ラキティスとガラティス


男は当然の事ながら、その力を知らなかった。

ラキに生まれ、ラキに育ち、偶然見つけた青く輝く結晶。

宝石のように美しく輝くその青に、男は心を奪われた。

あまりにも美しいその色、その美しさがガラでは珍しく、高価な宝石として取り扱われるのではと男は思いついた。

生まれつきの冒険家だった男は、いつかガラに行って見たいと思っていた為、その決心の引き金になったのかもしれない。

青く輝く結晶を少しだけ持ち帰り、ガラへの船に乗った。

まだ見ぬ世界へ心躍らせていた男、まさかそこで世界の運命を変えるほどの事件が待っているとは知る由も無かった・・・。


ガラの大地は、ラキとは全く違う所だった。

行く舞も服を着込んで体を覆い、寒さに耐えてきたラキとは比べる余地も無い。

光が、熱が、その全てを飲み込んでいた。

初めて自然の熱さを感じた。

それに伴って汗をかいた。

これを不思議な感覚と言わなくて、何と表現すれば良いのだろう?

同じ星にありながら、こうも違うのだ。

ラキの生活に慣れた人間には、いや、元々が体の弱いラキの人間に、この急激な変化は辛かった。

光の眩しさと焼けるような気温に体が慣れるまで、港町でしばらく過ごした。

生まれて初めて体験するこの生活。

数日が過ぎた頃、男は持ってきた青の結晶をまだ見ていない事を思い出す。

宿舎へと戻り、月と闇の無い夜を迎え、傷の付かぬようしっかりと包んであった包装を開いた。


そこから全ては始まった。

部屋中を飲み込んだ闇と身の凍るような冷気。

慌てて結晶を包み直すが、その一連の異常事態は瞬く間に広まった。

宝石として売ろうと持ち込んだ青の結晶は、男の想像をはるかに超越した物だったのだ。

ラキで生きる人間の生活、全てを変えてしまう程に・・・。

そして、男がこの世の誰よりも富を得た事で、一つの時代の歴史を作る事になったのだ。


後に発見されたガラの赤い結晶。

ラキティスとガラティスと名付けられた青と赤。

その二つをめぐって人の欲と欲とがぶつかり合う。

その様子を、男は何を考え見つめていただろうか?

後悔・・・懺悔・・・それとも・・・自ら得た富を失わない為に戦ったのだろうか?

今から約300年前の世界では、ガラの人間がラキの人間との戦争に勝ち、全てを支配した。

だが、今は違う。

欲深き者、富を得ようとする者が世界でその力を振るっている。


ガラとラキ。


人は何故、当たり前の幸せでは満足出来ないのだろうか?

今も変わらず雪の降り続く町で、物語の幕が再び開く。