パンチがあるというのは、パンチを受けた側の選手のダメージが強いという意味であることに間違いないと誰もが思います。それでは何故パンチが強いとは言わないのでしょう? それは少しだけニュアンスが違うからだと私は思うのです。さほどスピードも威力も無いように見えるパンチの筈が、パンチを受けた選手が見た目よりダメージがあるような場合に使われているように思います。さほど強くないように見えるパンチはパンチにスピードがなく、パンチの初動からパンチが相手に当たるまでの距離も短くなっています。「パンチがある」と言うのはパンチが当たってからさらに何センチか食い込むように押し込まれるようなパンチの事を言っているのだと思います。 パンチが伸びたり、パンチが当たってから食い込むように肩甲骨が前方に移動するためには前鋸筋が働きます。肩甲骨の動きは、試合中のボクサーの肩甲骨を観察するとパンチを出したり引いたりする一連の運動の際、一定の場所にとどまらず胸郭の上に浮いた状態で、胸郭の曲面上を自由に動きます。そのために肩の動きは他の関節に比べ、大きく自由に動くかわりに安定性を犠牲にしています。しかし、肩甲骨が自由に動くがゆえにストレートパンチを打つときに肩甲骨が前方にスライドして「腕を伸ばす力」と「肩甲骨を前方に押し出す力」が相手に加わります。ですから、大きくなめらかにスライドする肩甲骨を持ったボクサーは、パンチが伸びたり、当たってから押し込むようなパンチを打つことができます。よって、パンチを強く打つためには前鋸筋がもっとも大切な筋であると私は考えるのです。 前鋸筋を有効に働かせるためには肩甲骨を背骨に最も引き寄せた状態から、一気に前方に押し出すことで強い力が生まれます。飯田選手も現役のころ、肩甲骨を自由自在に広い可動範囲で動かす事を誰に教わることもなく行っていました。ウオーミングアップで両方の肩甲骨をぐるぐると上下、左右、左右対称、または非対称に動かしてから練習をはじめていました。 肩甲骨を前方に押し出すのは前鋸筋で、背骨のほうに引き付けるのは菱形筋や僧帽筋の中部から下部にかけての筋繊維です。パンチが伸びたり、見た目には大して強くなさそうなのに、パンチが当たってから食い込んでくるようなパンチを打てるボクサーは前鋸筋や菱形筋、僧帽筋下部の筋肉に柔軟性と筋力、敏捷性があります。 ボクシング界では広背筋がパンチを強くするといわれていますが、実はこの前鋸筋が広背筋の真下にあるために勘違いされて伝わってしまっていると私は考えています。では、どの様なトレーニングをしてこれらの筋肉を鍛えてパンチを打てば、そのパンチが強くなるのでしょう?パンチについては他にも「パンチが切れる」とか「パンチが重い」「パンチが固い」など不思議な言葉が沢山あります。これらの言葉についても強いパンチを打つためにとても重要な意味があります。それらについても解説しながらトレーニング方法について説明します。 |
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