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その二、もとをたづねて末を見ればこそことはゆゑあれ
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【本文】 |
親たち「いとあやしく、さま異(こと)におはすることぞ」と思しけれど、「思(おぼ)
しとりたることぞあらむや、あやしきことぞ。思(おも)ひて聞ゆることは、深くさいら
へたまへば、いとぞかしこきや」と、これをもいとはづかしと思したり。「さはありと
も音聞きあやしや。人は、みめをかしきことをこそ好むなれ。むくつけげなるかは虫を
興(きよう)ずなると、世の人の聞かむもいとあやし」と聞えたまへば、「苦しからず。
よろづのこと、もとをたづねて末を見ればこそ、ことはゆゑあれ。いとをさなきことな
り。かは虫の蝶とはなるなり」そのさまのなりいづるを、とりいでて見せたまへり。
「きぬとて人の着るも、蚕のまだ羽つかぬにしいだし、蝶になりぬれば、いともそでに、
あだになりぬるをや」とのたまふに、言ひ返すべうもあらず、あさまし。
さすがに、親たちにもさしむかひたまはず。「鬼と女とは人に見えぬぞ良き」と案じ
たまへり。母屋(もや)の簾(すだれ)をすこし巻きあげて、几帳(きちやう)そえて立てて、
かくさかしく言ひいだしたまふなりけり。
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【現代語訳】 |
親たちは、
「なんと異常にも人と違っておられることか」
と思われるのですが、
「お悟りになっていることがあるのだろうか、疑わしいものだ。と思って申し上げよう
にも、もっともなお答えをなさるのでとても申し上げにくい」
と、これもまたなんとも恥ずかしく思われるのでした。
「とは言っても外聞が悪い。人は見た目の良いものを好むものだ。どう見ても気色の悪
い毛虫を相手に楽しんでいるなどと、世間の人に聞かれるのもみっともない」
と申し上げなさると、姫君は、
「差し支えありません。何事も、元をつきつめてから結果を見てこそ物事の本質が分か
るのです。初歩的なことです。毛虫が蝶になるのですよ」
と言われて、それが羽化するところを取り出してお見せになりました。
「人の着る絹も、蚕がまだ羽も着かないうちに作り出すのです。蝶になったら糸作りも
できなくなって役立たずになってしまうのに」
と言われるのに親たちは言い返すこともできず、情けない。
さすがに親たちにも直接お顔をお見せになりませんでした。
「鬼と女は人に見えないほうがよいのです」
↓つづく
と気遣っておられました。
母屋の簾を少し巻き上げて、添え立てた几帳の向こうから、こう得意げにおっしゃるの
でした。
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