・概要
オルタネータの構造は,中心軸の電磁石(ローターコイル)の周りを,回転しないコイル(ステーターコイル)が取り囲んでいて,
ローターコイルが回転すると,ステーターコイルに交流電流が誘起される,というものである.
しかし車で使う電気は直流であるので,発生した交流電流をレクティファイヤーにより直流に変換しているわけである.
この中心軸の電磁石も,電磁石であるからにはどうにかして電流を供給する必要があるわけだが,
そのためにブラシが存在して,回転軸のスリップリングと接触することでローターに電流を供給している.
エンジンなど自動車の他の部分では,金属同士の接触面はオイルやグリースで潤滑されており,
金属同士が直接,接触しない(薄い油膜を挟んで接触する)ようになっているので摩耗は少ないが,
オルタネータのブラシについては電気を通さないといけないので油膜により潤滑することはできず,
従って金属同士が直接,接触していることになる.このため使用に伴ってブラシが摩耗していき,
しまいにはブラシの長さが足りなくなって電気が流れなくなり,オルタネータが発電することができなくなってしまう.
ブラシの寿命は,通常の走行状態で10万km以上はあるが,安全のため10万kmごとの交換が推奨されている.
この車を購入後,最初の車検で走行距離は約7万kmであったが,車齢9年ということでオルタネータをリビルド品に交換した.
リビルドというのは,ブラシだけではなく全体を分解して清掃し,ベアリングなどの消耗品を交換して組み上げたもので,
ほぼ新品と同等の性能・耐久性がある.
それから4年近くが経過し,走行距離が17万kmを超えたので,ブラシの交換を画策した.まだリビルドから4年経っていないので,
ベアリングなどは大丈夫だろうし,レギュレータなどについても,車内に電圧計を備えているため異常があればすぐにわかるから,
ということもあり,今回はブラシのみの交換を行うことにした.
・準備品
まず,修理書の図の確認.→(こちら)
昔のブラシは,ブラシ単体に電線をハンダ付けして組み立てる必要があったらしいが,
最近のトヨタ車のオルタネータ(DENSO製)の場合は,ブラシはブラシホルダーに一体で組み付けられており,
ブラシホルダー全体で交換すればいいようになっている.ブラシホルダーはビス2本で固定されているだけなので,
非常に簡単である.ついでに,このビスも新品にすることにした(注文画面では定数3本と書いてあったが,
実際には2本だった.あとの1本はレギュレータASSYの固定用だそうで,今回は不要である.情報いただいたしの4さんに感謝).
1Gエンジンの場合はオルタネータはエンジン上部にあるので,ブラシ交換だけならオルタネータを取り外さなくても,
簡単にオルタネータの裏蓋(エンドプレートカバー)を開けてブラシを交換できるが,
1JZの場合はオルタネータがエンジン下部にあって,オルタネータのすぐ上方をラジエータのロワホースが通っているので,
ちょっと考え物である.結果的には,ちょっとやりにくかったがオルタネータを取り外さずに交換することができた.
この場合,必要な工具は8,10,12mmのレンチとプラスドライバーくらいである.オルタネータを取り外すには,
ベルトを外すために14mmのロングメガネが必要になる.ベルトの外し方は,
パワステポンプ交換の項目を参照のこと.
今回の交換部品
品名 | 品番 | 個数 | 価格
| ブラシホルダーASSY | 27370-75060 | 1 | ¥1,160
| スクリュウ | 90099-00197 | 2 | ¥60
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・作業の実際
(1)準備作業
最初に,バッテリーのターミナルを外しておく.マイナスだけではなく,プラス側もちゃんと外しておき,
作業中にバッテリー端子に接触したりすることのないようにする(!!ショートや爆発などの危険性あり!!).
オルタネータのブラシ交換は,できたらオルタネータを取り外してやるつもりだったので,
最初にベルトを外しておいた.オルタネータのプーリーを手で回してみると,重さはあるが滑らかに回転しており,
ベアリングには問題がなさそうだったので,これならブラシ交換のみで問題なかろう,ということになった.
ベルトの次は,作業空間を確保するためエアクリーナボックスを取り外し,さらに+B端子などの配線を取り外しておく.
↑L線などのコネクタ ↑+B端子
このあと,普通はオルタネータを取り外すのだが,最初は取り外すのが面倒だったので,
取り外さずにその位置でブラシ交換を行った.そちらの記録は (2-B)車上交換 の方にある.
(2-A)オルタネータを脱着しての交換
オルタネータ自体は,上下2カ所で固定されている.上側のボルトは簡単に抜くことができるが,
下側はちょっと厄介である.今回は,エンジンアンダーカバーを取り外して下側のナットを緩める方法をとった.
なお,上側のボルトを先に抜いてしまうと,下側のナットを緩める時にオルタネータが動いてやりにくいので,
下側のナットを取り外すまで,上側のボルトは少し緩めただけの状態にしておく方がよい.
エンジンアンダーカバーは,バンパー下面で4個のクリップ,あと10本くらいのボルトで固定されているので,
全部,取り外すとエンジンアンダーカバーが外れる.このとき,ローダウン車はもちろんだが,
たとえ標準車高であっても,車の前側を少しジャッキアップしないとアンダーカバーを取り外すのは困難である.
で,下からオルタネータを見上げると,次の写真のようになっている.
オルタネータの下側のナットは,写真の↓の位置であるが,
この写真のように,すぐ下側をATFクーラーの配管が通っていて,結構,邪魔である.
おそらくこの状態でもナットを緩めることは可能であるが,やりにくいと感じる場合は配管のクランプを取り外してもよい.
ただ,外しても意外と可動範囲が狭く,やりにくいことはあまり変わりがないのだが.
ナットが外せれば,あと上側のボルトを抜いて,オルタネータ本体を取り出すだけである.とはいっても,
下側はかなり長いスタッドボルトに通してあるので,オルタネータ全体をかなり前方へ動かさないと抜けない.
前側にはラジエータファンがあるので,ラジエータファンの羽根と羽根の間のわずかな空間を通すようにして,
やっとオルタネータ本体が抜けてくる.
オルタネータの後面を見てみると,
3カ所にナットが見えるが(上の写真○),このうちコンデンサー本体を固定している部分が,
コンデンサー固定用と,リヤエンドカバー固定用とで,二重にナットがかかっているので,合計で4個のナットを取り外してやる.
また,B端子の残りのナット(コンデンサーへの端子を固定している)を取り外して,根元の黒いインシュレータを引き抜いておく.
あとは周囲をこじれば,リヤエンドカバーが外れるようになっている.
中央にある灰色のゴム製の物体がブラシカバーである.はめてあるだけなので,引っ張ればめくれる.
時にブラシカバーがリヤエンドカバーの内側にくっついていることがあるので,注意が必要である.
そうするとブラシホルダーが見えるので,ブラシホルダー両横のビスを抜けば(上の写真▲),
ブラシホルダーが取り外せる.同じようにしてレギュレータやレクティファイヤーも交換可能である.
あとの取り付けは,上と逆順に行えばよい.
なお,いちいちエンジンアンダーカバーを取り外すのは大変であるが,シリンダーヘッド載せ替え
の時は,ファンやファンシュラウドを取り外した状態では,アンダーカバーには手をつけなくても上からオルタネータの脱着が可能だった.
なので,ラジエータファンを取り外せば,もっと簡単にオルタネータを脱着できる可能性がある.
(2-B)車上交換
初回交換時に,オルタネータを取り外そうとしたところ,下側のナットの位置がよくわからなかった.それに,
見たところでは位置がわかったところで緩めるための力を加えるだけのスペースがどうも取れそうにない.
前にアンダーカバーを外して下から見た時は,すぐ目の前にあったのだが・・・.やっぱり下からじゃないと難しいのだろうか?
ということで,オルタネータを取り外すのをあきらめ,その位置でブラシのみ交換することになった.
とはいえ,オルタネータのリヤエンドカバーは,ラジエータロアホースの真下にあるので,
ほとんどの作業は指先の感覚に頼ることになってしまうのだが.
少しでも作業空間を確保するために,エキゾーストマニホールドの遮熱板を取り外しておいた.ただ,
このナットが熱のため少し固着気味で,1本,取り外し時にスタッドボルトを折ってしまった.このスタッドボルトだが,
先端部がトルクスねじのビットの形をしているので,ビス側の形をした特殊工具がないと回せない.
まぁ,それは後日,なんとかするということで,今回は4本中,残り3本で固定しておくしかないだろう.
なので,もし遮熱板を取り外したい場合は,前もってCRC 5-56などをたっぷり吹きつけておいてからにしたほうがよい.
遮熱板を外したところ.少し左側に余裕ができた.
次はオルタネータのリヤエンドカバーを取り外すのだが,そのためにはまずノイズ防止用コンデンサを取り外し,
+B端子のインシュレータ(下の写真・黒い樹脂部品)を抜き取る必要がある.
あとはリヤエンドカバーをとめているナットを外せばいいはずである.ナットは3カ所なのだが,
コンデンサの取り付け部分のみ,リヤエンドカバーのナットの上にコンデンサがあって,その上からさらにナットがついている
(ナットが二重についている)ことに注意.これでカバーは外れるはずなのだが,車上だとどうも力がかけにくくて,
なかなかカバーが外れなかった.結局,大きめのマイナスドライバーをすき間に差し込んで,ちょっとずつ広げていったところ,
裏側くらいまで回り込んだあたりでパコッと外れた.
ブラシはブラシホルダーごと交換することになっていて,ブラシホルダーの両横2カ所でビスにより固定されているので,
それを取り外す.そしてブラシホルダーを引っ張り出すと,無事,ブラシホルダーが外れた.
新品のブラシと比較してみたところ,10万km走っているわりにはブラシの摩耗は少なく,
まだ半分くらいしか消耗していないように見えた.
そのまま再使用しようかとも思ったが,せっかく新品があるし,
今,交換しておけば30万kmまでは大丈夫(現在17万kmちょっと)ということもあって,新品に交換することにした.
古い方は予備として持っておけばよいだろう.さて,新しいブラシをオルタネータの軸に通すには,
バネで飛び出しているブラシを押し込めながら嵌め込まないといけないのだが,やってみると指で押さえていれば簡単にはめられた.
ブラシホルダーには表裏の向きがあるのだが(下の写真参照),凹凸の少ない方が奥(前方)向きでよかった.
逆向きも試してみたが,逆だとしっかり奥まで入らなくて,向きを間違えることはないように思われた.
ブラシホルダーを固定するビスは,ローターの励磁用の電流を流す役割もあるので,今回,これも新品に交換した.
あとリヤエンドカバーなどを戻し,+B端子の配線も元通りに接続して,遮熱板やエアクリーナボックスを取り付ける.
(補足:リヤエンドカバーをはめこむ前に,ブラシカバーを取り付ける必要があったのだが,今回の作業中,
ブラシカバーが見あたらなかったので何もしていなかった.後日,オルタネータを取り外して調べたところ,
ブラシカバーがリヤエンドカバーの裏側に張り付いていた.すなわち,リヤエンドカバーを戻した時に,
ブラシカバーもちゃんと元の位置に戻っていたため,まったく問題がなかった,ということがわかった.)
(3)最終チェック
オルタネータの取り付けが終わったら,B端子の締め忘れや,端子のカバーがちゃんと付いているかどうかを確認し,
大丈夫であればバッテリー端子を取り付けて,いよいよエンジンをかけてみる.
キーをひねると・・・ブウォン.おおっ,かかった,かかった.室内の電圧計をチェックすると,14.2Vを指している.
エンジンのかかる前はIGN ONで11.5Vくらいだったので,ちゃんと発電しているということがわかる.
車に電圧計を取り付けていない人も,オルタネータの作業後は,テスターで発電しているかどうか確認することを強く勧める.
・交換後の結果
別にトラブルが生じていたわけではないので,交換したからといって何かが変わるわけではない.
まぁ,これで次は30万kmまでは交換しなくても大丈夫だろう,という安心を得た,というところである.
今回の結果から,ブラシの寿命は思ったより長いことがわかった.うちでもエンジンスターターを使ったりして,
普通の車よりアイドリング時間が長いと思われるのだが,それでも10万kmで半分も摩耗していなかったことを考えると,
通常の走行状態では20万kmくらいは余裕でもつのではないだろうか.実際,知っている人で25万kmくらいでブラシがなくなった,
という人がいた.もちろん車の使用状況ではもっと早く寿命を迎える場合もありうるし,
上で書いたように作業自体はさほど難易度は高くなく,しかもブラシだけなら千円ちょっとしかかからないから,
10万kmを過ぎたら早めに交換しておく方がよいことはいうまでもないだろう.(作業日・・初回:2003年1月18日,2回目:2003年2月23日)
・後始末
折れた遮熱板のボルトを復旧するため,新品のスタッドボルトやナット,
さらに折れたスタッドボルトを抜き取るためのスタッドリムーバを用意して,交換作業を行った.
スタッドボルトの頭は,上の写真のとおりE7のトルクスレンチで回せるようになっている.
古いスタッドボルトの方だが,正常なものはトルクスでちゃんと抜き取ることができた.途中で折れていた1本は,
スタッドリムーバの歯をかませて回転させ,抜き取った.抜き取ったボルトが頑丈に噛み込まれていて外せない,
ということが起こったが,これはナットをかけて緩めるのと逆の方向(締める向き)に力をかけてやることで外すことができた.
あと新しいスタッドボルトをねじ込んだのだが,欲張りすぎて,1本,頂部がねじ切れてしまった.
ねじ切ったのはトルクスの部分だけで,ナットがかかる部分は全長が残っているため,とりあえず使用はできるが・・・・.
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