は、感動ものです。このときばかりはやっててよかったと思います。 |
前歯でかみとりの練習
スティック状のもの。(スナック菓子・バナナなど)
適量をかじりとるためには、奥に入れ過ぎないように、最初のうちは介助者が口に入れる量をコントロールしてあげてください。
てづかみ食べ
手でつまめて、口に入れるときある程度大きくして、かじりとりがしやすい大きさと形にしましょう。
最初のうちは手や周りのものを汚したり、口から出したり、こぼしたりしますが、それも学習であり、練習でもあるのです。あまり気にしないで自由にさせてあげてください。
ここを飛ばして、スプーンやフォークを早くから持たせようとすると、食べ方の下手な子になります。
再調理
食べ物の調理形態が不適切な場合、その場で食べやすい形に再加工してあげることがあります。外食などで食べられないものがある場合、こつを覚えておくと、楽しい食事になります。赤ちゃん用の小さなすりこぎとすり鉢は色々便利です。
しかし、生野菜のサラダは、どうやっても再調理は不可能です。てんぷらや衣のついた揚げ物も中身が硬くなり、難しいでしょう。
食べやすいナンバーワンはフランス料理!肉や魚も柔らかく調理されていて、再調理不要な場合も多いです。
つぶす (つぶして食べやすくなるものは、すり鉢を使ってつぶします。ただし、中途半端につぶすと飲み込みにくくなったり、むせやすくなったりします。つぶしてぼそぼそになるものは、スープ、だしを混ぜたり、ソースを絡めると食べやすくなります。)
する (つぶす作業に似ていますが、果物などに応用が利きます。アイスクリームなどを混ぜると、酸味が減り、とろみがついて食べやすくなります。)
わける (カレーやシチューのように色々な具が混ざっているときは、具を別々に取り出し、食べやすいもの食べにくいものを分けます。さらに、食べやすい大きさに小さくする。お米などが苦手な場合、すりつぶして、ルーなどとませると食べやすなります。汁物が苦手な場合は、食べられないものをよって分ける作業が中心になります。)
きざむ (細かくしすぎても大雑把でも食べにくい。いちばん難しい再調理法。食感や味が悪くなるので、あまり薦められません。)
たたく (肉や刺身など、そのままでは食べにくい場合は、繊維をたたくことにより食べやすくなる。脂肪分が適度に含まれているとのどのすべりが良くなります。例)中トロのたたき)
増粘剤の使い方
(増粘剤の性質を知ろう)
混ぜた直後と数分後では増粘度が違います。(時間が経つにしたがって、トロミが強くなります)
粘度を上げるほど食品の持つ香りは閉じ込められます。
使用量が増えるほど食品の味が落ちます。
使用量が多いとべたべたになるために食塊が作りにくくなります。(入れ歯などにはつきやすい)
どうしてもトロミをつけすぎる傾向にあります。
水分にトロミをつけるとき
(味や香りを損なわずかつむせにくい濃度)
最初は、少量混ぜます。ほとんど変化しないかなと思うぐらい少量。
1分ほど待って、すぷーんにすくってたらしてみる。
適量だとスプーンにすくって、たらしてみると「ぽたぽたぽた」と、落ちていくはずです。スプーンからたれる水滴が一つ一つ見える感じです。「タラ―ッ」と糸を引いたり、「ボタボタッ」という感じでは濃すぎます。(トロミを使わない時、水分はさらっと流れてしまう。練習の時には隣に混ぜる前のものを置いておいて比較してみるとわかりやすい・粘度的には牛乳が参考になります。)
これでむせる場合は、ゼラチンを用いたほうが良い。(但し、暖かいものには使えませんが)
摂食嚥下障害コラム
ゼリーと寒天同じじゃないの?
こんにゃくゼリー窒息事件
一時期、赤ちゃんやお年寄りのこんにゃくゼリーによる窒息死が相次ぎました。でも、ゼリーによる窒息事件は皆無です。どうしてでしょう。
嚥下障害の方にゼリーを応用した食品が多用されています。口腔内での食塊の保持を容易にすることと、食品がのどをスムーズに通過ために使われます。しかし、一番の使用目的は誤嚥したときの安全性でしょう。ゼリーは体温と同じ温度では液体になります。たとえ誤嚥されたとしても、液体のため吸収されます。
「体の中では液体になる」嚥下障害の方にゼリーを用いる最大のメリットです。
こんにゃくゼリーは、「こんにゃく」であって「ゼリー」ではないのです。こんにゃくは常温では固体です。つまり、誤嚥したときに固体のままの状態だということです。寒天も同じです。ゼリーとは似て非なるものです。
ゼリーはかまなくても飲み込めるが、こんにゃくや寒天はかまなければ飲み込めない。かむことの苦手な摂食嚥下障害児(者)には大変危険な食品だといえます。
誤った使い方は、非常に危険だということがわかりましたか?
摂食嚥下障害コラム
嚥下食は丸飲み込み(胃には負担がかからないのかな?)
嚥下困難の方のために飲み込みが楽な食品が多数販売されていますが、かむことなしに次々に胃に送り込まれることにちょっと疑問を感じています。
唾液と混ぜるという行程が省略されるわけですから、たとえばお粥などのでんぷんなどは、消化不良を起こす可能性があります。嚥下食が飲み込む直前の状態を再現するのであれば、でんぷんなどは、ある程度分解しておく必要があるのではないでしょうか。