Abend Lied 3
まだ明るいうちに六丸城下に着いた二人は、それぞれに分かれて城の周囲を探った。一通りの情報は喜平次が持っていたものの、自分たちの目で、塀の高さ、門の位置、警護の様子、外から見える木々などを確かめて頭に入れておく。 領地が沿岸に面したその城は、小高い丘の上に建っていた。丘といってもなだらかなもので、入り込むにも逃げるにもあまり苦労はなさそうだ。ただ、井尻との勢力争いが長引いているためか、城壁はかなり頑丈そうだし、大筒を撃ち下ろせるような櫓が組んであるのもちらと見てとれた。 そして二人は月が落ちるのを待って別々の個所から侵入した。 半助は暗闇に溶け込んで、音もなく気配もなく、庭を走りぬけていく。 警備はさほどきつくはないし、見回る時間も分かっている。 ところが、 「曲者だ! 曲者が侵入したぞ!」 呼ばわる声に反応して、忍者だの侍だのが走ってくる気配がする。喜平次のほうではない。こちらに来る。 (?) なぜ、どこで分かった? いや、たとえ見つかるにしても早過ぎる。入ったときからどこかで監視されていたのか。自分にも気づかぬほどの者が。 半助は不審に思いつつ、これぐらいで慌てるほど可愛い度胸は持っていない。半助は逆に歩を緩め、人が十分自分に近づいてきてから近くにあった小屋を一つ、爆破する。 蔵というより小屋と呼ぶにふさわしいそれには、たいしたものなど入っていないだろう。そして、追っ手を無駄に死傷する心配もない。だが、半助が小屋を爆破したのは、追っ手を煙に巻くだけが目的ではなかった。 爆破した小屋から火の手が上がる。城内に混乱が起こる。半助を捕らえにきたはずの者たちが、あわてて消火に回る。その隙に半助は次のターゲットに向かう。そしてまた別の小さな小屋を爆破する。目的の地下牢のある場所とは大きくはずれている。つまり、目的を悟らせないための陽動だ。 もともと半助の役割は陽動。見つからなければいずれこちらから何かを仕掛けて、喜平次がもしかしたら怪我をしているかもしれない捕虜を助ける時間を稼ぐというものだ。 案の定、さらに人がこちらに集まり、怒号が聞こえる。 「武器庫を守れ! 火薬庫に人数を回せ!」 半助は物陰からその様子を見つめ満足げに微笑む。 (そうそう、それでいいんだよ) ところが、半助がその場を離れ、次のターゲットに向かおうとしたときだった。新たに駆けつけた者が指示を出した。 「おい! 反対だ! もう一人侵入者がいる! こっちは陽動だ!」 ちっ! と半助は舌打ちをした。こんなに早く気づかれるとは。 それにしても、やけに人数が多いのではないか。何かほかに守っているものがあるのではないか。そうなると喜平次の目的もまた、もしかしたら別のところにあるのかもしれないが。 「向こうに人を回せ!」 「しかし、こっちも放っておくわけにもいくまい。半分あちらに行かせよう」 集まっていた人数が大幅に減ったのを確認すると、半助は今度は地下牢に向かった。 この程度の人数ならば、自分に引き付けながらでも半助にならどうとでもなる。喜平次にとっても、半分の人数ならば仕事がやりやすいだろう。 実は、陽動が見破られることもまた、計算の上だった。今度は喜平次が派手に動いて城内の者の注意を引き、別の目的があると思わせることになっている。そして半助のほうが、本来の目的を果たすのだ。喜平次も手が空き次第駆けつけるだろう。それが無理ならば約束の場所で落ち合う。 しかし半助には、その忍者の口を封じるつもりなどない。喜平次に助けた忍者を引き渡すつもりはなかった。 |
殺陣とか立ち回りとか書けません。城の構造もなんとなくぼんやりのイメージです。頭の中に縄張図があるわけではないので、矛盾点の突っ込みは御容赦ください。 |