落日・第二章 後編
支援者−1回
『支援者』
3月に入ると日差しも柔らかな春の装いを煌めかせている。厳しい冬を耐えた梅も 甘い香りを漂わせ、各地で梅花祭や梅祭りが催された。離れの方も基礎工事が終わ って棟が建ちあがり、今日の日曜日は上棟式で餅まきをする事になっている。餅ま き用の餅には50円硬貨、100円硬貨、中には500円硬貨を和紙に包んで捻っ てある。屋根に上棟式用の扇を竿に立て、近所の子供たちが大勢集まって始まるの を待っている。簡単な上棟式の儀礼が終ると大原さんや太田さんたちが屋根や梁に 登り、大勢の子供たちが周りを囲んだ。圭三夫婦や浩貴、奈緒子も子供たちから少 し離れて見ている。瑞希も浩貴の横で石田や清水と一緒に見ていた。大原さんが餅 をまくとそれを合図にみんなが餅をまき始めた。集まっていた子供たちは我先に群 がり、中には帽子で受ける子供、野球用のグローブで受ける子供もいる。
瑞希は大原さんの子供の希ちゃんを見ていた。希ちゃんは弟の翔ちゃんや太田さん の子供たちと楽しそうに餅を拾っている。餅まきが終ると子供たちは拾った餅を見 せ合い、大きな歓声を上げている子供もいる。 「希ちゃん、いっぱい拾えた ?」瑞希が声を掛けると嬉しそうに頷き、両手に5、 6個の餅を持ってかざした。餅まきが終わると近所の子供たちは帰り、大原さん、 太田さんの子供たちは拾った餅を見せ合いながら楽しそうな笑い声を上げている。 上棟式が終ると本宅の方に祝い膳を用意した。お酒の用意もしていたがみんなは車 で来ているからと遠慮したため、持って帰ってもらう事にした。 「ありがとうございました」瑞希と浩貴がお礼を言って1人ずつに祝儀を渡した。 その後、祝い膳を囲んで食事が始まった。大原工務店、太田工務店の10人以外に 大原さんと太田さんの子供たち、太田さんの奥さんで大原さんの妹の智美さんも来 ていた。
圭三夫婦に瑞希と浩貴、奈緒子もみんなと一緒に祝い膳に手を伸ばした。瑞希は大 原さんの横に弟と一緒に座っている希ちゃんを見ていた。大原さんが何か言うと笑 いながら頷き、隣の弟と笑いながら食べている。希ちゃんが魚を見て何かいうと大 原さんが鯛の身を解してやっている。 弟がポケットから餅を出して何か言うと希ちゃんが頷いて和紙を捲り、びっくりし た顔で大原さんを見て太田さんの子供に声を掛けた。4人の子供は笑いながらポケ ットから餅を出すと忙しそうに和紙を捲った。わ〜っ、やった〜、4人は和紙を捲 る度に歓声を上げた。 「一之宮さん・・・」大原さんが子供たちが開いた餅を見て浩貴の顔を見た。 「えぇ、縁起物ですから」浩貴は大原さんに頷き、子供たちの嬉しそうな顔を見る と瑞希に頷いた。子供たちは和紙に包んだ餅に硬貨が入っているのを初めて知った ようだ。
希ちゃんが全ての餅を開けると金額を数えている。弟の金額も数えて自分の分を何 枚か分けてやると、弟は嬉しそうな顔で希ちゃんを見た。 「お姉ちゃん、お兄ちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう」希ちゃん が圭三夫婦、浩貴と奈緒子、瑞希に嬉しそうに言うと、他の子供たちもありがとう と言ってニコニコしている。 「希ちゃん、幾つ拾ったん?」瑞希が声を掛けた。 「の〜のが5つで翔が3つだよ。の〜のが拾ったのには500円が有ったよ。ほん でね、翔と半分ずつにしたんだよ」希ちゃんは瑞希の顔を見ながら嬉しそうに笑っ た。瑞希が頷きながら浩貴を見ると、浩貴も嬉しそうな顔で希ちゃんを見ている。 「姉さん、まるで僕らが子供だった頃みたいやね」浩貴が小さな声で話した。 「うん、うちも前に見た時そう思ったわ。希ちゃん、弟が可愛くて仕方ないみたい やろ」瑞希も笑いながら話した。
「希ちゃんって子の笑顔、前に姉さんが、吸い込まれそうな感覚になったって言っ てたけど、ほんまにそんな感じやな。赤ちゃんの笑顔は天使の笑顔っていうけど、 希ちゃんの笑顔は何と表現したらいいんやろなぁ」浩貴も希ちゃんの笑顔の虜にな りそうな感じだ。瑞希が希ちゃんを手招きすると、大原さんと弟に何か言って瑞希 と奈緒子の間に座った。 「どう、いっぱい食べた?」瑞希が聞くと希ちゃんは笑いながら頷き、奈緒子の手 を握ってじっと見ている。奈緒子も笑いながら希ちゃんの手を握っている。 「お姉ちゃん、赤ちゃんが生まれるん?」希ちゃんが奈緒子の手を握ったまま嬉し そうな顔で言った。希、大原さんがびっくりして希ちゃんを呼んだ。奈緒子もびっ くりした顔で希ちゃんを見ると、瑞希を、浩貴を、圭三夫婦を見て頷いた。奈緒子 が頷いたので圭三夫婦、瑞希と浩貴も驚いた。
「何で分かったん?昨日病院で診てもらったばっかりで誰にも言ってないのに。今 日は吉日やから後でみんなに報告しようと思ってたんよ」奈緒子は希ちゃんに言っ てみんなを見渡した。 「奈緒子、ほんまか?ほんまに子供が出来たんか」瑞希が聞くと、奈緒子は嬉しそ うに頷いて浩貴の手を握った。 「おめでとうございます」大原さんが言って手を叩くと、太田さんを始めみんなが おめでとうございます、と言いながら拍手が沸いた。奈緒子と浩貴はありがとうご ざいますとお礼を言った。 瑞希は清水が言っていた、希ちゃんって子不思議な能力が有るみたいですよ。と言 った言葉を思い出し、誰も知らなかった奈緒子の妊娠を手を握っただけで言い当て た能力に驚いた。瑞希だけじゃなく浩貴も奈緒子も、今、この場に居る全員がそう 思っているに違いない。いや、大原さんや太田さんたちは知っているのだろう。
大原さんたちだけじゃなく大阪の有希さんが勤めていた美容院の人たち、新地のお 姉さんたちの間でも有名らしいです、と清水は言っていた。 「どうもすいません。突然変な事を言ってしまって」大原さんが申し訳なさそうに 言って希ちゃんを見ると、希ちゃんは奈緒子の手を握ったまま大原さんに笑顔を見 せている。圭三夫婦も希ちゃんの言った事に驚きながらも奈緒子の妊娠を大いに喜 んでいる。 「いやはや、今日は大安吉日で棟上げばかりか、奈緒子に赤ちゃんが出来て、こん なに目出度い事はない」圭爺は今にも踊りださんばかりの喜びようだ。 瑞希はこんなに嬉しそうにしている圭爺を初めて見たと思った。滅多にはしゃがな い圭爺が、まるで子供のように喜んでいる。瑞希は圭爺の喜ぶ姿とみんなの笑い声 を聞きながら、この平和な時間が永遠に続いてほしいと思った。
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