イレギュラーチルドレン


町の中心部には大きな教会があった。

他の民家と比べると、その大きさは比較できないほどの物だ。

この町のシンボル、とでも言うべき物だろうか? どうしても目を引かれる建物だった。

宿にチェックインした後、二人は刀剣屋を探しに繁華街へと向かったのだが、

なんとなくこの教会の前に足を運んできていた。

「すごいですね。こんな大きな教会があるんですね。」

「この教会の造りはマリア神教か。あまり良い感じはしないな。」

「マリア神教・・・マリアヴェールを神と崇める宗教でしたっけ?」

「おかしな話だ。マリアヴェールは『神』なんかじゃない。こんなちっぽけな人間なのに。」

「でも、アリアさんは人を救う力を持っているじゃないですか。僕にもあんな力があれば・・・。」

「力か。なぜ、私だったのかな・・・?」

「えっ?」

「・・・。」

なんとなく言葉の意味が分からずに首を傾げているアルベルトに対し、アリアは目を閉じうつむいている。

アリアが黙ってしまった為、アルベルトも声をかけられず沈黙してしまった。


しばらくの静寂。

止まった時が動き出すように、教会の方から声が響いてきた。


「おい、なんか言ってみろよ。」

「お前とグループにされるといつも終わるのが遅いんだよ。」

「そうそう、のろまと一緒に組まされるのはうんざりだ。」

聞こえてくるのは数人の子どもの声。どこかもめている様な感じだ。

反射的にアルベルトは声のする方へと走り出していた。

もめているのは声を聞いただけで分かる。

だが、次々と浴びせられる声に対して、それに反論する声は聞こえない。


それはつまり・・・。


一方、アリアはもめ事はごめんだと言わんばかりのため息をつき、ゆっくりと歩き出した。


「早くしろよ!」

「俺達はもう終わってんだからさぁ。」


・・・。


どうやら子ども達はバケツに水を汲んで運んでいるようだった。

5、6人ほどが一緒になって運んでいるようにも見えるが、実際に運んでいるのは一人だけだ。

その子どもの年齢は10歳程度の女の子。

その体にはかなり辛いと思われる大きなバケツに溢れんばかりの水を入れ、ヨロヨロと体を揺らしている。

あっと思う一瞬、何かに足を取られたか、それとも自分の足につまづいたのか、女の子は前のめりに転んでしまった。

運んでいたバケツの水は勢いよく放り出され、雪の地面へと流れてしまった。

倒れていた女の子はしばらく動かずにいたが、力なくヨロヨロと起き上がった。

息を切らせ、肩を上下させている様子を見る限り、かなりの疲れを物語っている。

だが、周囲の子ども達にはそのような事は関係なかった。

その女の子の失敗に対し、怒りと不満が爆発した。

「ふざけんなよ! また時間内に終わらなかったじゃん!」

「そうだよ、お前につき合わされるこっちの身にもなってみろよ!!」


ブンッ!!

ヒュッ!!


「・・・!!」


言葉だけではなかった。

手に持っていたバケツを次々と投げつけた子ども達は、続けて小石を拾って投げつけ始めた。

女の子は声も上げず、頭を抱えてただ黙って耐えている。

どんな理由があるにしろ、ここまでくると子どもとは言え、度の過ぎた行動だ。

息を切らせながら駆けつけたアルベルトは、怒りの形相を浮かべて子ども達に突進した。

その表情は、普段の気の弱い彼からは想像出来なかった。

「お前達! やめな・・・」

腕をブンブン振り回しながら止めに入ったアルベルトだったが、教会の中から出てきた老人が、スッと子どもたちの間に入った。

「おやめなさい。あなた達はジーナさんを傷つけるつもりですか?」

ゆったりとした口調のその老人の言葉に、怒気はまるで含まれていなかった。

にもかかわらず、これまで石を投げつけていた子ども達は一斉にしゅんとなり、ゆっくりと教会の中に入っていった。

肩透かしを食らったのはアルベルトである。

あっさりと終了したその場の状況に、急に対応する事が出来なかった。

ブレーキをかけようと急に立ち止まろうとした足がもつれ合い、自分で自分につまづいた挙句に見事な顔面ヘッドスライディングを披露した。

老人と少女は突然の侵入者に驚いたが、少女は老人の後ろに隠れ、老人はアルベルトに手を差し伸べてきた。

「イタタタタタ・・・・。」

赤くなった鼻をさすりながら顔を上げたその前に、手が差し伸べられているのに気が付いた。

「あっ・・・すみません。」

その手を握り起き上がったアルベルトは、赤くなっていた鼻以上に顔全体を赤くしながら頭をかいた。

「旅の方ですね? ありがとうございます。子ども達を止めようとしてくれたのですね。」

優しいその言葉を聞いて、アルベルトは先程の自分の姿を思い出して更に恥ずかしくなった。

「あっ、いえ、とんでもないです。僕は結局何もしてませんから。ははっ・・・。」

「いえ、あなたのその気持ちは大切ですよ。世界の心が病んでいる今だからこそ、人を思いやる気持ちが必要なんです。」

「はい、僕もそう思います。」

にっこりと微笑んだ老人に釣られて、アルベルトも笑い返した。

二人のそんな会話を、老人に後ろから顔を半分だけ出して少女が見ている。

落ち着いたその状況を見計らってか、アリアもやって来た。

「旅の方々、申し送れました。私はこの教会の神父でウイッツと言います。そしてこの子はジーナ。この教会で暮らしている子の一人です。

ウイッツと名乗った神父は、ジーナという少女の頭にポンと手を置いた。

「僕はアルベルトといいます。この方はアリアさん。アリアさんはマ・・・」


ガスッ!!


不意に受けた脳天への衝撃に、アルベルトは目から火花が飛び散りそうになった。

頭をさすりながらアリアの方を見ると、一瞬冷たい視線を向けて何も無かったように向き直った。

(し、しまった・・・!!)

自分の言おうとしていた言葉を思い出して、アルベルトは血の気が引いてくるのが分かった。

(アリアさんはマリアヴェールの力を受け継いだ人なんですよ。)

そんな事を他人にしゃべろうものなら、下手をすれば殺されていたかもしれない。

固まってしまったアルベルトをよそに、ウイッツ神父はアリアの耳の十字架に気が付いたようだった

「アリアさんでしたね。 あなたのその十字架は教会のシスターでもやっておられるのですか?」

アリアにとって、この質問は一番聞かれたくないものだった。

それでも無視する訳にはいかず、一言だけ返答した。

「そんなところです。あまり気にしないでもらいたい。」

本当にただそれだけで、なんともそっけない答えだった。

「何か分けありですかな、ならばお聞きするのはよしましょう。」

「すまない・・・。」

「ですが、ここでの出会いも何かの縁。もしよろしければ今夜一晩でもこの教会でお泊りになられて、旅のお話を子ども達に聞かせてあげてはくれませんか?

 ここで暮らしている子ども達は、外の世界の事をほとんど知らないのです。」

「あいにくだが、私達はすでに宿を取っている。悪いがその話は受けられない。」

「僕が来てもいいですか?」

アルベルトが割り込むように話に加わった。

「確かに宿は取ってしまいましたけど、寝る前なら時間あるじゃないですか。

 買い物が済んだら僕だけでももう一度ここに来ていいですか? アリアさん。」

普段のアルベルトにしては積極的な行動だった。

アリアにしては、その言葉は意外だったかもしれない。

「勝手にすればいい。私は来るつもりは無い。」

彼女にはあまり関係ない事だった。

自分に害が及ばなければ、アルベルトがどうしようと関係なかったからだ。

アリアの少し冷たい反応、それでもアルベルトは嬉しかった。

力で力に対抗するやり方ではなく、人の役に立つ事が出来そうだったからだ。

それを聞いていたウイッツも嬉しそうに笑った。

「唐突なお願いでしたが、子ども達も喜びます。ほら、ジーナ。あなたからもお礼を言って下さい。」

「・・・。」

じっとウイッツの後ろにくっついていた少女ジーナは、ほんの少しだけ頭を下げた。

見知らぬ人間の来訪に、まだどこと無く緊張しているようだった。

「この子は小さい頃から口が利けません。こんな小さなお辞儀でも、許してあげて下さいね。」

「許すだなんて、僕は全然構いませんよ。よろしくね、ジーナちゃん。」

膝を曲げ、ジーナの目線で挨拶をするアルベルト。しかし、ジーナはウイッツの後ろにまた隠れてしまった。

一方、アリアはウイッツの話を聞いた時から険しい表情をしていた。

「神父、少し話がしたいがよろしいか?」

「ええ、構いませんが・・・。」

「ジーナ、あなたは少しアルベルトと一緒にいてくれるかな?」

そう言った時のアリアの表情は、アルベルトも見た事が無いほどの優しい顔をしていた。

再び隠れるようにウイッツの後ろにいたジーナだったが、そのアリアに引き込まれるように頷いた。

少し離れた場所に移動すると、もう一度険しい表情でアリアがウイッツに話しかけた。

「神父、あなたはイレギュラーの話を聞いたことがおありか?」

ウイッツもその質問は予期していた事なのだろう、別段焦りも驚きもせず、静かに答える。

「あなたの言いたい事は分かります。もちろんイレギュラーの事は知っていますし、あの子の事も確かに心配です。」

「分かっているのなら話が早い。生まれつき言葉を話せないのであれば、あのようなストレスを溜めてただで済むはずが無い。

 すぐに別の教会に移すなり、いじめをやめさせるなりしなければ、覚醒してからでは手遅れになる。」

「分かっています、あなたの言う通りです。ですがあの子は両親を目の前で殺され、人を信じる事が出来なくなっているのです。

 ですが、長い時間をかけて少しづつだが私に心を開いてきてくれた。ここでまた独り孤独を与えるような事をすればそれこそ危険なのです。」

「ならばもっと子供たちを叱るべきだ。いじめさえなくなれば、精神が不安定になる事は無い。」

「それではこの世界に充満した病と変わりありません。私が暴力で子供たちを押さえつけてしまうのは、この狂った世界となんら変わりないのです。」

「あなたの言っている事は正しいが、事態が起きてからでは遅いのですよ?」

「あの子は優しい子です。のんびりした性格が他の子と合ってないだけで、いじめの対象になっているだけなんです。

 私は信じたい。あの子が勇気を出して仲間に入ろうとする事を。他の子が仲間に入れてあげようと考える事を・・・。」

それだけでは駄目なんだ。と、言いかけてアリアは言葉を飲み込んだ。

何故自分がここまで他人の事を気にするのかが分からなくなったからだ。

以前の自分なら、アルベルトに会うまでの自分ならこんな事は考えなかったはずだ。

アルベルトに会い、彼を殺さなかった時から何処か自分がおかしくなっている事に気が付いた。

何か、自分の中に自分が二人いるような感覚。

今もまた、ジーナを心配している自分と放って置けと考えている自分がいるような気がする。

それがどうしてなのか、アリアは自分で理解する事が出来なかった。

「ですが、不思議です。」

ウイッツの言葉に、アリアはふと我に返った。

「ジーナが私以外の人に心を開くのは初めてです。あのアルベルトと言う青年。そしてアリアさん、あなたにも。」

「アルベルトはともかく、私に心を開いたとは思えないが。」

アリアとウイッツ、二人は共にアルベルトとジーナのほうを向いて言った。

「そんなことはありません。私と離れてくれと頼んだ言葉を、ジーナはきちんと聞いてくれたではありませんか。」

「それはそうだが・・・。」

「あの時のあなたの顔、とても優しい表情をしていましたよ。」


ボッ!!


急に体が熱くなるのを感じた。

アリアは顔を真っ赤にして硬直している。

「あなたはそうしていた方が可愛らしい。機械的に感情を押し込める事で、自分の感情を殺しているように私は思える。

 喜びも、悲しみも、怒りも・・・素直に出した方があなたの為にもなると思いますよ。」

それだけ言ってウイッツは笑い出した。

硬直していたアリアは、その笑い声を聞いて自分を取り戻した。

自分の事から話を戻そうと、急に元の内容に切り換えた。

「ジーナの事は気をつけたほうがいい。あなたがどんなに心配し、信じていようと、可能性は無くならないのだから。」

「ええ、もしもの時は、私の命に代えてもあの子を救ってみます。」

それで話は終わった。

ウイッツがジーナとアルベルトを呼ぶと、二人は並んで駆け寄ってきた。

「話は終わったんですか?」

「ああ。」

真っ先に質問して来たのはアルベルトだ。

アリアの返事はいつもの通り、簡単なものだった。

「長い時間引き止めてしまって申し訳ありませんでした。アルベルト殿、ではお待ちしています。」

ウイッツは礼を言い、深くお辞儀をした。

ジーナはまたウイッツの後ろに隠れたが、二人の方に向いて手を振ってさようならをしている。

「じゃあしばらくしたらまた来ます。ジーナちゃんもまたね。」

アルベルトも少しおどけて見せ、手を振ってその場を離れた。

「行こう。」

「はい。」

アリアとアルベルトは、当初の目的であった刀剣屋へと向かうべく教会の敷地を後にした。

その途中、気になって仕方が無かったと言った感じで、アルベルトはアリアに質問した。

「神父様と何を話していたんですか?」

「アルは知っているだろう、イレギュラーの事を。」

「はい、紫の瞳を持つヒト。世間では暴走する者とも言われてますけど。」

「あのジーナという子、そのイレギュラーの可能性がある。」

「ええっ!! そんな、冗談ですよね!?」

アルベルトはアリアが冗談などを言う人間ではない事を知っていた。それでも聞かずにはいられなかった。

ほんの数分の会話。しかも自分から一方的に話しかけているだけだったが、妹が出来たような感じもしていたのだ。

自分と同じような境遇にいるジーナに、アルベルトはすでに少しだけ感情が入ってしまっていた。

「口が利けない事に、その可能性があるかもしれないと私が想像しただけだ。だが、可能性は低く無い。」

「そんな・・・。」

「別にイレギュラーだからと言って悪い事は無い。ただ、悪い方に事が進まなければいいが・・・。」

「・・・。」

アルベルト自身も、アリアが何を考えているかは分かった。



『イレギュラーの暴走』



それが何を意味するのか、アルベルトは良く知っていた。

二人の会話はそこで途切れてしまった。

ゆっくりと教会の門へと歩いていく。


キンッ


(・・・!!)

不意に頭に響いた音。

アリアにしか聞こえないその音。

一瞬だけだったが、確かに十字架が反応した。

アルベルトには聞こえない。だから、自分の気のせいだとも思える。

だが、この一瞬の出来事がアリアの中で嫌な不安となっていった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「重い・・・。」

生まれて初めて武器を、剣を手に持ったアルベルトはその重みを体で感じていた。

宿に旅の荷物を置き、街の中心にある教会へと足を運んだ後、二人は町の刀剣屋に来ていた。

支配に苦しむ町では反乱や抵抗を抑える為、武器の販売や供給などはされていない事が多い。

このアルカの町は市民が一体となって町を守っている為、自警団の結成と合わせて商売が行われていた。

小さな店ではあったが、それなりに質の良い剣がそろっている。

アリアは剣に関してそれほど目の利く人間ではなかったが、それでも十分だと思えるほどの剣は見つかった。

武器を選ぶ・・・これがもしアリアの買い物、等という事であれば、ちょっとしたデートと思えたかもしれない。

だが、アリアはあまりそのような事を考えていなかった。

そして、アルベルトは先程の教会での出来事が頭から離れなかった。

一方的にいじめられている少女。

その少女にパルメラでの自分を重ね、我を忘れて止めに入った。

だがその時、アリアは何もせずにただ見ているだけだった。

結局自分の取った行動は何も役に立たなかったが、何故アリアが何もしなかったのかが分からなかった。

マリアヴェールは民に救いをもたらす存在のはず、それは大小に関わらず皆平等に与えられるものではないのか?

ジーナに対して向けられた笑顔、あれは本当にアリアの笑顔なのだろうか?


・・・気になっているのはそれだけではない。

パルメラを出てまだ次の町だというのに、自分と同じような境遇に会っている人間に会うとは思わなかった。

その人間が『イレギュラー』なのかもしれないと言う事も・・・。


アルベルトは無知ではない。

確かに身体能力で言えば普通のガラの人間に比べ劣ってはいたが、その分知識や学力といった点ではかなり高い所にあった。

イレギュラーと呼ばれている『ヒト』の持つ力。

イレギュラーと呼ばれている『ヒト』が、その力の代償として失った物。

『人間』として生まれつき備わっている能力を封じられて生まれてくる事。


教会で出会ったジーナは『声』を失い、この世に生命を受けた。

それがイレギュラーの可能性を大きくしているとアリアは言った。

・・・ではアリアはどうなのだろうか?

わずか数日の間一緒に旅をしただけだが、特に不自由な所があるとは思えなかった。



『イレギュラー』



どれほど書物を読んだところで、どれほど人から話を聞いたところで、本当に理解できるのは本人達だけではないだろうか?

自分の進もうとしている道とアリアの進もうとしている道は、同じ・・・だろうか?


そんなアルベルトの思考を、アリアが現実に引き戻した。

「・・・ル、アル! 立ったままボーっとしてないで、どれが自分に合うか判断して。」

「えっ? あっ、あれ? ご、ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて・・・。」

「とにかく、決まったら私に言って。あまりのんびりしていると、教会の子ども達は寝てしまうかもしれない。」

「あっ、そうですね、分かりました。え〜っと・・・。」


最終的に、アルベルトは細くて小柄な剣を選んだ。

重くて長い物になると、今の自分には巧みに扱う事ができないという結論に至った訳だ。

ともかく、アルベルトは初めて武器を所持した。


「重い・・・。」


店に入って始めて剣を手にした時と同じ言葉を発していた。

なんとも弱々しい姿ではあるが、少しだけ男らしくなったように見えなくもなかった。

店を出ると、先程までは止んでいた雪がまた降り始めていた。

「今日はまた少し寒くなりそうだな。アル、あまり遅くならないようにな。」

「やっぱり・・・アリアさんは行かないんですか?」

「私は、人の前に出て話をするような人間ではないから・・・。」

「・・・そうですか。」

頭を振って拒否するアリアに、アルベルトはそれ以上何も言う事が出来なかった。

宿に向かって歩き出したアリアと、教会へと走り出すアルベルト。

十数歩進んだ所で、アルベルトが不意に後ろを向いて大きな声で叫んだ。

「アリアさ〜ん! アリアさんはもっと回りの人とふれ合った方がいいですよ〜!!

 僕はアリアさんが優しい人だって、もっとみんなに愛される人だって信じてますから〜!!!」

聞く人が聞いたらかなり赤面してしまうようなセリフ。

そんな事を少しも気にすることなく、アルベルトは大きな声でアリアに伝えると手を振って再び走り出した。

「あまり遅くならないうちに戻りま〜す!!」

冷気で澄んだ空気に、その声は暖かさを持って伝わった。

声の大きさに何事かと辺りを見渡す人々の中で、ただ一人、アリアは顔をほんのり赤く染めていた。