むちうち症という病名は比較的よく知られている病名だと思います。これは交通事故などの場合に頚椎の過伸展・過屈曲が原因で頚椎の関節や靭帯、頚椎から出てくる神経根部が傷害を受け、受傷直後よりも後になっていろいろな症状が出てくるものです。通常受傷後3週間は何も治療せず首にカラーをまいて安静にしますが、めまいや頭痛、腕のシビレ、肩のハリが強かったり吐き気を伴っている場合は早めに神経ブロック療法を行うとその後の経過が良好な場合が多いです。実際に当院では事故後の患者さんの治療を3週間待たずに開始しております。逆に1年以上経過してから来院される場合もありますが、なかなか治療効果が出にくいのも事実です。
私の経験からは、むちうち症の場合はなるべく早くにペインクリニックでの神経ブロック療法を受けることをお勧めします。
交通事故日記
これは、実際に私の妻が体験した交通事故により鞭打ち症になってから治療し回復するまでの日記です。
- 平成14年12月6日
横浜市営地下鉄某駅周辺道路にて、妻は優先道路、相手は一時停止のある道路を走行中でした。信号のない道路で角は草ぼうぼうで見渡し悪く、妻は歩行者のないことを確認しながら30kmほどのスピードで走行していたところ突然一時停止しないで車が交差点内に進入してきました。あわててブレーキを踏んだのですが間に合わず相手の車の側面に追突してしまいました。一瞬の出来事で何がなんだかわからず、その時はびっくりしたことと、同乗していた子供のことが気になり自分の体のことを心配している余裕もなかったそうです。車は双方とも損傷しましたが、双方とも外見的なけがもなく帰宅しました。
ところがです・・・。事故当日はびっくりしたのと恐怖感で興奮しており、”痛い”という言葉を発しなかった妻ですが、翌日には右の肩から肩甲骨の内側、右腕の痺れ、痛みがでてきました。
- 平成14年12月7日〜
今日は朝から”腕がしびれる”、”頭が痛い”、”肩甲骨の内側が痛い”という訴えが始まりました。車の損傷がそれほどひどくなかったので大丈夫かなーっと思っていたのですが、やはり症状がでてきてしまいました。鞭打ち症の項目にも書いてありますが、鞭打ちは頚椎が過伸展・過屈曲をするため骨の間から出てくる神経根というところが挟まれ神経の炎症を起こします。神経は炎症を起こすと浮腫みが出てくるため翌日ぐらいからじわじわと症状が出現してくることになります。ですので事故直後に何も症状なくても必ず病院にかかって下さい。
妻は、私がこういう職業をしているにもかかわらず、注射というものが大変苦手です。”注射は痛いからいやだ”といいますが、”注射は痛いのが当たり前ジャン”といつも言い返します。
(日ごろ私に注射されている患者の皆さん、注射痛くてごめんなさい!!)
しかしまだ子供に手がかかるため主婦として休んでいるわけにもいかず、我慢して注射を受けることになりました。
神経の浮腫み、炎症は早くから積極的に治療するのが早く治癒させるコツだと思っている私は受傷翌日から星状神経節ブロック、深部頚神経ブロック、肩甲背神経ブロック治療を組み合わせて行いました。
- 平成14年12月15日〜
これまでに7回ほど星状神経節ブロック、肩甲背神経ブロックを行い手の痺れや痛み、頭痛はかなり軽減しておりました。ただ時期的に寒いためどうしても朝に神経痛のようにな痛みが出てくるため、毎朝起床時にすぐお風呂に入る生活が続いていました。お風呂で温まるのはやはりよいようですね!
星状神経節ブロック治療は頚椎から上肢にかけて血流を改善してくれる方法です。これにより手や腕の痺れを改善することができ、肩甲背神経ブロックは頚椎からくる肩の強いこりに対して有効です。
ここでひとつ感じたことがありました。というのはこのような事故の場合、被害者意識の強さというのも痛みを増強させる一因になっているということです。”自分は悪くないのに何でこんな目にあわなければならないの”という考え方が痛みの閾値を下げてしまうのでしょうか・・・。これまでの治療期間中わたしは妻に対して”双方が移動中に起きた事故なのだから絶対に自分に非がないことはないんだ”といい続けていました。でもこのことに気づいてから”とにかく早くよくなることだけを考えるようにしていこう”と話すようにし、あまり事故の内容には触れないようにしていました。
- 平成14年12月29日
この日で全部で12回の治療が終了しました。”イタイイタイ”といいながら注射を受けていた妻もようやくその苦痛から開放されそうです。痛みが強いときは注射の痛みも我慢できるのですが、だんだん症状が改善し良くなってくると、やけに注射が痛く感じるようになってくるようです。これが治療終了のひとつの目安でしょうか・・・。とりあえずこれにて治療は終了するつもりです。
私の印象ではやはり外傷性の頚椎捻挫(鞭打ち症)の時は早期の神経ブロック治療が有効だと思います。
以上”交通事故日記”でした・・・