序章

 時は戦国の世、一人の男が思案にくれて、摂津の国へと手紙を出そうとしていた。 (やっぱ俺一人じゃな。あいつならこの時期暇があるはずだし、手伝ってもらうか)
 男は母を捜していた。母は、男が幼いころに、行商をしたいた父と共にある国で戦に巻き込まれ、行方不明になってしまったのだ。居住の定まらない行商人とはいえ、連絡先として使っていた親類の家もあったのだが、何年たってもそこにも連絡はなかった。いつしか母は死んだものと諦めるしかなかったのだ。
 ところが、その母が生きているかもしれないとの情報が、知り合いの行商人からもたらされたのはつい10日ほど前のことだ。しかし、正確には母である「かもしれない」婦人がどこに住んでいるのかは分からなかった。その可能性は少なくとも二つの国にあった。
 彼にも「仕事」がある。久しぶりに取ることのできたこの休みの間に捜し出すことができなければ、いつまたそこまで出かけて行くことができるか分からない。
 そこで彼は、子供のころからの親友に、手伝ってもらうつもりでいた。彼はその親友が、頼み込まれると断りきれない性格であることを、よく知っていた。

 

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