ある日、夜の醍醐桜を撮ろうと思い、日が沈んだ後もその場で粘っていた。醍醐桜は毎年ライトアップされるのだが、その日は運がいいのか悪いのか、NHKの大河ドラマ「武蔵」の撮影の為、おおがかりなライトアップが行われた。幼少時の武蔵が桜の下に立つという設定で、役場の方が桜の周りの杭を全部抜いていった。(さすがに桜を支えている何本もの棒はそのままだったが) NHKはまるで桜が自分の持ち物みたいに、「はい!みなさん、静かにして下さい。音をたてないで下さい。はい!桜から離れてください!ご協力をお願いします!」と見頃を迎えた桜を見に来た人達に命令している。あまりに当然そうに言うので、こちらもつい言う事を聞いてしまう。2003年になってドラマでその時のシーンを見たが、あれほどの時間、規制をしてたにもかかわらず、放映されたのは2秒位だった。 その後、普通のライトアップに戻り、それも終わり、「さあ、撮影」と思っていると、最初のストロボマニアがやってきた。桜の周りに三台のストロボを設置し、リモコンで発光する。知らない人だったが、私も一台任されて、「ハイ!123でいきますよ!123、ハイ!」となんだかわからないまま言われたボタンを押していた。 その人が帰る頃、今度は生徒を連れたどっかの写真教室の人達が5人くらいでやってきた。その人は、一台の巨大なストロボと、歩きながら照らすストロボと持ってきて、ポラロイドみたいのでテストして、それこそなんか訳のわからない計算をして、テストだの本番だのを繰り返していた。「すみません。1時間程ですみますから、勝手にストロボをたかないで下さい」とお願いされ、もともとストロボなんかたく気がなかった私は頷いたが、彼らが勝手にストロボをじゃんじゃんたくのには参った。それでもそのうち多少は仲良くなり、缶ジュースを奢って貰った。 真夜中の3時頃、その人達が帰ったので、「さあ」と思っていると、今度はものすごくでかい脚立付きのストロボをかかえたおじさんが来て、それを設置し始めた。ナイターで見るようなストロボで、そのおじさんは、わりと腰が低く、「私のストロボで、いっしょに撮りましょう」みたいなことを言った。「ISOがこうなら絞りがどうで時間はこうです」と教えてくれるのだが、結局徹夜で、ストロボ族が来るたび、その人たちが難しい計算をするのを聞いていて、すっかり混乱していた私は、用意していたISO感度違いの二台のカメラのどっちをどうすればいいか、まるでわからなくなり、どっちのシャッターをいつ押したかもわからなくなり・・・ようするに、もう面倒くさくなって、適当に写していた。今から思うともったいない話だが、真っ暗い中で、メモもとれずに何時間も色んな人に色んな事をいわれたら、そうなってしまうのは仕方ない。 そうしているうちに、夜が終わり始め、空に色が出てきたら、今度は朝の撮影族が場所取りにやってきた。桜の近くで撮影している我々を見て、もう少し離れてくれという。まだ暗いから、明るくなってきたら離れると約束して、しばらく撮影した。ストロボおじさんは相変らず冷静に計算をしていたが、私はもう完全に気が散ってしまい、何が何だかわからないまま、シャッターを押していた。もうどんな写真を撮りたいかも思い浮かばなかった。 やがて夜が明け、周りの人たちの顔も見えてきた。そしたら、なんで一晩中、顔も見えない人たちの言う事を素直に聞いていたのかと、バカらしくなった。私が一番早くスタンバイしてたんだから、もうちょっと強気でもよかったなあ。それにしても世の中にこれだけたくさんのストロボ族がいるとは知らなかった。 |