第4話:戦いの火蓋、切られる
レストランは既に屋根が吹っ飛び、もはや、中も目茶苦茶になっていた。
レストランからの爆発を聞きつけた近くのレストランの店主が慌てて警察を呼んだが、警察や消防が到着した時には、伊吹も茂も、そして、戦闘ロボットの一体さえも、発見されることはなかった。
翌朝の朝刊は、高級レストラン謎の爆発が告げられた。
最初に通報した店主の錯覚か、それとも、何らかの犯罪なのか、様々な説が囁かれたが、その真相は表沙汰になることはなかった。更に、そのレストランは当の昔に廃業していたという事実が明るみになり、横浜繁華街の人間は亡霊の仕業かと震え上がった。
伊吹は、破壊された、戦闘ロボットも、機能している戦闘ロボットも、リモート操作を使って、跡形もなく、解体させ、蒸発させた。それから、警察や消防等が来て騒ぎが大きくなる前に、茂をレストランの車庫止めている普通乗用車まで担いでいき、その後部座席に横たわらせ、発車させた。
何時間か経過してして、茂は目を覚ました。
(ここは、どこだ・・・。俺は・・・。)
茂はじわじわとレストランでの出来事を脳裏の蘇らせた。レストランに仕掛けられていた、伊吹の罠。そして、ストロンガーと同じ姿に変身した伊吹に羽交い締めにされ、電気パワーを抜かれたこと・・・。
(そうか、あの時、俺は気を失って・・・。)
「畜生。あの野郎。」
茂は起き上がろうとした。
しかし、茂の身体はピクリとも動かなかった。
「くそっ。」
伊吹の嫌な笑みが茂の脳裏をよぎる。まんまと、伊吹の罠にはまったことに対し、腹立たしさと、悔しさが、無性に込み上げてきて、茂は唇を噛んだ。そして、伊吹という男、男は自分こそ、ストロンガーの理論を創り出したと言った。
目の当たりにした、それは、ストロンガーのプロトタイプ、そのものであった。突然付きつられた、事実に茂は困惑こそしたものの、かつての戦いで培った、その精神力で、冷静さを保ちつつ、脱出方法も、考えなければならないことも念頭に置いた
茂は毒づいて、手足を動かそうとした。
動かないのは無理もなかった。茂の身体はをゴム制拘束具によって手術台に縛り付けられていた。おまけに、電気パワーは先程、伊吹によってそのほとんどが抜かれてしまった。
茂はかろうじて動くコイルアームの指先に力を入れた。その電光こそ出ないが、ほんのわずかに残った電気パワーが流れるのを一瞬だが、茂は感じた。
勝機はある、茂は思った。それは、10%に満たない低いものに過ぎない勝機ではあったが、今は、それにかけるしかない、茂は思った。
暫くして、茂が囚われている部屋に足音が響いた。
(野郎、来やがったな。今に見てやがれ。)
茂は心でそう言うと笑うと、再び、気を失ったふりをした。
案の定、足音の持ち主は伊吹であった。伊吹は白いシャツに黒いスラックスといったシンプルな服装の上に白衣を羽織っていた。
「ざまあねえな。」
伊吹は呟くとククッと笑った。
「大人しく言うこと聞いていれば、お前にも良い目を見せてやろうと思ったんだが。仕方がない。」
言いながら、伊吹は半ば、自らの理論によって生み出された身体を慈しむような笑みを浮べながら、まじまじと茂の身体を見下ろした。
「お前も、もっと強くしてやるよ。ただし、その下らん正義感や理性などというものは、始末しないとな。」
言いながら、置いてあった、手術機具の台の上からメスを取り上げ、茂の頬に、その切っ先で触れた。研ぎ澄まされた刃物の冷たい感覚が茂に伝わり、茂は、思わず、頬をピクリとしかけたが、堪えた。
(野郎、好き勝手言いやがって。今に見てろ。)
茂は内心、毒づきつつ、僅かに電流の流れを感じた銀色のコイルアームの指先を、伊吹に勘付かれないように、動かした。
”来い・・・。”
”来い・・・。”
茂は念じた。
「ほう、さすがの貴様も命乞いときたか。」
「ヘヘッ、まあな。俺も死にたくはないんでね。」
「素直じゃないか。好きにしろ。所詮、貴様に勝機はない。」
伊吹は完全勝利を確信していた。この状況でまだ、茂が何か戦略を持つことがあるとは到底考えられないであろう。
「そうそう、貴様の身体、貴様が気を失っている間にじっくりと調べさせて貰ったよ。粗削りだが、流石に俺の理論を使った身体だ。気に入ったよ。そして、まだまだ、改良の余地がある。」
伊吹はニタリとした笑みを浮べ、茂の顎に触れる。
「殺すには惜しいよなあ。」
「完全に俺のものにしてやるよ。」
伊吹は側にあるメスを手にして、そのメスで茂の頬に一本の赤い線を入れた。
「お前さんにそんな気色わりい趣味があったとはな。」
茂は吐き捨てるように言った。
「ああ、何とでも言え。俺は俺の天才的な技量を愛しているからな。」
その時だった。
ゴロゴロという音がし、外で建物が水に叩き付けられる音がし始めた。
「ああ、雨か。森の天気は変わりやすいな。」
伊吹は呟いた。
ピカーン!!
ドドーン!!
けたたましい音と共に稲光が茂の手術台を直撃した。
「まさかっ、貴様っ。」
手術台が煙幕に包まれる。
「ヘッ、ヘヘッ。」
「城茂ゥゥ。」
伊吹は忌々しげにその名前を呼んだ。
「吸い取るんならよお、完全に吸い取らないと駄目だぜ。甘ちゃん。」
「ククッ。成る程、ほんの僅かに俺が吸い取ることができなかった、電気パワーを利用して、じっくりと時間をかけて雷を呼んでいたわけか。ハハッ。」
「面白いよ。城茂。傑作だよ。お前は。ハーハッハッハッァ!!」
「テメエこそ、なかなかのもんだったぜ。この俺様の裏をここまでかいてきやがるとはな。」
煙の中から真っ二つに割れた手術台と茂が姿を現した。その全身からは、雷から受けた電気パワーの火花を散らしていた。
研究室の天井に大きな穴が開き、雨が床に叩き付けられた。
「だが、テメエは、この俺様が城茂様だということを忘れていたってこったな。」
城茂は鼻で笑った。
茂は、コイルアームを天に翳し、それを擦りあわせる、
茂の身体からまばゆいばかりの閃光が発せられ、茂は仮面ライダーストロンガーの身体に変化した。
「やはり、戦うのみ、か。」
伊吹はククッと小さく笑った。
低くそう唱え、同じく、二つのコイルアームを擦りあわせた。
伊吹も茂と同じく、閃光を発し、茂と同じく、プロトタイプの姿を現した。
2人の戦士は、雨水を全身に浴び、体中から放電の火花を散らせながら、真正面から対峙した。
カラーリングこそ違えど、見れば見るほど、その二つは同じに近かった。
「強者は一人でいい、か。」
「だな。」
(第4話後書き)
長らくお待たせ致しました。ほぼ半年のブランクです。もうこのサイトは運営やめたんかと思われた方がほとんどでしょうね。いや面目ないです。すいません。何とか茂が脱出を果たせたので、やれやれです。いや、それが原因で止まってたもので・・・。何か自分で罠仕掛けといて抜けられない状況でして・・・。(汗)今度はきちんと更新するよう心がけます。すいませんでしたぁぁ。では5話にてお会いしましょう。