その四、かは虫は毛などはをかしげなれど
 
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【本文】
 この虫どもとらふる童(わらは)べには、をかしきもの、かれが欲しがるものをたまへ
ば、さまざまにおそろしげなる虫どもをとりあつめてたてまつる。「かは虫は、毛など
はをかしげなれど、おぼえねばさうざうし」とて、いぼじり、かたつぶりなどをとりあ
つめて、歌ひののしらせて聞かせたまひて、われも声をうちあげて、「かたつぶりの、
つのの、あらそふや、なぞ」といふことをうち誦(ずん)じたまふ。「童べの名は、例の
やうなるはわびし」とて、虫の名をなむつけたまひたりける。けらお、ひきまろ、いな
かたち、いなごまろ、あまびこなむ名とつけて召しつかひたまひける。
 
 
【現代語訳】
 このような虫を捕まえてくる子供達には、おもしろい物やその子が欲しがる物をお与
えになるので、子供達はさまざまに恐ろしそうな虫を採集して姫君にさしあげました。
そして姫君は、
「毛虫は、毛などは趣があって良いのだけれど、歌などが思いつかないから物足りない」
と言われて、子供達にかまきりやかたつむりなどを採集させて、大声で歌わせてお聞き
になりました。そしてご自分も声を上げて、
「かたつぶりの、角の、争うや、何ぞ」
というようなことをお詠いになりました。また、
「子供達の名前は、ありきたりでは面白くありません」
と言われて、虫の名前をお付けになりました。けらお、ひきまろ、いなかたち、いなご
まろ、あまびこ、などと名前を付けてお召し使いになりました。