第3話:同じ者
茂が怒鳴るなり、首を痙攣させていた客と店員の衣服、いや面の皮が剥がれていった。そして、剥き出しになったのは、全身灰色の硬質な身体を持ったロボットであった。ロボットの顔の中心には、丸い黒いボタンがポツンとあるだけで、それ以外は、のっぺら坊のシンプルなデザインであった。
ロボットは、顔の黒いボタンが赤く染まると、一斉に、茂が立っているテーブルを取り囲み、茂に向かって、両手を突き出した。
その手首が折れ、砲弾の出口が茂を狙った。
「おやぁ、また物騒なモン持ち出したもんだねぇ。」
茂はそう言うと、伊吹に向かってニヤリと笑った。
「あ、ばれちゃいましたか。」
何事もなかったかのように言うと伊吹は指をパチリと鳴らした。
戦闘ロボット達は一斉に、発砲をはじめた。
放たれた砲弾が茂の立ったテーブルに集中した。
茂は軽い身のこなしで、ジャンプすると、戦闘ロボット達の背後に回った。
ドギューン!!!!
テーブルが、多数の砲弾に身を晒され、粉々になった。
茂は、着地と同時にキッと伊吹を睨み付けた。
「流石だ。この程度でやられるあなたではないってことだ。」
伊吹はニッコリと笑った。
そして、2人は再び向き合った。
「成る程。力試しってワケかい。」
茂がニヤリと笑った。
「そういうことです。」
伊吹は笑顔を絶やさずに言った。
「で、あんた、そんなことして何がお望みだい?」
「そうですねぇ。勧誘ですかねぇ。ミスタージョウ、共同経営者というのには興味がおありですか?」
「共同経営者ねぇ。」
「そうです。私と、この日本、いや、世界を手に入れてみませんか?なかなか愉快なことだと思いますが。」
茂はククッと笑った。
「お約束な展開だねぇ。もっとひねってみるのもいいと思うぜ。」
「まぁ、そうでしょうね。しかし、こう言うのがてっとり早いと思いまして。」
「成る程ね。」
「で、あんた、俺が、”はい、是非お仲間にして下さい”なんて言うと思った?」
「ということは、答えは。」
茂は椅子にかけてあった、ジージャンを手にとり、方に掛け直す。
「決まってるだろ。ノーだ、ノー。ついでによぉ。」
「テメエの腐った思考回路もぶっ壊してやるぜっ!!」
茂はは怒鳴ると、拳で伊吹の頬を殴りつけた。
鈍い音とともに、伊吹の顔は一旦のけぞり、顔を下に向いた。顎の端の部分に一本の赤い線が垂れた。
そして、伊吹の唇が僅かに歪んだかに見えた。更に、その唇は痙攣をはじめる。
「クク、クク・・・。」
ポツリ、ポツリと低い笑い声が伊吹の唇から漏れ始めた。
「クックックッ・・・。」
それから伊吹は徐々に顔上げた。
その表情は、先程までの穏やかなものとは打って変わって、形の整った唇は完全に歪み、茶色の瞳には、完全に邪悪な光が灯り、ギラついていた。
「だよなぁ。テメエごときがそんなデカイことに興味があるワケねぇよなぁ。ハッハッハァ!!」
先程の品の良い口調が本当にこの男なのかと、疑うほどの下卑た物言いであった。そして、その表情もそれに添った下品な笑みが満面に浮べられていた。
しかし、茂は伊吹のその豹変ぶりに動じることはなかった。
「さっきまでの演技、なかなかのモンだったぜ。だが、この俺様は騙されなかったいうワケだ。」
「そうらしいな。しかし、テメエが大人しく言うこと聞いてりゃ俺の演技は続いていただろうがな。ハッ!」
伊吹は満面に邪悪な笑みを浮べた。
「仲間にならねぇなら、残された手段は一つだよなぁ。」
伊吹の瞳があからさまに殺気を放った。
「おやおや、奴さん、完全に本性表しちまってるよ。」
茂は余裕を見せるように言った。
「テメエの余裕もどこまで続くか・・・。クク・・・。」
「俺の手駒はこれだけじゃないぜ。」
伊吹はそう言うなり、指をパチリと鳴らした。
その瞬間。
無数の同じタイプの戦闘ロボットがレストランの壁をぶち破って、茂目掛けて突進してきた。
「おうおう、来やがったかっ!!」
茂はニヤリと笑うとファイティングポーズを取った。
「やれっ、やっちまぇぇぇぇぇ!!」
伊吹は奇声に近い声を張り上げた。
その声とともに、最初から配置されていた戦闘ロボットも、再び、砲弾を発射する。同時に、新たに現れた無数の戦闘ロボットも、スピードを早める。
しかし、茂は、立ったままであった。
「ハーハッハッハッ!!城茂、くたばったりぃぃぃ!!」
伊吹が奇声をあげたその時であった。
茂は唇だけで僅かに笑った。
それから、もの凄いスピードでジャンプした。
同時に、突進してきた戦闘ロボットは、お互いに攻撃し合い、更に、放たれた砲弾により、爆発が起こった。今度の砲弾は、最初の砲弾とは違い、茂を本格的に倒すことを目的としたものであったので、爆発は桁違いで、もの凄い爆発音ともに戦闘ロボットともにレストランの屋根が半分吹き飛んだ。
こうして、伊吹が用意した戦闘ロボットの半分近くが自滅した。
「チッ。」
伊吹は忌々しげに舌打ちをした。
茂は一旦宙を高く飛んで、着地すると、今度は、先程砲弾を放った戦闘ロボットと格闘をはじめていた。
「オリャァァァ!!」
「トウッ!!」
茂は器用な身のこなしで動き回り、データ通りにしか動けない戦闘ロボットを翻弄し、次々と鉄拳と蹴りを食らわし、破壊していった。
次々と、急所を破壊され、崩れ落ちていく、ロボット集団。
そして、ついに全ての戦闘ロボットが機能停止となった。
それを確認すると、茂は再び伊吹と向き合う。
「どうだい。これであんた一人になったワケだ。」
しかし、伊吹は口元でいやらしい笑みを浮べていた。
「そうだな。流石だぜ。城茂。面白すぎて笑えてくるよ。」
「やせ我慢はよした方がいいと思うぜ。」
「やせ我慢?俺にそんな趣味はないな。」
茂、一瞬、伊吹の表情を観察した。
(野郎、確かにやせ我慢じゃなさそうだな・・・。だとすると、奥の手は、ひょっとして・・・。)
茂は伊吹は黒い手袋に目をやった。
茂は身構えた。
「察しはいいらしいなぁ。」
伊吹はそう言うと、黒い皮手袋をゆっくりと外しはじめた。
手袋の下はやはり、茂と同じ、銀色の、紛れもなく、電気人間を表す手であった。
「お前も、電気人間・・・。」
予測はしていたものの、実際にそれを目の当たりにすると流石に茂も驚いた。
自分以外に、同じ改造を受けていた人間がいようとは、今までは考えたこともない茂であった。しかし、ブラックサタンが何人もの人間を改造し、手先にすることなど、十分考えられることではあったのだが。
「変身。」
伊吹は低く唱え、両手をこすりあわせた。
その瞬間光がおこった。
その光が止むと、姿を現したのは、茂の変身後の姿である、ストロンガーにそっくりなそれが現れた。
大きな出目金のような、鉛色の両目、そして、黒を基調としたボディスーツの上に、不自然なまでに、ボコリと膨らんだ、灰色の胸部、太陽を模ったような鉛色のベルト。そして、頭部には、鈍く光る銀色のカブト虫のような角がついていた。
カラーリングこそ、茂のそれとは違ったものではあったが、基本形態は、まさしく、ストロンガーのそれであった。
「お前は、ストロンガー・・・。」
「クク、予測していた割には、なかなか驚いているようだな。」
「確かにな。百聞より一見って言うからな。つまり、あんたは俺の兄弟って言いたいのかい?」
「そうだな。まぁ、俺の方がさきに改造されたから、俺はテメエの兄貴ってことだ。」
「兄貴、だと・・・?」
「まさか、テメエが最初のストロンガーとでも思っていたのか?それからもう一つ、面白いことを教えてやるぜ。」
「何、だと?」
ストロンガーに変身した伊吹は言葉を続けた。
「ストロンガー、いや、奇械人の理論自体を完成させたは、この俺ってことさ。」
「貴様が、奇械人を?」
「ああ。そうだ。」
「貴様、ブラックサタンの一味かっ!」
茂は伊吹を睨み付けた。完全に滅ぼした筈だと思っていたブラックサタン。しかし、その一味らしきものが眼前に立っている。奴は、何故に、今になって・・・。様々な考えが茂の脳裏を巡った。
「それは違うぜ。何せ、俺もテメエと同じ、ブラックサタンの裏切り者だからなぁ。」
「だから、あんたには一応感謝してるんだぜ。目障りなブラックサタン、おまけにデルザー軍団も消しちまってくれたからよぉ。一気に邪魔物が減ったからなぁ。」
「だったら、貴様の目的はっ!!」
「さっき教えてやった通りだよ。で一応、あんたの力も借りようと思ってスカウトしてはみたが、駄目だった。ということは、あんたは俺にとっては邪魔物に過ぎない訳だ。」
「で、今度は俺を消そうというワケかよ。」
「ククッ。」
伊吹は問いには答えずただ、笑いを返しただけであった。
「だがなぁ、この城茂、そうはいかねぇんだなぁ。」
茂は言うと、伊吹と同じく皮手袋を取ると、変身の構えを取った。
「変っ、」
その時であった。
伊吹は素早く茂の背後に回ると、茂を羽交い締めにした。
「野郎・・・。」
変身後の伊吹に羽交い締めにされたことにより、茂は苦しげにうめいた。茂は必死でその手を解こうとしたが、変身後と変身前の力である。その差は大きいものであった。
「くそっ!」
「放し、やがれ・・・。」
「馬鹿か。テメエ。俺がご親切に、変身するのを待ってやるとでも思っていたのか。マヌケが。」
その次の瞬間、茂は全身から一気に力が抜けていく感覚を味わった。
「テメェ、何を、し、や、がった・・・。」
茂はかろうじて声を出した。
「さあな。」
「まさか・・・。」
茂は、今、伊吹によって、自分の体内の電気パワーが抜き取られていることを悟った。
「そうだ。テメエの考え通りだ。言っただろ。俺は奇械人の理論を作り上げたんだぜ。俺は自ら自分の機能に手を加えられるワケだ。テメエになくて俺にある技があって当然だろうが。」
「くそったれぇぇ・・・。」
「この俺が負ける、かぁぁ・・・。」
茂は必死で強がったが、次第に、その意識が遠のいていく。
「負ける、かぁぁ・・・。」
「ちくしょうぅぅぅ・・・。」
茂は伊吹に羽交い締めにされ、電気パワーをその手で吸い取られながらも、意識を手放すまいと必死で闘った。
しかし、茂の努力も、虚しく、ついに、茂の電気パワーは0に近くなり、茂は、必死で握っていた、その意識も手放してしまった。
伊吹はそれを確認すると、茂を締め付けていた手を緩めた。
意識を失った茂は力なく、床に落ちた。
(第3話後書き)
第3話ですっ。いきなり伊吹の前に倒れ伏してしまう、茂。一体どうなってしまうのでしょうっ。しかし伊吹ってば滅茶苦茶卑怯です。変身すんのも待ってくれません。我らが城茂はかなり屈辱でしょうねぇ。いやはや、3話にして茂大ピンチッ!!それでは、続きは、第4話でお会いしましょう〜。