■2002年3月号

今月の潮流
News
News2
今月のできごと


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る






































































































バイオジャーナル



ニュース


●国際動向
遺伝子組み換え食品禁止に向かうクロアチア

 旧ユーゴスラビアのクロアチア共和国は、1998年に遺伝子組み換え食品の禁止を議会決議し、有機農業生産物を自国の戦略商品と位置づけているが、このたび同国の遺伝子組み換え食品の使用と輸入を禁止する法制化に向けた動きに対して、米政府が、WTOへの提訴をカードとして強力に圧力をかけている。
 Kvacibic環境大臣は、1月14日の記者会見で、「我々には国益を守る権利がある」と語り、米国と対決する姿勢を示した。
 年明け早々、米農務省高官らが首都ザグレブを訪れ、遺伝子組み換え食品のメリットを記者発表したが、これに対し、米、カナダの農家がクロアチアの政策支援に訪れるなど、人口480万人、5万6000●の小国の対応に注目が集まっている。   〔ANPED and Green Action Zagreb〕

●政府動向
カルタヘナ議定書、関係各省の動き

 遺伝子組み換え技術や細胞融合による人為的な改変を加えられた生物(LMO)が、生物多様性に与える悪影響を防ぐため、輸出入などの国際的な枠組みを定めたカルタヘナ議定書が採択されたのは、2001年1月のことだった。現在、この批准に向けて世界各国で検討が進められている。日本政府も外務省内に「カルタヘナ議定書関係省庁連絡会議」を設置し、関係省はそれぞれ小委員会を立ち上げて審議が行われている(表3)。

表3 各省庁の動き

外務省 経済産業省 農林水産省 環境省 文部科学省 厚生労働省
カルタヘナ議定書
関係省庁連絡会議
遺伝子組換え生物
管理小委員会
遺伝子組換え農作物
等の環境リスク管理
に関する懇談会
遺伝子組換え生物
小委員会
試験研究における
組換え生物の環境影響
に関する小委員会
国際課で検討委員
会設置を検討中

 関係省の中では経産省の審議が最も進んでおり、3月に中間報告をまとめる予定。次いで農水省が、早ければ4月中にも中間報告をまとめるという。この2省に比べ、環境省と文科省は、ともに年明けに第1回会合を開いたばかりである。


●EU動向
骨抜きにされる遺伝子組み換え作物に関するEU原産地追跡システム案

 昨年11月30日欧州委員会「原産地追跡システムに関する会議」に提出された、遺伝子組み換え作物に関する原産地追跡システム案に対して、環境保護団体だけでなく、生産者や食品メーカーからも批判が出ている。問題は、遺伝子組み換え食品の生産流通ルートの追跡が貿易港以降に限られるという点にある。
 EU域内では遺伝子組み換え食品の生産から消費までの流通過程全容を明らかにできる原産地追跡システムが厳しく求められているが、これではGMO大国米国からの輸入農産物の生産流通ルートの特定はできない。
 欧州委員会案は、本来の姿を明らかに骨抜きにしている。


●バイオビジネス
哺乳類細胞でクモの糸をつくる

 米国ネクシア・バイオテクノロジー社と陸軍生物化学機関は、遺伝子組み換え技術を用いて、哺乳類の細胞でクモの糸をつくることに成功した。2種のクモの糸をつくる遺伝子を哺乳類の細胞に導入し、細胞培養技術でクモの糸の原料タンパク質をつくり、そのタンパク質から水に溶けない糸をつくり出した。
 同繊維は「バイオスチール」と名づけられ、医療や軍事目的に用いる予定である。同社では、遺伝子組み換えヤギの乳中にクモの糸のタンパク質をつくらせる予定である。   〔Science, 2002/1/18〕


●生殖医療
議論が続く厚労省の不妊治療の枠組み作り

 今まで日本産科婦人科学会の自主規制のみで進められてきた不妊治療に、国として一定の基準を示そうと厚労省が設置した生殖補助医療部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)の第9回会合が、1月24日に開かれた。この日の主な議論は「卵子のシェアリング」についてだった。卵子のシェアリングとは、他の夫婦が体外受精を行うために採取した卵子から一部を分けてもらい、その提供卵子を用いて体外受精を行うことである。シェアリング自体は認める方向にあるが、提供を受けた人が提供者に対して医療費等の経費の一部を負担するかどうかについて、意見が分かれた。採卵にかかった経費の半分までなら負担してもいいとする委員と、シェアリングだけを特別扱いせずに一般の卵子提供と同様に無償にすべきとする委員が対立し、最後まで決着はつかなかった。


●遺伝子特許
生命特許など、知的所有権戦略始まる


 内閣府の総合科学技術会議は、昨年12月25日、理化学研究所の遺伝子スパイ事件によって明るみに出た、公的機関での知的所有権の扱いのずさんさに関して、提言をまとめるとともに、知的所有権の総合戦略を打ち出すための専門調査会を立ち上げることを決めた。生命特許など、知的所有権への取り組みが重要視されてきたことが背景にある。日本で知的所有権が国家戦略として取り組まれるのは、初めてである。


ことば
*卵子のシェアリング
不妊治療の際に実施される卵子の提供には、精子の提供と同じように提供者を募って行われるものとは別に、シェアリングという方法がある。採卵には肉体的苦痛や薬の副作用といった危険が伴うため、一般の提供者からではなく不妊治療を受けている者同士で卵子を分かちあおう、という考え方である。