桜好きの友人「姫」がずっと見たがっていた「奈良の八重桜」を見に行った。
奈良の県花にもなっている、歴史も由緒もある、桜マニアなら避けて通れない「桜」である。 桜を撮っていると、どこからか鹿が現れ、地面に生えている雑草を食べはじめた。 散り初めの奈良の八重桜の花びらも落ちているので、時々、顔を上げた鹿の鼻に、花びらがくっついていたりもする。 ふと、「姫」の言葉を思い出す。去年、姫がこの桜を見に来た時、遅咲きの奈良の八重桜はまだ蕾だったらしい。「せっかく奈良まで行ったのに、残念だったね」という私に、姫は嬉しそうに「奈良の八重桜は見れなかったけど、鹿が桜(その時はソメイヨシノ)を食べてたの!」と語った。 「あーこれかー」 フェアリー系でロマンチックな彼女にとっては、私が今、目の前で見ている光景もそんな表現になるんだな。 でも、現実的な私が見る限り、鹿は落ちた花びらじゃなくて、明らかに草を食べている。ブチッブチッと草をむしる音も聞こえる。 でもまあ、姫らしい、夢のある表現やな・・・と思った私の目に、金網を登ろうとしている大きな雄鹿の姿が飛び込んできた。よくよく見ると、金網を支えに立ち上がり、なんと八重桜の花枝に口を伸ばしてる!枝を折り、花の塊りをムシャムシャ。 ほんまやったんや〜 他の鹿はひたすら草を食べているのだけど、そのボスっぽい一匹だけが、花を獲り、花を食べている。ちなみに食べてるのは「普通の八重桜」で、奈良の八重桜は花の位置が高すぎるのか、あまり好きではないのか、見向きもしない。確かに、奈良の八重桜は色も薄いし、可憐だけど、「美味しそう」には見えない。普通の八重桜は、その濃いピンクといい、ボリュームのあるモコモコした塊り方といい、人間に例えたら「お色気ムンムン」って感じで甘そうだ。 |
さて、ボス鹿、どうも人(私)が見ている時は、桜を食べるのを遠慮している気配。鹿を神の使いと認識している奈良であればこそ、「鹿が立ち上がって、桜の枝を折り、花を食べる」のは、微笑ましい光景だけど、これ、決して褒められる行為じゃないのをわかってるみたい。というわけで、なるべく見ないふりして待っていた。そして、「あの人、見てないよね〜」とボス鹿が桜に狙いを定め、見上げた時、近所のおばちゃんが現れた。途端に鹿の群れがザワザワザワと色めきたつ。おばちゃんが持っていた袋からバサバサッとバナナの皮やミカンの皮を放り出すと、鹿達は我先にとむさぼりはじめた。さっきのボス鹿も一瞬、その群れに加わろうとしたし、私の予想では、この一番大きくて強そうな鹿が餌を独占するんじゃないかと思った。が、むらがる小さかったり弱そうな鹿を押しのけることなく、なんとボス鹿はきびすを返した。 ・・・ちょっと偉いかも・・・さすが神鹿。世俗にまみれた人間とは違うわ・・・ しばらくして、何がきっかけだったのか、急に鹿達は揃って春日山の方へ歩き出した。ずらりと並んだ白いハートのお尻がどんどん遠のいていく。真ん中にはボス鹿。先頭ではないけど、ボス鹿がみんなを率いているのがわかる。なんか「モーセの十戒」のような、厳粛な眺めだった。 (2009.4.27) |