第2話:新たなる予兆


神奈川県、三浦市、立花レーシングクラブ。

7人の仮面ライダーによって、岩石大首領が倒されてから、半年が経とうとしてた。

城茂は、立花レーシングクラブに残り、住み込みで働いていた。

茂はかつて、タックルこと岬ユリ子が愛用していたマシン、テントローの整備をしていた。

丁寧な手つきでマシンのハンドルを丹精に拭く。持ち主のない、マシンを何故、こうも丁寧に整備するのか、茂は、思わず一人苦笑した。

「茂。」

その声に茂は振り向く。

藤兵衛が何時の間にか立っていたのだ。

「オヤっさん。いつのまに。」

「いや、スマン。お前が、あまりにテントローを丹精に整備してるもんだから声がかけずらくてな。」

「おかしいよなぁ。乗り手のいねえマシンを整備してるなんてよぉ。」

茂はそう言ってはにかむように笑った。

「そんなことはないぞ。わしは安心しとるんじゃ。お前がこのマシンを整備しとる姿を見てな。まだ、ユリ子はお前の中で生きとる。そうなんだろ。」

茂は、答えず、はにかみ笑いをした。

「あいつ、もう生まれ変わってるのかねぇ。」

「そうだなぁ。案外、この近くじゃったりなぁ。」

そう言って2人は笑いあった。

それから、藤兵衛は再び思い出したように口を開いた。

「そうだ、そうだ。お前に手紙が来てたんだが。ほれ。」

そう言って藤兵衛は城茂宛てに届いた白い封筒を手渡した。

「俺に?」

茂は、その封筒を受け取り、裏の差出人の名前を見た。

差出人の住所はなく”伊吹戒”という名前のみが書かれていた。

「伊吹、戒?知らねえなぁ。」

茂は封筒の上部を手で破って中身を取り出し、目を通した。

”5月7日、午後6時にこちらでお待ちしております。2人で話がしたい。”

そう書かれた文面の便箋と、フランス料理のレストランまでの地図が同封されていた。

「何だこりゃ。」

手紙にしては不気味なまでに短い文章に茂は首を傾げた。しかも、差出人は、聞いたこともない名である。

「茂、何が書いてあったんだ?その手紙。」

藤兵衛は、茂が手にしている手紙を覗き込んだ。

「さぁ、俺にもさっぱりだ。オヤっさん、このレストラン知ってるか?」

言いながら、茂は文面のレストランの名前を指差した。

「ああ、ここら辺でもなかなか有名な高級レストランだと聞いたことがあるぞ。まぁ、ワシらには縁のない場所だがな。しかし、茂おめえ、こんなレストランに招待されるなんざ、こりゃあただ事じゃあないなぁ。」

「で、茂、お前行くのか?5月7日っていやぁ明日だぞ。」

「ああ、とりあえず、行ってみるよ。高級レストランで飯食うってのも悪い話じゃなさそうだしな。」

「しかし、こいつぁ臭うと思わねぇか。見ず知らずの奴がよ、こんなレストランに招待するなんざ、何かあるぞ、きっと。ひょっとして、新手の悪人どもがお前の力に目ぇつけてきたってのも考えられるなぁ。」

藤兵衛は腕組みをして言った。今まで藤兵衛は茂を含めて7人の仮面ライダーと接触してきた。そして、悪の組織が張る罠を何度もその目で見てきたのだ。その経験から、今回の茂への招待状を怪しいと睨んだのだ。

「ああ、そうかもな。もしそうだとしても、俺が返り討ちにしてやらあ。」

そう言って茂はニヤリと笑った。

「そうだな。まぁ、強いお前のことだ。そう簡単にやられんとは思うが、とにかく気を付けろ。」

「分かってるさ。」

そう言って茂は、汗を拭いながら、玄関に入っていく。そして、藤兵衛もそれに続いた。

5月7日。

約束のフランス料理レストラン。

横浜の繁華街でも、どちらかというと静かな場所であった。洒落た街頭と、鑑賞用の植物が、同じ間隔で並べて植えられており、清潔感を感じさせる場所であった。

午後6時ピッタリだった。

茂は、フランスの貴族の邸宅を思わせる、上品な建物の前に荒々しくカブトローを止めた。

そして、ジージャンを脱ぐと、それを肩に担いで、店の中に入っていった。中は、いわゆる、正装をした紳士、淑女ばかりで、普段通りのハイネックの赤いTシャツに、ジーンズというあまりにラフな茂の格好はかなり浮いていた。

側にいた、蝶ネクタイの店員が少々不審そうな表情で茂に声をかける。

「お客様、どなたかとお待ち合わせでしょうか?」

「ああ、確か、伊吹、戒って奴に呼び出されて、来たんだが。」

「はい、そのお客様なら、あちらのお席でお待ちです。どうぞ、ご案内致します。」

その時だった。

奇妙な空気が茂を襲った。

それは今まで戦いを繰り返してきた茂が感じた敵が放つ独特の、嫌な空気であった。

どの方向からかはいまいち見当がつかないが、近い。

思わず茂は辺りを睨み付けた。

その様子に店員は、思わず、びくついた。

「あのっ、お客様、何か?」

店員の教育が厳しいこの店なので、店員は、目の前の客に対して何か気に障る行為を行ったのかと思ったのか、その声は不安げだった。

「いや、何でもねぇ。」

(それにしてもこの嫌な感じ・・・。まさか、オヤっさんの言う通り、新手の悪人か・・・。)

「こちらです。」

消えない不穏な空気に茂は、周囲に五感を全て配らせる。

(どこだ・・・。どこで、この異臭を放ってやがる。)

そして、嫌な空気が更に強まった時であった。

「どうぞ、こちらです。」

茂が案内されたのは、店の中でも奥の方の席で、うっすらとした光りを放つセンスの良いアンティーク調のスタンドライトが2人用のテーブルを照らしていた。

そして、最も嫌な感じが強く感じられたその場所には、一人の青年が、座り、微笑んでいた。青年は年にして茂と同じくらいであろう。淡い栗色の自然色のサラリとした髪の毛をしており、顔立ちは、日本人と西洋人の中間、つまりハーフのような顔立ちでどちらかと言えば、西洋人の特徴が色濃く出ている顔立ちで、茶色の瞳、鼻は高く、色は透き通る程に白い、かなり端正なものであった。身なりは、黒い上質そうなスーツをきれに着こなし、気品漂う青年だといっても過言ではなかった。

そして、その微笑みは、まさに人柄の良さを醸し出しているようで、茂はとても、この青年から茂が先程感じた気配が出ているとは信じ難く、不気味だと思った。

「どうぞ。」

茂は店員が椅子を下げる前に、片手で荒々しい手つきで椅子を引くと、ドカリと座った。店員はそんな茂る少し、びくついた。

しかし、気を取り直し青年に向かって言う。

「お客様、もう、一品目をお持ちしてよろしいでしょうか?」

「ああ、お願いするよ。」

青年はそう言って店員に向かってニッコリと笑った。

「畏まりました。」

店員はそう言って一礼すると、2人が座っている席をあとにした。

そして、茂は、警戒を解かぬ表情で青年を一瞥する。

青年は笑っていた。しかし、茂はその笑顔が信用できなかった。笑顔を浮べるその瞳の奥にただならない何かがあると感じたのだ。

「ミスタージョウ、私があなたにお手紙を差し上げた、伊吹戒です。突然なお手紙、失礼致しました。そして突然のお誘いに応じて下さり感謝します。よろしく。」

そう言って、青年は、茂に握手を求めた。茂は青年の手を見て少々驚いた。青年の手は茂の手と同じく、黒の皮手袋がはめられていたのだ。

”まさか・・・。奴は・・・。”

先程からの臭い、そして、この手袋。

”まさか、改造人間・・・。”

「お前、その手袋・・・。」

茂は思わず口を開いた。

伊吹は笑顔を絶やすことなく言った。

「ああ、これは、私、少し前にひどい火傷を負ったものでして。失礼だとは思いますが、これでお許し下さい。」

「火傷、ね・・・。」

茂はボソリと呟き、2人はとりあえず握手を交わした・・・。”

”この男、何かあるぞ・・・。”

伊吹が先程自分のては火傷による負傷だと言ったのも、茂は信用していなかった。

それは、今まで実戦経験を積んできた茂の本能がこの男を警戒させていたのだ。

「ミスタージョウ、そんなに怖い顔をしないで下さい。私はあなたとお話がしたいだけなのですから。」

「話、ね・・・。で、初対面の俺と何が話したいんだ。お前。」

茂は厳しい口調で言った。

「そんなに急かさないで下さい。私はあなたと楽しい一時を過ごしたいのですから。お話はお食事でもしながらゆっくりとさせて頂きますよ。」

「チッ、勿体つけやがって。」

茂は舌打ちした。

「赤ワインをお持ちしました。」

ウェイターが赤ワインの瓶とグラスが二つのっている台車を引いてきた。

ウェイターは二つのグラスにワインを注ぎ分け、2人の前に置いた。

「ごゆっくり。」

ウェイターは一礼すると、再び台車を引いて、下がった。

「ワインもきたことですし、乾杯などいかがでしょう。」

「乾杯、ね・・・。」

茂は皮肉げな口調で呟いた。

「それでは、あなたと私の出会いに、乾杯。」

「乾杯。」

茂は、変わらぬ皮肉げな口調で言い、2人は、乾杯を交わした。

それから、伊吹は、少しだけ、ワインに口をつけた。

茂は、そのワインを一気に飲み干す。

「流石はミスタージョウ。いい飲みっぷりですね。」

言いながら、伊吹はパンパンと手を叩く。

それから、スープ、パンに続いて前菜、メインディッシュのステーキと次々と料理が運ばれてくる。

茂、それらを、フォークのみ、ナイフを使わずに、荒々しく食べていく。

伊吹はそれを笑顔を絶やさずに眺めながら、そして、綺麗な手つきで、フォークとナイフを使いこなしながら言った。

「ここは、なかなかの味だと聞いて予約しましてね。どうですか?ミスタージョウ。」

茂はその問いに鼻で笑った。

「生憎、俺はあんたと違って、こんなお上品な場所は性に合わなくてねぇ。」

「そうでしたか。」

「で、いい加減、本題に移ったららどうだ?」

茂は、フォークで皿をカンカンと鳴らしながら言った。

伊吹はフッと笑った。それから口を開く。

「あなたの戦い、聞き及んでいますよ。」

伊吹の、その一言で、茂は、思わず驚愕した。

「戦い、だと・・・。」

恐らく、伊吹のいう”戦い”とは、茂が、これまでブラックサタン、デルザー軍団と闘ってきたことを指しているのだろう。

「何故、貴様がそんなことを知っている・・・。」

「ええ、知っています。仮面ライダーストロンガー。」

伊吹は、最後の”仮面ライダーストロンガー”の部分は声を低めた。

茂は、フッと笑った。

「全く、俺も随分と有名になったもんだぜ。」

それから、声を低めて言った。

「貴様、何が目的だ・・・。」

「おっと、ここで揉め事はなしにしましょう。」

そう言って伊吹はニッコリと笑う。

「気に入らねぇなぁ。そのいやらしい笑いがよぉ。」

「それによぉ、あんたが既に宣戦布告してるなんざ、お見通しよぉっ!!

茂は怒鳴るなり、目の前のテーブルを蹴り上げるさま、ガタリと椅子を立ち上がった。

大きな音を立ててテーブルがひっくり返り、テーブルに並べられた食器が木端微塵に砕け散った。

それを見て、伊吹は茶色の瞳を僅かにギラつかせた。

「さぁ、とっとと本性見せやがれっ!!」

茂が更に怒鳴ると、周囲の正装した紳士・淑女、そして、全ての店員が急に無表情になったと思いきや、サーカスの操り人形のように、ガタガタと首を痙攣させ始めた。

その様子を伊吹は無表情に見つめた。

茂は、後ろに回転ジャンプすると、その場のテーブルの上に立ち、伊吹を指差した。

「そろそろおっぱじめようぜっ!!」


(第2話後書き)

2話にして話を180度変えることになってしまいました。最初の話を読んだ方、もう一度お付き合い下さると嬉しいです。全く変わってます。しかも激しく変わってます。前の話がどうだったか、知っている方、いらっしゃると泣いて喜びます。ちなみに、茂がテーブルを蹴り上げるシーンはフユキオリカ様の案によるものです。フユキさん、ありがとうございました。流石です。これからも色々相談するからね!

それでは第3話でお会いしましょう。

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