■2026年9月号

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バイオジャーナル

中国上海でゲノム編集治療により少女が死亡

 

中国で行われたゲノム編集技術を用いた遺伝子治療で、6歳の少女メイちゃんが亡くなった。2025年3月24日、遺伝子を入れるために、数兆にも及ぶ大量のウイルスが少女の脊髄に注入された。メイちゃんはウイルス導入の7日後に、重い免疫疾患で亡くなったのである。病院の倫理委員会が発表した死因は、全身の細い血管に血栓ができる「血栓性微小血管症」。移植医療で起きやすい重い疾患である。この治療では、大量のウイルスを用いた場合にどのような影響があるのか、事前に研究されていなかったことが、後に判明する。本来ならば、ウイルスの投与量を決定するために動物を使った耐容試験がなされなければいけない。それがなされないまま、いきなり治療が行われたもので、人体実験といってよいものである。
この遺伝子治療について病院は、中国政府の規制当局の事前承認を得る必要がない規定に基づいて治療を許可した。しかも、この少女は、2023年に発達遅延と診断されていたが、命にかかわる切迫した状態にはなかった。親たちは貯金を使い果たし、親戚からも借金して86万ドルを集めて病院に収め、そして治療が行われたのである。
治療を行なったのは上海交通大学医学院付属新華病院小児科部門で、治療にあたったのは同大学松江研究所の神経発達障害が専門の邱子龍。上海生化学・細胞生物学研究所で博士号を取得し、その後、米国に渡ってカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室で研鑽を積んだ。 この遺伝子治療による少女の死亡は、最近まで隠されていた。その1つの原因として、米国で行なう予定の遺伝子治療への影響を避けた可能性がある。その治療とは、直後の5月15日に米国フィラデルフィア小児病院とペンシルベニア大学の研究者による治療チームが、KJ.マルドゥーンちゃんに行なった治療で、こちらは成功したとして持ち上げられた。しかも、この治療に関しては「ネイチャー」誌が、2025年12月8日に発表した「今年の10人」の1人に、KJ.マルドゥーンちゃんを選んでいる(本誌2026年2月号参照)。
隠されてきた中国のこの治療は、子どもの死後、病院がわずかな罰金を支払っただけで問題は処理された。しかも担当医の邱は公に罰せられることはなかった。中国では2018年、賀建奎によって、秘密裡にゲノム編集で遺伝子を改造した赤ちゃんを誕生させ、世界的なスキャンダルになったが、それに続く大スキャンダルといっていいものである。〔Science 2026/7/23ほか〕