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パワステポンプ交換

概要

パワステポンプは,パワーステアリングのパワーアシストのための油圧を供給するポンプである. X80系のように重い車になると,パワステの負荷も大きく,古い車ではパワステポンプからの異音やオイル漏れ, 作動不良といった問題が生じてくる.特に,パワステの場合,パワステフルードも本来は定期交換が必要なのだが, 車好きの人以外でパワステフルードを定期交換することは稀であり,それでも10年くらいならなんとか走ってしまうのだが, それ以降にはフルードの劣化によるトラブルが増えてしまう,という問題もある. とりあえず急場をしのぐのに,程度のいい解体車からパワステポンプを取ってきて交換する, という方法がある.新品のポンプは約6万円するが,解体屋で自分で外せば,2〜3千円で買えるだろう. もちろん,そのまま用いるのではなく,分解して洗浄・劣化部品の交換という作業(オーバーホール) を行ってから使用すればなおよいが,それについては別項で詳述しているので, ここではポンプASSYの脱着作業についてのみ述べる.
今回の故障は,前のフローコントロールバルブ交換にも書いたように, フローコントロールバルブが固着してポンプの発生油圧が制御できなくなり,そのためアイドリングのような低回転時に油圧が不足して, 激重ステになってしまう,というのである.それがバルブ自体の問題ではなく,バルブの外側のハウジングについたスラッジが原因のようで, そうなるとポンプを外してオーバーホールするか,新しいポンプに交換するか,ということになってしまう. で,現状では,ほぼ毎日,車に乗る必要があるので,車が動けない時間をできるだけ減らすため, 今回は中古パワステポンプをあらかじめオーバーホールしておいて,それと交換することにした. もちろん,どの方法を採るにしても,ポンプASSYの脱着手順はまったく同じである.

交換手順の検討

修理書によると,パワステポンプの交換には,まず
  1. パワステフルード抜き取り
  2. ホース類取り外し
  3. 車をジャッキアップ
  4. エンジンアンダーカバー取り外し
  5. 補機ベルト取り外し
  6. パワステポンププーリー取り外し
  7. パワステポンプ取り外し
の手順を踏む必要があるが(→脱着図), この補機ベルト(修理書の表記は「Vリブドベルト」)の取り外しについて質問してみたところ, ウルトラロングのメガネレンチがあれば,車を持ち上げなくても上側からベルトのテンショナーを動かしてベルトを外すことができる, という返事をいただいたので,ジャッキアップとエンジンアンダーカバー取り外しは不要である. また,中古パワステポンプの場合,ふつうはプーリー付きで取り外してくると思われるので, プーリー取り外しも不要だろう(自分でオーバーホールする場合は,ここでプーリーを外しておかないと, パワステポンプを外してからプーリーを外すのは,ポンプが固定されていないのでかなり作業がやりにくい).
またホースの取り外しにおいて,1JZ-GE車はパワステポンプがリザーバタンクと一体になっているのだが, 古い車の場合はリターンホースの差し込みが固着していて,無理に外そうとするとホースを損傷する可能性があり, 損傷した場合,この部品はプレッシャーフィードチューブASSYでしか出ないため,部品代だけで約3万円かかってしまう. 従って,リターンホースに関しては,よほどスルッと抜けない限り,無理に外そうとしない方がよい. すなわち,車上でリザーバタンクをパワステポンプから切り離し,リターンホースを付けたままでリザーバタンクを車に残して, ポンプ部分だけを交換するわけである.なお,1JZ-GTE車のようにリザーバタンクが分離している車では, リザーバタンクとパワステポンプをつなぐホース単体の部品が出るので,ついでに交換してしまってもよいだろう. リザーバタンクの取り外しに関しては分解構成図を見ていただきたい.
参考のため,パワステポンプ周辺の写真を下に示す.
1.リザーバタンク
2.リターンホース
3.プレッシャーポートユニオン
4.ユニオン(エアコントロールバルブ用)
5.ユニオンボルト
6.プレッシャーフィードチューブ(いわゆるパワステホース)
7.エアコントロールバルブ

準備品

一般的な工具に加えて,ベルトを外すのに14mmのロングメガネ,リターンホース取り外し用のプライヤー, プレッシャーフィードチューブを取り外すための17mmのフレアナットレンチ,さらにプーリーも取り外そうとすると, 17mmのロングメガネとプーリーの回り止めツールが必要になる.

プーリーの回り止めツール.
下は600mmのスピンナーハンドル.

あと,パワステフルードが最低でも600mL以上必要になる.リザーバタンクまで含めたASSYで交換する場合は, これ以外に特に必要な部品はない.

実際の作業

後でプレッシャーフィードチューブなどを切り離す時の作業スペースを確保するため,最初にバッテリーを降ろしてしまう. 次に,補機ベルト(Vリブドベルト)を外す必要がある.右の図のように,まず14mmのロングメガネレンチをテンショナーのナット? にかけ(赤矢印),下方向に力をかけると(黄矢印) ベルトが緩むので,パワステポンプのプーリーから外してやる.

ベルトが外れたら,次にプーリーを取り外す.プーリー付きの中古ポンプに交換する場合は,この作業は必ずしも必要ではないが, 後でオーバーホールをする際に,車から外したポンプのプーリーを取り外すのは少しやりにくく,車上で取り外しておく方が簡単なのと, プーリーを外した方がポンプ全体を取り外す時に作業しやすいので,ここで取り外しておく. 作業はプーリーの回り止めをかけてロングメガネでプーリーセットナットを緩めるだけである(下の写真参照). 本当はロングメガネではなくてスピンナーハンドルを使おうと思ったのだが,電動ファンのコネクタに当たってしまうので, ソケットレンチの類は使えなかった.
プーリーの取り外し.
プーリーが外れたら,次はリザーバタンクを取り外したいのだが,その前にポンプ内のパワステフルードを抜く意味もあり, プレッシャーフィードチューブを切り離す.これには17mmのフレアナットレンチが必要である. このとき内部のフルードが出てくるので,下に適当な容器やウェスを敷いて,周囲が汚れないように気を付ける. 受ける容器としては,500mLのペットボトルの口の部分を切り落としたものを使用し, ペーパータオルを漏斗状に曲げて容器に差し込んでおくことで,ペーパータオルに落ちたフルードも容器に回収されるようにした. さらに念のため,周囲にもペーパータオルを敷いておいた.この作業は,すでに何回もやっていたので, 今回はほとんど周囲に垂らすことなく作業できた.流出が遅くなったら,ポンプのシャフトを手で回してやると, ポンプ内のフルードがさらに出てくるので,しばらく回してみる.そちらの流出がだいたい止まったら, リザーバタンクの切り離しにかかる.リザーバタンクは,前側1個,後ろ側2個のボルトで留まっているので, それを緩めて取り外す.(注:リザーバタンクとポンプを一体で交換する場合は,ボルトは緩めずに, ここでリザーバタンクについているリターンホースを抜くだけにしておく.リザーバタンクを取り外すと, 接続部のOリングも交換する必要が出てくる.)その次に,エアコントロールバルブを切り離すため,ユニオンボルトを緩める. 24mmのソケットレンチとスピンナーハンドルを使用.さらに,プレッシャーポートユニオンも, 後々,オーバーホールする時の利便のため,ここで緩めておいた.なお,中古ポンプを取ってきた場合, エアコントロールバルブの部分まで付けて取ってくることが多いと思われるが, その場合はここでエアコントロールバルブを取り外す必要はなく,エアコントロールバルブについているエアホースを切り離すだけでよい. 今回の場合,エアコントロールバルブが昨年,交換したばかりの新しいものであったため,中古品ではなく, こちらをそのまま使いたい,ということで,ここでポンプから切り離しておいたのである.

あとはポンプとブラケットを固定しているボルトを順番に外していくだけである. トータルで前側に4本,側面に1本だが,向かって左下奥のボルトが,かなり見えにくくて手の届きにくい場所にあるので, ちょっと苦労した.3/8のラチェットハンドルと短いエクステンション,14mmのソケットコマを使用して取り外した. ボルトを全部,外せば,ポンプASSY全体を取り外すことができる.

ただし,これは修理書に記載の方法であり,実際にはブラケットとポンプの間のボルト2本だけを抜き, ブラケットを車体側に残したままで,ポンプだけを取り外すようにしたほうが作業が簡単でよいと思われる. (下にも書いているが,車から降ろした状態でポンプをブラケットに取り付けるのは,かなり手間がかかる.)

取り外したポンプと,オーバーホール済みポンプ
取り付けは,取り外しの逆の作業となる.ただ,ブラケットがきつくて,ポンプがなかなかブラケットに取り付けられない. もしかするとポンプハウジングのガスケットが新しくて,まだ十分につぶれていないからかと思って, ハウジングのボルトをしっかり締め直したのだが,それでも入ってくれない.しょうがないので最後はハンマーで叩き込んで, やっとポンプがブラケットにはまった.ブラケットとの固定ボルトはかなり長いのだが, 中古ポンプを外してきた時に,このボルトがかなり汚れているのが気になったので,今回は新品を使用してみた. それが終わったら,次にリザーバタンクを取り付けた(写真右).

そして,これをエンジンに固定するわけである.例によって,前から見て左下奥のボルトが,なかなか手が届きにくくて締めにくい. このブラケットを固定するボルトは,前に2本,横に1本あるのだが,前側の2本は,今回は新品を用意した. 横の1本は,品番がよくわからなかったので(品番検索システムの画面だと,どれが該当するボルトか,よくわからない), 今回はブレークリーンで洗浄しただけで再使用している.これらのボルトは二面幅14mm(呼び径10mm)でかなり太いので, 劣化して折れるということはまずなさそうであり,事故でもない限り普通は交換しなくてもよいのだろうけれど, まぁ,気分の問題である.

ポンプがエンジンにしっかり取り付けられたら,プレッシャーポートユニオンの本締めと,エアコントロールバルブの取り付け, そしてプレッシャーフィードチューブの取り付けを行った.エアコントロールバルブを取り付ける際に, ユニオンの両側のガスケットに,今回は両側のガスケットが「コ」の字形につながったタイプをつかったのだが, そうするとユニオンボルトを締めつけた時に,外側のガスケットがユニオンボルトと一緒に回転してしまい, 両側のガスケットをつなぐ部分がねじれてしまった.前回,このタイプを取り付けた時にはこんなことは起きなかったのだが・・・. やはり,両側のガスケットが別々になっているものの方がよいのかもしれない.値段は,つながっているものの方が安いのだけど (つながっているものは150円,別々だと1個が110円で計220円).

(後で考えると,ここでパワステフルードを入れて手でプーリーを回し,ポンプ内部だけでもエア抜きしておくとよかった.)

最後にプーリーの取り付けをして,補機ベルトを元通りにかける.1JZはオートテンショナーだから, ベルトは掛けるだけでよく,張り調整は必要ない.プーリーの取り付け時に,プーリーがなかなかうまく奥まではまらず, 少し焦ったが,いろいろ取り付ける角度を変えていったところ,スコンと入ったので,そこでナットを締めつけた. 緩める時と違って,どこまで締めたらいいのかがわからないのがちょっと不安だったが,とりあえずめいっぱい締めつけておいた (ゴムバンド式のプーリー回り止めを用いているので,無茶苦茶に締めつけすぎ,ということはないと思う・・・). あと,バッテリーを戻して,これで全ての取り付けが完了したので,リザーバータンクにパワステフルードを満たし, いよいよエンジンを始動する.始動すると,最初はポンプ内部が空なので変な音がして,しばらくすると音が止まるのだが, それからもう少しするとまた異音がし出した.エンジンを止めて見てみると,リザーバータンクが空っぽになっている. どうもポンプ内部の容量が思ったより大きく,リザーバータンク内部の容量では足りなかったらしい. やっぱり前もって(ベルトを掛ける前に)パワステフルードを入れて,手回しで内部にフルードを満たしておけばよかった, と少し後悔.気を取り直してフルードを追加してみると,ちょっと泡立っている.泡立ちが落ち着くまで待って, もう一度,エンジンをかける.今度は,特に変な音はしない.しばらくエンジンを回してから止め, フルードレベルの確認.少し低めだったので,ちょっと多めに足してみた.さらにエンジンをかけて,しばらくしてから止め, 最終のフルードレベル確認をしたら,ちょっと多すぎた.まぁ,あふれなければいいか,と思って,そのままにしてある. というわけで,これで無事に全ての作業が完了した. (作業日:2002年7月23日)

結果

ちゃんと動作するポンプなら,交換によりふだんの運転には何の支障もない状態になるが, 特に今回はオーバーホール済みのポンプと交換した,ということで,全体的にパワステの作用が向上し, 特に据え切り時のハンドルの軽さは,これまでで最高のようである.これが新車時のハンドリングなのだろうか. とりあえず故障は直ったし,ハンドルはこれまで以上に軽くなったし,まぁ,万々歳といえるだろう.
今回の作業の難易度だが,プーリーの脱着に専用工具が必要になるのと,パワステフルードがいったん全部抜けるので, そのあとにエア抜き作業が必要になる,といったあたりに少し経験が必要だが,内部のオーバーホールをしなければ, そんなに難易度は高くなく,中級者レベルの作業と思われた.ポンプの油漏れ,異音が発生していて, 中古ポンプを手に入れられる環境なら,試みてみてもいいのではないだろうか.

公開開始日:2002年7月31日
最終更新日:2003年3月12日


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