風の盆
21世紀旅日記 page8

【おわら〜風の盆】
9/1〜3の三日間、富山県八尾では風の盆が行われる。何度もテレビで紹介されたり、ドラマにもなっているので、御存知の方も多いだろう。
一昔前は観光客も少なく、厳かな雰囲気が保たれていたようだが、残念ながら、私が訪れた2002,2003年は既に観光客がごった返し、人気のある町では青年会の若者が、注意を無視してフラッシュをたく観光客を怒鳴りつけたり、観光客同士も押し合いへし合いという、かなりギスギスした空気が漂っている場所もあった。
とはいえ、それでもなお、そこには幽玄な世界がある。




顔を隠すように編笠を深く被った男女が、おわら節や三味線、胡弓の音に合わせて踊る。その手先からは、なんともいえない色気が漂う。女性だけでなく、男性の踊りも鶴の求愛の羽ばたきのように美しい動きだ。編笠を取ると茶髪だったりする普通の若い男女だけど、踊っている姿には、不思議な引力がある。幼い頃からの積み重ねとはいえ、そのなめらかな動きには、日本舞踊や伝統にあまり興味のない私でさえ、うっとりと魅入られてしまう。

おわらは昼でも行われているが、やはり夜のほうが見応えがある。夕方から始まる編笠を被っての正式な踊りが終わる頃、バスなどの団体観光客は引き上げる。少しの休憩をはさみ、真夜中といわれる時間から、今度は有志での踊りが始まる。この時は大抵編笠を被らずに、踊りの緊張感も和らぎ、合間にお酒をかっぱ飲み、はやし唄を歌いながら、若い男女は飛んだり跳ねたりして盛り上がる。からかわれ役の男の子なんかもいて、さながら幼馴染の同窓会だ。音はカセットテープに吹き込んだものを使っている。さすがに地元の若者でも三味線や胡弓はこなせないのか、あるいは思う存分に踊りたいのだろう。そんなふうに次々と町を練り歩く。踊りは町ごとに組んでいて、あっちの町とこっちの町の集団が出会うと合流したり、時には店や家の前の道を借りて、踊り競う。



少し年配の方達ばかりの集団もある。こちらは静かだ。静かに音を奏でながら、静かに踊り歩く。これもまた味がある。八尾には幾つもの町があり、それぞれがそれぞれに練り歩く。踊り方や衣装も町ごとに違うらしい。
真夜中の道をあてもなく歩いていると、どこからか、若者の嬌声や三味線の音が聞こえる。音のするほうを探りながら路地をまがる。音が遠ざかる事もあるし、近づいてくる事もある。そうして夜色の道を跳ね踊る集団と出会う。出会ったらすぐに合流しないと、彼らはあっという間に姿を消してしまう。

言葉通り、彼らは朝まで踊り狂う。陶酔している彼らにつられるように、追っかけ観光客もついて歩くが、彼らは一向に構う様子を見せない。やがて白々と薄明るくなる頃に、なんとなく解散になる。つい彼らにくっついて、とんでもなく遠い町外れまで行ってしまったこともあった。明るくなった町のあちこちで観光客が道端に寝ていたり、ベンチで寝ていたりする。ちょっと信じられないかもしれないが、それが許されてしまうような、けだるい空気が漂っている。
風の盆はまる三日間、続く。


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