vol.6 迷信の成り立ち:新潟秋山郷 (2002.Oct) 新潟の津南から秋山郷への道中、眼病に霊験あらたかな「見玉不動尊」という静かなお寺に寄った。ながーい石段を上って行くとお堂があり、傍らに霊水を吐き出している石で出来た竜の口がある。 立て札には「徳の水、謹んで飲むべし」と書いてある。 「飲むといい事あるのかな?」と早速飲んでみて、それから、ふと思いついて、霊水で濡れた手を両眼に当ててみた。 冷たい指先が普通に気持ちいい。 おりしもマイクロバス3台に乗った観光客がゾロゾロと石段を登ってきた。 私の後ろに並んだ一番乗りの元気なおばさんが、目に水を塗りたくり始める。 他のおばさんも上がってきては霊水の前に並んでいき、あれよあれよという間に、ものすごい行列が出来てしまった。 私は圧倒され、少し離れた所で様子を眺めていた。 みんな水に浸した手で何回も目を撫でている。 「あぁ、あのやり方で合ってたんだ」 心の中で呟く私の耳に、おばさん達の会話が飛び込んできた。 「そげんして目に当てると良かとね?」 「私もわからんけど、あのお嬢さんがやってたから」 その空間に、お嬢さんと呼ばれ得る人間は、間違いなく私しかいなかった。 「あっ、私、勝手にやってみただけですから」 ・・・今更そんなこと言えない位、たくさんのおばさん達が行儀良く並び、じっと順番を待っている。 「せっかくの信仰心を壊すのも悪いな」・・・と、私はゆっくり石段を降り始めた。 後ろからおばさん達の陽気な声が聞こえる。 「あれ?なんだか良く見えるようになったべ!」 |
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