第二章 プリンセスガード




ぶすっ・・・。


ものすごく不機嫌そうな顔で少年は地面に座っていた。

その近くで元気にはしゃいでいる少女が一人。

シュナイダーとシャルロットである。

今から1週間前、オライオンの国を挙げて盛大に行われた武闘会。

その武闘会を勝ち上がり、惜しくも準優勝ではあったが見事に騎士団入隊を認められた。

シュナイダーに課せられた騎士団内の役職は通称、独立警備騎士『プリンセスガード』。

つまり、敵の侵入からオライオンの姫シャルロットを守ることを第一の任務とした騎士である。

プリンセスガードという響きはいい。

迫り来る侵入者や暗殺者から姫を守るナイトといった感じで、物凄くカッコいいはず。


だが。


今はまだ、どこの国からも攻撃される事は無いし、戦争だって本当におきるか分からない。

つまる所、プリンセスガードとは名ばかりでシャルロット姫の『お守り』なのだ。

実際、戦争が始まったとしてもこの城に進入される事なんてあるのだろうか?

その前に騎士長の率いる部隊が勝利してしまうに違いない。

なんと言っても大陸最強の騎士団イオなのだから。

気が付くと少し遠くに離れたシャルロットを追って、シュナイダーはゆっくりと腰を上げた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



一週間前にさかのぼる。

シュナイダーがシャルロットの御付の二人をコテンパンにしてしまったあの日。

オライオン王、レオ三世によって正式に騎士として任命された。

その場はそのまま幕引きとなり、シュナイダーとキースは共に自宅への帰路に着いた。

興奮した状態のまま二人は語り合う。

「まさか二人そろって騎士になれるとは思わなかったな。」

「ああ、僕もそう思ったよ。武闘会で優勝した奴だけが入隊出来ると思ってた。」

「そうだよな。でもよく考えたらさ、俺達って結構すごいんじゃねぇの?」

「まぁ、あの人数の中から選ばれたんだから自信は持ってもいいんじゃないかな。」

実際、騎士として認められた人間はシュナイダー達を合わせて十五人。

剣士として入隊した人間は八人、槍兵が五人、弓兵が二人だった。

今回の騎士任命は例年に比べると多めである。

それはロークシャーが軍を強化しているという情報が少なからずレオの耳にも届いていたからなのだが。

ともかく、それら全員が今回入隊することになった。

正式には明日発表になるという事で今日は解散となったのだ。

「でもさ、俺達ってどの部隊に配属されるんだろうな?」

「あ、それは僕も気になる。今ある部隊って確か4つの部隊に分かれてるんだったっけ・・・。」




――――騎士団イオには大きく分けて4つの部隊がある――――


1つは騎士団総隊長が指揮する『騎馬剣士部隊』。

大陸最強の噂が広まったのは、何よりもこの部隊の力が大きい。

オライオンの国は広大な草原地帯に囲まれている。

豪雨でも降らない限り、馬を走らせるのには最も有効な土地であった。

それを頭に入れた初代国王レオ一世は、軍を編成するにあたって騎馬隊に最も力を入れたのである。

大きく開けた大地を駆ける騎馬隊の機動力は凄まじく、オライオンに攻め込もうとする国にとってはその力は脅威であった。

もちろん、集団としての力だけではなく個人の剣技も並ではない。


2つ目は騎士団副隊長が率いる『騎馬槍兵部隊』である。

部隊の戦法を主に任され、敵部隊にまず突撃する。

その混乱に乗じて剣士部隊が突入するのがイオの基本戦術であった。

事実、その突撃力だけを取れば剣士部隊すらもはるかに凌駕しているのである。


3つ目は『騎馬弓兵部隊』である。

普通、弓兵は戦場の真っ只中には突入せず、味方の背後や物陰等から攻撃するのが普通である。

だがオライオンの弓兵部隊は戦場を駆け巡りその力を振るう。

常識を覆す強さ、それがオライオンの弓騎士なのだ。


最後の4つ目は城を守るのが主な仕事の『守備歩兵隊』になる。

この部隊は特に決まった武器を持たない。剣、槍、弓、斧、鎚、ましてや鎖鉄球を振り回す者もいた。

戦争が始まると彼らは国の要所要所に配置され、その業務を果たす。

城の守備に始まり、国民の避難誘導中の退路の確保や時間稼ぎ、敵兵の監視なども任されていた。

現在は騎馬部隊の活躍が多くあまり目立つ場面を見ないが、戦いががっぷり四つに組んだ場合には満を持して出陣する。

オライオンの切り札的な存在ではあるのだが・・・。

ネルソンが騎士長になって以来城まで攻め込まれたことが一度も無い為、近頃は限りなく影が薄い。


この4部隊によって騎士団イオは構成されている。

そのそれぞれの部隊の指揮下に傭兵や一般兵、志願兵などが所属し、『軍』になるのだ。


シュナイダーとキースの希望は、もちろん第一部隊に入隊することだった。

「王様の御墨付きがもらえたんだぜ! やっぱ騎士になったからには第一部隊がいいよな。」

「うん、その為に小さい頃から剣の練習をしてた訳だし。」

「城の守りなんてやっててもな〜、活躍する場が無いよな。」

「うんうん。」

二人の話は続く。

と、突然背後から声がした。

「言いたい放題言ってくれるじゃねぇか。そんなに城の守備は地味ですかい?」

「!?」

あまりにも突然声がした為に二人は跳びあがった。

恐る恐る後ろを振り向くと、身長2メートルはあるかという巨漢の男が笑みを浮かべて立っていた。

「城を守ることはそんなにかっこ悪いのかね? お二人さん。」

「あっ、い、いえ。そんなことは言ってません。断じて言ってません。」

あからさまに不自然な応答でキースが答える。

「そ、そうですよ。第一、城の守りが完璧だから騎馬隊が安心して出撃出来るんじゃないですか。」

シュナイダーが慌てて付け足す。

「ほぉ、さっきキミ達は城の守りは活躍できない、第一部隊に入りたいって行ってたよ〜な気がするんだが?」

巨漢の男は腰を曲げてキースに顔を近づける。

笑ってはいるが、心の奥では確実に笑っていないという事が見て取れる。

だらだらと冷や汗をかきながら、出来る限り冷静にキースが答えた。

「嫌だなぁ、いざというときに命をかけて城を守る。立派じゃないですか。」

「そうそう。カッコイイナ〜第四部隊。僕もぜひ入隊したいな〜。」

キースをかばう様にシュナイダーが横から口を挟む。

「・・・。」

男はシュナイダーの言葉を聞いて何かを考え込んでいる。

「お前もそう思うだろ? キース。 いいよなぁ?」

「ああ、そうだな。第四部隊、万歳だ!!」

キースの言葉を聞いて男は「ポン」と手を打った。

「・・・その言葉、しかと聞いたぞ。少年達よ精進しろよ! がっはっはっ・・・。」

男はそう言うと大声で笑いながら去っていった。

その姿を呆然と見送って、シュナイダーがしゃべり出した。

「何だったんだろ、今の人? キース、見たことあるか?」

「俺が知るわけ無いだろ、でもびっくりしたぜ。いきなり話しかけて来るんだもんな。」

「余計な事を言ったら殺されるんじゃないかと思ったよ。」

「ああ、あの身長にあの筋肉。まさか騎士の一人だったりしてな。」

二人は突然の事に驚きつつも、興奮した面持ちのまま互いの家に帰って行った。

シュナイダーは家に着いてすぐ、母に武闘会と城での出来事。

なにより騎士になれた事を嬉しそうに話した。

興奮して話す我が子の姿を温かく見守りながら、シュナイダーの母はただ一言。

「よかったわね。がんばりなさい。」

とだけ答えた。

その表情にはどこか戸惑いの様子が含まれていたが、シュナイダーは気が付かなかった。


・・・彼女の見せたその表情には訳がある。

彼女の夫、すなわち、シュナイダーの父親は戦争によって命を落としたのだ。

騎士団イオが大陸最強と呼ばれる以前。

オライオンの宿敵でもあるロークシャーとの大規模な戦争があった。

シュナイダーの父はその戦争に志願兵として参加したのだ。

彼は素晴らしい剣の才能を持ってはいたが、争いの嫌いな人間だった。

しかし、国と家族を守る為に戦場に出かけたのだ。

そこに待ち受ける自らの運命、死の運命を知らずに。

それ故、シュナイダーの母は兵士の道を歩ませるつもりは無かった。

たった一人の我が子を危険にさらしたくないと思うのは母として当然の事だ。

それにもう一つ、剣の腕が立つとはいえシュナイダーはまだ16。

人の命を預かるということの重大さを、はたして理解しているだろうか?

兵士として戦場に出る事は、人の命を守るだけではなく、人の命を奪うこともあるのだと。

騎士団の事をただの英雄(ヒーロー)としてしか見ていないのではないか?




そんな状態でもし、敵兵を殺すことがあれば・・・。




出来ることなら平凡な暮らしを続けてもらいたかった。

大人として一人前になるまでは、そばにいてあげたかった。

しかし、我が子は自分の道を切り開き、自分の足で進みだした。

もう、止めても無駄なのだ。

全てを話し終えた息子に対し、もう一度だけ「がんばりなさい」と答えた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




次の日、太陽の日差しが眩しく暖かな光を放つ頃。

昨日の大会で好成績を挙げ、騎士の資格を得た者たちが城に集結した。

どの人間もその目には希望が満ち、今後の騎士としての自分の姿を想像しているようであった。

国王、レオV世の名の下に行われた任命式は、細々と、しかし堂々たる式であった。

新たに騎士となった者には騎士の証である勲章が渡され、正式に騎士となったことを証明された。

式の後、彼らは兵舎に移動し現騎士団との顔合わせとなった。

「くぅ〜〜〜。なんかこうやる気に満ちてきたぜ。お前はどうだシュナイダー?」

キースが喜びにあふれた表情でシュナイダーに問いを投げかける。

「お前は声がでかいんだよ、もっと小さな声でしゃべれ。」

キースのあまりの声の大きさに、他の人間はいっせいにこちらを向いた。

それがシュナイダーには恥ずかしかったのだが、キースは気にせずに話しかけてくる。

「お前は盛り上がりに欠けるなぁ。いいじゃねえか、この人達とは同期入隊なんだ。ちょっと位の事は気にしなくたってよ。」

「はぁ・・・。」

シュナイダーはため息を吐いた。

キースの性格は嫌なくらい知っている。

何より大雑把で自由気ままな性格。

よく考えたらこいつって騎士団の規律を守って行動できるのかな?

ああ、頼むからこっちにとばっちりが来るような事だけはやめて欲しい。

頭の中に浮かんでくる嫌な想像に、シュナイダーは頭をかいた。




しばらくして部屋の扉が開き、数人が入ってきた。

一瞬にして重苦しい雰囲気と緊張感が高まる。

ほぼ全ての人間が姿勢を正し、気を付けの姿勢をした。していないのは・・・キースだけ。

シュナイダーもビシッと姿勢を正した。

部屋に入ってきたのは全部で4人。

30後半ぐらいの年齢の顔だが、鋭い視線でシュナイダー達を見つめる男。

その後ろにつき、何か書類を持っている物腰の柔らかそうな男。

無表情で、そこに姿がなければ一切気配を感じない男。

そして・・・。

最後に入ってきた男を見てシュナイダーとキースは声を上げた。

「げっ!?」

「昨日の!?」

そう、昨夜の城からの帰宅途中、二人に絡んできたあの大柄な男である。

二人の発したその声を聞いて、男はにやりと笑った。


(嫌な予感がする。)


とっさにシュナイダーは考えた。昨日の自分たちのセリフを思い出したのだ。

まさか騎士団の人間だとは思わなかった。

シュナイダー達の様な一般市民は、城に行くことはあまりない。

一般人にも解放されているのだが、重苦しい雰囲気は息が詰まってしまうのだ。

国の英雄と言われている騎士団も、騎士長である最初に入ってきた男。

『ネルソン=グローリー』の姿しか知らなかったのである。

同じようにキースも昨日のことを思い出していた。


(まずいぞ、昨日あんな事言わなければよかった!)


二人の予感は見事的中した。

副騎士団長フォルからまず挨拶があった。

そして4人の自己紹介を含む部隊の紹介。


『騎士団長、ネルソン=グローリー』の第一部隊


『副騎士団長、フォル=グローリー』の第二部隊


『弓騎士団長、イリアス=フリード』の第三部隊


そして最後に大柄の男 『守備隊長、ジャン=ジャスティ』の第四部隊


副長フォルの持っていた書類は、新入団メンバーへの部隊配属の書類だった。

手渡されたその書類を見て、シュナイダーとキースはガクッと肩を落とした。



『第四部隊への配属を任命する。』



その姿を見てこの男・・・ジャンは更にニヤニヤと笑うのであった・・・。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




時を同じくして、ハイムでは国王ヘムを除く家臣団とその息子ハーディスが、極秘裏に会議を開いていた。

数日前からヘムは体調を崩し、国政を仕切っているのはこのハーディスだった。

彼は突然、国の家臣団に対して言い放った。

「よいか皆の者。遠い過去から現在(いま)に至るまで、我が故郷ハイムはオライオンと同盟関係にある。

 だが、それは本当に同じ立場での同盟だと言えるのだろうか?

 大陸に名を轟かせる騎士団イオを要するオライオンは、無言の圧力をわが国に与えているとは思わないか?

 オライオンの力を持ってすれば、この国を滅ぼす事などたやすいであろう。

ハーディスの突然の言葉に、家臣団は近くの者と顔を向けて話し合い、ざわざわと落ち着きが無くなる。

「よく聞いてくれ。オライオン現国王レオV世は、国民や他国からもその政治手腕に賞賛を送られている。

 今やオライオンは大陸一とも言えるほどの大国となっているのだ。が、我が祖国ハイムを見てみよ。

 オライオンとは逆に、ここ数年一方的に国力が低下しているであろう。

 なぜならオライオンは大陸中央に国を位置し、圧倒的な軍事力を持って他国との流通を牛耳っている為だ。

 オライオンに、そして騎士団イオに恐怖するあまり、我が父ヘムは毎年オライオンに大量の金を流しているのを知っているか?

 その金額は国家予算としても莫大だ。国民の生活を次第に苦しめていく事になるのは間違いない。

 国の代表者であるそなた達なら、未来のハイムの姿を想像できるはずだ。」

少し大げさに手を振るい、熱弁をしながら、ハーディンは家臣団に問いかけた。

初めのうちはあまりにも驚かされる内容にに耳を疑っていた家臣団だが、徐々にハーディンの言葉に惹き付けられていった。

その様子を表情には出さずに満足しながら、ハーディンは言葉を続ける。

「よく考えて欲しい。平和を強調しておきながら、オライオンは毎年、軍の増員のための武闘会を開いている。

 それはなぜだ? 近い未来、他国に、そして我が国ハイムに侵攻しようとしている準備とは考えられないだろうか?

 もし、そのようなことになればハイムは滅亡に追いやられるだろう。

 ならばどうすればいいか? 先手を打ってオライオンに攻め込むのだ・・・!!」



家臣団は困惑した。


今しがた、ハーディンの口からもオライオンの軍隊の恐ろしさを語っているではないか。

そんなオライオンにどうやって勝つというのだ?

不安を隠しきれない家臣の一人がハーディンに向かって意見した。

「しかしハーディン様、あのオライオンの軍。そして、大陸最強と呼ばれる騎士団を相手にどうやって対抗するというのですか?

 私にはどう考えても無謀としか思えません。」

自分のシナリオ通りに話が進み、ハーディンは初めて笑顔を見せた。

「心配御無用。賞賛無くば、このような話を皆にするはずがない。

 だが、この作戦は極秘にもって行わなければならない。今の皆の状態ではお話しすることは出来ぬ。

 もう一度このような話し合いの場を私が作る。その時に皆の意思を聞こうではないか。

 よく考えるのだ。服従か、それとも未来を掴むかを・・・。」

極秘に行われた、ハイムの家臣団と王子ハーディスの会議はここで幕を閉じた。

その直後、ハーディスただ一人が残った室内に、不意に一人の人間が入って来た。

「お前か。」

「はい。」

「いよいよ作戦を実行に移す。失敗は許されん、分かっているな?」

「はい。ハーディン様の為なら、この命失うことも恐れません。」

「まもなく、北と東に火種が落ちる。頃合いを見計らって行動に出るんだ!」

「はっ。」

「フッ、お前には期待しているぞ。」

ハーディンによって指令を受けたその侵入者はすかさず敬礼をして部屋を立ち去った。

その姿を見送ったハーディンの顔には、またしても笑みが浮かんでいた。

だが、その笑みは家臣団に見せたものではなく、氷のように冷たく、深い陰のあるものだった。

「クックック・・・。」

突然ハーディスは笑った。

自ら立てた計画によって、この大陸全ての運命が変わることを想像して・・・。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




シュナイダーは走り出した。

シャルロットから少し目を離していた隙に、いつの間にか姿が見えなくなっている。

まずい、いきなりシャルロットから離れればどんな行動を起こすか分からない。

騎士になって一週間足らずで事件を起こしてはっ!!

必死になってシャルロットの消えた方角に走ると、突然声がした。

「も〜、遅いよシュナイダー。」

声は城の隅にある花壇の中から聞こえてきた。

「シュナイダーは私のお婿さんになるんだから、いつも傍に居てくれなきゃだめよっ。」

そう言うとシャルロットは何かをシュナイダーに差し出す。

「はいっ、これあげる。ねぇねぇ、かぶってみて。」

シュナイダーに渡されたのは花壇の花で作った冠だった。

なかなか凝った作りになっていて、見た目も綺麗だ。

「えっ、これを僕に? いっ、いや、この私に?」

年下ということで思わず普通に話しかけてしまったが、シャルロットはれっきとしたオライオンの姫なのだ。

慌てて言い直すが、シャルロットは逆に不満そうだ。

「何でそんなによそよそしい言い方するのっ! 私たちは『夫婦』になるのよ。もっと普通に話してよ!!」

「そうは言われましても、その、私たちはまだ結婚式も挙げてない訳で・・・。」

何だそりゃ? と自分で変な言い訳だと思いつつもシュナイダーは答えた。

それを聞いてシャルロットはまた言い返す。

「じゃあ、私と二人っきりの時ならいいでしょ? 姫なんて呼ばないでシャルって呼んで。

 パパや騎士団の人の前では許してあげるからっ。」

それならいいか・・・と思い、シュナイダーは頷いた。

「分かりました。ああ、いや、分かったよ。でも、この事は僕とシャルだけの秘密だよ?」

その言葉を聞いてシャルロットの顔が輝いた。

シャルと呼んでくれる事も嬉しかったが、それよりも『二人だけの秘密』の方に喜んでいた。

「シュナイダー大好きっ!!」

シャルロットはシュナイダーに抱きついた。

その時、遠くでその様子をうかがっていた人物が近付いて来た。

「ずいぶん仲がいいのね、お姫様?」

シュナイダーは跳び上がりそうになるぐらい驚いたが、そんな彼をよそにシャルロットが走り出した。

「あっ! イリアだ〜。お帰りなさい!!」

言うが早いかシャルロットはイリアに飛びついた。

(イリアって確か・・・。)

シュナイダーはふと考えた。

(プリンセスガードの仕事に就く時、先任のプリンセスガードがいたって聞いたな。

 確かその名前がイリアだったような・・・。だとすると・・・。)

そんなシュナイダーの考えを見破るように、イリアと呼ばれた女性が話しかけてきた。

「あなたがシュナイダー君? 始めまして。私があなたの先任のプリンセスガードだったイリア=ハーディングよ。よろしくね。」

「あっ、はい。」

(綺麗な人だな・・・。)

上ずった声で返事をしたシュナイダーだったが、頭の中ではそんな事を考えていた。

「二人とも仲がいいのね、これなら私がいなくても大丈夫そうね。」

「え〜、イリアまたどっか行っちゃうの〜?」

「ええ、シュナイダー君が私の代わりにプリンセスガードに任命されたから、今日から第一部隊に移ることになったの。」

「そうなんですか?」

「本当よ。シュナイダー君、お姫様を守ってあげてね。」

そう言ってシャルロットの頭を撫でた後、イリアは城内へと向かって行った。

その姿を目で追いながら、シュナイダーは憧れに近いものを感じていた。

プリンセスガードという自分の立場は確かに重要なのだろう。

だが、やっぱり自分も騎士として戦場で功績を残したい。

そんなシュナイダーの思いもシャルロットからの一言で打ち砕かれる。

「イリアの言う通りよ。私を守ってね、シュナイダー。」


がくっ。


肩を落とし、力無くシャルロットのほうに向き直ったシュナイダーは、

結局シャルロットの遊びに付き合って、この数日と変わらぬ一日を終えた。



この生活がいつまで続くのだろうと思いながら・・・。