花追い人 ・ 旅語り
〜 広島 〜

 




彼らが通う湯来の桜は、実は個人の敷地内にある。造園業を営んでおられる方の敷地なので、レンギョウやらなんやら色んな植木があるのに、桜目当てのカメラマンが、堂々と入って来ては踏み荒らすので、桜の咲いている間は、仕事にならないそうでパトロールに徹っするらしい。この所有者である桜守のおじさんがいい方で、立ち入り禁止にだって出来るのに、きちんと挨拶をして植木を傷めないようにすれば、快く撮影をさせてくれる。私が初めてここに来た時は雨で、他のカメラマンはほとんどいなかった。早朝に私が入口辺りでウロウロと撮っている時、このおじさんと会ったのだが(たぶん見回り)、どういう方かも知らず、とりあえず挨拶したら、「こっちこっち」と言って例のカメラマン集合位置に案内してくれた。
その後、日に日に増えていく不法侵入者に、業を煮やしたおじさんは、許可した人には赤いリボンを渡すから、腕なり首なりわかるところに付けて、それを持ってない人は、自分の所へ挨拶に来るようなシステムを考え出し、一晩かけて20個ほどのリボンの輪っかを作った。我ら、一列並び隊は皆、その赤いリボンを頂いたのだが、「豆腐にかすがい」「暖簾に腕押し」で 新参の不法侵入者はりボンの存在など知らないので、平気で入ってくるし、臨時警備隊の役目を果たすべき我らも、撮影に夢中で、他人のリボンなんかをチェックしてる余裕なんてなかった。おまけに体に付けていたリボンはいつのまにか落ちてしまうらしく、園のあちこちに地面の上でゴミと化した赤いリボンを見つけたとき、「おじさんの計画は失敗したな」と確信した。

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